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転生したらまた魔女の男子だった件
21.魔女の長の正体は
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母が魔女族の長と決闘をする日、久しぶりに空が晴れて太陽が見えていた。
留守番をするマオさんは「お洗濯をやってしまわないと」と忙しそうだった。長雨のせいで洗濯物がよく乾いていなかったのだ。
マオさんに「行ってくる」と挨拶をして、セイラン様は僕を背中に乗せて、白虎の姿で魔女の森に行った。レイリ様もリラを背中に乗せて白虎の姿で魔女の森に行った。
魔女の森の上空には黒い靄のような邪気が漂っていた。
ものすごい速さで飛ぶレイリ様にリラはきゃっきゃと笑って喜んでいた。何が起こるか分かっていないリラにとっては、これはお散歩と変わらないように思えたのだろう。
魔女の森に降りて人間の姿になったセイラン様の腕に僕が抱かれて、レイリ様の腕にリラが抱かれる。
うっそうとした木々を抜けていくと、広場にリングのようなものが作られていた。
リングには魔法がかけられていて、その上では魔法が使えないようにされているのが僕にも感じ取れた。
魔女たちが集まっていて、その中から母を探すと、他の魔女に囲まれている。
「土地神様が来たよ。しっかり頑張るんだよ、アマリエ」
「長になど負けるんじゃないよ」
たくさんの魔女に囲まれて声援を受けているのが僕とリラの母だ。声援を送っている人物の中には、姉たちもいる。
「母さん、頑張って」
「ラーイとリラのためにも勝ってください」
「応援してるわ!」
反対方向では魔女族の長が孤立している。魔女族の長はセイラン様に抱っこされた僕に気付いたようだ。僕を真っすぐに指差してくる。
「私が勝てば、その災厄の子は命を奪わせてもらう!」
この声をどこかで聞いたことがある気がする。魔女族の長が僕を殺した魔女なのならば、声に聞き覚えがあっても何もおかしいことはなかった。
ぎりぎりと歯噛みして、魔女族の長を睨み付けると、セイラン様が僕を庇ってくれる。
「我らを侮るつもりか? 我らはこの土地の神。土地の神が育てる子を殺すなど許されるわけがなかろう!」
「その子は魔女族の子ども! これまで見逃していただけ。魔女族の掟には土地神様も介入できないはず」
「いや、魔女族と白虎族は全く違う種族。魔女族の掟など僕たちは知りませんね」
レイリ様もリラを抱っこしながら強い口調で魔女族の長を威嚇していた。
魔女族の長が僕とリラに近付こうとするのを止めて、母がリングに上がる。
「どうせあなたは負けて魔女族の長を追われるのよ。さぁ、上がって来なさい!」
「お前のような刺繍しかできない魔女に負けるわけがあるか!」
決闘のゴングは鳴らされたようだ。
リングに上がった魔女族の長に母が掴みかかる。
逃れて母の鳩尾に拳を打ち入れようとする魔女族の長だが、母は下がって回し蹴りを放つ。
魔女族の長の胴体に回し蹴りが入って、細い体が吹っ飛ぶ。
魔女族の長と母。
どちらも恐ろしい美女なのに、殴り合いの喧嘩で勝負を決めようとしている。
「本当に魔法は使わぬのか?」
「魔法を使えば魔女の森が危うくなる。魔女同士の勝負は魔法を使わずに行われるのだ、土地神様よ」
魔法を使えば魔女の森など簡単に吹き飛ばせてしまう。
そうならないように魔女族の勝負は魔法を封じるリングの上で、単純な腕力の勝負になると魔女の一人が改めて教えてくれる。
突進して母を倒そうとする魔女の長の髪を母が掴んだ。そのまま顔面に拳を叩きこむ。鼻血を出して仰け反る魔女族の長に、母が追撃していく。
母の拳が魔女族の長の顔にめり込んでいく。どこか切れたのか、血が飛び散り、リングの上に血だまりができる。
「ふぇぇぇぇ! セイランさま、こわいー!」
こんな激しい殴り合いを見ることになるとは思わなかったので、僕は恐ろしさに泣き出していた。僕のオムツが濡れてずっしりと重くなっているのが分かる。
やはりオムツで来たのは正解だったようだ。
「わたしもやる! あいつ、やっつける!」
リラも泣くかと思っていたのに、リラはレイリ様の腕をすり抜けてリングに上がろうとする。リングに登るリラをレイリ様が抱き留めている。
僕が泣いてしまっても生々しい打撃音は続く。
魔女族の長に殴り返された母は、目の周りに青あざを作りながらも踏みとどまって更に殴り返す。
鳩尾に拳を叩きこまれた魔女族の長が倒れると、母は馬乗りになって魔女族の長を殴り続ける。
どちらの勝ちかはこれで決まったようなものだった。
殴り続ける母を魔女の仲間が止めに行って、立たせる。
「勝者、アマリエ!」
勝者が告げられると、母がリングの上に倒れ込んでいる魔女族の長を覗き込む。彼女はもう魔女族の長ではない。魔女族の長の座は母に移っていた。
「どういうつもりで魔女の男の子を殺そうとしたんだい? 本性を見せてもらおうじゃないか」
髪を掴んで魔女族の元長を立たせた母に、魔女族の元長の姿が変わる。
僕は前世の母の姿をよく覚えていない。それでも、僕には感じ取れるものがあった。
「かあさん……」
「ラーイ、どうしたのだ?」
「セイランさま、あのひとのそばに、ぼくをつれていってください。あのひとは、ぜんせのぼくのははです」
サクランボのパイのことを知っていたのは、僕と妹を殺したからじゃない。魔女の長自体が僕の前世の母だったのだ。
すっかり僕と妹と母を殺した相手だと思い込んで憎んでいたが、前世の母と分かると僕は懐かしさで胸がいっぱいになる。
「かあさん、どうしてこんなことをしたの? かあさんも、ぼくといもうとをつれて、まじょぞくからひっしににげてたじゃないか!」
僕が言うのに意識を取り戻した魔女族の元長が怪訝そうな顔をしている。
「この子は何を言っているのだ?」
「かあさん、ぼくだよ。かあさんのむすこだよ。じゅっさいのたんじょうびにころされて、もういちどまじょのおとこのこにうまれかわったんだ」
僕の言葉に魔女族の元長……前世の母は息を飲んだ。
「本当にお前なの……?」
「ぼくだよ!」
前世の母の目から涙がぼろぼろと零れ落ちる。
「息子と娘の十歳の誕生日に、サクランボのパイを買いに行ったら、帰ったら息子と娘は殺されていた。私は復讐を誓ったが、正攻法では魔女族の長に適うと思わなかったので、魔女族の長が魔女の森に入る直前で追い付いて、背中から攻撃の魔法をかけて殺して、入れ替わった」
「いれかわったなら、どうしてまじょぞくをいいほうこうにみちびかなかったの?」
「魔女族の長に成り代わってから、記録を調べたが、魔女族の男の子が災厄を起こした記録などなかった。魔力が非常に強いから、使い方次第では魔女族を滅ぼすかもしれないという仮説だけが独り歩きをして、男の子が生まれれば危険だから殺せと魔女族の掟が作られたようだった」
魔女族に生まれた男の子は災厄を呼ぶわけではなかった。
魔力が非常に強いから使い方次第では魔女族を滅ぼしてしまうが、魔力の使い方を正しくすれば魔女族の男の子が魔女族を滅ぼすはずがない。
「それなら、なんでぼくとリラをころそうとしたの?」
問いかけに前世の母の瞳が暗くなる。
「私の息子と娘は理由もなく殺されたのが許せなかった。仕返しに魔女族を滅ぼしてやろうと思っていた。土地神様の育てている子どもを殺せば、白虎族と魔女族の戦争が始まって、魔女族が滅ぶと思ったのよ」
なんということだろう。
僕と妹を失って、母はそこまで思い詰めていた。
魔女族を滅ぼすために土地神様であるセイラン様とレイリ様が愛して大事に育ててくれている僕とリラを殺し、白虎族と魔女族の戦争を引き起こそうとしていた。
「結果として、そなたは生まれ変わった自分の息子を殺そうとしていたのだぞ」
セイラン様に言われて、前世の母が僕の前に膝をついて崩れ落ちる。涙を流している母に、僕はセイラン様を見上げる。
「お前だったなんて思わなかったのよ……」
「そなたは、前の魔女の長を殺したと言ったな。それ以外の誰かを手にかけたか?」
「いいえ。復讐のために魔女族の森を焼こうとしたけれど、それは無理だった。できないから、魔女族の男の子が土地神様に引き取られたと聞いたとき、魔女族と白虎族の戦争を起こそうと考えただけ」
前世の母は恨みを持って魔女族を滅ぼそうとしていたが、前の魔女族の長以外の誰も殺していなかった。
これはまだ救いがあるのではないだろうか。
「ママ、ぜんせのかあさんがだれもころしていないなら、かあさんをつみにとわなくてもいいんじゃない?」
「そうだね。もう魔女族の長ではないが、ラーイとリラを殺そうとしたことを反省して、我が子の弔いをしながら生きるといい」
同じ男の子を生んだ母親として、母は前世の母にも寛容だった。許されて前世の母は涙を流して僕に手を伸ばす。
「今度の生は幸せに生きるんだよ」
「かあさん、ありがとう」
「私は魔女の森を出て、お前たちの墓のそばに暮らすよ。孤児院を建てて、身寄りのない子を引き取って育てよう」
それが一時期でも僕とリラの命を狙った償いになるのならば。
前世の母の言葉に、セイラン様もレイリ様もそれ以上前世の母を責めることはなかった。
「またこの子たちに会いに来てもいいですか?」
前世の母に問いかけられてセイラン様とレイリ様が顔を見合わせる。
「いつでも来るといい」
「ラーイはあなたを母だと思っていますからね」
「ありがとうございます」
セイラン様とレイリ様の返事に、前世の母は涙を流してお礼を言っていた。
留守番をするマオさんは「お洗濯をやってしまわないと」と忙しそうだった。長雨のせいで洗濯物がよく乾いていなかったのだ。
マオさんに「行ってくる」と挨拶をして、セイラン様は僕を背中に乗せて、白虎の姿で魔女の森に行った。レイリ様もリラを背中に乗せて白虎の姿で魔女の森に行った。
魔女の森の上空には黒い靄のような邪気が漂っていた。
ものすごい速さで飛ぶレイリ様にリラはきゃっきゃと笑って喜んでいた。何が起こるか分かっていないリラにとっては、これはお散歩と変わらないように思えたのだろう。
魔女の森に降りて人間の姿になったセイラン様の腕に僕が抱かれて、レイリ様の腕にリラが抱かれる。
うっそうとした木々を抜けていくと、広場にリングのようなものが作られていた。
リングには魔法がかけられていて、その上では魔法が使えないようにされているのが僕にも感じ取れた。
魔女たちが集まっていて、その中から母を探すと、他の魔女に囲まれている。
「土地神様が来たよ。しっかり頑張るんだよ、アマリエ」
「長になど負けるんじゃないよ」
たくさんの魔女に囲まれて声援を受けているのが僕とリラの母だ。声援を送っている人物の中には、姉たちもいる。
「母さん、頑張って」
「ラーイとリラのためにも勝ってください」
「応援してるわ!」
反対方向では魔女族の長が孤立している。魔女族の長はセイラン様に抱っこされた僕に気付いたようだ。僕を真っすぐに指差してくる。
「私が勝てば、その災厄の子は命を奪わせてもらう!」
この声をどこかで聞いたことがある気がする。魔女族の長が僕を殺した魔女なのならば、声に聞き覚えがあっても何もおかしいことはなかった。
ぎりぎりと歯噛みして、魔女族の長を睨み付けると、セイラン様が僕を庇ってくれる。
「我らを侮るつもりか? 我らはこの土地の神。土地の神が育てる子を殺すなど許されるわけがなかろう!」
「その子は魔女族の子ども! これまで見逃していただけ。魔女族の掟には土地神様も介入できないはず」
「いや、魔女族と白虎族は全く違う種族。魔女族の掟など僕たちは知りませんね」
レイリ様もリラを抱っこしながら強い口調で魔女族の長を威嚇していた。
魔女族の長が僕とリラに近付こうとするのを止めて、母がリングに上がる。
「どうせあなたは負けて魔女族の長を追われるのよ。さぁ、上がって来なさい!」
「お前のような刺繍しかできない魔女に負けるわけがあるか!」
決闘のゴングは鳴らされたようだ。
リングに上がった魔女族の長に母が掴みかかる。
逃れて母の鳩尾に拳を打ち入れようとする魔女族の長だが、母は下がって回し蹴りを放つ。
魔女族の長の胴体に回し蹴りが入って、細い体が吹っ飛ぶ。
魔女族の長と母。
どちらも恐ろしい美女なのに、殴り合いの喧嘩で勝負を決めようとしている。
「本当に魔法は使わぬのか?」
「魔法を使えば魔女の森が危うくなる。魔女同士の勝負は魔法を使わずに行われるのだ、土地神様よ」
魔法を使えば魔女の森など簡単に吹き飛ばせてしまう。
そうならないように魔女族の勝負は魔法を封じるリングの上で、単純な腕力の勝負になると魔女の一人が改めて教えてくれる。
突進して母を倒そうとする魔女の長の髪を母が掴んだ。そのまま顔面に拳を叩きこむ。鼻血を出して仰け反る魔女族の長に、母が追撃していく。
母の拳が魔女族の長の顔にめり込んでいく。どこか切れたのか、血が飛び散り、リングの上に血だまりができる。
「ふぇぇぇぇ! セイランさま、こわいー!」
こんな激しい殴り合いを見ることになるとは思わなかったので、僕は恐ろしさに泣き出していた。僕のオムツが濡れてずっしりと重くなっているのが分かる。
やはりオムツで来たのは正解だったようだ。
「わたしもやる! あいつ、やっつける!」
リラも泣くかと思っていたのに、リラはレイリ様の腕をすり抜けてリングに上がろうとする。リングに登るリラをレイリ様が抱き留めている。
僕が泣いてしまっても生々しい打撃音は続く。
魔女族の長に殴り返された母は、目の周りに青あざを作りながらも踏みとどまって更に殴り返す。
鳩尾に拳を叩きこまれた魔女族の長が倒れると、母は馬乗りになって魔女族の長を殴り続ける。
どちらの勝ちかはこれで決まったようなものだった。
殴り続ける母を魔女の仲間が止めに行って、立たせる。
「勝者、アマリエ!」
勝者が告げられると、母がリングの上に倒れ込んでいる魔女族の長を覗き込む。彼女はもう魔女族の長ではない。魔女族の長の座は母に移っていた。
「どういうつもりで魔女の男の子を殺そうとしたんだい? 本性を見せてもらおうじゃないか」
髪を掴んで魔女族の元長を立たせた母に、魔女族の元長の姿が変わる。
僕は前世の母の姿をよく覚えていない。それでも、僕には感じ取れるものがあった。
「かあさん……」
「ラーイ、どうしたのだ?」
「セイランさま、あのひとのそばに、ぼくをつれていってください。あのひとは、ぜんせのぼくのははです」
サクランボのパイのことを知っていたのは、僕と妹を殺したからじゃない。魔女の長自体が僕の前世の母だったのだ。
すっかり僕と妹と母を殺した相手だと思い込んで憎んでいたが、前世の母と分かると僕は懐かしさで胸がいっぱいになる。
「かあさん、どうしてこんなことをしたの? かあさんも、ぼくといもうとをつれて、まじょぞくからひっしににげてたじゃないか!」
僕が言うのに意識を取り戻した魔女族の元長が怪訝そうな顔をしている。
「この子は何を言っているのだ?」
「かあさん、ぼくだよ。かあさんのむすこだよ。じゅっさいのたんじょうびにころされて、もういちどまじょのおとこのこにうまれかわったんだ」
僕の言葉に魔女族の元長……前世の母は息を飲んだ。
「本当にお前なの……?」
「ぼくだよ!」
前世の母の目から涙がぼろぼろと零れ落ちる。
「息子と娘の十歳の誕生日に、サクランボのパイを買いに行ったら、帰ったら息子と娘は殺されていた。私は復讐を誓ったが、正攻法では魔女族の長に適うと思わなかったので、魔女族の長が魔女の森に入る直前で追い付いて、背中から攻撃の魔法をかけて殺して、入れ替わった」
「いれかわったなら、どうしてまじょぞくをいいほうこうにみちびかなかったの?」
「魔女族の長に成り代わってから、記録を調べたが、魔女族の男の子が災厄を起こした記録などなかった。魔力が非常に強いから、使い方次第では魔女族を滅ぼすかもしれないという仮説だけが独り歩きをして、男の子が生まれれば危険だから殺せと魔女族の掟が作られたようだった」
魔女族に生まれた男の子は災厄を呼ぶわけではなかった。
魔力が非常に強いから使い方次第では魔女族を滅ぼしてしまうが、魔力の使い方を正しくすれば魔女族の男の子が魔女族を滅ぼすはずがない。
「それなら、なんでぼくとリラをころそうとしたの?」
問いかけに前世の母の瞳が暗くなる。
「私の息子と娘は理由もなく殺されたのが許せなかった。仕返しに魔女族を滅ぼしてやろうと思っていた。土地神様の育てている子どもを殺せば、白虎族と魔女族の戦争が始まって、魔女族が滅ぶと思ったのよ」
なんということだろう。
僕と妹を失って、母はそこまで思い詰めていた。
魔女族を滅ぼすために土地神様であるセイラン様とレイリ様が愛して大事に育ててくれている僕とリラを殺し、白虎族と魔女族の戦争を引き起こそうとしていた。
「結果として、そなたは生まれ変わった自分の息子を殺そうとしていたのだぞ」
セイラン様に言われて、前世の母が僕の前に膝をついて崩れ落ちる。涙を流している母に、僕はセイラン様を見上げる。
「お前だったなんて思わなかったのよ……」
「そなたは、前の魔女の長を殺したと言ったな。それ以外の誰かを手にかけたか?」
「いいえ。復讐のために魔女族の森を焼こうとしたけれど、それは無理だった。できないから、魔女族の男の子が土地神様に引き取られたと聞いたとき、魔女族と白虎族の戦争を起こそうと考えただけ」
前世の母は恨みを持って魔女族を滅ぼそうとしていたが、前の魔女族の長以外の誰も殺していなかった。
これはまだ救いがあるのではないだろうか。
「ママ、ぜんせのかあさんがだれもころしていないなら、かあさんをつみにとわなくてもいいんじゃない?」
「そうだね。もう魔女族の長ではないが、ラーイとリラを殺そうとしたことを反省して、我が子の弔いをしながら生きるといい」
同じ男の子を生んだ母親として、母は前世の母にも寛容だった。許されて前世の母は涙を流して僕に手を伸ばす。
「今度の生は幸せに生きるんだよ」
「かあさん、ありがとう」
「私は魔女の森を出て、お前たちの墓のそばに暮らすよ。孤児院を建てて、身寄りのない子を引き取って育てよう」
それが一時期でも僕とリラの命を狙った償いになるのならば。
前世の母の言葉に、セイラン様もレイリ様もそれ以上前世の母を責めることはなかった。
「またこの子たちに会いに来てもいいですか?」
前世の母に問いかけられてセイラン様とレイリ様が顔を見合わせる。
「いつでも来るといい」
「ラーイはあなたを母だと思っていますからね」
「ありがとうございます」
セイラン様とレイリ様の返事に、前世の母は涙を流してお礼を言っていた。
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