土地神様に守られて 〜転生したらまた魔女の男子だった件〜

秋月真鳥

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転生したらまた魔女の男子だった件

17.魔女族の長に操られた魔女

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 姉たちが動き出してから、魔女の森の中でも魔女たちの派閥ができ始めたようだ。
 僕とリラに会いに来てくれた母が話してくれた。

「魔女族の中で改革を求める魔女たちが、私たちの仲間になってくれている。魔女の長の周囲にいるのは、長く生きている古い魔女たちだけだ」

 魔女の森にはどれくらい魔女がいるのだろう。
 僕は魔女の森で育ったわけではなく、前世でも生まれてすぐに魔女の森を離れているので、魔女の森がどんなところか想像がつかなかった。

「ママ、まじょのもり、なぁに?」

 魔女の森がどんなところか聞きたいのだが、言葉が上手く出ない。前にあれだけ離せたのが嘘のように僕はただの三歳児に戻っていた。

「魔女の森は魔女たちの住む場所さ。魔女はそこで子育てをして、成長して出て行くことがあっても、子どもを育てるためには必ず魔女の森に戻ってくる」

 その理由は僕も知っていた。
 魔女の子どもには魔力が必要で、魔女の森には空気にも食べ物にも魔力が満ち満ちていて、子どもに十分な魔力を与えられるからだ。
 追手をかけられて逃げ回っていた前世の僕は、常に魔力が足りなくて、病弱で成長不良だった。

「魔女の森でしか魔女の子どもは健康に育たない。ラーイとリラが健康に育っているのは、土地神様の乳を飲んでいるからで、例外のようなものだ」

 話してくれる母に、僕はセイラン様の胸を吸う甘美な時間を思い出して涎を垂らしてしまった。この体はすぐに涎が出るし、漏らしてしまうこともあるし、困ったものだ。

「ラーイ、あなたは普通の子どもではないね」

 母に言われて僕はどきりとする。
 僕が前世で十歳の子どもで、殺されて生まれ変わったことは、セイラン様以外に言っていないのだが鋭い母は何かを感じ取っているようだ。

「ないちょ!」

 秘密だと告げると母は笑ってそれを聞いていた。
 僕が前世の記憶を持っていることをあまり多くのひとに知られたくない。特に母は、前世の母の記憶があると知ったらショックではないだろうか。

 母のためにも、リラのためにも、僕は前世のことはあまり口にしないつもりだった。

「せいたま、ないちょよ」
「ラーイは言いたくないのだな。分かった。私とラーイだけの秘密にしよう」

 セイラン様に言えば納得してくれる。
 三歳の僕の言葉も馬鹿にせずに聞いてくれて、信じてくれて、真剣に向き合ってくれるセイラン様が僕はますます好きになった。

「魔女族の長こそが、魔女族を滅ぼしたいのではないだろうか」

 ぽつりと呟いたセイラン様に、母が首を傾げる。

「魔女族の長が?」
「かつて自分の息子を殺されたのならば、魔女族全体を恨んでいてもおかしくはない。ラーイとリラは災いの子ではなく、幸いの子なのに、嘘を吐いて殺してしまって、魔女族を滅ぼそうとしているのならば、理屈が通るのではないか?」

 セイラン様の言っていることはもっともに聞こえた。
 自分の息子を殺した魔女族全体を恨んでいて、魔女族の男の子が生まれると殺すことに執着して、魔女族の中で軋轢を生んで壊そうとしている。そう考えると納得できる気がする。

「せいたま、どうつれば?」

 どうすれば魔女族の長を止められるのだろう。
 魔女族の長と話をしてみたい気がするが、対峙したら僕は殺されてしまう。
 魔女族の長から情報を引き出したいが、僕はあまりにも無力だった。

「にぃに、むつかちい」

 レイリ様のお膝に乗っているリラは話が理解できないので、レイリ様の帯を引っ張って遊んでいる。帯が解けてしまうと着流しがはだけてしまうので、レイリ様はリラを止めている。

「リラ、やめなさい」
「あとぼー! おはなち、むつかちい」

 三歳児には話しは面白くないのでリラはマオさんに連れられて庭で遊んでいた。

「魔女族の長を引きずり降ろすしか手はないだろうが、私もレイリも魔女族には手を出せぬからなぁ」
「魔女族のことは魔女族の中で解決する。私が必ず魔女族の長を引きずり降ろして見せる」

 手を出せないことがもどかしそうなセイラン様に、母が決意をした表情で言う。

「ぼくは?」

 僕も何かしなければいけないのではないだろうか。
 問いかけた僕をセイラン様が抱き締め、母が苦笑する。

「ラーイは大事に守られておれ」
「これは大人の仕事だからね」

 前世でも母は僕と妹のことを精一杯守ってくれた。僕も妹も病弱で連れ回すのは大変だっただろうが、それでも十歳まで生き延びさせてくれた。
 今世ではセイラン様とレイリ様と母、それに姉たちも僕とリラを守ってくれる。

 周囲の大人に頼っていいという状態は僕にとっては本当にありがたかった。
 僕のこともリラのことも、セイラン様とレイリ様と母と姉たちは守ってくれる。

「セイラン様! レイリ様!」

 庭からマオさんの叫び声が聞こえて、セイラン様とレイリ様が立ち上がった。セイラン様は白虎の姿になって僕を背中に乗せて駆けて行く。レイリ様も白虎の姿になって庭に走る。

 庭には豪奢な金髪の女性がリラを捕まえようとしていた。リラはちょこまかと逃げて、足の間をすり抜け、レイリ様のところまで走ってくる。

「れーたま、こあかった!」
「リラ、無事ですか?」
「あい!」

 リラを捕まえられなかったその女性は、マオさんを捕まえてその首にナイフを突きつけた。

「魔女の子どもたちを渡してもらおう」
「魔女族は土地神と事を構えるつもりか?」
「その女性は土地神の巫女です。傷付ければ、土地神の怒りを受けますよ?」

 金髪の女性はにやにやと笑っている。

「土地神様、その女は操られている。本体は魔女族の長だ」

 母の言葉にじっとその女性を見れば、黒い靄に全身が侵食されているように見える。
 魔女族の長はついに刺客を社に送ってくるようになったのだ。

「その子たちのせいで魔女族は分裂してしまう。やはりその子たちは死ななければならない。魔女族を滅ぼすのだ」
「魔女族を滅ぼすのはそなたの存在ではないか?」
「この子たちは愛されて育っています。憎しみを抱くはずがない」

 僕とリラを庇ってくれるセイラン様とレイリ様に、金髪の女性が僕を見て言った。

「サクランボのパイでつらなけりゃいけなかったかね」

 サクランボのパイ!
 そのことを何でその女性が知っているのだろう。
 前世で僕と妹の大好物で、誕生日に母に強請ったサクランボのパイ。

 サクランボのパイを買いに行って母は殺された。
 僕と妹は母を殺した相手に殺された。

 全てが繋がった気がした。
 サクランボのパイのことを知っているということは、前世の僕と妹と母を殺したのは、魔女族の長に違いない。

「ゆるさない……」

 震える僕の目から涙が零れる。
 殺されたときの恐怖と痛み、苦しみが鮮明に思い出される。
 魔女族の長は前世の僕と妹を殺して、今世の僕とリラも殺そうとしている。

「せいたま、まじょのおたでつ。おたが、ぼくといもうとを」
「やはりそうであったか。ラーイつらい思いをしたな」

 セイラン様が涙を流す僕を人間の姿になって抱き締めてくれている間に、レイリ様が金髪の女性に飛びかかってマオさんを奪還していた。金髪の女性はマオさんを奪われると、その場に崩れ落ちた。

「魔女族の若い魔女だよ。魔女族の長に操られたんだね」

 母が金髪の女性を抱き起して様子を確かめている。気が付いた金髪の女性の周囲からは黒い靄が消えていた。

「私は何を……」
「操られていたんだよ。魔女族の長も卑怯なことをする」

 自分ではセイラン様とレイリ様の張った結界に近付くことができないから、魔女族の若い魔女を操ってリラを殺そうとした。僕も庭で遊んでいたら襲われていただろう。

 魔女族の長は前世の僕と妹と母を殺して、今世でも僕とリラを狙って来る。
 魔女族の長を許してはいけない。
 僕は強く思っていた。
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