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二部 晃と霧恵編
弱いアルファでいいですか? 9
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幼い頃から両親には放置されていたために、晃に抱っこされた記憶などない。ものすごく小さな頃は抱っこしなければどうしようもなかったのだろうが、物心つく頃には、両親はすっかりと晃から興味を失っていた。
生まれながらにアルファらしきオーラを持っていて、晃が生まれた年に受けたバース性検査ではっきりとアルファと判明した、本家の従姉の玲。現代の医学ではバース性は5歳くらいから判明するのに、あまりにもアルファの因子が弱くて、晃のバース性がアルファと判明したのは10歳だった。それまで両親は完全に晃を見放していた。
「霧恵さん……抱っこしてくれた」
ベッドで眠っている霧恵の胸に顔を埋めて、その香りを嗅ぎながら晃は小さく呟いて目を閉じる。抱き締めてくれる、抱き上げてくれる、顔中にキスをしてくれる、ご飯の心配をしてくれる、怖いことがあったら助けに飛んできてくれる、晃が情けなく泣いていても怒らずに優しく話を聞いてくれる。
こんなひとがお母さんだったらいいのに。
思わず口に出た言葉に偽りはなかった。その言葉を聞いてお母さんでは困ると笑った霧恵は、晃に考えていたよりもずっとたくさんのものを渡してくれた。
「チワワのままじゃ、あかん」
一生従姉の女帝の玲には敵う気はしないが、師範代に匹敵するという実力のあると言われた晃である、他のアルファから霧恵を守るくらいのことはできなければいけない。結婚はまだ無理だが、霧恵は晃の番で、飼い主なのだから。
「霧恵さん、朝ご飯できとるで。先に走りに行く?」
「今日は腰が立つのね。いいわ、走りましょう」
愛犬のミナが生きていた頃は散歩コースだったという、マンションの近くの運動公園でまず軽く柔軟をしてから、ランニングをする。霧恵のペースは早いが、晃は毎日一緒に走っているのでついていけないほどではない。2日続けてのお楽しみで、若干腰が怠かったりしたが、無事にランニングを終えて、仕上げの柔軟をして家に戻る。
バスルームでシャワーを浴びるのも一緒。
見事に鍛え上げられた身体に、豊かな乳房、引き締まった腰、しっかりとボリュームのあるお尻と、魅力的すぎる霧恵の裸に勃起しそうになったが、素数を数えて誤魔化した。
朝ご飯は和食だったので、味噌汁を温め直して、ご飯と、半熟卵と、納豆と、きゅうりと人参と大根の糠漬けと一緒に食べる。お弁当も和食で、野菜とタンパク質多めに作った。
「今日くらい外食でも良かったのに」
「霧恵さん、外食好きやないやろ? 金曜の夜にレストラン行ったから、あれで充分や」
仕事は休みで、今日はジムに行って鍛えるだけなので、お弁当はなしで外食でもいいと霧恵は言ってくれるが、体型を維持するために霧恵が食事も気を付けているし、鍛えているのも知っているので、手間は惜しまなかった。
「それに、お料理上手な番やって、思って欲しいやん?」
「うちに来てから、随分上手になったわよ、チワワちゃん」
ご褒美のように額にキスをされて、晃は真っ赤になってしまった。片側にスリットの入ったタイトなワンピースにジャケットを羽織った霧恵は、際どいが上品な印象を抱かせる。
「ジムまで時間があるから、デートしましょ。体力はある?」
「お伴します」
「わん」と鳴いて付いていく晃も、霧恵が選んだ涼しげなカットソーに細身のパンツ、ロングカーディガンという出で立ちだ。買ってもらったときにはその値段に仰天したが、霧恵の隣りを堂々と歩ける今となっては、相応しい格好を選んでもらって良かったと感謝する。首のチョーカーも大事な霧恵からの贈り物なので、番になっても外す気はなかった。
「服の代金も、家賃も、バイト代が入るようになったから、ちょっとずつでも返したいんやけど」
アシスタントのバイトを始めてから、カフェの時給とは比べ物にならないくらいの額を晃はもらっていた。大学卒業後には、事務所に就職しないかと多忙なマネージャーからはお願いされているくらい重宝されて、頼りにされているのも嬉しい。
ずっと霧恵のそばにいられるから、マネージャーになりたいのは山々なのだが、両親から引き離して適切な距離を取らせてくれた、世界で一番怖い従姉が、「オメガのお薬とかも開発できるんやろ?」と悪い笑顔で圧を掛けてくるので、就職は製薬会社の開発部に決まったようなものである。
「過去のことは忘れなさい。それよりも、自分の欲しいものを買うとか、プレゼントするとか、好きに使ったら良いのよ。あたしに、アナタ好みのもの、着けさせてもいいのよ?」
甘く響く霧恵の声に、晃はポーッとして突っ立ってしまう。
誰の色にも染まらないイメージの霧恵は、モデルだが、何を着せられても、どんなコンセプトで撮影されても、『舞園霧恵』という存在感を失わない。商品を目立たせなければいけない撮影では、選ばれないことが多いが、オメガの人権を守るためや、オメガの抑制剤の浸透を推進するポスターなどでは、大活躍していた。
モデルだけではなく、オメガのモデルを総括する事務所の社長も兼ねているし、オメガの緊急の駆け込み場所にもなるバーのオーナーもしている霧恵は、相当のやり手である。その匂いがべったりと付いていて、所有の証にチョーカーも着けている晃が狙われるはずがない。
そんなすごい相手が、晃の選んだものを身に付けてくれると言ってくれている。
「あ、アクセサリー売り場に、行きたいです!」
「良いわよ。楽しみだわぁ」
「し、下着、売り場も」
見える場所を飾りたいという思いと、霧恵が自分のために着けてくれる下着を選びたいという下心を素直に口にすると、笑いながら霧恵はついてきてくれた。
預金残高をよく考えて、アクセサリー売り場ではターコイズのイヤリングと、ラピスラズリのバレッタで、晃は長く考え込んでしまった。どちらも霧恵のイメージの青なのだが、どちらともを買って仕舞えば、下着を買う資金がなくなる。
「悩んでる顔も可愛いわぁ」
待たせている間退屈かと思いきや、霧恵は霧恵で楽しんでいるようだった。今回はターコイズのイヤリングを買って、プレゼント用に包んでもらって、次に行った下着売り場は、通常ならば照れて入ることもできないが、震えるチワワではなく、ロットワイヤーかワイマラナーになった気分で、気合いを入れて挑んだ。
後ろが紐になったような際どいものや、刺繍で胸の尖りだけ隠すようなものに、鼻血が出そうになりつつ、霧恵にサイズを教えてもらって、黒字に青い薔薇の刺繍された下着を買った。
「これ、受け取って、くだしゃい」
「良いけど、アナタも、これね?」
「ふぁ!?」
必死に晃が選んでいた間に、霧恵も下着売り場で何か選んでいたようだった。受け取ったリボンのついた包装の中身が、ひらひらのフリルの純白のブラジャーと下着のセットだなんてことを、晃が知るはずもなく、「ありがとうございます」といつも物を買ってもらう要領で受け取ってしまった。
お弁当はジムの後で、シャワーを浴びて家で遅めの昼食にする。
「家に戻るんやったら、お弁当やなくても良かったなぁ」
「作る手間が省けたじゃない」
それだけ空いた午後をたっぷり楽しめると言われて、晃は真っ赤になった。食後にはジムで流した汗をシャワーを浴びて綺麗にして、霧恵があの下着を着けてくれる。考えただけで期待する下半身が張り詰めて苦しくなる。
「一緒に浴びるでしょ?」
バスルームに招かれて、されるがままに体を洗われて、髪も洗われた。こんなことも、晃にとっては覚えている限り初めてだ。
「霧恵さん、俺にもさせてぇ?」
「あたしの髪、長いから大変よ?」
教えてもらって霧恵の髪を洗って、トリートメントまでして、脱衣所に出たところで、晃は固まってしまった。霧恵の着るはずの下着の隣りに、晃のための純白のフリルの下着が置いてある。
「俺、これ、着るの?」
「アナタ好みのを着てあげるって言ったけど、あたし好みのを着せないとは言ってないわよ? 嫌なら良いのよ」
際どい下着を着けて髪を乾かし始めた霧恵に挑発的に言われて、晃はそのスケスケの下着を手に取った。霧恵に渡したものと同じく、着けていない方がマシなくらいの布面積しかない。
「あきらくんのあきらくんが、はみ出てまうで?」
「それも可愛いわよ」
ころころと笑う霧恵に、晃は一生勝てない気がしたが、その一生をずっと一緒に過ごせるのならば、勝てなくても幸せだと感じていた。
生まれながらにアルファらしきオーラを持っていて、晃が生まれた年に受けたバース性検査ではっきりとアルファと判明した、本家の従姉の玲。現代の医学ではバース性は5歳くらいから判明するのに、あまりにもアルファの因子が弱くて、晃のバース性がアルファと判明したのは10歳だった。それまで両親は完全に晃を見放していた。
「霧恵さん……抱っこしてくれた」
ベッドで眠っている霧恵の胸に顔を埋めて、その香りを嗅ぎながら晃は小さく呟いて目を閉じる。抱き締めてくれる、抱き上げてくれる、顔中にキスをしてくれる、ご飯の心配をしてくれる、怖いことがあったら助けに飛んできてくれる、晃が情けなく泣いていても怒らずに優しく話を聞いてくれる。
こんなひとがお母さんだったらいいのに。
思わず口に出た言葉に偽りはなかった。その言葉を聞いてお母さんでは困ると笑った霧恵は、晃に考えていたよりもずっとたくさんのものを渡してくれた。
「チワワのままじゃ、あかん」
一生従姉の女帝の玲には敵う気はしないが、師範代に匹敵するという実力のあると言われた晃である、他のアルファから霧恵を守るくらいのことはできなければいけない。結婚はまだ無理だが、霧恵は晃の番で、飼い主なのだから。
「霧恵さん、朝ご飯できとるで。先に走りに行く?」
「今日は腰が立つのね。いいわ、走りましょう」
愛犬のミナが生きていた頃は散歩コースだったという、マンションの近くの運動公園でまず軽く柔軟をしてから、ランニングをする。霧恵のペースは早いが、晃は毎日一緒に走っているのでついていけないほどではない。2日続けてのお楽しみで、若干腰が怠かったりしたが、無事にランニングを終えて、仕上げの柔軟をして家に戻る。
バスルームでシャワーを浴びるのも一緒。
見事に鍛え上げられた身体に、豊かな乳房、引き締まった腰、しっかりとボリュームのあるお尻と、魅力的すぎる霧恵の裸に勃起しそうになったが、素数を数えて誤魔化した。
朝ご飯は和食だったので、味噌汁を温め直して、ご飯と、半熟卵と、納豆と、きゅうりと人参と大根の糠漬けと一緒に食べる。お弁当も和食で、野菜とタンパク質多めに作った。
「今日くらい外食でも良かったのに」
「霧恵さん、外食好きやないやろ? 金曜の夜にレストラン行ったから、あれで充分や」
仕事は休みで、今日はジムに行って鍛えるだけなので、お弁当はなしで外食でもいいと霧恵は言ってくれるが、体型を維持するために霧恵が食事も気を付けているし、鍛えているのも知っているので、手間は惜しまなかった。
「それに、お料理上手な番やって、思って欲しいやん?」
「うちに来てから、随分上手になったわよ、チワワちゃん」
ご褒美のように額にキスをされて、晃は真っ赤になってしまった。片側にスリットの入ったタイトなワンピースにジャケットを羽織った霧恵は、際どいが上品な印象を抱かせる。
「ジムまで時間があるから、デートしましょ。体力はある?」
「お伴します」
「わん」と鳴いて付いていく晃も、霧恵が選んだ涼しげなカットソーに細身のパンツ、ロングカーディガンという出で立ちだ。買ってもらったときにはその値段に仰天したが、霧恵の隣りを堂々と歩ける今となっては、相応しい格好を選んでもらって良かったと感謝する。首のチョーカーも大事な霧恵からの贈り物なので、番になっても外す気はなかった。
「服の代金も、家賃も、バイト代が入るようになったから、ちょっとずつでも返したいんやけど」
アシスタントのバイトを始めてから、カフェの時給とは比べ物にならないくらいの額を晃はもらっていた。大学卒業後には、事務所に就職しないかと多忙なマネージャーからはお願いされているくらい重宝されて、頼りにされているのも嬉しい。
ずっと霧恵のそばにいられるから、マネージャーになりたいのは山々なのだが、両親から引き離して適切な距離を取らせてくれた、世界で一番怖い従姉が、「オメガのお薬とかも開発できるんやろ?」と悪い笑顔で圧を掛けてくるので、就職は製薬会社の開発部に決まったようなものである。
「過去のことは忘れなさい。それよりも、自分の欲しいものを買うとか、プレゼントするとか、好きに使ったら良いのよ。あたしに、アナタ好みのもの、着けさせてもいいのよ?」
甘く響く霧恵の声に、晃はポーッとして突っ立ってしまう。
誰の色にも染まらないイメージの霧恵は、モデルだが、何を着せられても、どんなコンセプトで撮影されても、『舞園霧恵』という存在感を失わない。商品を目立たせなければいけない撮影では、選ばれないことが多いが、オメガの人権を守るためや、オメガの抑制剤の浸透を推進するポスターなどでは、大活躍していた。
モデルだけではなく、オメガのモデルを総括する事務所の社長も兼ねているし、オメガの緊急の駆け込み場所にもなるバーのオーナーもしている霧恵は、相当のやり手である。その匂いがべったりと付いていて、所有の証にチョーカーも着けている晃が狙われるはずがない。
そんなすごい相手が、晃の選んだものを身に付けてくれると言ってくれている。
「あ、アクセサリー売り場に、行きたいです!」
「良いわよ。楽しみだわぁ」
「し、下着、売り場も」
見える場所を飾りたいという思いと、霧恵が自分のために着けてくれる下着を選びたいという下心を素直に口にすると、笑いながら霧恵はついてきてくれた。
預金残高をよく考えて、アクセサリー売り場ではターコイズのイヤリングと、ラピスラズリのバレッタで、晃は長く考え込んでしまった。どちらも霧恵のイメージの青なのだが、どちらともを買って仕舞えば、下着を買う資金がなくなる。
「悩んでる顔も可愛いわぁ」
待たせている間退屈かと思いきや、霧恵は霧恵で楽しんでいるようだった。今回はターコイズのイヤリングを買って、プレゼント用に包んでもらって、次に行った下着売り場は、通常ならば照れて入ることもできないが、震えるチワワではなく、ロットワイヤーかワイマラナーになった気分で、気合いを入れて挑んだ。
後ろが紐になったような際どいものや、刺繍で胸の尖りだけ隠すようなものに、鼻血が出そうになりつつ、霧恵にサイズを教えてもらって、黒字に青い薔薇の刺繍された下着を買った。
「これ、受け取って、くだしゃい」
「良いけど、アナタも、これね?」
「ふぁ!?」
必死に晃が選んでいた間に、霧恵も下着売り場で何か選んでいたようだった。受け取ったリボンのついた包装の中身が、ひらひらのフリルの純白のブラジャーと下着のセットだなんてことを、晃が知るはずもなく、「ありがとうございます」といつも物を買ってもらう要領で受け取ってしまった。
お弁当はジムの後で、シャワーを浴びて家で遅めの昼食にする。
「家に戻るんやったら、お弁当やなくても良かったなぁ」
「作る手間が省けたじゃない」
それだけ空いた午後をたっぷり楽しめると言われて、晃は真っ赤になった。食後にはジムで流した汗をシャワーを浴びて綺麗にして、霧恵があの下着を着けてくれる。考えただけで期待する下半身が張り詰めて苦しくなる。
「一緒に浴びるでしょ?」
バスルームに招かれて、されるがままに体を洗われて、髪も洗われた。こんなことも、晃にとっては覚えている限り初めてだ。
「霧恵さん、俺にもさせてぇ?」
「あたしの髪、長いから大変よ?」
教えてもらって霧恵の髪を洗って、トリートメントまでして、脱衣所に出たところで、晃は固まってしまった。霧恵の着るはずの下着の隣りに、晃のための純白のフリルの下着が置いてある。
「俺、これ、着るの?」
「アナタ好みのを着てあげるって言ったけど、あたし好みのを着せないとは言ってないわよ? 嫌なら良いのよ」
際どい下着を着けて髪を乾かし始めた霧恵に挑発的に言われて、晃はそのスケスケの下着を手に取った。霧恵に渡したものと同じく、着けていない方がマシなくらいの布面積しかない。
「あきらくんのあきらくんが、はみ出てまうで?」
「それも可愛いわよ」
ころころと笑う霧恵に、晃は一生勝てない気がしたが、その一生をずっと一緒に過ごせるのならば、勝てなくても幸せだと感じていた。
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