潔癖王子の唯一無二

秋月真鳥

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潔癖王子編

9.両想いの夜

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 可憐な少女は、本当は男性でアルファで、ヨウシアという名前だった。
 愛しいヨウシア、可愛いヨウシア、私のヨウシア。
 ようやく呼べるようになった名前を繰り返すと、泣き腫らした顔で目を伏せて笑う。寂し気で怯えていた最初の頃よりも、ずっと幸福そうなヨウシアの姿に、アレクサンテリも胸がいっぱいになる。
 両想いになって同じ部屋で暮らすようになったヨウシアとアレクサンテリの間に、何も阻む壁はなくなった。そのはずだったのに、母親である女王からはきつく言われてしまった。

「ヨウシア殿はまだ15歳なのですよ。結婚は許しますが、節度を持って接しなさい。今日とて、腰が抜けて動けぬようではないですか」
「私が運ぶから構わぬのだ」
「それに、あんなにも細い体で。食事も碌にとっていなかったと聞くではありませんか。健康状態も良くなるまではヨウシア殿に触れないように」

 遠回りをして、真摯に部屋に通って口説いて、ようやく手に入れたのに、触れてはならないと言われてしまう。あまりの理不尽さにも腹が立ったが、それ以上に母親であろうともヨウシアを気軽に名前で呼ぶのが許せなかった。

「ヨウシアの名前を呼んで良いのは私だけだ」

 何度聞いても教えてくれなかった名前。
 アレクサンテリは一国の王子で、整った容貌と筋骨隆々とした身体を持っているから、アルファだと思われていたのだろう。アルファ同士、男同士では子どもができないことを気にして、ヨウシアはアレクサンテリを拒み、素性が分からないように名前も教えてくれなかった。
 素性が分かって自分が男性でアルファだと知れれば、二度とアレクサンテリは部屋に来てくれない。そんな寂しさには耐えられないが、結婚を了承することはできない。相当苦悩させてしまった自覚はある。
 その分だけ、アレクサンテリにとってヨウシアの名前は特別なものだった。

「お兄様ったら、そんなに嫉妬深くて、ヨウシア様に嫌われてしまうのではないの?」
「ヨウシアは私を嫌ったりせぬ。そなたもヨウシアを気軽に名前で呼ぶでない」
「困ったお兄様ね。それで王位を継げるのかしら」

 6歳年下の妹は、今年18歳で成人する。悪戯に笑う顔が自分に似ているような気がして、できればヨウシアは部屋に閉じ込めて妹には会わせたくないとアレクサンテリは思ってしまう。
 嫉妬深いと言わば言え。
 運命の番で婚約しているとはいえ、少しでもヨウシアの視線が他人に向くのが、アレクサンテリには許せなかった。

「潔癖症で、異国の要人と握手をするたびに手袋を替えているようなお兄様が、本当に国王になれるとは思えないわ」
「そうだな。そなたの言う通り、国王という地位に、私はなりたいとも思っておらぬ」

 国王になればその妃という立場で、ヨウシアを公の場所に出さなければいけない場合もある。妹にすら見せたくないヨウシアを、どうして他人に見せなければいけないのか。
 それくらいならば、王位は退いて、どこか静かな領地の領主となって、ヨウシアと二人で穏やかに暮らしたい。
 正直な願いを言えば、女王と大臣が頭を抱える。

「ようやく結婚して王位も継げるようになるのに」
「どうして、あなたはそんなにも勝手なのですか」

 呆れ果てた二人をとりなしたのは妹の王女だった。

「わたくしが成人して結婚して王位を継ぎます。そもそも、潔癖症のお兄様に王位は無理だったのですわ」
「そうしてもらえると助かるな。さすが、私をよく分かっている」

 王女に感謝しつつも、アレクサンテリが考えるのはヨウシアのことばかりだった。さすがに15歳で結婚は早すぎるので、16歳の誕生日を迎えるまでは婚約という形でアレクサンテリとヨウシアは同じ部屋で暮らす。
 王位は妹の王女が継ぐということを聞いて、ヨウシアは狼狽えていたが、膝の上に抱き上げて宥めていると落ち着いてくる。

「私は国王になどなりたくなかったのだ。ヨウシアと二人でどこか平和で静かな場所で暮らそう」
「よろしかったのですか?」
「権力に執着があるなら、とっくの昔に、誰でもいいから結婚して、その相手を遠ざけて一人で国を治めておったわ」

 そうしなかったのは、アレクサンテリに国王という地位に対する執着がなかったからに違いなかった。国王よりも、自分が安らげる、愛する相手が欲しかった。
 膝の上のヨウシアの顎に手を添えて口付けると、とろんと瞼が落ちる。

「アレク様は、初めて会ったときから、甘くていい匂いがしました……オメガだったのですね」
「フェロモンは漏らしたつもりはないが……そなたは運命の番だから、私のフェロモンを感じ取ってくれていたのやも知れぬな」

 オメガの中でも特に発情期やフェロモンを操って、アルファに悟られず、狙いのアルファだけを誘惑する。自分はそんな特殊なオメガなのだと説明すると、ヨウシアが黒い目を丸くする。

女王様クィーンのようですね」
「オメガの女王か。クィーンオメガとでも言っておくか」

 どこからどう見てもアルファとしか思えない整った顔立ちや立派な体格も、オメガに間違われるヨウシアにとっては羨ましく、美しく映るらしい。
 見惚れられていると感じるとアレクサンテリの自尊心が満たされる。
 膝の上で食事を摂って、少しずつ肌艶も良くなってくるヨウシアと、アレクサンテリは初めの日以来身体は交わしていなかった。
 食事を終えてシャワーを浴びると、パジャマ姿のヨウシアに背中から抱き付かれる。

「やはり、満足できませんでしたか?」

 震える声で問いかけるヨウシアは、アレクサンテリの背中に顔を埋めていて、表情が見えない。じわりと背中が濡れた感触で、アレクサンテリはヨウシアが泣いているのに気付いた。
 初めのときに気絶するまで搾り取ってしまったことを、女王からも指摘されていたし、控えようと思ってはいたのだが、こんな可愛いことをされると理性が切れそうになる。

「僕が……初めてで、早かったから……」
「とても悦かったぞ。満足できなかったわけではない」
「でも、あの日以来、触れてくださらない……」

 自分から触れるなど恐れ多いとヨウシアは思っているのかもしれない。寝ている間に無意識に胸に触れて揉まれたり、首筋を吸われたりするたびに、良く自分でも理性が持ったものだとアレクサンテリは自分を褒めてやりたいくらいだった。
 それなのに、ヨウシアの方からこんな可愛いことを言う。
 目の前にいるのは肉食獣だと気付いていない小動物のヨウシアが、ふるふると震えながら、胸に手を回してそこを揉んだ瞬間、ぷつりとアレクサンテリの中で理性が切れた。

「そなたが、まだ幼いから、母から手を触れぬように言われておったのに!」
「あ、アレク様!? ひぁん!?」
「身体も弱いから、もっと良く食べて健康になるまで、必死で理性を持たせておったのに」
「あぁっ!?」
「煽るようなことをして!」

 軽々と抱き上げたヨウシアをベッドの上に軽く投げると、シーツの上で華奢な体が跳ねる。パジャマを剥がして、下着も脱がせて、全裸にしてしまうと、堪えきれないアレクサンテリのフェロモンが漏れ出したのか、ヨウシアが顔を真っ赤にして、膝を擦り合わせる。勃ち上がりかけた中心に舌を伸ばして、ぴちゃぴちゃと舐めながらパジャマを脱ぎ捨てると、ヨウシアの口から泣き声が上がった。

「もう、でるぅ!」
「中で出してもらわねば」
「やぁっ! ぼ、僕が、したい、です」

 腰に跨られて震えるヨウシアは泣きながらも、可愛いことを口にする。一度解放してアレクサンテリは尻をヨウシアに向けて、雌猫のように高く突き上げながら、身を捩ってヨウシアを振り返った。

「良いよ、おいで?」
「アレク様……あぁっ!」

 華奢な手がアレクサンテリの引き締まった腰を掴んで、後ろからじりじりとヨウシアの中心が入って来る。濡れて受け入れる体勢になっていた後孔は、きつくヨウシアを締め付けた。

「あっ! でるっ! でちゃうっ!」
「出して構わぬよ」

 必死に腰を揺すりながら、快感を求めているヨウシアが可愛くて、強く中を締めると、どくどくと白濁が吐き出された。

「やっぱり、早かった……ごめんなさい」

 泣き顔になりそうになったヨウシアをベッドの上に押し倒して、アレクサンテリは舌なめずりをする。
 これからが本当の夜の始まりだった。
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