魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

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魔女(男)とこねこ(虎)たん 2

63.国立図書館にて

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 国立図書館の入口でヘルミーナはペツィナ子爵からもらった証明書を出して、アデーラとダーシャは国王陛下が手配した身分証明書を提示して、無事に入館証を作ってもらうことができた。ヘドヴィカとイロナとフベルトも入館証を作ってもらえたし、レオシュとルカーシュも当然入館証を手に入れた。
 ルカーシュはイロナとヘルミーナとダーシャと一緒に星座の本が並べられた棚のところに行っている。レオシュとフベルトは国立図書館という場所に興奮はしていたが、ここをどう使っていいのかまだ理解できていないようだった。
 三階建ての広い国立図書館は開架として棚に並べてある本と、閉架として奥の倉庫に入れられている本がある。閉架図書を閲覧するためには、カウンターで手続きをして出してもらわなければいけなかった。
 初めて国立図書館に来たので、ルカーシュもイロナもヘルミーナも、並べられている本はまだ見たことのないものばかりだった。初めは開架図書の閲覧だけでよさそうだ。
 高くそびえ立つ本棚を見上げて、レオシュとフベルトは立ち尽くしている。

「ほんがいっぱい!」
「すげー!」
「れー、ほん、よみたい」
「ふーも、よみたい!」

 読みたいと言ってはいるが、レオシュとフベルトの年齢に合う本は国立図書館にはないかもしれない。心配していると、レオシュとフベルトが話し合っている。

「れー、おはな、そだてたい」
「おにわにおはながさいてると、いいよな」
「れー、おはなそだてて、ママにあげたい」
「ふーも、ママにあげたい」

 方向性は決まったようなので、アデーラはレオシュとフベルトを連れて草花の図鑑のある場所に行った。草花の図鑑を眺めているレオシュとフベルトの目が、一点に集中する。

「ママー、これなぁに?」
「ダイコンとニンジンとカブに、てあしがはえてる!」
「おめめもおくちもあるよ」

 アデーラが手に取ったのはどうやら魔法植物の図鑑だったようだ。どの図鑑も子ども用ではないので説明が難しく、どれでもあまり変わりがないだろうと適当に手に取ったのがいけなかったかもしれない。

「これは、マンドラゴラって書いてあるね」
「マンドラゴラ! れー、マンドラゴラ、ほしい!」
「ふーも、マンドラゴラ、ほしい!」

 すっかりとレオシュとフベルトはマンドラゴラに夢中になってしまったようだ。説明を読んでいくと、貴族の中ではマンドラゴラを飼うのが流行っていた時期があって、今でもマンドラゴラの品評会が行われていて、マンドラゴラを買うことができると書いてある。

「飼うとしたら、マンドラゴラに何を食べさせればいいんだろう?」
「ママ、マンドラゴラのごはん、なぁに?」
「なにをたべるの?」

 興味津々のレオシュとフベルトのために、アデーラはマンドラゴラの専門書を広げた。絵が描かれていなくて、びっしりと文字だけ書かれているので、レオシュとフベルトはつまらないのか、アデーラの足元で座り込んで遊んでいる。
 二人とも自分のそばにいることを確認して、アデーラは専門書を読み進める。

「薬草を調合した栄養剤……ダーシャなら作れそうだな」
「だー……じゃない、だーおかあさん、つくれるの?」
「作れるんじゃないかな」

 アデーラが答えた瞬間、レオシュとフベルトが立ち上がった。ものすごい勢いで走り出すレオシュとフベルトを、専門書を棚に返していたアデーラは捕まえることができなかった。

「だーおかあさーん!」
「だーさぁん!」

 ダーシャを探しに行ったのだろうが、国立図書館はとても広い。本棚も背が高く入り組んでいて、すぐにレオシュとフベルトの姿は見えなくなってしまう。

「レオシュ? フベルトくん? どこー?」

 探しながら呼ぶアデーラに、図書館で本を閲覧しているひとたちの視線が刺さる。図書館では静かに本を閲覧しなければいけないという決まりがあるようだ。
 4歳の二人がどこに行ってしまったか、見付けることができずに途方に暮れるアデーラに、泣き声が聞こえてくる。

「ふえええええん! ママー!」
「ぶええええええ! かーちゃーん! あーさん!」

 迷ったことにレオシュとフベルトも気付いたようだ。声を頼りに近寄ると、泣いておしっこを漏らしている二人が見付かった。幸い床にまで漏れていなかったので、お手洗いに連れて行って着替えさせる。

「目を離した私が悪かったけど、二人だけで私のそばを離れちゃいけないよ」
「ママ、まいごになったね」
「え? 私が迷子になったの?」
「れー、ママをさがしてあげてたんだよ?」

 泣き止んで着替えも済ませるとレオシュは気分が大きくなったようで、自分が迷子になったとは認めなかった。

「レオシュが迷子になったんだよ?」
「ちがうよ、ママがまいごだったの」

 どうしても認めないレオシュにアデーラはため息を吐く。

「あーさん、ごめんなさい」
「フベルトくんも気を付けてね」
「はい」

 フベルトの方は素直に謝って反省している。
 星座の本を見終わったルカーシュとイロナとヘルミーナとダーシャに合流すると、レオシュはルカーシュに言っていた。

「ママったら、まいごになっちゃったんだよ」
「え!? アデーラお母さんがまいごになったの? レオシュじゃなくて」
「そうだよ。れーがさがしてあげたの」

 いつの間にかそういう話になっているが、そうではないとアデーラは声を大にして言いたかった。言ったところでレオシュが意見を変えることはないかもしれないが。

「ほんとうは、ふーとれーくんがまいごだったんだよ」

 こっそりとフベルトがルカーシュとイロナに耳打ちしている。

「そうだと思った」
「フベルト、ダメでしょ?」
「うん、もうしない」

 レオシュよりもフベルトの方が素直なのだとアデーラは思わずにはいられなかった。
 レオシュはダーシャに話しかけている。

「だーおかあさん、マンドラゴラのごはん、つくってほしいんだ」
「マンドラゴラ? どういうこと?」

 唐突なレオシュの言葉に混乱しているダーシャにアデーラが説明をする。

「レオシュとフベルトくんはマンドラゴラを飼いたいって言ってるんだ。調べたら、王都でも品評会があるみたいで、買えそうなんだ」
「マンドラゴラ? アデーラお母さん、マンドラゴラってなに?」

 ルカーシュに問いかけられて、アデーラは説明に困る。マンドラゴラと言えば魔法植物で、魔法薬の材料となるものなのだが、それをレオシュとフベルトは飼いたいと思っている。

「マンドラゴラは、魔法薬の材料になる魔法植物よ。上手に育てると、動いたり、歩いたりして飼えるらしいけど、品評会で売られているのは、どうせ、生きてないマンドラゴラじゃないの?」

 ダーシャの言うことももっともだった。生きて動くマンドラゴラなど、アデーラも見たことがない。買えるだけのマンドラゴラが品評会に出されるかどうかは分からない。

「マンドラゴラ、ほしい! ダイコンさん、かうのー!」
「カブさん、かうー!」

 レオシュとフベルトが一生懸命主張しているのに、アデーラとダーシャは視線で会話をする。これだけレオシュとフベルトが欲しがっていても、目的のものが必ず手に入るとは限らない。

「次の品評会の日程はいつ?」
「そこから調べないといけないね」

 それでも結局ダーシャもアデーラもレオシュとフベルトに甘かった。
 品評会の日程を調べようとしたら、国立図書館の入口の掲示板に張り紙がしてあった。

「冬の魔法植物大品評会……一年に一度の魔法植物の祭典……」
「これ、来週じゃない!」

 来週に迫る魔法植物大品評会。
 その会場は王都の外れにある。

「その日までに魔法植物の勉強をしましょう」

 ヘルミーナも乗り気で、ルカーシュとイロナも期待する目でアデーラとダーシャを見ている。
 魔法植物大品評会に、アデーラもダーシャも行かなければいけなくなりそうだった。
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