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本編
6.クラリス嬢からの手紙
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クラリス嬢からの手紙はできるだけ簡易な単語を選んで、文字も大きめに書かれていた。
その内容を読みながら、わたくしは一覧表を見てみる。クラリス嬢はかなりの量の恋愛小説を読んでいるようだ。印刷技術が発達してきたので、この国でも平民が本を手に取ることができるようになっている。クラリス嬢の読む恋愛小説は平民にも人気が高いものが多いようだった。
「『男装の令嬢と冷徹公爵』、『不憫令嬢は真実の愛に目覚める』、『貧しくとも愛があれば』、『貴族の地位を捨てた令嬢は真実の愛に生きる』、『婚約破棄のススメ』、『愛されないのならばあなたの元は離れます』……」
タイトルを見ただけでなんとなく傾向が分かってくる気がする。
貴族の地位を捨てて平民と幸せになる物語や、婚約者を捨てて新しい相手と幸せになる物語が多いように感じる。
わたくしは一覧表はお義父様とお義母様に見ていただくようにして、手紙の方を読んでみた。
『アデライド嬢へ
先日はお茶会にお招きいただきありがとうございました。アデライド嬢とお話ができて楽しかったです。アデライド嬢が興味を持っていた恋愛小説、一覧表にしてお送りします。アデライド嬢にはまだ難しいかもしれませんが、分からないところがあったら手紙に書いてわたくしに聞いてください。アデライド嬢の感想もぜひお聞きしたいです。
クラリス・アルシェより』
分からないところがあったら聞くように書いてあるのだから、気になったところはどんどん聞いていこう。そこで「婚約破棄」や「真実の愛」について聞いてみれば、クラリス嬢の恋愛観が分かるかもしれない。
お義父様とお義母様から返事があったのは、数日後の朝食のことだった。朝食の時間にお義父様とお義母様はわたくしに三冊の本をくださった。
「その三冊ならば、アデライドが読んでも構わないと判断した」
「クラリス嬢と恋愛小説のお話をしたいのかもしれませんが、アデライドにはまだ早い物語ばかりでしたわ。その三冊もアデライドには難しいかもしれません」
「三冊も買ってくださったの? とても嬉しいわ。わたくし、大事に読みます。感想をクラリスお姉様に伝えます」
「難しかったら無理をしなくていいからね」
「文字を読む練習にはなるかもしれないけれど、内容が内容ですからね」
あまり気の進まない様子のお義父様とお義母様の気持ちが、わたくしにはよく分かる。
わたくしも正直なところこういう恋愛ものは読みたくないのだが、クラリス嬢がわたくしに悪影響を与えたという印象をお義母様とお義父様とお義兄様につけるために、読んで質問もしてみなければいけない。それにクラリス嬢に手紙を書くきっかけにもなる。
受け取った三冊の本を早く見たかったが、朝食を食べなくてはいけなくて、わたくしはパンをちぎって口に入れた。
朝食の後はお義兄様は剣の稽古を庭でされる。わたくしはその間自由に庭を散歩するのだが、今日は部屋に残って三冊の本を検分していた。
『冷遇された公爵令嬢は隣国の王子に愛される』
これは婚約破棄された公爵令嬢が隣国に嫁いで王子に愛されるという内容だった。
やはり、「婚約破棄」という単語が入ってくる。
『お転婆令嬢の田舎暮らし』
これはお転婆で型破りな令嬢が、田舎暮らしを経て地方の領主に見初められて愛されるという内容だった。
途中で令嬢が自由に町歩きなどをしているのを見ると、こういう生活に憧れているのかと思う。
『美味しい恋はいかが?』
これは厨房の料理人の娘が家の主人に愛されるという料理を絡めた物語のようだった。
身分違いの恋がクラリス嬢はお好きなのだろうか。
三冊をしっかりと検分して、どれから詳しく読んでいこうか考える。
やはり『冷遇された公爵令嬢は隣国の王子に愛される』からだろうか。
ぱらぱらとページを捲ると、冷たい婚約者から婚約破棄を言い渡されて落ち込む令嬢。そこから父親の計らいで隣国に留学した令嬢が美しい男性と出会って、恋に落ちる描写。その男性が実はその国の王太子であったという真実と続いている。
こんな都合のいい話があるものだろうか。
婚約破棄をあっさり言い渡されるところからして違和感しかない。公爵家同士の婚約ならば政略結婚なのでそんなに簡単に破棄できない。破棄されたとしたら、それだけの理由が令嬢にあったとしか思えないのだ。
「このセリフ……クラリス嬢が好きそうですわ」
最初の方のページに戻ってわたくしはセリフを見直す。
『本当に愛するひとができたのだ。どうか、婚約は破棄してほしい』
これと同じようなことをクラリス嬢は卒業式のパーティーでお義兄様に言っていなかっただろうか。
こういうところからクラリス嬢の恋愛観は培われてきたのだろうか。
勉強の時間になったので、わたくしは三冊の本を持って家庭教師のいる勉強室に向かう。勉強室には着替えたお義兄様ももう来ていた。
「アデリー、今日は庭の散歩をしなかったんだね。少しはお日様にあたった方がいいよ」
「明日はお天気だったら散歩をするわ。今日はお義父様とお義母様が下さった本が気になって読んでいたの」
「その本なんだけど、アデリー、あまりのめり込んじゃ駄目だよ」
お義兄様はわたくしが恋愛小説を読むのを心配しているようだった。
大丈夫です! わたくし、勘違い女とは違いますから!
心の中で胸を叩いて宣言しつつ、わたくしは無邪気にお義兄様に問いかける。
「お義兄様、『こんやくはき』ってなぁに?」
「婚約を無効にすることだよ。そんな単語が出てくる本なのかな?」
「え? 婚約ってそんなに簡単に無効にできるの?」
「簡単に婚約を無効にする話だったのかな? 貴族同士の婚約は家同士の繋がりを作るものだから簡単に無効にしたりできないよ」
婚約破棄についてお義兄様はちゃんと貴族の認識を持っているようだった。
問題はクラリス嬢だ。婚約が簡単に破棄できると勘違いしてしまっているのではないだろうか。そうでなければ卒業式のパーティーでお義兄様にあんなことは言っていない。
「これはお話だから婚約破棄が簡単にできるのね。お話はお話。現実と一緒にしちゃいけないってことかしら」
「そうだね、賢いアデリー。物語と現実は違うからね」
それにしてもクラリス嬢はアデリーにこんな物語を読ませて。
お義兄様の小さな呟きが聞こえた気がした。
順調にクラリス嬢はお義兄様の好感度を下げている。
「アデライドお嬢様、旦那様と奥様から本をいただいて、それを読んでいるとお聞きしましたが」
「そうなの。わたくしには分からないところがたくさんあるから、教えてほしくて本を持ってきたの」
「本を読むのはいいことです。アデライドお嬢様の文字の習得にも繋がります。ですが、その本はもう少し大きな女性向けに見えますね」
「クラリスお姉様が読んでいたものを、お義父様とお義母様にお願いして買ってもらったの。わたくしもクラリスお姉様と同じものが読んでみたいわ」
五歳当時のわたくしは勉強が好きではなかった。文字を読むのも書くのも遅れていた自覚がある。それが急に難しい本を読めるようになるというのは無理があるので、わたくしは家庭教師と一緒にその本を読むふりをしていた。
少し難しい単語があると、家庭教師に聞いて、辞書を引いて調べて、ノートに書き写しておく。勉強に意欲的なわたくしを見て、教材は何であれ家庭教師はわたくしを応援してくれる気になったようだった。
「アデライドお嬢様がこんなにやる気になってくださるなんて。この本が教材に相応しいかどうかは置いておいて、アデライドお嬢様のやる気を失わせないようにしなくては」
椅子に座って本を読みながら、分からない単語を書き出していって、辞書で引くわたくしを家庭教師は涙を流さん様子で見守っていた。
勉強が終わると昼食の時間になる。
昼食はお義兄様と二人で食べる。
お義兄様はわたくしに言いたいことがありそうな顔をしていた。
「勉強を頑張っているのはいいことだけど、あの本は勉強にあまり向かないんじゃないかな」
「クラリスお姉様がお勧めしてくださったの。わたくし、読んでみたいわ」
「読んでいてアデリーは楽しい?」
「楽しい……楽しいかしら? 大人の恋愛って難しいって思うわ」
五歳に戻る前のわたくしもまだ十三歳だったのである。初恋もまだだし、婚約者もいなかった。
わたくしの婚約者は、お義兄様が学園から卒業してクラリス嬢と結婚してから決めようとお義父様もお義母様も思っていたようなのだ。まずは公爵家の後継者であるお義兄様が結婚しないことには次のわたくしの結婚は決められない。
「お義兄様はクラリスお姉様といつ婚約したの?」
その答えをわたくしは知っているが、五歳当時は知らなかったことを思い出して聞いてみる。
「わたしがお母様のお腹の中にいたころに、同じく妊娠していたアルシェ公爵夫人が、『生まれてきた子どもが男女ならば婚約させましょう』と強引に約束を取り付けたらしいんだ。お母様とお父様はわたしが学園に入学するころにいい相手がいれば婚約させるつもりだったようだけれど、アルシェ公爵夫人は生まれてきたわたしが男子で、アルシェ公爵夫人のお子が女子だったと分かると、国王陛下に頼み込んで婚約を成立させてしまったらしい」
あれ?
前の人生でわたくしが聞いていた話とは少し違う。
婚約はアルシェ公爵とお義父様が生まれてきた子どもが男女だったから話し合って決めたと聞いていたが、実はアルシェ公爵夫人が強引に話を進めていたのか。
クラリス嬢の好感度がお義兄様の中で下がったから真実をわたくしに打ち明けてくれたのかもしれない。
もしかして、この婚約、バルテルミー家では初めから歓迎されてない!?
それなのに、強引に婚約を結んだアルシェ家のクラリス嬢から婚約破棄を言い渡されるなんて冗談じゃない。
今度はお義兄様から婚約解消を言い渡してやらなければ。
そのためにわたくしはコツコツと下積みをしているのだ。
クラリス嬢に手紙を書こう。
読んだ物語の感想を添えて。
その内容を読みながら、わたくしは一覧表を見てみる。クラリス嬢はかなりの量の恋愛小説を読んでいるようだ。印刷技術が発達してきたので、この国でも平民が本を手に取ることができるようになっている。クラリス嬢の読む恋愛小説は平民にも人気が高いものが多いようだった。
「『男装の令嬢と冷徹公爵』、『不憫令嬢は真実の愛に目覚める』、『貧しくとも愛があれば』、『貴族の地位を捨てた令嬢は真実の愛に生きる』、『婚約破棄のススメ』、『愛されないのならばあなたの元は離れます』……」
タイトルを見ただけでなんとなく傾向が分かってくる気がする。
貴族の地位を捨てて平民と幸せになる物語や、婚約者を捨てて新しい相手と幸せになる物語が多いように感じる。
わたくしは一覧表はお義父様とお義母様に見ていただくようにして、手紙の方を読んでみた。
『アデライド嬢へ
先日はお茶会にお招きいただきありがとうございました。アデライド嬢とお話ができて楽しかったです。アデライド嬢が興味を持っていた恋愛小説、一覧表にしてお送りします。アデライド嬢にはまだ難しいかもしれませんが、分からないところがあったら手紙に書いてわたくしに聞いてください。アデライド嬢の感想もぜひお聞きしたいです。
クラリス・アルシェより』
分からないところがあったら聞くように書いてあるのだから、気になったところはどんどん聞いていこう。そこで「婚約破棄」や「真実の愛」について聞いてみれば、クラリス嬢の恋愛観が分かるかもしれない。
お義父様とお義母様から返事があったのは、数日後の朝食のことだった。朝食の時間にお義父様とお義母様はわたくしに三冊の本をくださった。
「その三冊ならば、アデライドが読んでも構わないと判断した」
「クラリス嬢と恋愛小説のお話をしたいのかもしれませんが、アデライドにはまだ早い物語ばかりでしたわ。その三冊もアデライドには難しいかもしれません」
「三冊も買ってくださったの? とても嬉しいわ。わたくし、大事に読みます。感想をクラリスお姉様に伝えます」
「難しかったら無理をしなくていいからね」
「文字を読む練習にはなるかもしれないけれど、内容が内容ですからね」
あまり気の進まない様子のお義父様とお義母様の気持ちが、わたくしにはよく分かる。
わたくしも正直なところこういう恋愛ものは読みたくないのだが、クラリス嬢がわたくしに悪影響を与えたという印象をお義母様とお義父様とお義兄様につけるために、読んで質問もしてみなければいけない。それにクラリス嬢に手紙を書くきっかけにもなる。
受け取った三冊の本を早く見たかったが、朝食を食べなくてはいけなくて、わたくしはパンをちぎって口に入れた。
朝食の後はお義兄様は剣の稽古を庭でされる。わたくしはその間自由に庭を散歩するのだが、今日は部屋に残って三冊の本を検分していた。
『冷遇された公爵令嬢は隣国の王子に愛される』
これは婚約破棄された公爵令嬢が隣国に嫁いで王子に愛されるという内容だった。
やはり、「婚約破棄」という単語が入ってくる。
『お転婆令嬢の田舎暮らし』
これはお転婆で型破りな令嬢が、田舎暮らしを経て地方の領主に見初められて愛されるという内容だった。
途中で令嬢が自由に町歩きなどをしているのを見ると、こういう生活に憧れているのかと思う。
『美味しい恋はいかが?』
これは厨房の料理人の娘が家の主人に愛されるという料理を絡めた物語のようだった。
身分違いの恋がクラリス嬢はお好きなのだろうか。
三冊をしっかりと検分して、どれから詳しく読んでいこうか考える。
やはり『冷遇された公爵令嬢は隣国の王子に愛される』からだろうか。
ぱらぱらとページを捲ると、冷たい婚約者から婚約破棄を言い渡されて落ち込む令嬢。そこから父親の計らいで隣国に留学した令嬢が美しい男性と出会って、恋に落ちる描写。その男性が実はその国の王太子であったという真実と続いている。
こんな都合のいい話があるものだろうか。
婚約破棄をあっさり言い渡されるところからして違和感しかない。公爵家同士の婚約ならば政略結婚なのでそんなに簡単に破棄できない。破棄されたとしたら、それだけの理由が令嬢にあったとしか思えないのだ。
「このセリフ……クラリス嬢が好きそうですわ」
最初の方のページに戻ってわたくしはセリフを見直す。
『本当に愛するひとができたのだ。どうか、婚約は破棄してほしい』
これと同じようなことをクラリス嬢は卒業式のパーティーでお義兄様に言っていなかっただろうか。
こういうところからクラリス嬢の恋愛観は培われてきたのだろうか。
勉強の時間になったので、わたくしは三冊の本を持って家庭教師のいる勉強室に向かう。勉強室には着替えたお義兄様ももう来ていた。
「アデリー、今日は庭の散歩をしなかったんだね。少しはお日様にあたった方がいいよ」
「明日はお天気だったら散歩をするわ。今日はお義父様とお義母様が下さった本が気になって読んでいたの」
「その本なんだけど、アデリー、あまりのめり込んじゃ駄目だよ」
お義兄様はわたくしが恋愛小説を読むのを心配しているようだった。
大丈夫です! わたくし、勘違い女とは違いますから!
心の中で胸を叩いて宣言しつつ、わたくしは無邪気にお義兄様に問いかける。
「お義兄様、『こんやくはき』ってなぁに?」
「婚約を無効にすることだよ。そんな単語が出てくる本なのかな?」
「え? 婚約ってそんなに簡単に無効にできるの?」
「簡単に婚約を無効にする話だったのかな? 貴族同士の婚約は家同士の繋がりを作るものだから簡単に無効にしたりできないよ」
婚約破棄についてお義兄様はちゃんと貴族の認識を持っているようだった。
問題はクラリス嬢だ。婚約が簡単に破棄できると勘違いしてしまっているのではないだろうか。そうでなければ卒業式のパーティーでお義兄様にあんなことは言っていない。
「これはお話だから婚約破棄が簡単にできるのね。お話はお話。現実と一緒にしちゃいけないってことかしら」
「そうだね、賢いアデリー。物語と現実は違うからね」
それにしてもクラリス嬢はアデリーにこんな物語を読ませて。
お義兄様の小さな呟きが聞こえた気がした。
順調にクラリス嬢はお義兄様の好感度を下げている。
「アデライドお嬢様、旦那様と奥様から本をいただいて、それを読んでいるとお聞きしましたが」
「そうなの。わたくしには分からないところがたくさんあるから、教えてほしくて本を持ってきたの」
「本を読むのはいいことです。アデライドお嬢様の文字の習得にも繋がります。ですが、その本はもう少し大きな女性向けに見えますね」
「クラリスお姉様が読んでいたものを、お義父様とお義母様にお願いして買ってもらったの。わたくしもクラリスお姉様と同じものが読んでみたいわ」
五歳当時のわたくしは勉強が好きではなかった。文字を読むのも書くのも遅れていた自覚がある。それが急に難しい本を読めるようになるというのは無理があるので、わたくしは家庭教師と一緒にその本を読むふりをしていた。
少し難しい単語があると、家庭教師に聞いて、辞書を引いて調べて、ノートに書き写しておく。勉強に意欲的なわたくしを見て、教材は何であれ家庭教師はわたくしを応援してくれる気になったようだった。
「アデライドお嬢様がこんなにやる気になってくださるなんて。この本が教材に相応しいかどうかは置いておいて、アデライドお嬢様のやる気を失わせないようにしなくては」
椅子に座って本を読みながら、分からない単語を書き出していって、辞書で引くわたくしを家庭教師は涙を流さん様子で見守っていた。
勉強が終わると昼食の時間になる。
昼食はお義兄様と二人で食べる。
お義兄様はわたくしに言いたいことがありそうな顔をしていた。
「勉強を頑張っているのはいいことだけど、あの本は勉強にあまり向かないんじゃないかな」
「クラリスお姉様がお勧めしてくださったの。わたくし、読んでみたいわ」
「読んでいてアデリーは楽しい?」
「楽しい……楽しいかしら? 大人の恋愛って難しいって思うわ」
五歳に戻る前のわたくしもまだ十三歳だったのである。初恋もまだだし、婚約者もいなかった。
わたくしの婚約者は、お義兄様が学園から卒業してクラリス嬢と結婚してから決めようとお義父様もお義母様も思っていたようなのだ。まずは公爵家の後継者であるお義兄様が結婚しないことには次のわたくしの結婚は決められない。
「お義兄様はクラリスお姉様といつ婚約したの?」
その答えをわたくしは知っているが、五歳当時は知らなかったことを思い出して聞いてみる。
「わたしがお母様のお腹の中にいたころに、同じく妊娠していたアルシェ公爵夫人が、『生まれてきた子どもが男女ならば婚約させましょう』と強引に約束を取り付けたらしいんだ。お母様とお父様はわたしが学園に入学するころにいい相手がいれば婚約させるつもりだったようだけれど、アルシェ公爵夫人は生まれてきたわたしが男子で、アルシェ公爵夫人のお子が女子だったと分かると、国王陛下に頼み込んで婚約を成立させてしまったらしい」
あれ?
前の人生でわたくしが聞いていた話とは少し違う。
婚約はアルシェ公爵とお義父様が生まれてきた子どもが男女だったから話し合って決めたと聞いていたが、実はアルシェ公爵夫人が強引に話を進めていたのか。
クラリス嬢の好感度がお義兄様の中で下がったから真実をわたくしに打ち明けてくれたのかもしれない。
もしかして、この婚約、バルテルミー家では初めから歓迎されてない!?
それなのに、強引に婚約を結んだアルシェ家のクラリス嬢から婚約破棄を言い渡されるなんて冗談じゃない。
今度はお義兄様から婚約解消を言い渡してやらなければ。
そのためにわたくしはコツコツと下積みをしているのだ。
クラリス嬢に手紙を書こう。
読んだ物語の感想を添えて。
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