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本編
27.鶏さんの行き先
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平等院鳳凰堂を拝観してから、カラオケボックスに行く前にお昼ご飯を食べようということになった。
近くのお蕎麦屋さんに入って、私と滝川さんは注文する。
「きつね蕎麦で」
「私は、たぬきにしようかな」
「狐と狸なんて化かし合いみたいですね」
くすくすと笑いながら、私はきつね蕎麦を、滝川さんはたぬき蕎麦を注文した。
運ばれてきた蕎麦に私は困惑した。
「たぬき蕎麦に、お揚げが乗っている!?」
「こっちのたぬき蕎麦はお揚げにあんかけなんですよ」
「嘘……!? たぬき蕎麦って言ったら、天かすとワカメのあれじゃないんですか?」
「ちょっと言ってることが分かりませんね」
私の地域のたぬき蕎麦は天かすとワカメとネギだけだが、この県のたぬき蕎麦はお揚げのあんかけなのだそうだ。
「お揚げが乗ってたらきつねじゃないですか!?」
「これがたぬきなんですってば」
「ちょっと理解できませんね」
やはり滝川さんと私は生まれ育った地域が全く違うのだと実感した。
きつね蕎麦は普通に甘辛く煮たお揚げが乗っていて、私はそれを美味しくいただいた。
食べ終わってお茶を飲んでいると、滝川さんが鳳凰になった鶏さんのことを話す。
「肩がちょっと涼しい気がします。軽い気も。ずっと乗ってたんですね」
「十歳の男の子が何も分からず滝川さんのところに来たんですもんね、心細くて離れたくなかったんでしょうね」
「それを意地悪してしまった。ちょっと罪悪感で寝込みそうです」
落ち込んでいる様子の滝川さんに、私は慰めるように言う。
「知らなかったんだからしょうがないですよ。鶏肉は安くて美味しいし、卵も食べないなんて無理だし……」
「そう、つらかった! やっと鶏肉と卵が食べられる!」
俯いていた顔を上げた滝川さんは、もう普段の滝川さんに戻っていた。
電車でホテルのある駅の近くまで行って、私と滝川さんはカラオケボックスに入る。二人だと告げると露骨に嫌な顔をされたが、気にしないことにする。
このカラオケボックスはパンデミックの影響で、一人カラオケは割引になるシステムのようだった。
「ワンドリンクオーダー制です。メニューはこちらです」
「私は烏龍茶を」
「私はアイスティーを」
烏龍茶を頼んだ私とアイスティーを頼んだ滝川さんは、指定された部屋にエレベーターで登って行く。
部屋に入ると、まず滝川さんが曲を入力する機械を操作して、劇団の曲を流す。
歌いはしないが、マスクをしたままお互いに口ずさんでいると、ドリンクを店員さんが持って来た。
「烏龍茶とアイスティーになります」
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取って、店員さんが出て行くのを確認すると、私はテーブルの上にタロットクロスを広げた。
私がタロットカードを混ぜている間に、滝川さんはアイスティーにシロップを入れてストローでかき混ぜている。
タロットカードが混ざったところで、私は七枚のカードをV字に並べるスプレッドを使ってみることにした。
過去、現在、近未来、アドバイス、周囲の状況、障害となっているもの、最終結果で見て行くホースシューというスプレッドだ。
一枚目のカードは太陽だった。
意味は、喜びだが、そうではないことは分かっている。
これは鳳凰になった鶏さんのカードだった。
『鶏は無事に行くべき場所に帰ったようね。とても喜んでいるみたいよ』と猫さんの声が聞こえてくる。
猫さんは変わらず私の膝の上に乗って丸くなっている。
「鶏さんは無事に行くべき場所に到達したようです」
「そうじゃないと、苦労した甲斐がないわ」
滝川さんの言葉に頷きながら、二枚目のカードを捲る。
二枚目のカードは、ワンドの十だった。
意味は、重圧。
自分が選んだ重荷で手いっぱいになることを示している。
『鶏はあれでも一応守護していたから、いなくなると、少し重荷を感じることが出て来るかもしれないわね』と猫さんが言っている。
「やっぱり、守護獣がいなくなると、滝川さんは大変になりそうですよ」
「そうなっても構いませんよ。十歳の子が両親に会えなくて泣いてるよりもマシです」
はっきりと言い切る滝川さんに、私は感激してしまう。
こんな滝川さんだからこそ、私も怖かったけれど一人旅をして鶏さんを助けに行こうと決めたのだ。
三枚目のカードは、ペンタクルの六。
意味は、関係性。
同じ趣味を持つ友人を表すこともある。
『同じ趣味を持つ友達と過ごしていれば、次の守護獣とすぐに出会えるわ。そんなに心配しなくて大丈夫よ』と猫さんが言っている。
「同じ趣味って私のこと?」
「千早さんがどうしました?」
「私といればすぐに次の守護獣さんとは会えるって猫さんは言ってます」
「そうか、それは安心しました」
それにしても、と滝川さんが続ける。
「次は中学生以上にしてもらえないかしら」
「十歳はあんまりでしたよね」
頷きながら、私はカードを捲った。
アドバイスのカードはペンタクルの九。
意味は、達成。
周囲からの引き立てによって成功することを表している。
『ひとからの援助は遠慮せずに受けるといいわ』と猫さんが言う。
「ひとからの援助……私の占いとか助言かな? それは遠慮せずに受け取ってくださいとのことです」
「分かりました。遠慮しませんよ」
「どんとこいです!」
次のカードをソードのペイジが出た。
意味は、警戒。
状況を見極め、慎重になるようにという暗示だ。
『ちょっと秘密にしなきゃいけないことがあるかもしれないけど、二人の間では話しても平気よ』と猫さんが言ってくれる。
「周囲には秘密にしなきゃいけないことが起きるみたいですね」
「千早さんには?」
「話しても大丈夫だそうです」
「よかった」
胸を撫で下ろす滝川さんに、次のカードを捲る。次は障害となっているものだ。
ペンタクルのクィーンが出た。
意味は、寛容。
困ったときに助け合える関係を意味することもある。
『助けてくれる相手……守護獣でちょっと苦労するかもしれないわね』との猫さんの言葉を滝川さんに伝えると頭を抱えられる。
「またかー! また何か変なのが来るのかー!」
「覚悟しておきましょうね」
「千早さん、また助けてくださいね!」
「はい、仲介します!」
滝川さんに言われて私は深く頷いた。
最後のカードは、戦車だった。
意味は、エネルギー。
私は意味よりもその絵柄に気を取られる。
戦車のカードの絵柄は馬だったのだ。
「次の守護獣は馬さん?」
「馬……馬肉って美味しいですよね?」
「あぁ!? もう食べる気満々だー!?」
私の叫びに、滝川さんはころころと笑っていた。
カラオケボックスから出て、滝川さんはきっちりと私をホテルまで送ってくれた。
晩ご飯を買うためにコンビニに寄るのも、同行してくれる。
「こっちのお漬物美味しいですね。コンビニのお漬物が美味しくて驚きました」
「明日は錦市場に行きますか? 美味しいものがいっぱいありますよ」
「錦市場! 憧れの! 交流小説でもキャラが行きましたよね」
明日までは私は滝川さんと観光することができる。
明後日には朝に公演を見て、そのまま新幹線に乗って帰らなければいけないが、明日はまだ自由時間だ。
鶏さんのことも思ったよりも早く解決したので、私は観光を楽しむことができた。
「ホテルまで送ってくださってありがとうございます」
「千早さんは変な奴に絡まれやすいですからね」
「そうかもしれません」
「ブラックな職場の組んでた先生も、変な奴に入れていいと思います」
同情的な滝川さんは、私を心配してくれてホテルの入口まできっちりと送ってくれた。手を振って滝川さんと別れて、私はホテルの部屋で電気ケトルでお湯を沸かす。
滝川さんのくれたマグカップにティーバッグを入れて、フレーバーティーを飲んで楽しむ。
ベッドの上でゆったりと寛いでいる猫さんに私は聞いてみたいことがあった。
「猫さんは、紅茶を飲んだり、何か食べたりしないのかな?」
まだタロットカードは浄化していなかったので、取り出して混ぜて一枚捲ると、カップのエースが出た。
意味は、愛する力。
『あなたが満たされていて、あなたの愛情があれば、それでいいのよ』と猫さんは言っている。
猫さんには二回助けられているし、見えなかった期間もずっと助けられていたのかもしれない。
「猫さん、ありがとう」
感謝を口にすると、猫さんが『いいのよ』と言った気がした。
晩ご飯のお弁当とお漬物を食べて、フレーバーティーを飲んで寛いでいると、滝川さんからメッセージが入った。
『今、通話大丈夫ですか?』
『いいですよ』
返事をすると、滝川さんから映像通話が入ってくる。
『千早さんだけに先にお伝えしますけど、増版が決まりました!』
「おめでとうございます!」
滝川さんがミステリーの賞を取って書籍化された本が、増版が決まったのだそうだ。
『売れ行きよくなくて、本屋ランキングにも全然載らないなって諦めてたら、ネットで小説を公開してからじわじわ伸びてたみたいで、増版決まりましたよ!』
「本当によかった! 鳳凰さんが残して行った効果かもしれませんね」
『お礼を言うのはなんか癪だけど、嬉しいわ、ありがとう!』
嬉しい知らせに私がにこにこしていると、戯れに触っていたタロットカードから一枚飛び出て来た。
それは、太陽で、意味は喜びなのだが、私は違うように見えてしまう。
「赤ん坊? 妊娠……?」
確か、太陽にはそんな意味もあった気がするのだ。
『千早さん、分かりますか?』
「どういうことでしょう?」
『私、生まれ変わりとか信じるタイプじゃないんですけど、伯父と伯母のところの亡くなった従兄の妹さんが妊娠したのが分かったって、連絡が来たんです』
ご両親の元にやっと帰れる。
それはそういう意味だったのかもしれない。
ご両親の孫としてもう一度生まれ直せるのならば、鳳凰になった鶏さんもきっと幸せだろう。
このことは私と滝川さんだけの秘密になった。
重版のことと生まれて来る赤ちゃんのこと。猫さんの言った通りになったのだ。
明日は錦市場に行って、明後日は観劇。
私の旅はまだまだ続く。
近くのお蕎麦屋さんに入って、私と滝川さんは注文する。
「きつね蕎麦で」
「私は、たぬきにしようかな」
「狐と狸なんて化かし合いみたいですね」
くすくすと笑いながら、私はきつね蕎麦を、滝川さんはたぬき蕎麦を注文した。
運ばれてきた蕎麦に私は困惑した。
「たぬき蕎麦に、お揚げが乗っている!?」
「こっちのたぬき蕎麦はお揚げにあんかけなんですよ」
「嘘……!? たぬき蕎麦って言ったら、天かすとワカメのあれじゃないんですか?」
「ちょっと言ってることが分かりませんね」
私の地域のたぬき蕎麦は天かすとワカメとネギだけだが、この県のたぬき蕎麦はお揚げのあんかけなのだそうだ。
「お揚げが乗ってたらきつねじゃないですか!?」
「これがたぬきなんですってば」
「ちょっと理解できませんね」
やはり滝川さんと私は生まれ育った地域が全く違うのだと実感した。
きつね蕎麦は普通に甘辛く煮たお揚げが乗っていて、私はそれを美味しくいただいた。
食べ終わってお茶を飲んでいると、滝川さんが鳳凰になった鶏さんのことを話す。
「肩がちょっと涼しい気がします。軽い気も。ずっと乗ってたんですね」
「十歳の男の子が何も分からず滝川さんのところに来たんですもんね、心細くて離れたくなかったんでしょうね」
「それを意地悪してしまった。ちょっと罪悪感で寝込みそうです」
落ち込んでいる様子の滝川さんに、私は慰めるように言う。
「知らなかったんだからしょうがないですよ。鶏肉は安くて美味しいし、卵も食べないなんて無理だし……」
「そう、つらかった! やっと鶏肉と卵が食べられる!」
俯いていた顔を上げた滝川さんは、もう普段の滝川さんに戻っていた。
電車でホテルのある駅の近くまで行って、私と滝川さんはカラオケボックスに入る。二人だと告げると露骨に嫌な顔をされたが、気にしないことにする。
このカラオケボックスはパンデミックの影響で、一人カラオケは割引になるシステムのようだった。
「ワンドリンクオーダー制です。メニューはこちらです」
「私は烏龍茶を」
「私はアイスティーを」
烏龍茶を頼んだ私とアイスティーを頼んだ滝川さんは、指定された部屋にエレベーターで登って行く。
部屋に入ると、まず滝川さんが曲を入力する機械を操作して、劇団の曲を流す。
歌いはしないが、マスクをしたままお互いに口ずさんでいると、ドリンクを店員さんが持って来た。
「烏龍茶とアイスティーになります」
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取って、店員さんが出て行くのを確認すると、私はテーブルの上にタロットクロスを広げた。
私がタロットカードを混ぜている間に、滝川さんはアイスティーにシロップを入れてストローでかき混ぜている。
タロットカードが混ざったところで、私は七枚のカードをV字に並べるスプレッドを使ってみることにした。
過去、現在、近未来、アドバイス、周囲の状況、障害となっているもの、最終結果で見て行くホースシューというスプレッドだ。
一枚目のカードは太陽だった。
意味は、喜びだが、そうではないことは分かっている。
これは鳳凰になった鶏さんのカードだった。
『鶏は無事に行くべき場所に帰ったようね。とても喜んでいるみたいよ』と猫さんの声が聞こえてくる。
猫さんは変わらず私の膝の上に乗って丸くなっている。
「鶏さんは無事に行くべき場所に到達したようです」
「そうじゃないと、苦労した甲斐がないわ」
滝川さんの言葉に頷きながら、二枚目のカードを捲る。
二枚目のカードは、ワンドの十だった。
意味は、重圧。
自分が選んだ重荷で手いっぱいになることを示している。
『鶏はあれでも一応守護していたから、いなくなると、少し重荷を感じることが出て来るかもしれないわね』と猫さんが言っている。
「やっぱり、守護獣がいなくなると、滝川さんは大変になりそうですよ」
「そうなっても構いませんよ。十歳の子が両親に会えなくて泣いてるよりもマシです」
はっきりと言い切る滝川さんに、私は感激してしまう。
こんな滝川さんだからこそ、私も怖かったけれど一人旅をして鶏さんを助けに行こうと決めたのだ。
三枚目のカードは、ペンタクルの六。
意味は、関係性。
同じ趣味を持つ友人を表すこともある。
『同じ趣味を持つ友達と過ごしていれば、次の守護獣とすぐに出会えるわ。そんなに心配しなくて大丈夫よ』と猫さんが言っている。
「同じ趣味って私のこと?」
「千早さんがどうしました?」
「私といればすぐに次の守護獣さんとは会えるって猫さんは言ってます」
「そうか、それは安心しました」
それにしても、と滝川さんが続ける。
「次は中学生以上にしてもらえないかしら」
「十歳はあんまりでしたよね」
頷きながら、私はカードを捲った。
アドバイスのカードはペンタクルの九。
意味は、達成。
周囲からの引き立てによって成功することを表している。
『ひとからの援助は遠慮せずに受けるといいわ』と猫さんが言う。
「ひとからの援助……私の占いとか助言かな? それは遠慮せずに受け取ってくださいとのことです」
「分かりました。遠慮しませんよ」
「どんとこいです!」
次のカードをソードのペイジが出た。
意味は、警戒。
状況を見極め、慎重になるようにという暗示だ。
『ちょっと秘密にしなきゃいけないことがあるかもしれないけど、二人の間では話しても平気よ』と猫さんが言ってくれる。
「周囲には秘密にしなきゃいけないことが起きるみたいですね」
「千早さんには?」
「話しても大丈夫だそうです」
「よかった」
胸を撫で下ろす滝川さんに、次のカードを捲る。次は障害となっているものだ。
ペンタクルのクィーンが出た。
意味は、寛容。
困ったときに助け合える関係を意味することもある。
『助けてくれる相手……守護獣でちょっと苦労するかもしれないわね』との猫さんの言葉を滝川さんに伝えると頭を抱えられる。
「またかー! また何か変なのが来るのかー!」
「覚悟しておきましょうね」
「千早さん、また助けてくださいね!」
「はい、仲介します!」
滝川さんに言われて私は深く頷いた。
最後のカードは、戦車だった。
意味は、エネルギー。
私は意味よりもその絵柄に気を取られる。
戦車のカードの絵柄は馬だったのだ。
「次の守護獣は馬さん?」
「馬……馬肉って美味しいですよね?」
「あぁ!? もう食べる気満々だー!?」
私の叫びに、滝川さんはころころと笑っていた。
カラオケボックスから出て、滝川さんはきっちりと私をホテルまで送ってくれた。
晩ご飯を買うためにコンビニに寄るのも、同行してくれる。
「こっちのお漬物美味しいですね。コンビニのお漬物が美味しくて驚きました」
「明日は錦市場に行きますか? 美味しいものがいっぱいありますよ」
「錦市場! 憧れの! 交流小説でもキャラが行きましたよね」
明日までは私は滝川さんと観光することができる。
明後日には朝に公演を見て、そのまま新幹線に乗って帰らなければいけないが、明日はまだ自由時間だ。
鶏さんのことも思ったよりも早く解決したので、私は観光を楽しむことができた。
「ホテルまで送ってくださってありがとうございます」
「千早さんは変な奴に絡まれやすいですからね」
「そうかもしれません」
「ブラックな職場の組んでた先生も、変な奴に入れていいと思います」
同情的な滝川さんは、私を心配してくれてホテルの入口まできっちりと送ってくれた。手を振って滝川さんと別れて、私はホテルの部屋で電気ケトルでお湯を沸かす。
滝川さんのくれたマグカップにティーバッグを入れて、フレーバーティーを飲んで楽しむ。
ベッドの上でゆったりと寛いでいる猫さんに私は聞いてみたいことがあった。
「猫さんは、紅茶を飲んだり、何か食べたりしないのかな?」
まだタロットカードは浄化していなかったので、取り出して混ぜて一枚捲ると、カップのエースが出た。
意味は、愛する力。
『あなたが満たされていて、あなたの愛情があれば、それでいいのよ』と猫さんは言っている。
猫さんには二回助けられているし、見えなかった期間もずっと助けられていたのかもしれない。
「猫さん、ありがとう」
感謝を口にすると、猫さんが『いいのよ』と言った気がした。
晩ご飯のお弁当とお漬物を食べて、フレーバーティーを飲んで寛いでいると、滝川さんからメッセージが入った。
『今、通話大丈夫ですか?』
『いいですよ』
返事をすると、滝川さんから映像通話が入ってくる。
『千早さんだけに先にお伝えしますけど、増版が決まりました!』
「おめでとうございます!」
滝川さんがミステリーの賞を取って書籍化された本が、増版が決まったのだそうだ。
『売れ行きよくなくて、本屋ランキングにも全然載らないなって諦めてたら、ネットで小説を公開してからじわじわ伸びてたみたいで、増版決まりましたよ!』
「本当によかった! 鳳凰さんが残して行った効果かもしれませんね」
『お礼を言うのはなんか癪だけど、嬉しいわ、ありがとう!』
嬉しい知らせに私がにこにこしていると、戯れに触っていたタロットカードから一枚飛び出て来た。
それは、太陽で、意味は喜びなのだが、私は違うように見えてしまう。
「赤ん坊? 妊娠……?」
確か、太陽にはそんな意味もあった気がするのだ。
『千早さん、分かりますか?』
「どういうことでしょう?」
『私、生まれ変わりとか信じるタイプじゃないんですけど、伯父と伯母のところの亡くなった従兄の妹さんが妊娠したのが分かったって、連絡が来たんです』
ご両親の元にやっと帰れる。
それはそういう意味だったのかもしれない。
ご両親の孫としてもう一度生まれ直せるのならば、鳳凰になった鶏さんもきっと幸せだろう。
このことは私と滝川さんだけの秘密になった。
重版のことと生まれて来る赤ちゃんのこと。猫さんの言った通りになったのだ。
明日は錦市場に行って、明後日は観劇。
私の旅はまだまだ続く。
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