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魔女(男)とこねこ(虎)たん 2

73.レオシュの5歳の誕生日

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 レオシュが5歳になる。
 4歳のお誕生日も離れの棟で祝ったレオシュだが、今年も離れの棟でお誕生日を祝うつもりだった。エリシュカとブランカにはルカーシュに手伝ってもらって、お手紙で知らせている。

「れー、ふーくんといーちゃんとへーちゃんと、ヘルミーナせんせーと、おいわいしたいんだ」
「レオシュはフベルトくんと大の仲良しだもんね」
「ちちーえも、にぃにがどうしてもよびたいなら、れー、がまんする」
「ありがとう、レオシュ」

 今年は国王陛下がレオシュを祝いに来るのもレオシュは拒まない体勢だった。お誕生日には隣りの棟からフベルトが小さな箱を持ってやってきた。

「これ、チョコレートなんだ。かあちゃんとイロナねえちゃんとヘドヴィカねえちゃんと、おみせにいってかったんだ」
「私たちの分も買ってもらっちゃったのよ」
「お裾分けをもらっちゃいました」

 イロナもヘドヴィカも自分たちの分を買ってもらったようで嬉しそうである。チョコレートの箱は四つあった。

「これ、れーくんに。おたんじょうびおめでとう」
「ありがとう、ふーくん」

 フベルトに箱の一つを手渡されたレオシュが大事にそれを胸に抱く。

「これはルカーシュくんに。いつもふーとれーくんのおにいちゃんしてくれて、ありがとう」
「僕にもあるの?」
「うん、もらって」

 レオシュだけではなくルカーシュにもあって、ルカーシュが頬を染めて喜んでいる。チョコレートのプレゼントはそれだけではなかった。

「これ、だーさんに。だーさんは、れーくんのママだから、ママがいないとれーくんはおおきくなれてないって、かあちゃんが」
「私にも? ありがとう、フベルトくん。ありがとう、ヘルミーナさん」

 チョコレートはダーシャにもあった。
 最後にフベルトがアデーラのところに歩いてくる。

「れーくんのこと、いちばんかわいがってて、だいすきなママにも。れーくんはママがいないとダメだからな」

 レオシュが大きくなれたのはダーシャとアデーラのおかげでもあるから、お誕生日にダーシャとアデーラにまでプレゼントがあるというのは、ヘルミーナらしい粋な考え方だった。箱を受け取ってアデーラは頭を下げる。

「ありがとう、フベルトくん。ヘルミーナさんも本当にありがとうございます」
「アデーラ様もダーシャ様も毎日頑張っていらっしゃるから」

 微笑むヘルミーナに、アデーラはもう一度頭を下げておいた。
 国王陛下からもレオシュにプレゼントがあった。

「レオシュ、お誕生日おめでとう」
「れー、いらない。ふーくんにあげて!」
「フベルトくんの分もあるのだ。レオシュの分はレオシュの分で受け取って欲しい」
「れー、ちちーえのプレゼント、いらない」

 顔を背けてしまうレオシュにアデーラがため息を吐く。国王陛下は明らかに意気消沈している。

「おじさん、これ、なんだ? おかしか?」
「お菓子じゃないよ。これは入浴剤」
「にゅうよくざい? にゅうよくざいってなんだ?」
「えーっと、お風呂に入れるものだよ」

 国王陛下も説明しているつもりなのだろうが、まだ5歳のフベルトにはそれではよく分からない。呆れながらアデーラが説明を付け加える。

「入浴剤は、お風呂に入れると体が温まりやすくなったり、いい匂いがしたりする、お風呂に入れるお薬みたいなものだよ」
「いいにおいがするのか! おふろでぽかぽかになれるのか」

 じっと手に持った入浴剤の箱を見て緑色の目を輝かせているフベルトに、お風呂が大好きなレオシュの耳がぴくぴくと動いているのが分かる。じりじりと国王陛下に近付いて、身体はできるだけ離しつつ、手だけを差し出す。

「うけとってあげてもいいよ!」
「受け取ってくれるのか?」
「れーも、もう5さいだからね。やさしくなるの」

 単純にレオシュが欲しくなっただけではないのかとその場にいる誰もが気付いていたが、誰も突っ込まず、レオシュは入浴剤の入った箱を国王陛下から受け取って、急いでアデーラの足元に走って来ていた。

「レオシュ、ものをもらったら何て言うの?」
「うー……ありがと!」
「レオシュが私にありがとうと言ってくれた」
「レオシュ、えらかったね」

 ルカーシュに促されてお礼を言ったレオシュをルカーシュが褒めている。不本意そうだったが褒められて嫌な気持ちはしないのか、レオシュはそれ以上何も言わなかった。
 キッチンではブランカがご馳走を作っている。

「レオシュが『おたんじょうびはカレーにしてください』ってお手紙をくれたのよ」
「アデーラもダーシャも、子どもの頃はカレーが大好きだったねぇ」

 カレーを煮るブランカに、エリシュカが目を細めている。
 ご飯を薄焼き卵で包んで、カレーをかけたオムカレーにレオシュとフベルトとルカーシュとイロナの目が輝く。

「オムライスとカレーがいっしょになった!」
「オムライスはおいしい、カレーはおいしい。ってことは、めちゃくちゃおいしいやつだ!」

 歓声をあげながらレオシュとフベルトがオムカレーにスプーンを刺しこんで食べる。一口食べて美味しさに笑み崩れている。アデーラも食べたが懐かしい味でとても美味しかった。
 食べ終わるとブランカが林檎のタルトを持ってきてくれる。一人分ずつ小さな丸く焼かれたタルト生地に入れて、林檎を薔薇の花のように飾ったタルトの上に、真っ白なミルクのアイスクリームが乗せられる。
 アイスクリームが溶けてしまう前に、レオシュもフベルトもルカーシュもイロナも必死に食べていた。ヘドヴィカにも、大人たちにも一個ずつタルトが振舞われて、贅沢な気持ちでアデーラはそれにフォークを入れる。

「きいてください。れーは、これから、じぶんのことを、『わたし』っていいます」

 タルトとアイスクリームを食べ終わったレオシュが自分で口の周りを拭いてから、堂々と宣言する。

「れーくん、『わたし』っていうことにしたのか」
「うん、れー……じゃない、わたしのママがじぶんのことを『わたし』っていうでしょう? わたしも、ママとおなじにしたかったんだ」
「そっか。それじゃ、ふーは、じぶんのことを『おれ』っていう」
「ふーくん、『おれ』! かっこういいね!」

 将来貴族として公の場に出るようになるとレオシュのように最初から『わたし』といい慣れていた方がいいに決まっている。それでも、フベルトが自分のことを『おれ』と言いたいというのを誰も否定しなかった。
 ルカーシュが自分のことを『僕』と言っているように、公の場では言い換えればいいだけだと分かっているのだ。

「わたし、おはしのれんしゅうもする!」
「おれも、おはしをれんしゅうする!」
「いっしょにがんばろうね、ふーくん」
「うん、れーくん!」

 お箸も練習すると言っているレオシュに、フベルトも練習すると言っている。イロナがそれを見ておずおずと口を開いた。

「私、おはしを持てるようになるかしら?」
「私もお箸に興味があったわ」
「実は私もですよ。みんなで練習すればいいかもしれませんね」

 ヘドヴィカもヘルミーナも言っていて、ヘルミーナ一家はこれからお箸の練習を始めるようだ。

「レオシュは立派だ。自分で自分のことを決めて」

 ぽつりと呟いた国王陛下に、視線が集まった。

「私は教育係の元宰相の言いなりだった。元宰相の悪事が分かってから、宰相を辞めさせて、今は政治の難しさに悩んでいる。平民の家にお湯が出なかったり、義務教育なのに学校に通えていなくて予防接種も受けられていないものがいるなんて……」

 国王陛下の変化もこれからなのかもしれない。
 5歳の子どものようにゆっくりと変化されると国民が困るので急いでもらわなければいけないが、気付いたのならばこれから変わっていける。
 レオシュの成長と共に、これからこの国が変わることをアデーラは願わずにいられなかった。
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