魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

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魔女(男)とこねこ(虎)たん 3

148.アデーラの仕事

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 ルカーシュとダーシャのダンスパーティーと結婚式の衣装をアデーラは丁寧に縫って行く。縫っている期間は他の仕事は引き受けないとアデーラは決めていた。
 大事なパートナーのダーシャと息子のルカーシュが結ばれる。そのめでたい日を祝う衣装に集中したかったのだ。
 店舗に出ないで離れの棟でずっと縫物をしているアデーラに、レオシュとフベルトが興味津々で見つめている。近寄ってきてイロナは声をかけて来る。

「この綺麗な紫のドレスはダーシャさんが着るの?」
「そうだよ。ダーシャに紫を頼まれたからね。ルカーシュの衣装はロイヤルブルーを使っているよ」
「すごく綺麗……。私もダンスパーティーでこんなドレスが着たいわ」

 ぽつりと呟いたイロナに、アデーラは気付く。イロナも卒業の年であり、卒業式の後のダンスパーティーには参加するのかもしれない。

「イロナちゃんもダンスパーティーに参加するのかな?」

 聞いていいものなのか少し躊躇ったのは、ダンスパーティーというものが相手がいないと出席できないものだからだった。イロナに相手がいるのか聞いてもいいのだろうか。

「同級生に誘われたの。ルカーシュくんとも仲良くしていたビーグルの獣人で、ルカーシュくんが研究課程に進むって聞いて、自分も研究課程に進んだ方がいいんじゃないかって相談されたのよ」

 獣人の国の高等学校よりも上の教育に当たる研究課程は、貴族の中でも一握りしか行くものがいない。勉強することよりも結婚をして子どもを残すことを国王陛下も亡きリリアナ妃も求められたくらいなのだから、研究課程への進学率の低さは言わずと知れたことだろう。
 そんな中で、ルカーシュは研究課程に進んで自分の研究を深めたいと宣言していた。ルカーシュを見習って、イロナに声をかけて来たビーグルの獣人の青年も研究課程を志しているようだ。

「私も行くから一緒に勉強しましょうって答えたの。そしたら、ダンスパーティーに誘われて、嫌いなひとじゃなかったから……ううん、ずっと気になってたひとだったから、私、行こうかなって思っているのよ」
「イロナちゃん、どんなドレスがいい?」
「作ってくれるの!?」
「イロナちゃんがダンスパーティーに出るなら、私に衣装を作らせてほしい。ルカーシュとダーシャの結婚式にもイロナちゃんは呼ばれるだろうから、ドレスを一着くらい持っていた方がいいよ」

 豪華なドレスを一着くらいはイロナも持っていた方がいい。これからも国王陛下の義娘として、ルカーシュの学友として公の場に出ることはあるだろうし、イロナももう成人している。むしろイロナのドレスのことを気付かなかった自分をアデーラは反省していた。

「明るい若草色のドレスがいいわ。靴もそれに合わせなきゃ」
「スカートは広がっている方がいい、すとんと落とした方がいい?」
「スカートは広がっていない方がいいわ」

 デザインも確認してアデーラはイロナの衣装も作り始めた。
 当然のことながら、ルカーシュとダーシャの結婚式に出る国王陛下やヘルミーナ、フベルトにレオシュの衣装も揃えなければいけない。一つ一つ丁寧に縫って行って、作り上げるアデーラをレオシュの水色の目が見つめている。

「ママは自分の衣装を作らないの?」
「私のは一番最後でいいよ」
「ママと私の結婚式では、ママは何を着てくれるんだろう」

 アデーラとレオシュの結婚式の話をされて、アデーラは動作を止める。どう考えてもアデーラがウエディングドレスを着られるはずがなかったし、レオシュはタキシードを着るだろう。

「タキシードになるんじゃないかな」
「裾が長くて、スカートみたいになっててもいいと思うんだ」
「レオシュは私に何を求めているのかな?」

 苦笑してしまうが、確かにこれまでの公の場に出るときにでもアデーラはスカートくらいの長さのロングジャケットを着ていた。レオシュにとってはそのイメージが強いのだろう。

「レオシュと結婚するって決まったわけじゃないんだからね」
「ママは私と結婚してくれる。ママは私のことが大好きだもん」

 堂々と胸を張って言われて、どうしてこんなに自己肯定感の強い子に育ってしまったのかと思うが、それも全部アデーラが育てた結果なので仕方がない。

「ママ、私のこと意識してるでしょう?」
「いつも通りだよ」
「そうなの? ママは私にドキドキしたりしないの?」

 手を伸ばされて胸に触られそうになってアデーラはするりと避ける。

「レオシュ、縫物をしてるときは危ないからやめなさい」
「縫物をしていなければいいの?」
「ひとの胸に気軽に触れるのはやめなさい」

 針やハサミを持っていることがあるので縫物をしているときは急に手を出さないように言えば、そうでなければいいのかと聞いてくる。アデーラはレオシュの押しの強さに戸惑っていた。
 どうしてこんなに自信満々にアデーラが自分と結婚すると思い込めるのだろう。レオシュは小さい頃からずっとそうだった。魔女の森の掟で魔女は結婚しないことを告げても、絶対に諦めたりしなかった。

「呪い……」
「呪いじゃないよ、運命だよ」

 レオシュをアデーラの元に導いたのが老木の下に閉じ込められた魔女の意図だとすれば、レオシュがアデーラに執着するのも呪いの一部ではないかとアデーラは思ってしまう。

「最初はあの魔女に導かれたかもしれないけど、ママを好きになったのは私の意志だし、ママと結婚したいというのも、私の意志だよ!」

 強く言われてアデーラは口を閉じる。レオシュにはこれ以上言っても無駄な気配しかしない。
 黙々と縫物を続けていると、レオシュが出来上がってハンガーにかけて下げてある衣装に手を触れる。ダーシャの紫色のドレス、ルカーシュのロイヤルブルーのスーツ、どちらも細かく刺繍が入っている。

「布も刺繍もすごく凝ってる。父上はママにいくら払うの?」
「払わないよ」
「え?」

 ルカーシュの衣装なのだし、ダーシャはルカーシュの妻になるのだから当然国からお金が出ているだろうとレオシュは思い込んでいたようだ。アデーラはそれを否定する。

「私はレオシュとルカーシュの生活費に関して、国からお金をもらったことはないよ。全部私とダーシャが店舗で稼いでいるお金を使っている」
「毎日のご飯も? 私の普段着も?」
「そうだよ。国からお金をもらうと、国王に囲われているとか妙な噂を立てる輩がいるんだよ。そういうのが許せなくて、私とダーシャは城下町に店舗を持った」

 店舗を持ったときにはレオシュは小さすぎてその意図が理解できていなかったが、今になって話すと納得している。

「ママもダーシャお母さんも稼ぐ必要なんてないのにって思ってたけど、そういうことだったんだね」
「ヘルミーナさんとフベルトくんとイロナちゃんと国王陛下の分に関しては、国王陛下に請求するようになったかな。ヘルミーナさんとフベルトくんとイロナちゃんは、ヘルミーナさんが国王陛下と結婚してからだけどね」

 国王陛下の分は最初から国王陛下に請求していた。ヘルミーナとフベルトとイロナの分は最初はアデーラとダーシャがルカーシュとレオシュの家庭教師代だと出していたが、国王陛下とヘルミーナが結婚してからは国王陛下に請求している。
 説明するとレオシュは水色の目を丸くしている。

「私とお兄ちゃんは、本当にママとダーシャお母さんに育てられてたんだ」

 食費も被服費も一切国のお金は使わず、アデーラはレオシュとルカーシュを店舗で稼いだお金で育てた。それはアデーラとダーシャの意地でもあった。

「私は貴族のお客の衣装を作るからかなりお金が入るし、ダーシャも特別な魔法薬やお茶を調合するから、稼いでいるし、レオシュとルカーシュを貧しい思いをさせたつもりはないよ」
「貧しいどころか、毎日のご飯は美味しいし、作ってくれる服は綺麗だし、ママは最高だったよ」

 レオシュに言われてアデーラは目を細める。

「ありがとう、レオシュ」

 ダーシャはルカーシュと結婚すればさすがに店舗に出られなくなるかもしれない。ルカーシュが学生の間はいいかもしれないが、国王の補佐として執務に着くことになると、ダーシャもそれを支えなければいけなくなる。
 これからは生活が変わってくるかもしれない。
 アデーラが縫うダーシャとルカーシュとレオシュの衣装。これがアデーラの自費で作るのは最後になるかもしれなかった。
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