魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

文字の大きさ
上 下
65 / 183
魔女(男)とこねこ(虎)たん 2

63.国立図書館にて

しおりを挟む
 国立図書館の入口でヘルミーナはペツィナ子爵からもらった証明書を出して、アデーラとダーシャは国王陛下が手配した身分証明書を提示して、無事に入館証を作ってもらうことができた。ヘドヴィカとイロナとフベルトも入館証を作ってもらえたし、レオシュとルカーシュも当然入館証を手に入れた。
 ルカーシュはイロナとヘルミーナとダーシャと一緒に星座の本が並べられた棚のところに行っている。レオシュとフベルトは国立図書館という場所に興奮はしていたが、ここをどう使っていいのかまだ理解できていないようだった。
 三階建ての広い国立図書館は開架として棚に並べてある本と、閉架として奥の倉庫に入れられている本がある。閉架図書を閲覧するためには、カウンターで手続きをして出してもらわなければいけなかった。
 初めて国立図書館に来たので、ルカーシュもイロナもヘルミーナも、並べられている本はまだ見たことのないものばかりだった。初めは開架図書の閲覧だけでよさそうだ。
 高くそびえ立つ本棚を見上げて、レオシュとフベルトは立ち尽くしている。

「ほんがいっぱい!」
「すげー!」
「れー、ほん、よみたい」
「ふーも、よみたい!」

 読みたいと言ってはいるが、レオシュとフベルトの年齢に合う本は国立図書館にはないかもしれない。心配していると、レオシュとフベルトが話し合っている。

「れー、おはな、そだてたい」
「おにわにおはながさいてると、いいよな」
「れー、おはなそだてて、ママにあげたい」
「ふーも、ママにあげたい」

 方向性は決まったようなので、アデーラはレオシュとフベルトを連れて草花の図鑑のある場所に行った。草花の図鑑を眺めているレオシュとフベルトの目が、一点に集中する。

「ママー、これなぁに?」
「ダイコンとニンジンとカブに、てあしがはえてる!」
「おめめもおくちもあるよ」

 アデーラが手に取ったのはどうやら魔法植物の図鑑だったようだ。どの図鑑も子ども用ではないので説明が難しく、どれでもあまり変わりがないだろうと適当に手に取ったのがいけなかったかもしれない。

「これは、マンドラゴラって書いてあるね」
「マンドラゴラ! れー、マンドラゴラ、ほしい!」
「ふーも、マンドラゴラ、ほしい!」

 すっかりとレオシュとフベルトはマンドラゴラに夢中になってしまったようだ。説明を読んでいくと、貴族の中ではマンドラゴラを飼うのが流行っていた時期があって、今でもマンドラゴラの品評会が行われていて、マンドラゴラを買うことができると書いてある。

「飼うとしたら、マンドラゴラに何を食べさせればいいんだろう?」
「ママ、マンドラゴラのごはん、なぁに?」
「なにをたべるの?」

 興味津々のレオシュとフベルトのために、アデーラはマンドラゴラの専門書を広げた。絵が描かれていなくて、びっしりと文字だけ書かれているので、レオシュとフベルトはつまらないのか、アデーラの足元で座り込んで遊んでいる。
 二人とも自分のそばにいることを確認して、アデーラは専門書を読み進める。

「薬草を調合した栄養剤……ダーシャなら作れそうだな」
「だー……じゃない、だーおかあさん、つくれるの?」
「作れるんじゃないかな」

 アデーラが答えた瞬間、レオシュとフベルトが立ち上がった。ものすごい勢いで走り出すレオシュとフベルトを、専門書を棚に返していたアデーラは捕まえることができなかった。

「だーおかあさーん!」
「だーさぁん!」

 ダーシャを探しに行ったのだろうが、国立図書館はとても広い。本棚も背が高く入り組んでいて、すぐにレオシュとフベルトの姿は見えなくなってしまう。

「レオシュ? フベルトくん? どこー?」

 探しながら呼ぶアデーラに、図書館で本を閲覧しているひとたちの視線が刺さる。図書館では静かに本を閲覧しなければいけないという決まりがあるようだ。
 4歳の二人がどこに行ってしまったか、見付けることができずに途方に暮れるアデーラに、泣き声が聞こえてくる。

「ふえええええん! ママー!」
「ぶええええええ! かーちゃーん! あーさん!」

 迷ったことにレオシュとフベルトも気付いたようだ。声を頼りに近寄ると、泣いておしっこを漏らしている二人が見付かった。幸い床にまで漏れていなかったので、お手洗いに連れて行って着替えさせる。

「目を離した私が悪かったけど、二人だけで私のそばを離れちゃいけないよ」
「ママ、まいごになったね」
「え? 私が迷子になったの?」
「れー、ママをさがしてあげてたんだよ?」

 泣き止んで着替えも済ませるとレオシュは気分が大きくなったようで、自分が迷子になったとは認めなかった。

「レオシュが迷子になったんだよ?」
「ちがうよ、ママがまいごだったの」

 どうしても認めないレオシュにアデーラはため息を吐く。

「あーさん、ごめんなさい」
「フベルトくんも気を付けてね」
「はい」

 フベルトの方は素直に謝って反省している。
 星座の本を見終わったルカーシュとイロナとヘルミーナとダーシャに合流すると、レオシュはルカーシュに言っていた。

「ママったら、まいごになっちゃったんだよ」
「え!? アデーラお母さんがまいごになったの? レオシュじゃなくて」
「そうだよ。れーがさがしてあげたの」

 いつの間にかそういう話になっているが、そうではないとアデーラは声を大にして言いたかった。言ったところでレオシュが意見を変えることはないかもしれないが。

「ほんとうは、ふーとれーくんがまいごだったんだよ」

 こっそりとフベルトがルカーシュとイロナに耳打ちしている。

「そうだと思った」
「フベルト、ダメでしょ?」
「うん、もうしない」

 レオシュよりもフベルトの方が素直なのだとアデーラは思わずにはいられなかった。
 レオシュはダーシャに話しかけている。

「だーおかあさん、マンドラゴラのごはん、つくってほしいんだ」
「マンドラゴラ? どういうこと?」

 唐突なレオシュの言葉に混乱しているダーシャにアデーラが説明をする。

「レオシュとフベルトくんはマンドラゴラを飼いたいって言ってるんだ。調べたら、王都でも品評会があるみたいで、買えそうなんだ」
「マンドラゴラ? アデーラお母さん、マンドラゴラってなに?」

 ルカーシュに問いかけられて、アデーラは説明に困る。マンドラゴラと言えば魔法植物で、魔法薬の材料となるものなのだが、それをレオシュとフベルトは飼いたいと思っている。

「マンドラゴラは、魔法薬の材料になる魔法植物よ。上手に育てると、動いたり、歩いたりして飼えるらしいけど、品評会で売られているのは、どうせ、生きてないマンドラゴラじゃないの?」

 ダーシャの言うことももっともだった。生きて動くマンドラゴラなど、アデーラも見たことがない。買えるだけのマンドラゴラが品評会に出されるかどうかは分からない。

「マンドラゴラ、ほしい! ダイコンさん、かうのー!」
「カブさん、かうー!」

 レオシュとフベルトが一生懸命主張しているのに、アデーラとダーシャは視線で会話をする。これだけレオシュとフベルトが欲しがっていても、目的のものが必ず手に入るとは限らない。

「次の品評会の日程はいつ?」
「そこから調べないといけないね」

 それでも結局ダーシャもアデーラもレオシュとフベルトに甘かった。
 品評会の日程を調べようとしたら、国立図書館の入口の掲示板に張り紙がしてあった。

「冬の魔法植物大品評会……一年に一度の魔法植物の祭典……」
「これ、来週じゃない!」

 来週に迫る魔法植物大品評会。
 その会場は王都の外れにある。

「その日までに魔法植物の勉強をしましょう」

 ヘルミーナも乗り気で、ルカーシュとイロナも期待する目でアデーラとダーシャを見ている。
 魔法植物大品評会に、アデーラもダーシャも行かなければいけなくなりそうだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

処理中です...