土地神様に守られて 〜転生したらまた魔女の男子だった件〜

秋月真鳥

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転生したらまた魔女の男子だった件

13.ブラジャーの必要性について

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 僕は知っている。
 ブラジャーというものは女性が胸を守るために着けるものだ。
 前世の妹はまだ小さかったので着けていなかったが、母が着けているのを見たことがある。
 胸の形を保ったり、胸が痛くないようにするものなのだと母は言っていた。

 本当はセイラン様もレイリ様もブラジャーを断るつもりだった。楽しそうに持って来た母の作ったブラジャーは、レースで編まれていて、とても美しく豪奢だった。
 母は絶対に楽しんでこれを作ったに違いない。セイラン様とレイリ様がつけたくないと嫌がるのを期待しているのだ。
 我が母ながら性格が悪いと思うが、それだけセイラン様とレイリ様の大胸筋は発達していて胸が豊かなので仕方がないのかもしれない。

「私には必要のないものだ。いらぬ」
「僕もいらないですね」

 断ろうとするセイラン様とレイリ様の前に、母がマオさんを連れて来る。
 マオさんは純粋にセイラン様とレイリ様の胸を心配している。こんなことをすれば断れなくなってしまうのは、僕にも分かっていた。
 今世の母は、我が母ながらいい性格をしている。

「なんて美しいブラジャーなのでしょう。これならば土地神様がつけても恥ずかしくありませんね」
「むしろ、恥ずかしい」
「こんなものはつけられないですよ」

 正直に言うセイラン様とレイリ様の言葉に、マオさんが息を飲んだ。

「え!? 私……余計なことをしてしまいましたか?」

 純真なマオさんの黒い目が潤む。
 セイラン様もレイリ様も、ずっと一緒に暮らしているマオさんには情もわいているし、指の傷を見ているので断りづらい雰囲気になっている。
 セイラン様もレイリ様もマオさんの涙を見たくないのだろう。

「余計なことというわけではないが」
「僕たちは雄だから、乳帯がいるとは思わないのですよ」
「お乳をあげているのです。胸をしっかりと守らねばなりません。揺れれば痛いことでしょう」

 信じ込んでいる目で告げるマオさんにセイラン様とレイリ様は負けた。

 着流しの胸をぴったりと合わせている下に、セイラン様とレイリ様は母の作ったブラジャーを着けていた。セイラン様とレイリ様がブラジャーを着けていることに満足している母がニヤニヤしているのも性格が悪いと思ってしまうが、セイラン様とレイリ様はマオさんを泣かせるわけにはいかなかったのだ。

 ブラジャーの件はそれで何とかなって、セイラン様とレイリ様は僕とリラの魔法について決めたようだった。

「少し早いかもしれないけれど、ラーイとリラの封印を解いてもいいんじゃないですかね。もう魔女族の長にはバレているのですし、ラーイとリラも魔法を使い始めています」

 言い出したのはレイリ様で、セイラン様も同じ気持ちのようだ。

「魔法を使うのがライとリラにとっては自然なことだ。封印を解いてやって、魔法が使えるようにしてやろう」

 もう額の赤い花の模様も消えていたが、土地神様の封印は僕とリラの中に残っていた。セイラン様が僕の額に手をやって、レイリ様がリラの額に手をやって、完全に封印を解いてくれる。
 封印を解かれて僕もリラも完全に魔法が使えるようになった。

 封印を解かれれば魔力を余計に使わなくても魔法が使えるようになる。
 僕とリラは浮遊の魔法を使って、枝に実る南天の実を千切った。

「どーじょ」
「くれるのか、ラーイ。ありがとう」

 セイラン様のところに歩いて行って南天の実を差し出すと、セイラン様が微笑んで受け取ってくれる。
 大事に南天の実を持っているセイラン様を見て、リラもレイリ様に渡しに行っている。

「あい!」
「ありがとうございます、リラ」

 お礼を言って受け取ったレイリ様だが、リラはレイリ様の前から離れずお尻をふりふりしている。トイレかと思ったが、違うようだ。

「かえちて!」
「あぁ、リラ。くれたのではなかったのですね」

 二歳のリラにとっては、渡して返してもらうのは遊びの中に入るのだ。返してもらったリラは母に近付いて南天の実を差し出している。

「どーじょ」
「おや、ありがとう」

 もらった母はリラに返す様子がない。面白そうにニヤニヤしていて、リラが焦れているのが見ていて分かる。

「りーの!」
「くれたんだろう。ありがとう」
「ちやうー!」

 ひっくり返って泣き喚くリラはまだまだ幼い二歳児だった。
 南天の実を返してもらっても、しばらくはリラは母に近付かなかった。

「意地悪し過ぎたのかね」
「二歳とはそういう年頃であろう」
「何人も子どもを育てたんじゃないのですか?」
「小さい頃はあっという間に過ぎていくので忘れてしまった」

 人間よりもずっと長く生きている母は、何度かの出産を経験しているようだが、子どもたちは全員独立しているようだ。子どもたちが独立する年齢になってから次の子どもを産むように心がけているのだろう。
 今はまだ僕とリラが小さいので、母は子どもを産む気はないようだ。

「ラーイとリラには姉がたくさんいるのか?」
「私はライとリラの前に三回出産してる。ライとリラには姉が三人いるよ」
「魔女同士は兄弟姉妹で仲良くしたりしないのですか?」
「もう独立しているから、姉という感覚はないかもしれない。同時期に育てたわけでもないし」

 セイラン様とレイリ様が母に聞いてくれたので、僕には三人姉がいることが分かった。姉とは会ったことがないが、魔女の森にいるのだろうか。
 姉たちは僕が魔女の森の謎を解きたいと言ったら助けてくれるだろうか。

 母の娘なのだから姉たちも僕やリラに協力してくれる気がする。

「ねぇね、ねぇね」
「ねぇね?」
「ちやう、ねぇね」

 僕が姉たちに会いたいと主張すると、リラはマオさんのことかと思ってマオさんの手を引いて連れて来てくれる。まだうまく喋れないのはコミュニケーションが取れなくてとてもつらい。
 僕は早く母やセイラン様やレイリ様と話すことができるようになりたかった。

 母は僕とリラとタオくんとナナちゃんに手袋も編んでいてくれて、手袋をつけて僕とリラとタオくんとナナちゃんは、冬の間雪の中を遊んでいた。

 春になってやって来たのは招かれざる客だった。
 マオさんの元夫だという中年の男性がやってきたのだ。

「私の妻を捧げたのですから、私の土地は特に素晴らしい実りを約束してもらわねば困ります」

 無茶苦茶なことを言うマオさんの元夫に、マオさんが震えながら前に出る。

「私に暴力を振るって従わせたくせに! あなたなど夫ではない!」

 好きで結婚したわけでもない。
 裕福な家の息子がマオさんを勝手に気に入って、貧しいマオさんの家に金を払って買うようにしてマオさんを嫁にもらったのだ。
 話すマオさんの黒い目は潤んでいる。

「マオはこの社の巫女となる」
「貴様などが近付いていい相手ではない!」

 穏やかなセイラン様とレイリ様が珍しく怒りを露わにしている。大事なマオさんを金で買うようにして嫁にして、暴力で従わせていたという元夫が余程許せなかったのだろう。

「その娘は具合がいいでしょう? 私が仕込んだのですよ」

 処女でもないのに巫女になれるはずがない。
 下卑た笑みを浮かべる元夫の言っていることが僕にはよく分からなかった。ただ、セイラン様とレイリ様の表情から、とても嫌なことを言っているのだけは分かる。
 元夫を僕は許すことができない。

「リラ!」
「あい!」

 リラに声をかけると、リラも準備万端だった。
 元夫に飛びかかって顔に馬乗りになって殴りつける。

「ぐぇ!? や、やめて……うわー!? 何なんだ、この子どもは!?」

 悲鳴を上げて逃げようとする元夫の足を蹴る。ぼごっと鈍い音がした。

「ねぇね、だいじだいじ!」
「ねぇね、いじめる、めっ!」

 殴りつける僕とリラをマオさんがそっと抱き上げて元夫から引き剥がす。

「二度とここには来ないでください」

 冷たく言われて、顔中血まみれにしながら元夫は這う這うの体で逃げ出して行った。
 元夫がいなくなってから、マオさんがセイラン様とレイリ様を見上げる。

「私を巫女にというのは、本当ですか?」
「ずっとそうしたいと考えておった」
「マオはラーイとリラの大事な『ねぇね』だからね」
「私は処女でもない、清らかでもないのに……」
「そんなことは気にせぬ。ここにおればいい」
「マオの心が癒えるまでずっとここにいていいんですよ」

 セイラン様とレイリ様の優しい声にマオさんは口元を押さえて涙を堪えていた。

 魔法を使って疲れた僕はセイラン様を部屋に連れて行って、着物の袷を開く。そこで難関にぶち当たった。
 セイラン様は母に言われて、マオさんに負けて、ブラジャーを着けていたのだ。
 胸に吸い付くことができず、二歳の小さな手ではブラジャーを外すことも難しく、僕は涙目で「おっぱいー!」とセイラン様の膝に縋りついたのだった。
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