龍王陛下は最強魔術師の王配を溺愛する

秋月真鳥

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三章 甥の誕生と六年目まで

4.子睿の婚約

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 最近閨の回数が多い気がするが、ヨシュアも負担ではないし、龍王も終わった後は疲れ切って眠ってしまうが朝にはすっきりと起きてくるのでヨシュアはそれを受け止めていた。

 法の裁きは司法長官、税は税務長官、政治は宰相と四大臣家にほとんど任せるようになった龍王だが、やらなければいけないことはまだまだ残っていた。
 毎朝夜明け前に起き出してヨシュアと一緒に祈ること。これがなければ志龍王国が豊かな国土を保っていられない。
 祈った後は少し休んで朝餉にして、ヨシュアと今日の予定を話し合う。

 最近の話題は龍王の従兄弟の子睿のことだった。
 二十歳になっている子睿はそろそろ結婚を考えなければいけない年齢だった。
 まずは婚約からなのだが、国中の貴族が子睿の相手に注目している。それも王族が龍王と梓晴と俊宇と子睿だけになってしまって、その中で結婚していない適齢期の王族といえば子睿しかいないのだ。
 しかも子睿は王族に相応しく龍の姿になれるし、水の加護も操れる。
 龍王に万が一のことがあれば、俊宇が龍王を継げる年になるまでは子睿が仮の龍王として立って、俊宇成人の後に龍王を譲るということまで決まっている。
 そんな子睿の結婚相手探しは難航していた。

ガオ家からは梓晴が浩然を婿に取っているから嫁を貰うことはできない。ヤン家の令嬢はまだ十二歳で年齢的に離れすぎている。ヂュ家の令嬢は十九歳でちょうどいいし、新しく四大臣家に入ったフー家の令嬢も二十一歳で悪くはない年齢なのですよね」
「問題は子睿殿下の御意思だな」
「王族なので政略結婚は免れないでしょう」
「子睿殿下は王族だが、平民の育ちだから」

 そうなのだ。
 子睿は志龍王国の王族だが、両親が子睿が生まれたころに龍王の毒殺を企んで捕まり、両親は処刑、子睿はハタッカ王国へ追放となり、ハタッカ王国の平民の子どもとして育ったのだ。
 王族としての教育を施して三年目になるが、まだ完全ではない。生まれてから十七年、平民として暮らしていたのだからその感覚が強くても仕方がない。

「子睿の意思を確認するためにお見合いをさせてみますか」
「お相手との相性もあるからな」

 ヨシュアは龍王の提案に頷いた。

 子睿と朱家の令嬢との見合いは、王宮で行われた。
 美しい薄紅色の衣装に身を包んだ長い黒髪の小柄な女性がやってきて、子睿に挨拶をする。

「子睿殿下、朱家から参りました。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
「子睿です、初めまして」

 緊張している子睿も煌びやかな王族の衣装を着て対応している。
 最初は龍王とヨシュアも同席したが、二人だけで話す時間も必要だろうと、二人に庭を一緒に歩いてくるように告げて、部屋で待っていた。

 戻ってきた子睿は微妙な顔をしていたし、朱家の令嬢も何とも言えない顔をしていた。
 朱家の令嬢が帰った後で龍王とヨシュアは子睿に感想を聞いてみた。

「このご令嬢はどうだった?」
「お気に召しましたか?」
「あの……こんなことを言うのは不敬なのかもしれませんが……」
「あのご令嬢よりも子睿の方が身分は上なのだ。不敬などない。なんでも言ってくれ」
「『わたくしは愛されなくても平気です。ですが、子どもは欲しいので褥は共にしてくださいませ』と言われました」

 一瞬、龍王の顔が苦み走ったのが分かった。
 これは龍王のせいでしかなかった。ヨシュアも苦笑するしかない。

 龍王はヨシュアと初めて出会ったときに告げた。

――わたしは、あなたを愛するつもりはない。褥も共にするつもりはない先に言っておいた通りだ。

 ここから始まった龍王とヨシュアの関係は、ラバン王国では演劇にまでなって、歌と踊りで大人気になっているという。異国のラバン王国でそうなのだから、志龍王国で知られていないはずがなかった。

「それは、わたしが悪いな」
「やはり、龍王陛下が仰ったことをわたしも言うと思われているのですね……」

 沈痛な面持ちの龍王に、子睿も目を伏せて俯いていた。

「美しく淑やかで、わたしにはもったいないような女性でしたが、恐らく、この見合いは断られると思います」

 子睿の考え通りに、数日後に朱家から、令嬢は病にかかったので王族と結婚するには相応しくないと謝罪が届いた。仮病なのだろうと思っていたが、子睿の方も乗り気ではなかったようなので、龍王はそれを受け取り、見合いはなかったこととされた。

 胡家の令嬢も同じようなものだった。
 やはり、「わたくしを愛さないと仰るのでしょう? いいのです。わたくしは子どもを産む義務さえ果たせれば」と告げる令嬢に、子睿がうまく対応できず、胡家の令嬢も病を患ったとして、療養させるために別の地方に行かなければいけないと見合いはなかったことにしてほしいと謝罪が入った。

「星宇……」
「わたしが悪かったと思っています。でも、こんなことってありますか」

 青陵殿に戻って声を掛けたヨシュアに、龍王は頭を抱えていた。
 あの言葉は王族の真意のように語られているようなのだ。それを真に受けて子睿に告げた朱家の令嬢も胡家の令嬢も、うまく子睿が対応できなかったので結婚を拒んだようなのだ。

「大事な従兄弟の結婚にまで影響を及ぼすとは思っていませんでした……」
「四大臣家の令嬢だったからかもしれない。いかにも政略結婚という感じがよくなかったのかも」
「それでは、他の貴族の中から探しますか?」
「その方がいいかもしれない」

 身分は低くても構わないので子睿と添い遂げるつもりのある貴族の令嬢を探していたが、なかなか見つからなかった。
 そのときに、子睿の方から申し出があった。

「どこのご令嬢か分からないのですが、王宮の庭で迷ってわたしの離れの棟の庭の家庭菜園まで来てしまった方がいるのです。その方は美しい衣装を纏っていました。身分のそれなりに高い方だと思ったのですが、菜園を見て、『このお野菜は美味しそうですね』とか『見事に実っていますね』とわたしが龍王陛下の従兄弟の子睿だとは気付かずに話しかけてきたのです」

 畑仕事をするときには子睿は庭師と変わらない服装をしている。
 庭師の一人だと思われたのだろう、子睿に親し気に話しかけてきた令嬢。
 その令嬢を探すことになった。

 最近宮廷に来た令嬢といえば、貴族の中で高位に当たるマー家の令嬢が来ていたことが分かった。
 その令嬢は宰相に呼び出されたのだという。

 龍王とヨシュアは宰相に話を聞くことにした。

「馬家の令嬢はどうして王宮に来ていたのだ?」

 龍王の問いかけに宰相が声を潜めて伝える。

「実はその令嬢が龍の本性に戻れる先祖返りだったことが分かりまして、馬家とは関わりの深い高家のわたくしが話を伺っていたのです」
「その令嬢は龍の本性になれるのですか?」
「はい、そのようでした。わたくしも姿をきちんと確かめたわけではありませんので分かりませんが」

 ヨシュアが確認すると宰相は頭を下げて答える。
 龍の本性になれるような令嬢ならば王家に嫁いでくるのには相応しいと考えられるが、馬家はその令嬢を隠しているようだった。

 龍王から馬家に書状が行くと、怯えた様子で「娘はちゃんとした教育も受けておりません。どうかお許しください」と伝えてくるのに、強引に龍王が見合いを取り付けた。
 おずおずとやってきたのは黒髪に赤い珊瑚の簪をさしてやってきた小柄な女性だった。

「馬家の麗夏リーシアと申します。わたくしなどが尊い王家に相応しくはございません」

 深く頭を下げて逃げ出しそうな様子の麗夏に子睿が歩み寄る。

「わたしを覚えていませんか?」
「あなたは、王宮の庭師……いえ、子睿殿下だったのですか!?」
「わたしは両親が龍王陛下を暗殺しようとした罪で、ハタッカ王国で平民として暮らしていました。王族としての子睿も、庭で菜園を作っていた子睿も、どちらもわたしです」

 その言葉に麗夏は安堵したように微笑む。

「わたくし、小さなころから土いじりが大好きで、庭で野菜を育てていました。わたくしが手を翳すと、土が濡れて豊かになるのです。しかし、その力は王族しか持っていてはいけないものだと両親からは土いじりを止められて、家から出ることも許されず、わたくしはいないものとして扱われてきました」

 王族と同じ力があると目を付けられれば麗夏は政治的に利用されてしまっていただろう。それを止めるためだったのだろうが閉じ込められた麗夏はずっと寂しい暮らしをしていたようだ。

「両親が宰相閣下にわたくしを会わせたのも、どうにかしてこのことを知られずにわたくしをどこか遠くにやってしまおうと思ってのことでした。王族以外がこんな力を持っているなど、恐れ多いことだと」
「王族になってしまえばいいのです。どうか、わたしと結婚してくださいませんか。一緒に菜園で野菜を育てましょう」
「わたくし、そんなことを望んでもいいのですか?」

 涙ぐむ麗夏に子睿がその華奢な手を取っている。
 どうやら子睿は麗夏が気に入った様子だった。

「本来ならば力が発現した時点で王家に伝え、保護されるべきだった。それを怠ったのは馬家の罪だが、それは問わないでおこう。麗夏、子睿との結婚を受けてくれるか?」
「お受けいたします」

 龍王と同じ力を弱いとはいえ持っているのならば、王家に保護されてしかるべきだった麗夏。それが子睿の結婚相手となるならば、何の問題もない。

 無事に子睿の結婚相手が決まって、馬家のものも呼ばれて、子睿と麗夏の婚約の儀が行われた。
 貴族の令嬢として最低限の教育しか受けていなかった麗夏は今後王族としての教育を受けるために赤栄殿に移り住むことになったが、子睿も一緒に暮らして、赤栄殿から両親の菜園に行って野菜を一緒に育てるという約束をして仲睦まじい様子だった。
 ヨシュアは龍王の胸にあった心配事が一つ減ったのを純粋に喜んだ。
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