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魔女(男)とこねこ(虎)たん 2
72.夏の過ごし方
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真夏の暑い日でもレオシュとフベルトは外で遊びたがる。できるだけ午前中に遊ばせて、午後の暑さが厳しくなる時間には部屋の中で遊ばせるようにしているのだが、その日は特に暑かった。朝から日が焦げるように照っていて、とても外では遊べない。
レオシュとフベルトにそのことを説明しても、二人とも了承してくれない。
「こんな暑い中で遊んでたら熱中症になっちゃうよ」
「れー、つよいもん! へーき!」
「ふーも、へーき!」
「ねっちゅーしょー、ならない……ねぇ、ねっちゅーしょーってなぁに?」
レオシュの問いかけにアデーラが声を低くする。
「レオシュとフベルトは賢いから分かると思う。茹でた卵は生卵に戻るかな?」
「もどらないよ!」
「ゆでたまご、おいしいね!」
話し出したアデーラにレオシュもフベルトも脱線しつつもしっかりと聞いてくれている。
「外の熱で頭に入っている脳味噌っていうものを考える大事な機関が、ゆで卵みたいに煮えちゃうんだ。ゆで卵になったら生卵には?」
「もどらないー!? れーのあたま、ゆでたまごになっちゃう!?」
「ふーのあたまも、ゆでたまごになっちゃうの!?」
「そうなりたくないよね? 酷い暑さの中で遊ぶのはとても危険なんだよ。今日はお部屋で遊ぼう」
アデーラが説明すると、レオシュとフベルトはなんとか納得してくれたようだった。テーブルについて勉強しているルカーシュの隣りにレオシュが座って、レオシュの隣りにフベルトが座る。
「ヘルミーナせんせー、れー、ほんがよめる?」
「レオシュ様は字を習いたいのですか?」
「ふーも、えほんがよみたい。じぶんでよめるようになる?」
「字を覚えれば読めるようになりますよ」
ヘルミーナに言われて、レオシュとフベルトは文字の教本を貸してもらっていた。ルカーシュもイロナもその教本は使っていないので、レオシュとフベルトに一冊ずつあって、顔を突き合わせて一緒に読んでいる。
「これは『あり』の『あ』」
「『いす』の『い』」
「『とり』の『と』かな?」
「レオシュ様、それは『うずら』の『う』です」
「とりじゃないの?」
「うずらという鳥がいるのです」
一つ一つ文字を覚えて行こうとするが、絵を見て文字を想像するので、ウズラの絵は『とり』に見えるし、尻尾である『お』の絵は『しっぽ』と読んでしまう。
それを一つ一つヘルミーナが訂正していた。
「にぃに、むずかしいほんよんでる」
「イロナねえちゃんもだ!」
「ルカーシュ様が音読しますので、聞いていてください」
「おんどくってなぁに?」
「声に出して読むことですよ」
「にぃに、ほんをれーによんでくれるんだね!」
レオシュに読んであげるわけではないが、そう勘違いしているのをヘルミーナもルカーシュも訂正しなかった。教科書の文章を読むルカーシュをレオシュとフベルトがじっと見つめている。絵本を読んでもらっているような気分なのだろう。
最近はレオシュもフベルトも、絵のない本を読んで聞くだけで想像できるようになっているから、ルカーシュの読む教科書の物語も充分に面白かったようだ。読み終わると手を叩いて喜んでいる。
「おもしろかった! にぃに、もういっかい!」
「このつづきはないのか?」
「次はイロナが読みます。静かに聞いていられますか?」
「れーのために、いーちゃんもよんでくれるの?」
「イロナねえちゃんは、ふーのためによんでくれるんだよ」
喧嘩になりそうな気配もあったが、イロナが読み始めるとレオシュもフベルトもすぐに音読に夢中になってしまう。同じ絵本を何回も読むのを子どもは好むので、同じ場所をルカーシュとイロナの二回聞いたところで、退屈などせずに楽しいだけだ。
「いーちゃん、じょうず!」
「すげーおもしろかった! つづきもききたい!」
「続きは明日読みますよ」
「ヘルミーナせんせー、れー、あしたも、じのれんしゅうをして、にぃにといーちゃんのおはなし、ききにきていい?」
「ふーも、ルカーシュくんとイロナねえちゃんのおはなし、ききたい」
意欲満々のレオシュとフベルトに、ヘルミーナが問いかける。
「国語の勉強は午前中になりますから、外で遊べなくてもいいですか?」
「そとであそべないのか……」
「でも、ふー、つづききになる」
「れーも、つづき、ききたい」
「そとであそべないの、がまんするか」
「ゆでたまごになっちゃうもんね」
夏の間レオシュとフベルトが汗だくで外で遊ぶのをどう抑制すればいいのか分からなかったアデーラ。あでーれにとっては、レオシュとフベルトが字を読むことと、ルカーシュとイロナの音読に興味を持ったことは、助かった。
毎朝外に遊びに行くレオシュとフベルトを見守るためにウッドデッキで作業をするアデーラも汗だくになってしまって、一緒にシャワーを浴びて身体を冷やしてから昼ご飯の準備に入らなければいけなくて、毎日大変だったのだ。
ヘルミーナに感謝しながら、アデーラはキッチンに立つ。
今日は簡単に麵を茹でて、お出汁の中に入れて、海老と茄子とサツマイモを揚げて、小柱と三つ葉のかき揚げも作って乗せると、天ぷらうどんが出来上がる。熱々のうどんをテーブルに持って行くと、レオシュとフベルトとルカーシュとイロナは、お手洗いと手を洗いに行っていた。戻って来たレオシュとフベルトにはお椀を出して取り分けてやって、ルカーシュとイロナには冷ましながら様子を見て食べさせる。
ダーシャとヘドヴィカも店舗から戻って来ていた。
「海老天が乗ってるー! 豪華だわー!」
「これはエビフライとは違うのですか?」
「エビフライはパン粉で衣を作るけど、これは小麦粉を冷水で溶いて作った衣なんだ」
「海老がぷりぷりで美味しいです」
ダーシャは海老の天ぷらにテンションを揚げて、ヘドヴィカは初めて見る天ぷらに目を丸くしている。
「ママ、おかわり!」
「かあちゃん、おかわり」
お椀の中をお出汁まで全部飲んで空にしたレオシュとフベルトが、お椀を差し出してくる。レオシュにはアデーラが、フベルトにはヘルミーナがお代りを注いであげる。レオシュもフベルトも大人と変わらない量作っていた天ぷらうどんをほとんど食べてしまった。
食べ終わるとお腹を摩って床に倒れているレオシュをアデーラが抱っこする。フベルトも食べ過ぎてひっくり返っていたのをヘルミーナに抱っこされている。
もうお漏らしもほとんどしなくなっていたので、パンツのままで子ども部屋のベッドに寝かせると、レオシュもフベルトも健やかに眠っていた。
夏が終わるまでレオシュもフベルトも、字を覚えるのと、ルカーシュとイロナの音読に夢中で、外で遊びたがることはほとんどなかった。
涼しい日にはルカーシュもイロナも午前中の勉強を休みにしてレオシュとフベルトと外で遊ぶ。
レオシュとフベルトは新しく作ってもらったお面を被って、腰に紐を巻いて木刀を下げて遊んでいる。
「きてくださったか、こいぬかめんどの」
「こねこかめんどの、このたびは、なにようじゃ? ……ねぇ、このたびって、なんだ?」
「今回は、今度は、みたいな意味かな」
「わかったー! ありがとう!」
「こいぬかめんどの、あやつが、あらわれたのだ!」
「なにぃ!? あ、あやつとは、もしや……?」
「もしや……んー? もしやって、なんだっけー?」
「もしかして、みたいな意味だよ」
絵本で読んだままの台詞を口にしているので、相変わらずレオシュもフベルトもよく分からないところがたくさんある。それを疑問に思ったままでは遊びを続けられないので、アデーラにいちいち聞いてくるのが可愛い。
ウッドデッキで縫物をしながらも、アデーラはレオシュとフベルトからかけられる全ての疑問に答えていた。
「びぎゃ! びょびょびょえ! ぎょわ!」
「びょい! びょわわ! びょえびょえ!」
大根マンドラゴラのダイコンノスケと蕪マンドラゴラのカブコもレオシュとフベルトの足元で竹串を構えて会話をしている。
「あれ? 竹串?」
いつマンドラゴラのために竹串をあげたのだろう。覚えがないことに首を傾げながら、アデーラはそれを見ていた。
レオシュとフベルトにそのことを説明しても、二人とも了承してくれない。
「こんな暑い中で遊んでたら熱中症になっちゃうよ」
「れー、つよいもん! へーき!」
「ふーも、へーき!」
「ねっちゅーしょー、ならない……ねぇ、ねっちゅーしょーってなぁに?」
レオシュの問いかけにアデーラが声を低くする。
「レオシュとフベルトは賢いから分かると思う。茹でた卵は生卵に戻るかな?」
「もどらないよ!」
「ゆでたまご、おいしいね!」
話し出したアデーラにレオシュもフベルトも脱線しつつもしっかりと聞いてくれている。
「外の熱で頭に入っている脳味噌っていうものを考える大事な機関が、ゆで卵みたいに煮えちゃうんだ。ゆで卵になったら生卵には?」
「もどらないー!? れーのあたま、ゆでたまごになっちゃう!?」
「ふーのあたまも、ゆでたまごになっちゃうの!?」
「そうなりたくないよね? 酷い暑さの中で遊ぶのはとても危険なんだよ。今日はお部屋で遊ぼう」
アデーラが説明すると、レオシュとフベルトはなんとか納得してくれたようだった。テーブルについて勉強しているルカーシュの隣りにレオシュが座って、レオシュの隣りにフベルトが座る。
「ヘルミーナせんせー、れー、ほんがよめる?」
「レオシュ様は字を習いたいのですか?」
「ふーも、えほんがよみたい。じぶんでよめるようになる?」
「字を覚えれば読めるようになりますよ」
ヘルミーナに言われて、レオシュとフベルトは文字の教本を貸してもらっていた。ルカーシュもイロナもその教本は使っていないので、レオシュとフベルトに一冊ずつあって、顔を突き合わせて一緒に読んでいる。
「これは『あり』の『あ』」
「『いす』の『い』」
「『とり』の『と』かな?」
「レオシュ様、それは『うずら』の『う』です」
「とりじゃないの?」
「うずらという鳥がいるのです」
一つ一つ文字を覚えて行こうとするが、絵を見て文字を想像するので、ウズラの絵は『とり』に見えるし、尻尾である『お』の絵は『しっぽ』と読んでしまう。
それを一つ一つヘルミーナが訂正していた。
「にぃに、むずかしいほんよんでる」
「イロナねえちゃんもだ!」
「ルカーシュ様が音読しますので、聞いていてください」
「おんどくってなぁに?」
「声に出して読むことですよ」
「にぃに、ほんをれーによんでくれるんだね!」
レオシュに読んであげるわけではないが、そう勘違いしているのをヘルミーナもルカーシュも訂正しなかった。教科書の文章を読むルカーシュをレオシュとフベルトがじっと見つめている。絵本を読んでもらっているような気分なのだろう。
最近はレオシュもフベルトも、絵のない本を読んで聞くだけで想像できるようになっているから、ルカーシュの読む教科書の物語も充分に面白かったようだ。読み終わると手を叩いて喜んでいる。
「おもしろかった! にぃに、もういっかい!」
「このつづきはないのか?」
「次はイロナが読みます。静かに聞いていられますか?」
「れーのために、いーちゃんもよんでくれるの?」
「イロナねえちゃんは、ふーのためによんでくれるんだよ」
喧嘩になりそうな気配もあったが、イロナが読み始めるとレオシュもフベルトもすぐに音読に夢中になってしまう。同じ絵本を何回も読むのを子どもは好むので、同じ場所をルカーシュとイロナの二回聞いたところで、退屈などせずに楽しいだけだ。
「いーちゃん、じょうず!」
「すげーおもしろかった! つづきもききたい!」
「続きは明日読みますよ」
「ヘルミーナせんせー、れー、あしたも、じのれんしゅうをして、にぃにといーちゃんのおはなし、ききにきていい?」
「ふーも、ルカーシュくんとイロナねえちゃんのおはなし、ききたい」
意欲満々のレオシュとフベルトに、ヘルミーナが問いかける。
「国語の勉強は午前中になりますから、外で遊べなくてもいいですか?」
「そとであそべないのか……」
「でも、ふー、つづききになる」
「れーも、つづき、ききたい」
「そとであそべないの、がまんするか」
「ゆでたまごになっちゃうもんね」
夏の間レオシュとフベルトが汗だくで外で遊ぶのをどう抑制すればいいのか分からなかったアデーラ。あでーれにとっては、レオシュとフベルトが字を読むことと、ルカーシュとイロナの音読に興味を持ったことは、助かった。
毎朝外に遊びに行くレオシュとフベルトを見守るためにウッドデッキで作業をするアデーラも汗だくになってしまって、一緒にシャワーを浴びて身体を冷やしてから昼ご飯の準備に入らなければいけなくて、毎日大変だったのだ。
ヘルミーナに感謝しながら、アデーラはキッチンに立つ。
今日は簡単に麵を茹でて、お出汁の中に入れて、海老と茄子とサツマイモを揚げて、小柱と三つ葉のかき揚げも作って乗せると、天ぷらうどんが出来上がる。熱々のうどんをテーブルに持って行くと、レオシュとフベルトとルカーシュとイロナは、お手洗いと手を洗いに行っていた。戻って来たレオシュとフベルトにはお椀を出して取り分けてやって、ルカーシュとイロナには冷ましながら様子を見て食べさせる。
ダーシャとヘドヴィカも店舗から戻って来ていた。
「海老天が乗ってるー! 豪華だわー!」
「これはエビフライとは違うのですか?」
「エビフライはパン粉で衣を作るけど、これは小麦粉を冷水で溶いて作った衣なんだ」
「海老がぷりぷりで美味しいです」
ダーシャは海老の天ぷらにテンションを揚げて、ヘドヴィカは初めて見る天ぷらに目を丸くしている。
「ママ、おかわり!」
「かあちゃん、おかわり」
お椀の中をお出汁まで全部飲んで空にしたレオシュとフベルトが、お椀を差し出してくる。レオシュにはアデーラが、フベルトにはヘルミーナがお代りを注いであげる。レオシュもフベルトも大人と変わらない量作っていた天ぷらうどんをほとんど食べてしまった。
食べ終わるとお腹を摩って床に倒れているレオシュをアデーラが抱っこする。フベルトも食べ過ぎてひっくり返っていたのをヘルミーナに抱っこされている。
もうお漏らしもほとんどしなくなっていたので、パンツのままで子ども部屋のベッドに寝かせると、レオシュもフベルトも健やかに眠っていた。
夏が終わるまでレオシュもフベルトも、字を覚えるのと、ルカーシュとイロナの音読に夢中で、外で遊びたがることはほとんどなかった。
涼しい日にはルカーシュもイロナも午前中の勉強を休みにしてレオシュとフベルトと外で遊ぶ。
レオシュとフベルトは新しく作ってもらったお面を被って、腰に紐を巻いて木刀を下げて遊んでいる。
「きてくださったか、こいぬかめんどの」
「こねこかめんどの、このたびは、なにようじゃ? ……ねぇ、このたびって、なんだ?」
「今回は、今度は、みたいな意味かな」
「わかったー! ありがとう!」
「こいぬかめんどの、あやつが、あらわれたのだ!」
「なにぃ!? あ、あやつとは、もしや……?」
「もしや……んー? もしやって、なんだっけー?」
「もしかして、みたいな意味だよ」
絵本で読んだままの台詞を口にしているので、相変わらずレオシュもフベルトもよく分からないところがたくさんある。それを疑問に思ったままでは遊びを続けられないので、アデーラにいちいち聞いてくるのが可愛い。
ウッドデッキで縫物をしながらも、アデーラはレオシュとフベルトからかけられる全ての疑問に答えていた。
「びぎゃ! びょびょびょえ! ぎょわ!」
「びょい! びょわわ! びょえびょえ!」
大根マンドラゴラのダイコンノスケと蕪マンドラゴラのカブコもレオシュとフベルトの足元で竹串を構えて会話をしている。
「あれ? 竹串?」
いつマンドラゴラのために竹串をあげたのだろう。覚えがないことに首を傾げながら、アデーラはそれを見ていた。
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