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転生したらまた魔女の男子だった件

4.水遊びの後で

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 水遊びの後に、ウッドデッキで僕とリラはおやつを食べさせてもらった。
 おやつは茹でたトウモロコシの粒を外してバラバラにしたものと、小さく切ったスイカと、茹でた枝豆に塩をかけたものだった。
 マオが用意してくれたおやつの枝豆は、セイラン様とレイリ様向けだった。
 セイラン様とレイリ様が枝豆を食べている膝の上に座って、僕とリラはトウモロコシとスイカを食べる。トウモロコシはぷちぷちとしていて歯ごたえがあって美味しい。スイカを食べているリラは胸までスイカの果汁で真っ赤になっていたが、まだ水着姿だったので誰も気にしていなかった。

「スイカの種はペッするんですよ」
「ペッ!」

 口では「ペッ!」と言っているが、リラはスイカの種を吐きだすことができず、そのまま食べていた。僕はトウモロコシに夢中で一粒ずつ摘まんでは口に入れて、まだ少ない歯で噛んで楽しんでいる。
 セイラン様の顔を見ると、セイラン様が枝豆をさやから出して口に入れてくれた。枝豆も食感が面白くて美味しい。

 スイカとトウモロコシをお腹いっぱい食べた僕とリラは眠くなってしまって、お風呂に入れてもらって、着替えさせてもらって、セイラン様とレイリ様のお腹の上でお昼寝をした。
 お昼寝の間、マオは部屋に下がっていた。

 お昼寝から起きるとオムツが重たくなっていて、僕は陰鬱な気分になる。膀胱が発達していないので仕方がないのだが、排泄のたびに着替えさせられるのが僕にはどうしても恥ずかしいのだ。

 今世の身体はまだ一歳でも、僕は前世で十歳まで生きた記憶がある。記憶が途切れ途切れの部分もあるが、僕は一歳の身体に閉じ込められた十歳の子どもだった。
 オムツ替えもずっとされているが慣れることがない。

 恥ずかしさに泣いてしまっても、セイラン様は優しく着替え終わった僕を抱っこして宥めてくれる。乳首を口に当てられると、僕は必死に吸ってしまう。
 一歳になっても僕の体にはセイラン様のお乳が必要だった。
 魔女の森では魔力に満ち満ちているのでそこで暮らすだけで魔女の子どもは魔力を補充できるが、魔女の森を出てしまうとそうはいかない。魔力を蓄えておくには、土地神様のお乳がどうしても必要なのだ。

 魔女の森に戻れない限りは僕は成人するまでセイラン様のお乳が必要になってしまうが、魔女の森に戻りたいとは考えていなかった。
 僕はセイラン様とレイリ様とリラとマオさんと一緒にここでずっと暮らしたい。
 大きくなっても僕はセイラン様のお傍にいたいと思うようになっていた。

 一歳の子どもでも中身は十歳なので、恋をする。
 僕はセイラン様のことが大好きだった。

 リラもレイリ様のことが好きなのだと思う。
 レイリ様のお乳を飲んで、レイリ様から離れないのはそういう理由だろう。

 将来はセイラン様と僕が結婚して、レイリ様とリラが結婚して、この社でずっと暮らしていけたらいいのに。
 そのためには乗り越えなければいけない問題があるのは分かっていた。

「魔女の森の上空の邪気は濃くなっているような気がするのだ」
「明らかにあれは異質なものですよね。呪詛に近い気がします」
「あの邪気を試しに聖なる風で祓ってみたが、次の日にはまた湧いて出ている」
「魔女の森の中に原因があるとしか思えませんね」

 セイラン様とレイリ様が真剣に話し合っている足元で、僕とリラはマオさんの笛の音でお尻を振って踊りながらそれを聞いていた。マオさんが笛を吹くと体が勝手に踊り出してしまうのだ。
 一歳児だから仕方がないのかもしれないが、体が自由にならないのはもどかしかった。

「ラーイ、リラ、そなたらが着ている服に施された刺繍、それは、そなたらの母がしたものだ」
「ラーイとリラが怪我や病気をしないように守ってくれているのですよ」

 座って僕を膝の上に乗せてセイラン様が説明してくれる。レイリ様もリラを膝の上に乗せていた。
 今世の僕の母は生きているようだ。

「どぉこ?」
「まぁま?」

 僕とリラができる限りの単語で聞くと、セイラン様とレイリ様は答えてくれる。

「そなたらの母は、魔女の森で仕立て屋をしておる」
「ラーイとリラの水着も作ってくれたのですよ。服も作ってくれています」

 僕とリラの服には細かな刺繍が施されていることには気付いていたが、それが母の手によるものだとは知らなかった。
 今世の母は僕とリラを愛してくれて、災いが寄り付かないように魔法の刺繍を服に施してくれている。母の愛を感じて僕が自分の服の刺繍を摘まむと、リラは自分の服の刺繍をしゃぶっていた。

 リラにどこまで記憶があるのかは分からないが、十歳で殺された記憶があった方が可哀そうなので、ない方がいいと僕は思っていた。
 ただ、前世でもリラは僕の妹だったということだけは、感じ取ることができた。二人でまた双子として僕とリラは生まれ変わったのだ。

 今世の母が生きているのならば会ってみたい。
 その気持ちがないわけではなかったが、それがどれだけ危険なことなのか、僕には分かっていた。前世の母は僕と妹にサクランボのパイを買いに行って、帰ってこなかった。
 代わりに来た魔女らしき人物に僕と妹は殺された。

「こあいー!」

 思いだすと怖くなってセイラン様に抱き付く僕に、セイラン様が力強く僕の身体を抱き締めてくれる。体の大きなセイラン様は、片手で僕を抱ける。抱き締められると暖かくて、いい匂いがして、気持ちが落ち着いてくる。

「怖いことは何もないよ。私とレイリがラーイとリラを守ろう」
「ママー」
「ママではないがな」

 どうしてこの口は「セイラン様」と発音できないのだろう。
 セイラン様を呼ぼうとしてもどうしても「ママ」になってしまう。幼児の口が「ま」という単語を口にしやすいなんて罠だ。「ママ」と呼ぶ以外にできない。

 苦悩する僕にセイラン様がくしゃくしゃと僕の髪を撫でる。心地よさに目を瞑れば、こつんと額を合わせられる。

「ラーイはいい子だ。私の自慢の息子だ」
「すち!」
「私もラーイが大好きだぞ」

 「好き」は言えた。
 僕の好きの意味がセイラン様の大好きと違っていても、今は仕方がない。僕はまだ一歳の幼児なのだから。

「すち! ママ、すち!」
「リラは嬉しいことを言ってくれますね。僕も大好きですよ」

 一生懸命言っているリラにレイリ様が微笑んで答えている。
 僕の好きが正確に伝わるのはいつになるのだろう。
 時間がかかる気がしていた。

 マオさんが自分の素性を語り始めたのは、秋のことだった。

「私はこの秋で十七歳になります。私が結婚させられたのは、十五歳になってすぐのことでした」

 マオさんは十五歳になると同時に結婚させられたという。
 低年齢での結婚や出産は女性の体に負担が大きいし、ただでさえ出産は命懸けだ。マオが十六歳で子どもを産んで、赤ん坊が死んでしまったのは、低年齢の出産で赤ん坊が育ちきっていなかったからかもしれない。

「私が生まれた村には秋祭りがありました。秋祭りでは一番笛の上手い少女が、神輿に乗せられて土地神に笛の音を奉納するのです。十五になったら、秋祭りで私が笛を吹くのだと思っていました」

 私は結婚などしたくなかった。

 ぽつりと漏れたマオさんの本音をセイラン様もレイリ様も重く受け止めた。

「せめて十八まで結婚をせぬように土地のものに伝えねばならぬな」
「十五で結婚なんて早すぎます」

 好きでもない相手と十五歳で結婚させられて、子どもを産んだが死んでしまったマオさんは、今の暮らしが幸せだというが、これまでの暮らしが酷すぎただけだろう。

「マオもまだ守られていい年齢だ。この社でゆっくりと心を癒すといい」
「ライとリラの大事なねぇねですからね」

 レイリ様の言葉に、僕とリラはマオさんを何と呼べばいいか気が付いた。

「ねぇね!」
「ねぇね、すち!」

 抱き付くとマオさんは涙ぐんでいるようだった。
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