魔女(男)さんとこねこ(虎)たんの日々。

秋月真鳥

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魔女(男)とこねこ(虎)たん

50.ルカーシュの一人部屋

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 子ども部屋には道具を入れる棚がある。その一段がルカーシュの道具入れで、もう一段がレオシュの道具入れになっている。
 ルカーシュの道具入れにはこれまでも雪の結晶の記録や鉛筆や色鉛筆やクレヨンなど大量に物が入っていたが、ヘルミーナの授業を受けるようになってから、筆箱とノートと教本も増えてしまった。
 レオシュの道具入れは使い終わったクレヨンが適当に投げ入れられていて、クレヨンの中身がはみ出ていたり、転がったりしていたりするし、お絵描きをした画用紙もとりあえず押し込んだ形になっている。
 整頓しているのにルカーシュの道具入れがあふれ出しそうになっているのを確認して、アデーラはダーシャに相談した。

「そろそろルカーシュに自分の部屋をあげてもいいんじゃないかな?」
「そうね。もう7歳になるのだし、一人の部屋が欲しい頃かもしれないわ」

 アデーラとダーシャがルカーシュを呼ぶと、ルカーシュは不思議そうについてくる。ダーシャの寝室の隣りの部屋が、ルカーシュが一人部屋を持つことになったら使ってもらおうと考えていた場所だった。
 家具にかけられている布を外して、埃も払ってしまうと、アデーラの手作りのレースのカーテンと青い厚地のカーテンを窓にかけて、ベッドには布団を敷いて、布団カバーとベッドカバーをかける。
 準備が整ったルカーシュの部屋には、勉強用の机も椅子もあって、クローゼットも棚もあった。

「ルカーシュは今日からこの部屋を自由に使っていいよ」
「ぼくのへや?」
「そうよ。一人で眠るのが寂しかったら、夜は私の部屋に来てもいいわ」
「一人で過ごしたくなかったら、子ども部屋で遊んで構わないよ。ルカーシュが集中して一人で何かをしたいときには、この部屋に来ればいい」

 アデーラとダーシャの言葉に、ルカーシュは部屋の中を見て回っている。大きくなっても使えるように広いベッドがあって、机もしっかりとしたもので、椅子は高さを調節できる。カーテンも布団カバーも枕カバーもベッドカバーもアデーラの手作りで、青い刺繍が入っていた。
 カーテンを開けると、ベランダに出ることができる。ベランダにはルカーシュの身長より高い柵があって、屋根はなかった。

「ここに、けいりょうカップをおいてもいい?」
「いいよ」
「イロナちゃんを、へやによんでもいい?」
「もちろん」

 したいことを口に出して肯定されて行くたびにルカーシュの表情が輝いてくる。新しい部屋はルカーシュの気に入ったようだった。

「ダーシャおかあさんのことはだいすきなんだけど、そろそろ、ひとりでねむりたいとおもってたんだ」
「寂しくなるんじゃない?」
「さびしくなったら、いってもいいんでしょう?」
「いいわよ。いつでもおいで」

 ルカーシュもダーシャと寝る時期を卒業する年齢になったようだった。
 階段を降りて来ると、部屋で遊んでいたイロナとフベルトとレオシュが興味津々でルカーシュに近付いてくる。ルカーシュだけが呼ばれたことを気にしていたのだ。

「にぃに、なんだったの?」
「アデーラおかあさんと、ダーシャおかあさんが、ぼくにへやをくれたんだ」
「ルカーシュくんのおへや?」
「そうだよ」
「いいなぁ、みたいなぁ」
「みたいねー!」

 羨ましそうにしているフベルトとレオシュに、ルカーシュが誘う。

「いまから、おどうぐばこのなかみをうつすから、それがおわったら、ぼくのへやをみにきてよ」
「にぃに、いくね」
「たのしみ!」
「わたしもいいの?」
「イロナちゃんもきて」

 道具入れの中のものを一度腰のポーチに入れてから、ルカーシュは自分の部屋に運んで行く。ルカーシュの置きたい場所があるだろうから、アデーラもダーシャも手を出すことはなかった。
 準備ができると、ルカーシュが自分の部屋にイロナとフベルトとレオシュを招く。

「みんな、きてー!」

 大喜びで階段を駆け上がっていくイロナとフベルトとレオシュ。自分の部屋を見せるルカーシュを、見せてもらっているイロナとフベルトとレオシュの様子をアデーラはゆっくりと見守っていた。

「ぼくのつくえだよ。こっちは、ぼくのベッド」
「にぃに、いいなー。れーもおへや、ほしい」
「レオシュ、じぶんのおへやをもらったら、ひとりでねるんだよ」
「え!? まっまとねられないの? れー、いらない!」

 一人部屋を羨ましがって欲しがっているレオシュだが、ルカーシュに一人で眠ることを伝えられると、一瞬で手の平を返していらないと言っていた。
 ダーシャの部屋に置いていたルカーシュの服も全部ルカーシュの部屋のクローゼットに片付ける。畳み直してクローゼットに入れていくアデーラを、ルカーシュもイロナもフベルトもレオシュもじっと見つめていた。

「ほんとうに、ルカーシュくんのおへやなのね」
「イロナちゃん、あそびにきていいからね」
「うん、あそびにくるわ」
「アデーラおかあさん、イロナちゃんのぶんも、イスがほしいんだけど」

 お願いされてアデーラは服をクローゼットに収納し終えてから、椅子をもう一脚ルカーシュの部屋に運んだ。
 ルカーシュとイロナは椅子に座って文字の書き取りを始めて、興味を失ったレオシュとフベルトは階段を降りて子ども部屋に戻っていく。

「れー、まっまとねんねするんだもん」
「ふーも、まっまとねないと、さびしい」
「れー、まっまがいないと、ねんねできないもん」

 一人部屋をもらうためには一人で寝なければいけない。ルカーシュにそう言われたのがずっと心に引っかかっていたのだろう。レオシュはそのことを繰り返して言っていた。

「こんにちは、レオシュ、フベルトくん。ルカーシュとイロナちゃんは?」
「いらっしゃい、おじさん。いーねぇねと、るーくんはおへやだよ」
「お部屋?」
「るーくん、じぶんのおへやをもらったの」

 レオシュは時間があるときに訪ねて来て子育てに参加しようとする国王陛下に興味がないので無視しているが、フベルトは人懐っこく話しかけている。

「おじさん、ふー、うんち!」
「それは大変だ。急いでお手洗いに行こう」
「うん!」

 フベルトの手を引いてお手洗いに行った国王陛下は、フベルトのズボンとオムツを脱がせて、ちょっとオムツについているのに驚いてオムツを落としつつも、取り繕って何でもないようにフベルトを抱き上げて便座に座らせた。
 いきんで用を足すフベルトは出し終わると、当然のように国王陛下にお尻を向ける。

「いいうんちだったな。拭こう」

 その様子を隣りの棟からやって来たヘルミーナが見て、緑の目を見開いていた。

「きゃー!? 国王陛下になんてことをー!? フベルトー!?」
「まっま? おじさん、れーくんのぱっぱだよ? ふーにしてくれるの」
「おじさん……!? 国王陛下を、あなた、『おじさん』と言った!?」

 卒倒しそうになっているヘルミーナに、国王陛下がフベルトのお尻を拭いた手を洗って、新しいオムツを出してはかせながら言う。

「フベルトくんはレオシュの親友なんだ。私にとっては、大事な我が子と同じようなもの。それに、ルカーシュにもフベルトくんに練習をさせてもらって、レオシュと和解しろと言われている。お気になさらずに」
「き、気にします! ものすごく気にします! フベルト、この方はね……」
「いいのだ。私はレオシュの父親として認識されているだけで幸せだ。どうか、このままで。お願いだ、ヘルミーナ殿」
「ひぃ!? 頭を下げないでください!?」

 オムツを替えてもらってズボンもはかせてもらったフベルトは、当然のように国王陛下の膝の上に座って絵本を手にする。

「おじさん、これ、よみたい」
「分かった。読もう」

 警戒しているレオシュも国王陛下が絵本を読み出すと、我慢ができなくなったようだ。じりじりとにじり寄って、絵本がぎりぎり見える角度まで近寄って、絵本の内容を聞いている。
 アデーラが保護したときからレオシュが一番好きなのは、絵本を読んでもらうことだった。これで少しは国王陛下との距離も縮まるのではないだろうか。
 アデーラはレオシュの変化に気付いていた。
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