魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

文字の大きさ
上 下
74 / 183
魔女(男)とこねこ(虎)たん 2

72.夏の過ごし方

しおりを挟む
 真夏の暑い日でもレオシュとフベルトは外で遊びたがる。できるだけ午前中に遊ばせて、午後の暑さが厳しくなる時間には部屋の中で遊ばせるようにしているのだが、その日は特に暑かった。朝から日が焦げるように照っていて、とても外では遊べない。
 レオシュとフベルトにそのことを説明しても、二人とも了承してくれない。

「こんな暑い中で遊んでたら熱中症になっちゃうよ」
「れー、つよいもん! へーき!」
「ふーも、へーき!」
「ねっちゅーしょー、ならない……ねぇ、ねっちゅーしょーってなぁに?」

 レオシュの問いかけにアデーラが声を低くする。

「レオシュとフベルトは賢いから分かると思う。茹でた卵は生卵に戻るかな?」
「もどらないよ!」
「ゆでたまご、おいしいね!」

 話し出したアデーラにレオシュもフベルトも脱線しつつもしっかりと聞いてくれている。

「外の熱で頭に入っている脳味噌っていうものを考える大事な機関が、ゆで卵みたいに煮えちゃうんだ。ゆで卵になったら生卵には?」
「もどらないー!? れーのあたま、ゆでたまごになっちゃう!?」
「ふーのあたまも、ゆでたまごになっちゃうの!?」
「そうなりたくないよね? 酷い暑さの中で遊ぶのはとても危険なんだよ。今日はお部屋で遊ぼう」

 アデーラが説明すると、レオシュとフベルトはなんとか納得してくれたようだった。テーブルについて勉強しているルカーシュの隣りにレオシュが座って、レオシュの隣りにフベルトが座る。

「ヘルミーナせんせー、れー、ほんがよめる?」
「レオシュ様は字を習いたいのですか?」
「ふーも、えほんがよみたい。じぶんでよめるようになる?」
「字を覚えれば読めるようになりますよ」

 ヘルミーナに言われて、レオシュとフベルトは文字の教本を貸してもらっていた。ルカーシュもイロナもその教本は使っていないので、レオシュとフベルトに一冊ずつあって、顔を突き合わせて一緒に読んでいる。

「これは『あり』の『あ』」
「『いす』の『い』」
「『とり』の『と』かな?」
「レオシュ様、それは『うずら』の『う』です」
「とりじゃないの?」
「うずらという鳥がいるのです」

 一つ一つ文字を覚えて行こうとするが、絵を見て文字を想像するので、ウズラの絵は『とり』に見えるし、尻尾である『お』の絵は『しっぽ』と読んでしまう。
 それを一つ一つヘルミーナが訂正していた。

「にぃに、むずかしいほんよんでる」
「イロナねえちゃんもだ!」
「ルカーシュ様が音読しますので、聞いていてください」
「おんどくってなぁに?」
「声に出して読むことですよ」
「にぃに、ほんをれーによんでくれるんだね!」

 レオシュに読んであげるわけではないが、そう勘違いしているのをヘルミーナもルカーシュも訂正しなかった。教科書の文章を読むルカーシュをレオシュとフベルトがじっと見つめている。絵本を読んでもらっているような気分なのだろう。
 最近はレオシュもフベルトも、絵のない本を読んで聞くだけで想像できるようになっているから、ルカーシュの読む教科書の物語も充分に面白かったようだ。読み終わると手を叩いて喜んでいる。

「おもしろかった! にぃに、もういっかい!」
「このつづきはないのか?」
「次はイロナが読みます。静かに聞いていられますか?」
「れーのために、いーちゃんもよんでくれるの?」
「イロナねえちゃんは、ふーのためによんでくれるんだよ」

 喧嘩になりそうな気配もあったが、イロナが読み始めるとレオシュもフベルトもすぐに音読に夢中になってしまう。同じ絵本を何回も読むのを子どもは好むので、同じ場所をルカーシュとイロナの二回聞いたところで、退屈などせずに楽しいだけだ。

「いーちゃん、じょうず!」
「すげーおもしろかった! つづきもききたい!」
「続きは明日読みますよ」
「ヘルミーナせんせー、れー、あしたも、じのれんしゅうをして、にぃにといーちゃんのおはなし、ききにきていい?」
「ふーも、ルカーシュくんとイロナねえちゃんのおはなし、ききたい」

 意欲満々のレオシュとフベルトに、ヘルミーナが問いかける。

「国語の勉強は午前中になりますから、外で遊べなくてもいいですか?」
「そとであそべないのか……」
「でも、ふー、つづききになる」
「れーも、つづき、ききたい」
「そとであそべないの、がまんするか」
「ゆでたまごになっちゃうもんね」

 夏の間レオシュとフベルトが汗だくで外で遊ぶのをどう抑制すればいいのか分からなかったアデーラ。あでーれにとっては、レオシュとフベルトが字を読むことと、ルカーシュとイロナの音読に興味を持ったことは、助かった。
 毎朝外に遊びに行くレオシュとフベルトを見守るためにウッドデッキで作業をするアデーラも汗だくになってしまって、一緒にシャワーを浴びて身体を冷やしてから昼ご飯の準備に入らなければいけなくて、毎日大変だったのだ。
 ヘルミーナに感謝しながら、アデーラはキッチンに立つ。
 今日は簡単に麵を茹でて、お出汁の中に入れて、海老と茄子とサツマイモを揚げて、小柱と三つ葉のかき揚げも作って乗せると、天ぷらうどんが出来上がる。熱々のうどんをテーブルに持って行くと、レオシュとフベルトとルカーシュとイロナは、お手洗いと手を洗いに行っていた。戻って来たレオシュとフベルトにはお椀を出して取り分けてやって、ルカーシュとイロナには冷ましながら様子を見て食べさせる。
 ダーシャとヘドヴィカも店舗から戻って来ていた。

「海老天が乗ってるー! 豪華だわー!」
「これはエビフライとは違うのですか?」
「エビフライはパン粉で衣を作るけど、これは小麦粉を冷水で溶いて作った衣なんだ」
「海老がぷりぷりで美味しいです」

 ダーシャは海老の天ぷらにテンションを揚げて、ヘドヴィカは初めて見る天ぷらに目を丸くしている。

「ママ、おかわり!」
「かあちゃん、おかわり」

 お椀の中をお出汁まで全部飲んで空にしたレオシュとフベルトが、お椀を差し出してくる。レオシュにはアデーラが、フベルトにはヘルミーナがお代りを注いであげる。レオシュもフベルトも大人と変わらない量作っていた天ぷらうどんをほとんど食べてしまった。
 食べ終わるとお腹を摩って床に倒れているレオシュをアデーラが抱っこする。フベルトも食べ過ぎてひっくり返っていたのをヘルミーナに抱っこされている。
 もうお漏らしもほとんどしなくなっていたので、パンツのままで子ども部屋のベッドに寝かせると、レオシュもフベルトも健やかに眠っていた。
 夏が終わるまでレオシュもフベルトも、字を覚えるのと、ルカーシュとイロナの音読に夢中で、外で遊びたがることはほとんどなかった。
 涼しい日にはルカーシュもイロナも午前中の勉強を休みにしてレオシュとフベルトと外で遊ぶ。
 レオシュとフベルトは新しく作ってもらったお面を被って、腰に紐を巻いて木刀を下げて遊んでいる。

「きてくださったか、こいぬかめんどの」
「こねこかめんどの、このたびは、なにようじゃ? ……ねぇ、このたびって、なんだ?」
「今回は、今度は、みたいな意味かな」
「わかったー! ありがとう!」
「こいぬかめんどの、あやつが、あらわれたのだ!」
「なにぃ!? あ、あやつとは、もしや……?」
「もしや……んー? もしやって、なんだっけー?」
「もしかして、みたいな意味だよ」

 絵本で読んだままの台詞を口にしているので、相変わらずレオシュもフベルトもよく分からないところがたくさんある。それを疑問に思ったままでは遊びを続けられないので、アデーラにいちいち聞いてくるのが可愛い。
 ウッドデッキで縫物をしながらも、アデーラはレオシュとフベルトからかけられる全ての疑問に答えていた。

「びぎゃ! びょびょびょえ! ぎょわ!」
「びょい! びょわわ! びょえびょえ!」

 大根マンドラゴラのダイコンノスケと蕪マンドラゴラのカブコもレオシュとフベルトの足元で竹串を構えて会話をしている。

「あれ? 竹串?」

 いつマンドラゴラのために竹串をあげたのだろう。覚えがないことに首を傾げながら、アデーラはそれを見ていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

処理中です...