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魔女(男)とこねこ(虎)たん 3

171.魔法のお薬(入手編)

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 レオシュと睦み合った翌朝、アデーラはレオシュが冬休みでも週に二回くらいしか抱き合わないでおこうと言った意味を知った。腰が立たなくてアデーラに抱かれてリビングのソファに連れて来られたレオシュが、ため息をついているのを見て、ダーシャが息を飲んだのだ。

「やっぱり、アデーラがレオシュのこと!?」
「ダーシャ、アデーラお母さんとレオシュのことに口出ししちゃダメだよ」
「そうだったわ……ごめんなさい。でも、アデーラ、使えるようになったのね。レオシュが可愛いからかしら」
「ダーシャ!」

 呟くダーシャを嗜めるルカーシュに、アデーラとレオシュは顔を見合わせる。アデーラはレオシュを抱けるはずがないし、レオシュもアデーラに抱かれるはずはない。
 それなのに、ダーシャはすっかりと勘違いしているようだ。

「アデーラがいいなら、いいんだけど」
「夫婦の形はひとそれぞれだよ」
「そうね……」

 ダーシャとルカーシュの間で話がまとまってしまって、アデーラは口出しすることができなかった。ソファで気怠そうにしているレオシュに、トマーシュが飛び込んでくる。

「トマーシュ、今日は遊んであげられないんだ」
「れー?」
「子ども部屋で遊んでおいで」
「れー!」

 レオシュと遊びたがっているトマーシュに、ルカーシュがそっと近寄ってトマーシュを抱き上げる。

「ぱっぱ、やー! れー!」
「トマーシュの大好きな絵本を読んであげようか?」
「ごほん!?」

 レオシュも小さい頃から絵本が好きだった。ルカーシュもフベルトもイロナも、誰かが絵本を読み出すとその前に座って大人しくなった。
 トマーシュもしっかりとその血を引いているようで、絵本が好きなようだ。ルカーシュが膝の上に乗せて絵本を読み出すと、目を輝かせて見ている。
 その間、ダーシャが皿のような目でアデーラとレオシュを見ていることにアデーラは気付いていた。

「ママ、お願いがあるんだ。エリシュカお祖母ちゃんのところに連れて行ってくれないかな」
「私は移転の魔法が使えないからなぁ」
「ママ、魔法駆動二輪車に乗れるんじゃない?」

 レオシュに言われてアデーラは気付いた。アデーラは訓練を受けているわけではないが、レオシュも乗れるのだから魔法駆動二輪車を運転することは難しくないだろう。

「レオシュ、立てる?」
「ママ、抱っこして」

 無邪気に両手を広げて抱っこを求めるレオシュに、これでいいのかと考えてしまうが、アデーラは抱き上げて庭まで連れて行った。

「ちょっと、レオシュと出かけて来るよ」
「気を付けてね」
「レオシュ、身体を大事にね」

 離れの棟の中に声をかけると、ダーシャとルカーシュがレオシュを気遣っている。レオシュがアデーラに抱き潰されたと思っているのだろう。ある意味正解なのだが、アデーラはそうではないと言い訳したい気持ちでいっぱいだった。

「ママ、行こう」
「う、うん」

 はっきりとダーシャとルカーシュに告げられないままでアデーラはレオシュを後部座席に乗せて魔法駆動二輪車を運転する。魔法駆動二輪車の運転自体は難しいものではなかった。
 雪の中を走る魔法駆動二輪車。空を飛んでいても降る雪が視界を塞いでしまう。

「レオシュ、寒くない?」
「平気。ママは?」
「大丈夫だよ」

 魔法のかかったコートとマフラーと手袋をレオシュには付けさせているのでダムくはないだろうと思うのだが、雪が酷くて風が身を切るように冷たい。アデーラは魔法のかかった衣装を着ているので寒くはなかったが、腰が立たないレオシュは心配だった。
 無事に魔女の森に着いてエリシュカとブランカの家に行くと、アデーラに抱っこされているレオシュにエリシュカもブランカも驚いている。

「レオシュは体調を崩したのかい?」
「エリシュカに診てもらいに来たの?」

 口々に問いかけられて、アデーラはレオシュを見た。レオシュはアデーラを見上げている。

「エリシュカお祖母ちゃんと二人きりで話がしたいんだ」
「分かったよ」

 レオシュを連れて部屋に入って、アデーラとブランカはリビングで、レオシュとエリシュカはエリシュカの部屋に入った。エリシュカとレオシュが何を話しているか気になっていると、ブランカがエリシュカの部屋に近付いていく。

「ブランカ母さん、立ち聞きなんてよくないよ」
「アデーラも気になっているんでしょう?」
「でも……」
「しっ!」

 ブランカが唇に指を当てて静かにするように指示してくる。黙っていると、エリシュカの部屋からレオシュとエリシュカの声が聞こえてくる。

「私、ママをリードしたいんだけど、いつも負けちゃうんだよね」
「まぁ、魔女は夜に強いからね」
「そうなの!?」
「魔女はほとんど夜の営みには強いし、アデーラは特に体力があるからねぇ」

 魔女は夜の営みに強い。
 それはアデーラも初耳だった。自分が体力があることは自覚していたが、魔女という種族自体が夜の営みに強いだなんて思いもしなかった。

「私は勝てないのかな」
「不満なのかい?」
「ちゃんと、ママを気持ちよくさせられてるか、不安なんだ」

 18歳らしい悩みにエリシュカは親身になって聞いている。それが夜の営みの話であろうとも、エリシュカは動揺していなかった。
 ドアの外で聞いているアデーラの方があけすけなレオシュに動揺している。

「ママを泣かせるくらい気持ちよくさせたい」
「そういう薬がないわけじゃないけど、大事なのは当人同士の話し合いだと思うけどね」
「薬があるの!? エリシュカお祖母ちゃん、それをちょうだい!」
「待っておくれ、レオシュ。ちゃんと話を聞いて」

 薬をすぐに出すことはなく、エリシュカは年長者として、医者として冷静に話している。

「レオシュは、アデーラと抱き合ってそんな風になるのが不服なのかい?」
「い、嫌じゃないんだ。すごく気持ちいいし、ママはエッチですごくそそられるし。最中に泣いちゃうけど、それもママは受け止めてくれるんだよ」
「それなら、無理に自分がリードしなきゃいけないって思わなくていいんじゃないかな」
「そうかな? ママはそれで不満じゃないかな?」

 心配そうなレオシュの問いかけに、エリシュカが苦笑する。

「それこそ、聞いてみなくちゃ分からない。夫婦になるんだから、何でも話し合ってお互いの価値観を擦り合わせて行かなきゃいけないんだよ。小さな頃から一緒だからって、そういう小さな努力を積み重ねないのは、いい夫婦になれないよ」

 あけすけな性生活の話をされてもエリシュカは動じることなく、年長者として、祖母として、優しくレオシュにアドバイスしている。レオシュもエリシュカの言葉に納得したようだ。

「私に足りないのは話し合いだったんだね。ママだから私のことは分かっててくれるって、甘えてたのかもしれない。エリシュカお祖母ちゃん、ありがとう。私、ママと話し合ってみる」

 明るい声になったレオシュに、ブランカとアデーラは安心してそっとドアから離れた。その後でレオシュが言っていた台詞は聞こえなかった。

「それはそれとして、お薬はちょうだい!」

 エリシュカの部屋から出て来たレオシュが壁に手を突いているのを見て、アデーラは駆け寄って抱き上げる。膝がかくかくするのは多少治って来たようだが、まだ回復しきってはいないようだ。

「ご飯を食べていくでしょう?」
「レオシュ、どうする?」
「ブランカお祖母ちゃんのご飯! 食べたい!」

 アデーラに抱っこされて、椅子に座らされたレオシュは元気に手を上げている。

「腕を振るうわ。何が食べたい?」
「卵!」

 大好物を口にするレオシュに、ブランカが笑ってキッチンに入って行った。
 バターライスのいい香りがして、ふわふわとろとろのオムレツを乗せた、オムライスをブランカが作る。オムレツを割ると、とろとろと中から半熟の卵が流れ出る。
 ホワイトソースもかけてくれるブランカに、レオシュが大喜びで食べ始める。アデーラもブランカのオムライスを食べ始めた。
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