2 / 30
2.五百蔵真珠・ヴァレンチノの場合
しおりを挟む
五百蔵真珠・ヴァレンチノは、孤独だった。
一人だけ祖父の従兄に似た真珠を、家族は無視して、兄ばかりを優遇していた。
祖父は真珠を可愛がって、亡くなるときに自分の住んでいた洋館を残してくれたのだが、それも自分の愛した従兄の面影を追ってのもので、真珠を見てくれたわけではなかった。
そんな中で、小学校からずっと一緒の舞園旭が、中学の頃からピアニストとして有名になっていたが、高校を出てすぐに結婚して、生まれたのが月神だった。
小さくて、旭に似た黒髪に黒い目でちょっと癖毛の月神は天使のようで、旭は常々言っていた。
「つぐちゃんは、私の天使なんだ」
その言葉に真珠も異論はなかった。
月神を生んだ後に体調を崩したという旭の妻の叶は、月神が保育園に行く頃には入退院を繰り返していたので、真珠は月神のことを何度も預かった。
月神は素直ないい子で、真珠を困らせることはなかったし、料理に興味を持ってくれたので、真珠は月神と一緒に色んな料理を作った。
最初の頃は真珠も料理が得意というわけではなかったが、月神と作っていくうちに料理が好きになり、月神と料理をする時間が何よりの楽しみになった。
成長していく月神とは対照的に、叶は弱って行った。
月神が中学二年生のときに、叶は長い入院の末に亡くなった。
母親が亡くなっても泣くこともなく立ち尽くしている月神に、真珠は思わずその華奢で小さな体を抱き締めていた。
「つぐちゃん、泣いてもいいのよ」
「真珠さん……」
抱き締めていると、感情が崩壊するように声を上げて泣き出した月神を真珠はずっと抱き締めていた。
泣き疲れてしまった月神を葬儀の間、真珠はずっと抱き締めていた。
出棺のときに目を覚ました月神は、真珠に謝っていた。
「すみませんでした、僕、泣いてしまって」
「いいのよ、つぐちゃん。あたしの前で感情を隠すことはないわ。つぐちゃんのことはオムツ付けてるときから知ってるんだからね」
悪戯っぽく言えば月神は泣き笑いの顔を見せた。
長期に入院して弱っていた叶の骨は、脆くなっていて、焼き尽くされて非常に少なかった。ほとんどが灰になってしまった中から、丁寧に骨の欠片を拾っても、小さな骨壺はいっぱいにはならなかった。
涙を拭いて来てくださった方々にお礼を言う月神は立派だった。
「本日は母のためにお集まりくださりありがとうございました。母も長い闘病生活から解放されて自由になっていると思います。母との思い出を大事にこれから父と生きていこうと思います」
喋ることが苦手で、感情表現が苦手で、ピアノだけが自分を表現する手段だという旭は、月神に任せてしまって何も言えていなかった。それだけ悲しみが深かったとも取れるが、まだ十四歳の月神に任せてしまうというのも真珠は気にかかっていた。
それから旭の生活は荒れて、コンサートでピアノを弾く以外の日には仕事させてもらっているピアノバーでも、毎日のように飲んでいた。
「つぐちゃんが心配してるでしょぉ? 帰ってあげなさいよぉ」
「つぐちゃんは……」
「つぐちゃんには、もう旭さんしかいないのよ?」
真珠がどれだけ言っても旭は酒を飲むのをやめられない様子だった。
泥酔した旭を真珠は何度家まで送って行っただろう。
そのたびに夜遅くまで起きて待っている月神が、申し訳なさそうに言うのだ。
「父がご迷惑をおかけしました。いつもすみません」
「つぐちゃんこそ、大変でしょぉ? あたしにできること、ない?」
「お弁当を……」
「お弁当を作ればいい?」
「作らせてくれませんか?」
「え!?」
お弁当を真珠が作れば月神の負担が減るのかと思ったが、月神が言ったのは全く逆のことだった。
「真珠さんの分も作ると思えば、自分と父のお弁当に手が抜けなくなります。気合を入れるためにも、真珠さんにもお弁当を作っていいですか?」
「いいけど、大変じゃない?」
「いえ、作るのは好きなので」
小さな頃から自分のことは自分でするように言われていた。保育園や学校でお弁当が必要なときには、小さい頃は買ったものを持たされて、少し育ってからはお金だけ渡されて自分で買えと言われた。
真っすぐに真珠を見詰めて来る黒い目が、真珠には眩しかった。
こんな風に誰かに真っすぐに見詰められたことなどあっただろうか。
毎朝、車で月神の家に行ってお弁当を受け取って、昼にお弁当箱を開ける。
可愛らしいタコさんウインナーや、花形に抜いた野菜、オムライスで作った猫や犬にケチャップで顔を描いたもの、サンドイッチのときもあった、かつ丼のときもあった。
全て真珠が教えて来たのだが、作ってもらったお弁当というのは美味しくて、真珠の力になっていた。
真珠は『遺跡管理課』という役所の課の課長で、大昔から残る遺跡、つまりはダンジョンに生息する魔法生物が町に出てこないように、魔法兵器が町に出回らないように、遺跡を管理するのが仕事だった。
普段は真珠が気を付けているので、定時で帰れる部署として有名だったのだが、一度遺跡で問題が起こるとそれどころではなくなる。
魔法生物が遺跡から溢れ出したときなど、弓式のレールガンを持って対応に当たった。
役所に泊まり込みで、食べるものも寝るのも疎かにして、ひたすら仕事仕事の日々に、届けられる月神のお弁当は荒れた真珠の心を一瞬だけでも安らげた。
癒しの力があると魔法解析されている月神の歌をスマートフォンで流して、癒されつつ食べるお弁当の美味しいこと。それがなければ真珠は折れるまではいかないが、相当心が荒れていたに違いない。
魔法生物の大発生を抑えて、ようやく帰れると思ったときに、そのまま家に帰らずにピアノバーに寄ったのは、嫌な予感がしたからだった。
ピアノバーでピアノを弾いている旭を見知った相手が強引に口説いている。
「美人ですね。俺とイイコトしませんか? 天国を見せてあげますよ?」
「天国……」
「気持ちいいこと、好きでしょ?」
男なら、誰でも。
ねっとりとした視線を旭に向けているのは、仕事はできるが私生活が酷いという噂の部下、安増だった。
「そのひとは私の幼馴染です。何か用でも?」
「ひぃ!? か、課長!?」
職場では『血塗れ雷帝』なんて笑える呼び名で恐れられている真珠が声をかけると、安増は飛び上がって逃げて行った。
「天国……叶さんに会えたかな?」
「酔ってるの、あさちゃん? そういう意味じゃないわよ?」
「私も天国に行きたい……」
「何言ってるの! あなたにはつぐちゃんがいるでしょう!」
月神を置いて死んでしまいたいなどと口にする旭に怒りを覚えていると、旭がそのままピアノに突っ伏して倒れてしまう。倒れた旭を、アルコールは飲んでいなかったので、真珠は車で家まで送って行った。
玄関で靴を脱がせて、ベッドに運ぶと旭は眠り込んでいる。
深夜なのに起きて待っていた月神が申し訳なさそうに俯いている。
「すみません、父がご迷惑をおかけして」
「あさちゃんのことは小さい頃から知ってるもの、気にしなくていいのよぉ。叶さんが亡くなったのが堪えているんでしょうね」
「そうだと思います……」
「つぐちゃんだって、悲しいし、つらいのに、ダメな父親よね」
笑って言うと、月神の黒い目が潤んだような気がした。つらいのは月神も同じなのに、悲しみを分かち合うことのできない不器用な父子に同情する。
「お茶でも飲んでいきませんか?」
「あたしにまで気を遣わなくていいわよ。夜遅いんだから、つぐちゃんも寝ないといけないでしょう」
「そうですけど……」
お暇しようと玄関で座って靴を履いていると、うなじ辺りに痛みが走った。
驚いて振り向くと、月神が真珠のうなじに噛み付いている。
その赤く光る瞳、尖った犬歯、真珠は見覚えがあった。
「まずい……!?」
「え!? つぐちゃん!?」
「ご、ごめんなさい。なんで、僕、真珠さんの血を飲んじゃったんだろう」
真珠の血は魔族や獣人、妖精種の力を高める効力があるので、普段は使わないが、遺跡関係でトラブルが起きると真珠は嫌々ながら血を提供していた。
それも手首からとかで、首筋から吸わせたことはない。
うなじに噛み付かれるなんて、真珠も驚いていた。
「つぐちゃん、あなた、吸血鬼だったの!?」
「そ、そんな……」
記憶にある限り、旭と叶は人間だったはずだ。人間同士の子どもで吸血鬼は生まれない。
「吸血鬼だったとしても、つぐちゃんはつぐちゃんだわ。ちょっと、あさちゃんに聞いてみましょうね。つぐちゃんもこのままじゃ不安でしょう?」
「真珠さん、疲れてるのに、いいんですか?」
「つぐちゃんのことを放っておけないわよ。それに、明日と明後日は休みを入れたから安心して」
このことを解決するまでは月神も安心できないだろうし、旭に何か秘密があるのならば親友として真珠も聞いておきたかった。
旭を叩き起こして問いかけてみるが要領を得ない。
「つぐちゃんが、あたしの血を吸ったのよ。目も赤くなってて、犬歯も尖ってた! どういうことなの?」
「しらない」
「だから、つぐちゃんはなんで吸血鬼なの?」
「……」
元から口数が少なくて、ピアノ以外で感情表現を苦手とする旭にどれだけ聞いてもそれ以上の答えが出てこない。
これは時間をかけてじっくりと聞くしかないのかもしれない。
それには時間が遅すぎる。日付はとうに変わっていた。
「母が死んでからいつもこんな感じなんです。飲まないと眠れないって」
「これは、明日聞いた方がいいわね。つぐちゃん、今日は泊めてもらえる?」
「いいんですか!?」
「あさちゃんは学生の頃から知っているもの。つぐちゃんの一大事に力になってあげられないようなあたしじゃないわ」
それが月神のためなのか、自分のためなのか分からないまま、真珠は月神の家に泊まって旭に真相を問うことにしていた。
一人だけ祖父の従兄に似た真珠を、家族は無視して、兄ばかりを優遇していた。
祖父は真珠を可愛がって、亡くなるときに自分の住んでいた洋館を残してくれたのだが、それも自分の愛した従兄の面影を追ってのもので、真珠を見てくれたわけではなかった。
そんな中で、小学校からずっと一緒の舞園旭が、中学の頃からピアニストとして有名になっていたが、高校を出てすぐに結婚して、生まれたのが月神だった。
小さくて、旭に似た黒髪に黒い目でちょっと癖毛の月神は天使のようで、旭は常々言っていた。
「つぐちゃんは、私の天使なんだ」
その言葉に真珠も異論はなかった。
月神を生んだ後に体調を崩したという旭の妻の叶は、月神が保育園に行く頃には入退院を繰り返していたので、真珠は月神のことを何度も預かった。
月神は素直ないい子で、真珠を困らせることはなかったし、料理に興味を持ってくれたので、真珠は月神と一緒に色んな料理を作った。
最初の頃は真珠も料理が得意というわけではなかったが、月神と作っていくうちに料理が好きになり、月神と料理をする時間が何よりの楽しみになった。
成長していく月神とは対照的に、叶は弱って行った。
月神が中学二年生のときに、叶は長い入院の末に亡くなった。
母親が亡くなっても泣くこともなく立ち尽くしている月神に、真珠は思わずその華奢で小さな体を抱き締めていた。
「つぐちゃん、泣いてもいいのよ」
「真珠さん……」
抱き締めていると、感情が崩壊するように声を上げて泣き出した月神を真珠はずっと抱き締めていた。
泣き疲れてしまった月神を葬儀の間、真珠はずっと抱き締めていた。
出棺のときに目を覚ました月神は、真珠に謝っていた。
「すみませんでした、僕、泣いてしまって」
「いいのよ、つぐちゃん。あたしの前で感情を隠すことはないわ。つぐちゃんのことはオムツ付けてるときから知ってるんだからね」
悪戯っぽく言えば月神は泣き笑いの顔を見せた。
長期に入院して弱っていた叶の骨は、脆くなっていて、焼き尽くされて非常に少なかった。ほとんどが灰になってしまった中から、丁寧に骨の欠片を拾っても、小さな骨壺はいっぱいにはならなかった。
涙を拭いて来てくださった方々にお礼を言う月神は立派だった。
「本日は母のためにお集まりくださりありがとうございました。母も長い闘病生活から解放されて自由になっていると思います。母との思い出を大事にこれから父と生きていこうと思います」
喋ることが苦手で、感情表現が苦手で、ピアノだけが自分を表現する手段だという旭は、月神に任せてしまって何も言えていなかった。それだけ悲しみが深かったとも取れるが、まだ十四歳の月神に任せてしまうというのも真珠は気にかかっていた。
それから旭の生活は荒れて、コンサートでピアノを弾く以外の日には仕事させてもらっているピアノバーでも、毎日のように飲んでいた。
「つぐちゃんが心配してるでしょぉ? 帰ってあげなさいよぉ」
「つぐちゃんは……」
「つぐちゃんには、もう旭さんしかいないのよ?」
真珠がどれだけ言っても旭は酒を飲むのをやめられない様子だった。
泥酔した旭を真珠は何度家まで送って行っただろう。
そのたびに夜遅くまで起きて待っている月神が、申し訳なさそうに言うのだ。
「父がご迷惑をおかけしました。いつもすみません」
「つぐちゃんこそ、大変でしょぉ? あたしにできること、ない?」
「お弁当を……」
「お弁当を作ればいい?」
「作らせてくれませんか?」
「え!?」
お弁当を真珠が作れば月神の負担が減るのかと思ったが、月神が言ったのは全く逆のことだった。
「真珠さんの分も作ると思えば、自分と父のお弁当に手が抜けなくなります。気合を入れるためにも、真珠さんにもお弁当を作っていいですか?」
「いいけど、大変じゃない?」
「いえ、作るのは好きなので」
小さな頃から自分のことは自分でするように言われていた。保育園や学校でお弁当が必要なときには、小さい頃は買ったものを持たされて、少し育ってからはお金だけ渡されて自分で買えと言われた。
真っすぐに真珠を見詰めて来る黒い目が、真珠には眩しかった。
こんな風に誰かに真っすぐに見詰められたことなどあっただろうか。
毎朝、車で月神の家に行ってお弁当を受け取って、昼にお弁当箱を開ける。
可愛らしいタコさんウインナーや、花形に抜いた野菜、オムライスで作った猫や犬にケチャップで顔を描いたもの、サンドイッチのときもあった、かつ丼のときもあった。
全て真珠が教えて来たのだが、作ってもらったお弁当というのは美味しくて、真珠の力になっていた。
真珠は『遺跡管理課』という役所の課の課長で、大昔から残る遺跡、つまりはダンジョンに生息する魔法生物が町に出てこないように、魔法兵器が町に出回らないように、遺跡を管理するのが仕事だった。
普段は真珠が気を付けているので、定時で帰れる部署として有名だったのだが、一度遺跡で問題が起こるとそれどころではなくなる。
魔法生物が遺跡から溢れ出したときなど、弓式のレールガンを持って対応に当たった。
役所に泊まり込みで、食べるものも寝るのも疎かにして、ひたすら仕事仕事の日々に、届けられる月神のお弁当は荒れた真珠の心を一瞬だけでも安らげた。
癒しの力があると魔法解析されている月神の歌をスマートフォンで流して、癒されつつ食べるお弁当の美味しいこと。それがなければ真珠は折れるまではいかないが、相当心が荒れていたに違いない。
魔法生物の大発生を抑えて、ようやく帰れると思ったときに、そのまま家に帰らずにピアノバーに寄ったのは、嫌な予感がしたからだった。
ピアノバーでピアノを弾いている旭を見知った相手が強引に口説いている。
「美人ですね。俺とイイコトしませんか? 天国を見せてあげますよ?」
「天国……」
「気持ちいいこと、好きでしょ?」
男なら、誰でも。
ねっとりとした視線を旭に向けているのは、仕事はできるが私生活が酷いという噂の部下、安増だった。
「そのひとは私の幼馴染です。何か用でも?」
「ひぃ!? か、課長!?」
職場では『血塗れ雷帝』なんて笑える呼び名で恐れられている真珠が声をかけると、安増は飛び上がって逃げて行った。
「天国……叶さんに会えたかな?」
「酔ってるの、あさちゃん? そういう意味じゃないわよ?」
「私も天国に行きたい……」
「何言ってるの! あなたにはつぐちゃんがいるでしょう!」
月神を置いて死んでしまいたいなどと口にする旭に怒りを覚えていると、旭がそのままピアノに突っ伏して倒れてしまう。倒れた旭を、アルコールは飲んでいなかったので、真珠は車で家まで送って行った。
玄関で靴を脱がせて、ベッドに運ぶと旭は眠り込んでいる。
深夜なのに起きて待っていた月神が申し訳なさそうに俯いている。
「すみません、父がご迷惑をおかけして」
「あさちゃんのことは小さい頃から知ってるもの、気にしなくていいのよぉ。叶さんが亡くなったのが堪えているんでしょうね」
「そうだと思います……」
「つぐちゃんだって、悲しいし、つらいのに、ダメな父親よね」
笑って言うと、月神の黒い目が潤んだような気がした。つらいのは月神も同じなのに、悲しみを分かち合うことのできない不器用な父子に同情する。
「お茶でも飲んでいきませんか?」
「あたしにまで気を遣わなくていいわよ。夜遅いんだから、つぐちゃんも寝ないといけないでしょう」
「そうですけど……」
お暇しようと玄関で座って靴を履いていると、うなじ辺りに痛みが走った。
驚いて振り向くと、月神が真珠のうなじに噛み付いている。
その赤く光る瞳、尖った犬歯、真珠は見覚えがあった。
「まずい……!?」
「え!? つぐちゃん!?」
「ご、ごめんなさい。なんで、僕、真珠さんの血を飲んじゃったんだろう」
真珠の血は魔族や獣人、妖精種の力を高める効力があるので、普段は使わないが、遺跡関係でトラブルが起きると真珠は嫌々ながら血を提供していた。
それも手首からとかで、首筋から吸わせたことはない。
うなじに噛み付かれるなんて、真珠も驚いていた。
「つぐちゃん、あなた、吸血鬼だったの!?」
「そ、そんな……」
記憶にある限り、旭と叶は人間だったはずだ。人間同士の子どもで吸血鬼は生まれない。
「吸血鬼だったとしても、つぐちゃんはつぐちゃんだわ。ちょっと、あさちゃんに聞いてみましょうね。つぐちゃんもこのままじゃ不安でしょう?」
「真珠さん、疲れてるのに、いいんですか?」
「つぐちゃんのことを放っておけないわよ。それに、明日と明後日は休みを入れたから安心して」
このことを解決するまでは月神も安心できないだろうし、旭に何か秘密があるのならば親友として真珠も聞いておきたかった。
旭を叩き起こして問いかけてみるが要領を得ない。
「つぐちゃんが、あたしの血を吸ったのよ。目も赤くなってて、犬歯も尖ってた! どういうことなの?」
「しらない」
「だから、つぐちゃんはなんで吸血鬼なの?」
「……」
元から口数が少なくて、ピアノ以外で感情表現を苦手とする旭にどれだけ聞いてもそれ以上の答えが出てこない。
これは時間をかけてじっくりと聞くしかないのかもしれない。
それには時間が遅すぎる。日付はとうに変わっていた。
「母が死んでからいつもこんな感じなんです。飲まないと眠れないって」
「これは、明日聞いた方がいいわね。つぐちゃん、今日は泊めてもらえる?」
「いいんですか!?」
「あさちゃんは学生の頃から知っているもの。つぐちゃんの一大事に力になってあげられないようなあたしじゃないわ」
それが月神のためなのか、自分のためなのか分からないまま、真珠は月神の家に泊まって旭に真相を問うことにしていた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる