魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

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魔女(男)とこねこ(虎)たん 3

106.ルカーシュのお誕生日に来たひとたち

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 真夏のルカーシュのお誕生日には、例年通りに祭典が行われた。国を挙げて成長を祝われるのはルカーシュも王族の義務なので仕方がないとは思っているようだ。
 祭典の次の日のエリシュカとブランカに祝われる魔女の森でのお誕生日の方が、ルカーシュがリラックスした表情をしているのをアデーラは知っている。

「ルカーシュ殿下のお誕生日にはレオシュ殿下も出られるのですね」
「今年はレオシュ殿下の10歳のお誕生日」
「レオシュ殿下はどうなさるのでしょう」

 ルカーシュのお誕生日なのにレオシュの噂話をされて、レオシュも面白くない顔をしているし、ルカーシュも難しい顔をしている。国王陛下もその点に関してはレオシュに強制する気はないようだったが、気にはかけているようだ。

「今年から王立高等学校に入学しました。高等学校での学びは、これまでの家庭教師との学びとは全く違います。ですが、家庭教師に教えてもらったことが私を支えてくれています。これからもよく励み、勉強していこうと思います」

 レオシュから貴族の関心を自分に向けるように挨拶をするルカーシュに、拍手が起きる。その先頭にいる人物にルカーシュが目を丸くしている。

「お祖父様、お祖母様!」
「元宰相の時代には王宮に来ることを許されていませんでした。政治に介入されたくなかったのでしょう」
「ルカーシュ様のお誕生日をお祝いしたくて参りました」
「国王陛下がぜひ来てくれるようにとお招きいただいたのです」
「ルカーシュ様、本当におめでとうございます」

 バジンカとマルケータにお祝いされるルカーシュの表情が明るくなってくる。これまでは公爵といえどもバジンカとマルケータは領地の距離の問題で気軽には王都へ来られなかった。国王陛下の招待があればバジンカもマルケータも喜んで来ることができる。

「元宰相はオルシャーク領の統治を疎かにするので、何日も領地を空けて王都に来るなど無駄だと言ったのですよ」
「私たちは、可愛い孫の誕生も祝えなかったのです」

 それが祝えるようになって嬉しいと、バジンカとマルケータは嬉しそうに話している。ルカーシュも打ち解けた表情でバジンカとマルケータに抱き締められに行っている。

「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、兄上のお誕生日に来てくれたんだね」
「レオシュ様、今日は本当におめでたい日ですね」
「ルカーシュ様の晴れの姿を見られて私たちは幸せです」

 人懐っこく近寄っていくレオシュにも、バジンカとマルケータは目を細めて答えている。

「ねぇ、お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、私のお誕生日にも王都に来てくれる?」
「レオシュ様のお誕生日にももちろん喜んで参りますよ」
「レオシュ様の10歳のお誕生日、どれほど素晴らしいものになるのでしょう」
「私、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが来てくれるなら、国の祭典に出てもいい」

 バジンカとマルケータの存在はレオシュの心をも動かしたようだった。嬉しそうに尻尾をゆらゆらと揺らしているレオシュにバジンカとマルケータも微笑んでいる。

「お祖父様とお祖母様を呼ぶなんてやるじゃない」
「国王陛下のやることにしては評価できるね」
「ルカーシュもレオシュもお二人は好きだものね」

 ダーシャとアデーラは冷静に国王陛下に評価を下していた。国王陛下にレオシュが話しに行っている。

「私、10歳のお誕生日は兄上と同じように祝われても構いません」
「本当か!? レオシュ、なんて立派になって」
「ただし、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんを呼んでください」
「呼ぼうとも。レオシュが国の祭典に出てくれる。今日は本当にめでたい日だ」

 国王陛下も喜んでいて、ルカーシュがそれを見て感慨深そうにしている。

「レオシュの口からあんな言葉が出て来るなんて。レオシュも成長したなぁ」
「お祖父様とお祖母様を呼んだことで考えることがあったようよ」
「10歳のお誕生日は、私たち魔女には分からないけれど、特別らしいからね」

 長く生きるアデーラたち魔女には理解できないが、獣人の国では10歳のお誕生日はとても特別なものとして扱われる。ルカーシュの10歳のお誕生日も盛大に祝われたはずだ。

「ロイヤルブルーの衣装を作らなければいけないね。レオシュのために」
「僕とお揃いだ」

 アデーラの呟きに、ロイヤルブルーの衣装を着ていたルカーシュがひっそりと微笑んでいるのが分かった。国王陛下とお揃いというのはレオシュには受け入れがたいだろうが、大好きなルカーシュとお揃いならば受け入れられるだろう。
 離れの棟に戻るまえに、ルカーシュとレオシュはバジンカとマルケータに挨拶をしていた。

「お祖父様、お祖母様、本日は私のために来てくださってありがとうございました」
「私のお誕生日にも来てね!」
「ルカーシュ様、おめでとうございました」
「レオシュ様、必ず参ります」

 小指を絡めて祖父母と約束をするレオシュは、本当に祖父母のことは好きなのだと伝わって来た。
 翌日にはアデーラとダーシャとレオシュとルカーシュは魔女の森のエリシュカとブランカの家に行った。ブランカは目の前で焼ける魔法の機械を使って、ぽこぽこと丸い穴の開いた鉄板に生地を流し込んで、タコと刻んだキャベツとネギを入れて、くるくると回して丸く焼き上げた。

「ブランカお祖母様、これは何ですか?」
「たこ焼きよ。私がするのを見て、やり方が分かったでしょう? ルカーシュとレオシュも焼いてみなさい」

 最近ルカーシュとレオシュが料理に興味があって、お弁当を作ったり、朝ご飯を作ったりしているというのはブランカの耳にも入っていた。ブランカはルカーシュのお誕生日を自分で作れるもので祝おうと考えたようだ。
 先の尖った細いアイスピックのようになっている道具で、くるくるとルカーシュとレオシュが焼けていくたこ焼きをひっくり返していく。うまくできなくて崩れてしまっても、それを咎めるような人物はここには誰もいなかった。
 ソースと鰹節と青のりとマヨネーズをかけて、たこ焼きをいただく。
 はふはふと熱さに息を吐きながら食べるたこ焼きは、外側はカリッと焼けていて、内側はとろりとしてとても美味しかった。

「ルカーシュとレオシュが作ったから、特に美味しいね」
「エリシュカお祖母様、僕はへたくそでしたよ」
「そんなことないよ。美味しいよ」
「私、上手だった?」
「とても上手だったよ」

 エリシュカもたこ焼きを摘まみながら赤ワインを飲んでいる。食後、ケーキが出て来るまでの間、ダーシャはエリシュカに話しかけていた。

「少しずつ国民感情を動かそうとしているんだけど、時間がかかるわね」
「国王の件かい? 亡くなったお妃が元宰相の手で殺されたっていうのを劇にしてみるのはどうかね?」
「それで、国民感情は動くかしら?」
「国王への同情は集まるだろうし、元宰相の悪辣ぶりも知れ渡る。元宰相を極刑に処して、国王は悲しみを癒すために支えてもらうひとの元へっていうシナリオは悪くないんじゃないかい」

 エリシュカの助言を受けてダーシャは考えているようだった。
 アイスクリームケーキが出て来る。たくさんの果物を入れて固めたアイスクリームとその下のスポンジ生地。毎年ルカーシュのお誕生日はアイスクリームケーキを食べるのだが、ブランカは少しずつその種類を変えていた。

「お誕生日おめでとう、ルカーシュ」
「ありがとうございます、ブランカお祖母様」
「お兄ちゃんのお誕生日には、オルシャーク領のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが来てくれたんだよ」
「それはよかったわね」
「レオシュも今年のお誕生日は国で祝うことに決めたんです」
「レオシュも立派になったのね」

 アイスクリームケーキを食べながら聞いて欲しいことがいっぱいでブランカに話すルカーシュとレオシュに、ブランカは微笑んで聞いている。多少時間がかかったとしてもアイスクリームケーキは簡単に溶けない魔法がかかっているし、部屋は涼しくなる魔法がかかっていて、ルカーシュもレオシュも安心して話ができた。
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