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転生したらまた魔女の男子だった件

11.マオさんの生まれた村

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 マオさんは僕とリラの世話をしてくれて、社の管理をしてくれている。
 マオさんの生まれた村は古い因習が残っていて、子どもを十五歳で結婚させるような場所だった。産んだ子どもが死んでしまったのも、マオさんが低年齢で出産にあたったからだろう。
 酷い村だと分かっていたので、僕はマオさんを守りたいと思っていた。
 マオさんは僕とリラにとっては大事な「ねぇね」なのだ。

 セイラン様は僕を抱いて、レイリ様はリラを抱いて、マオさんの生まれた村まで風に乗って飛んで行った。マオさんにとっては苦しい思い出しかない村だろうが、弟さんと妹さんがいるとなると心配なのだろう。
 セイラン様とレイリ様が白虎の姿で降り立つと、村のものが驚いているのが分かる。

「巨大な虎がやってきた!」
「背中に幼子を乗せている」
「あれは土地神様ではないのか?」

 セイラン様とレイリ様が守る土地の端の村なので、土地神様を軽んじているとはいえ、存在を知らないわけではないようだ。僕を背中に乗せたセイラン様が、雪の降り積もった道の上に降り立って、白虎の姿のままで村人たちに告げる。

「この村の実りを豊かにしているのは私たち土地神の力。土地神としてそなたらに命じる。低年齢での結婚はこの土地では許さぬ。十八までは男女問わず結婚してはならぬ」

 白虎の姿のセイラン様とレイリ様に最初は怯えていた村人たちだが、一方的に命じられて反発が起きる。

「女は結婚して子どもを産むのが仕事だ」
「十八まで結婚させてはならぬなど言われても困る」
「この村にはこの村の掟がある」

 反論する村人たちに、レイリ様が牙を剥き出しにしてぐるると唸った。風が巻き起こり、雪を跳ね飛ばしてつむじ風が起きる。それは嵐となって村を飲み込みそうになっていた。
 ぎしぎしと風にあおられた家が軋みを上げている。

「うちの家が!」
「うちの屋敷が壊れてしまう!?」

 慌てる村人にレイリ様が静かに言う。

「僕たちは本気です。この村のために言っています。従わないのならば、この村は土地神の守護を受けられず、実りもないものだと思いなさい」

 土地神様の力を目の当たりにした村人たちは平伏してセイラン様とレイリ様の言葉に従うと誓った。

「従います。どうか、嵐をお納めください」
「お許しください、土地神様」

 レイリ様がもう嵐を視界に入れれば、嵐は消え去って風もなく辺りは静かになった。。
 土地神様の力を思い知った村人たちはこれからは土地神様に従うかのように思えた。

「そこにいるのは、うちの娘ではないですか」
「ミナ、生きていたのだね」

 駆け寄って来る男女に、マオさんが顔を顰めてセイラン様とレイリ様の後ろに隠れる。

「この娘はマオという名前になった。土地神の巫女となったのだ。そなたらの近付いていい相手ではない」

 威嚇するように牙を剥いたセイラン様に、マオさんの両親らしき男女が下卑た笑みを浮かべる。

「私たちの娘は土地神様のお相手をしているのですね」
「名誉なことです。子どもを産めなくなった女には土地神様の遊び女が相応しい」
「土地神様の巫女の家系ということで私たちにも何か地位をくださいませ」
「土地神様のために働きます」

 何を言っているのかよく分からないが、マオさんの両親らしき男女は、セイラン様とレイリ様が酷く扱っているようなことを言っている気がする。セイラン様とレイリ様はものすごく優しくてそんなことはないのに、僕は腹が立ってくる。

「私たちはマオに手を出してはおらぬ! 失礼なことを言うな!」
「マオにも失礼じゃないか!」
「分かっております」
「いいのですよ。土地神様のお相手ができるなら娘も幸せでしょう」

 いやらしい笑みを浮かべて近付いてこようとするマオさんの両親を、セイラン様は風で吹き飛ばした。吹き飛ばされて尻もちをついているマオさんの両親に、僕とリラは、セイラン様とレイリ様の背中から飛び降りた。

 リラと顔を見合わせて、こくりと頷き合う。

 僕にとってもリラにとっても、魔法を使うことは息をするよりも自然なことだ。
 僕は肉体強化の魔法を使って、リラも肉体強化の魔法を使って、マオさんの両親に飛びかかった。


「ねぇね、いじめる、めっ!」
「わるい! めっ!」

 小さな拳で僕がマオさんの父親を殴りつけると、鼻血を出して吹っ飛んで行く。リラはマオさんの母親を殴りつけて、鼻血を出させて吹っ飛ばしている。
 気絶したマオの両親に取り縋るまだ十代前半の男の子と女の子に、マオさんが駆け寄った。

「姉ちゃん!」
「お姉ちゃん、無事だったのね」
「あんたたちも無事でよかった」

 再会を喜び合うマオさんと弟さんと妹さん。
 弟さんと妹さんを抱き寄せるマオさん。
 痩せて目も落ち窪んでいる弟妹をセイラン様とレイリ様の前に連れてきて、マオさんが深く頭を下げる。

「あの父親と母親の元に置いておくのは心配です。土地神様のお世話は今まで通りに致します。タオとナナも土地神様の元に置いてくださいませんか?」

 マオさんの心配は僕にもよく分かった。汚れた丈の合わない服で隠しているが、マオさんの弟さんと妹さん、タオくんとナナちゃんには殴られたような跡があった。髪も脂っぽく何日も風呂に入っていないようだ。
 気絶した両親を置いて、セイラン様とレイリ様はタオくんとナナちゃんを保護して社に帰った。
 社に帰ってから、セイラン様とレイリ様は二人で相談する。

「社に住ませるには少し狭いかもしれぬな」
「まだ年端も行かない子たちだし、親が必要だ」
「この近くの地主にかけあってみよう」

 セイラン様とレイリ様が社の近くの信心深い地主に話をすれば、地主は自分の子としてタオくんとナナを育てると言ってくれた。

「私たち夫婦には子がおりません。二人も子を授けてくださるとはありがたいです」
「勉強もさせて、美味しいものも食べさせて、大事に育てます」
「社には二人の姉のマオがおる。頻繁に通わせてくれるか?」
「お社にも通わせましょう」

 僕はセイラン様に抱っこされて、リラはレイリ様に抱っこされてその話を聞いていた。
 話が纏まると、セイラン様とレイリ様はマオさんに話しに行った。

「近くの地主には子どもがおらぬ。自分たちの子どもとして育てると言ってくれておる」
「あの地主は信心深いし、タオとナナを頻繁に社に通わせてくれると言っているよ」
「勉強もさせるし、美味しいものも食べさせると言っておる」

 セイラン様とレイリ様の説明にマオさんは涙を流して喜んでいた。

「あの子たちに新しい両親ができる。ありがたいことです」
「姉ちゃん、俺たちどうなるの?」
「もう家に戻らなくていいの?」
「新しい父ちゃんと母ちゃんが可愛がってくれるって言ってるよ」

 すぐには理解できない様子だったが、迎えに来た地主の夫婦にタオくんとナナちゃんは連れて帰られた。
 次にタオくんとナナちゃんが来たときには、栄養状態がよくなって肌艶も若干よくなって、清潔な着物を着て、髪も綺麗に洗われていた。

「姉ちゃん、あのお家、毎日白いご飯が食べられるんだ」
「おかずもついてくるんだよ。お味噌汁も!」
「勉強も教えてもらってる。俺、字が書けるようになった」
「私も、ちょっとだけ難しい字が書けるようになってきたの」

 最初に会ったときの生気のない顔ではなく、表情を輝かせているタオくんとナナちゃんに、マオさんは嬉しそうに微笑んで聞いていた。

「あとぼー!」
「こっち、きてー!」

 庭に出ている僕とリラは、タオくんとナナちゃんに声をかける。小さな僕とリラの元に来たタオくんとナナちゃんに、僕とリラは鼻息荒く土の山を作る。
 タオくんもナナちゃんも前世で僕が生きていた頃と年齢が近い。僕は友達ができたようでとても嬉しかったのだ。

「おやま、ちゅくう」
「おやま、ぽーん、たのちい」
「俺も手伝います」
「私も」

 お山の上から飛ぶのは楽しいとリラと二人で言えば、タオくんとナナちゃんも手伝ってくれるという。
 社の庭に雪の山を作って、その上から雪の上に飛び降りる。着地すると雪の中に倒れて雪塗れになって、雪には僕の形が残ってとても楽しい。
 僕は久しぶりに大笑いをして遊んだ気がする。

 僕とリラにとっては、新しい友達ができた感覚だったのだ。

「いくちゅ?」
「りー、にちゅ」
「俺は十一歳」
「私は十歳よ」

 やはりタオくんもナナちゃんも前世の僕と年齢が近かった。ナナちゃんに至っては僕と同じだ。
 十歳の子と一緒に遊べるなんて、双子の妹以来だ。今の双子の妹であるリラは前世の記憶がなくて、僕だけが二歳の身体に十歳の魂が入り込んでいるが、タオくんとナナちゃんとの遊びは僕を満足させた。

「手習いの学校にも通わせてくれるって、新しい父ちゃん……じゃない、お父さんとお母さんは言ってるんだ」
「学校に通うなんて初めてだから嬉しい」

 これまで学習ができなかった分、タオくんとナナちゃんにはしっかりと勉強させてくれると地主の夫婦は決めているようだ。タオくんとナナちゃんは活き活きとして幸せそうだった。
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