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君とこのまま
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濃厚な行為をした後に、眠ってしまったジャンのうなじに、こっそりと痕が残らないくらいに歯を立てて、舌を這わせるのが、すっかり癖になってしまった。傷付けたい気持ちは少しもないのに、ただ、愛しすぎて、ジャンに噛みつきたくなる。
自分は異常なんじゃないかとため息をついたサムエルに、話を聞いていたマルギットが目を丸くした。
「サムってさ、知らないの?」
「なにを?」
目的語を抜かされて、サムエルが首を傾げると、マルギットは苦笑する。
「ただの都市伝説なんだけどね」
前置きをしてから話してくれたことに、サムエルは不覚にも真っ赤になってしまった。
αがお気に入りのΩを番いにしたいときに、そのうなじに噛みつく。
すると、そのΩが番いになるという。
ただの都市伝説だと分かっていても、βであるジャンに……しかも、抱かれる方ではなく、抱く方に回っているβのジャンのうなじに噛みついてまで、自分のものだと主張したかったのだろうか。指輪をくれた後、ジャンとの仲は非常に良好である。それでも、指輪だけで足りない何かがあるのだろうか。
そういえば、くっきりとジャンのうなじに歯形を付けてしまったことを思い出し、サムエルは青ざめた。あのとき、特に隠したりはしていなかったが、ジャンのうなじの歯形を、周囲の人間はどう見ていたのだろう。
「死ぬほど恥ずかしいんだけど」
めまいを覚えて額に手をやったサムエルに、「気付かれてないならいいんじゃない?」とマルギットが軽く言った。
ハーフアップの赤い髪。
その日から、ジャンのうなじが気になって気になって仕方なくて、サムエルはチラ見しては、目をそらしてしまう。長めの赤い髪から覗く白いうなじは、いかにもサムエルを誘っているような気がする。
「どうかしたか?」
よほど挙動不審だったのだろう、訝しげに声をかけられて、サムエルはダイエットコーラのペットボトルの蓋を開けた。誤魔化すために一口飲んで、ちらりとジャンを見ても、誤魔化せるはずがない。緑の目が静かにサムエルを映している。
「君、知ってたの……うなじに、僕が、噛みついたでしょ?」
「あぁ……ただの都市伝説だろう」
あっさりと答えられて、サムエルは両手で顔を覆った。
「僕、どれだけ独占欲強いんだろうね」
ため息をついて自己嫌悪に陥るサムエルの肉付きのいい膝の上に、ジャンが細い体で乗ってくる。それほど重くはないのだが、密着する体温や匂いに嫌でも反応してしまって、サムエルは紫がかった青い目を潤ませた。
キスをねだると、舌を出される。恥も外聞もなく、サムエルはその舌に吸い付いた。
角度を変えて、舌を絡めて、何度もキスをするうちに、下半身が熱くなってくる。明日はジャンの仕事が休みの日ではないし、サムエルもシャワーを浴びて後ろの準備をしていないから、最後まではできないと分かっていても、腰を擦り付けてしまう。
「ジャン……したいんだけど、な」
少し長い赤毛の肩口に顔を埋めて呟くと、ジャンがサムエルの耳を甘噛みした。
「今日はしない。でも、噛みたいなら、噛んでもいいよ」
うなじを晒されて、サムエルは唾を飲み込む。
「それって、僕の番いになってもいいってことだよね?」
「俺はβだ」
返される言葉は素っ気ないけれど、舌を這わせた肌は熱かった。
「ジャン、好き……愛してる」
βのジャンはフェロモンの香りはしないが、シャンプーの爽やかな香りがして、噛みついたうなじは、少ししょっぱかった。
自分は異常なんじゃないかとため息をついたサムエルに、話を聞いていたマルギットが目を丸くした。
「サムってさ、知らないの?」
「なにを?」
目的語を抜かされて、サムエルが首を傾げると、マルギットは苦笑する。
「ただの都市伝説なんだけどね」
前置きをしてから話してくれたことに、サムエルは不覚にも真っ赤になってしまった。
αがお気に入りのΩを番いにしたいときに、そのうなじに噛みつく。
すると、そのΩが番いになるという。
ただの都市伝説だと分かっていても、βであるジャンに……しかも、抱かれる方ではなく、抱く方に回っているβのジャンのうなじに噛みついてまで、自分のものだと主張したかったのだろうか。指輪をくれた後、ジャンとの仲は非常に良好である。それでも、指輪だけで足りない何かがあるのだろうか。
そういえば、くっきりとジャンのうなじに歯形を付けてしまったことを思い出し、サムエルは青ざめた。あのとき、特に隠したりはしていなかったが、ジャンのうなじの歯形を、周囲の人間はどう見ていたのだろう。
「死ぬほど恥ずかしいんだけど」
めまいを覚えて額に手をやったサムエルに、「気付かれてないならいいんじゃない?」とマルギットが軽く言った。
ハーフアップの赤い髪。
その日から、ジャンのうなじが気になって気になって仕方なくて、サムエルはチラ見しては、目をそらしてしまう。長めの赤い髪から覗く白いうなじは、いかにもサムエルを誘っているような気がする。
「どうかしたか?」
よほど挙動不審だったのだろう、訝しげに声をかけられて、サムエルはダイエットコーラのペットボトルの蓋を開けた。誤魔化すために一口飲んで、ちらりとジャンを見ても、誤魔化せるはずがない。緑の目が静かにサムエルを映している。
「君、知ってたの……うなじに、僕が、噛みついたでしょ?」
「あぁ……ただの都市伝説だろう」
あっさりと答えられて、サムエルは両手で顔を覆った。
「僕、どれだけ独占欲強いんだろうね」
ため息をついて自己嫌悪に陥るサムエルの肉付きのいい膝の上に、ジャンが細い体で乗ってくる。それほど重くはないのだが、密着する体温や匂いに嫌でも反応してしまって、サムエルは紫がかった青い目を潤ませた。
キスをねだると、舌を出される。恥も外聞もなく、サムエルはその舌に吸い付いた。
角度を変えて、舌を絡めて、何度もキスをするうちに、下半身が熱くなってくる。明日はジャンの仕事が休みの日ではないし、サムエルもシャワーを浴びて後ろの準備をしていないから、最後まではできないと分かっていても、腰を擦り付けてしまう。
「ジャン……したいんだけど、な」
少し長い赤毛の肩口に顔を埋めて呟くと、ジャンがサムエルの耳を甘噛みした。
「今日はしない。でも、噛みたいなら、噛んでもいいよ」
うなじを晒されて、サムエルは唾を飲み込む。
「それって、僕の番いになってもいいってことだよね?」
「俺はβだ」
返される言葉は素っ気ないけれど、舌を這わせた肌は熱かった。
「ジャン、好き……愛してる」
βのジャンはフェロモンの香りはしないが、シャンプーの爽やかな香りがして、噛みついたうなじは、少ししょっぱかった。
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