俺は貴女に抱かれたい

秋月真鳥

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一部 玲と松利編

猫を助けたら美女に嫁に貰われた件 5

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 猫を助けた日から3ヶ月経って、子猫たちは離乳もほぼ終わり、もりもりと子猫用のキャットフードを食べている。引き継ぎその他のために直ぐには仕事は辞められなかったが、結婚をするといえば、会社は松利を引き止めなかった。
 アルファの事情に疎い松利はよく知らないが、都築道場といえば、日本で長く続いている武芸の道場で、その系列の道場が日本中にあるらしい。その頂点が玲が師範代を務める都築道場だった。
 代々、都築道場のアルファは、強い子を産めるオメガを求める。逞しく厳つい体格の松利は、それに合っていたようで、「結婚して名前が都築に変わるんですよ」と説明すれば、「頑張って」と仕事を辞めた後の応援までされた。
 同居を決めてから籍も入れて、松利の苗字は都築になっていたし、結婚式は次の発情期で妊娠するかによって松利の負担がないようにしようと言ってくれていて、新生活は順調すぎるくらいだった。

「まだ胃袋が小さくて、一回に食べられる量が少ないから、3~4回に分けてご飯あげるんですね」
「この子ら、食い助やから、『食べてません』って顔でおねだりしてくるけど、騙されたらあかんで。ちゃんと時間は守って食べさせすぎんようにせな」

 食べ過ぎるとお腹を壊すし、肥満の原因にもなるので、適量をと言われて、松利は冷蔵庫に掛けてあるホワイトボードの『2回目、餌やり』の項目に、『松利』とサインを入れた。
 発情期の次の日から、玲の言葉に甘えて、松利は玲の家に住んでいる。

「お嫁さんを迎えに行ってくるから」

 そう言って勇ましく出かけて行った玲が、松利を連れて帰って来たのに、操はすごく喜んでくれた。
 操と松利と玲の共同生活は、まだ会社に時々顔を出さなければいけない松利と、道場で指導しつつ家のことも戻ってやってくれる玲と、小学生で帰りの早い日もある操で、かなり生活時間がずれる日もある。そういう日に、猫たちの餌やりがどうなっているのか分からなくならないように、冷蔵庫にはチェック用のホワイトボードが掛けられた。
 ついでに、松利、玲、操のその日の帰宅時間も、朝出かけるときに書いている。
 予定が変わったり、猫たちの様子がおかしかったりしても、そこに書いて家族で共有するようにしていた。
 道場の昼休憩で戻ってきた玲と、会社に出勤しなくていい日で自分にもらった部屋を片付けていた松利は、玲の作った冷やし中華で昼食にしていた。胡麻油の香る特製のタレが美味しい。

「玲さんって、本当にお料理上手ですよね」
「うちも食い助なんや。美味しいもん、食べたかったら、自分で作るのが一番やからね」

 引き取った操を連れて、あまり外食もできないし、アルファは目立つので外食をすると声をかけられたり面倒なことにもなる。だから、自然と美味しいものを食べるために料理を覚えたのだという。

「俺は自炊、かなりサボってたから、これからまた頑張りますね」
「松利さんのご飯も好きやで。あったかい、家庭の味がする」

 朝ごはんのお味噌汁、ふんわりと焼いた卵焼き、そういうものが玲とは味が違うらしく、操も「今日は松利さんの朝ごはんが良いです!」とリクエストしてくれたりする。
 作品はある程度作りためてから売りに出すつもりだが、営業をしていた頃の知り合いの友人がアクセサリーショップを営んでいるということで、そこに置かせてもらう約束もできていた。
 生活だけでなく仕事の準備も問題なく進んでいる。
 一つだけ懸念があるとすれば、妊娠と出産のことだが、次の発情期は2か月後で、抑制剤ももうやめているので、十分妊娠できる状態になると医者からは言われている。玲が望んでくれて、松利も欲しくてたまらないのだが、年齢的にも34歳で高齢出産になるので心配でもあった。

「道場に戻るさかい、食器の片付け、頼んでもええ?」
「やっておきますよ、行ってらっしゃい、玲さん」
「汗臭かったらごめんな」

 抱き締め合って口付けて、玲を送り出して、松利はシンクに立った。軽く食器は水で流して、食洗器に入れるだけで洗ってくれる。家事は分担しているが、松利だけ、玲だけが大変になることもなく、玲はよく気を配ってくれていた。
 赤ん坊の件に関しても、玲ははっきりと松利に言ってくれた。

「赤さんは授かりもんや。できんでも、松利さんのせいでも、うちのせいでもない。それに、うちにはもうみぃちゃんっていう後継者がおるから、松利さんはなぁんも心配せぇへんでええよ」

 はっきりとした態度に、松利は玲に惚れ直したし、尚更、玲の赤ん坊が欲しくなってしまった。
 前の発情期では抑制剤を飲んでいたので、妊娠していないことは確認している。

「ただいま帰りましたー! 松利さん、ちゃーちゃんとはいちゃんのおやつ、あげちゃいましたか?」

 考え事をしながら部屋を片付けて、刺繍をしていると気が付けば夕方になっていたようだ。かりかりと空腹を訴えて部屋のドアをひっかく子猫たちの訴えも、集中して作業していたので気付いていなかった。

「あげてなーい! 操ちゃん、お願いしていい?」
「はーい! ちゃーちゃん、はいちゃん、おやつですよー」

 この時期にしっかりと食べておかないと体が作れないという子猫たちは、ご飯の気配に松利の部屋の前から操のところに駆けて行った。針や小物など、危険なものがたくさんあるので、松利の部屋には子猫たちは入ってはいけないことになっていて、ドアにも柵がつけてあった。
 柵を開けて、リビングに出て、松利は操のおやつを準備する。
 猫たちのお皿にキャットフードを入れてきた操は、蒸しあがったばかりのサツマイモの蒸しパンにバターを乗せたものに、目を輝かせていた。

「師匠の一番の功績は、松利さんを選んだことですね」
「もう、操ちゃんも食いしん坊なんだから」

 ロイヤルミルクティーをふうふうと吹いて冷まして飲みながら、熱々の蒸しパンに溶けるバターを塗って食べる操は、年相応の顔をしている。これで、同じ学年の道場の門下生どころか、年上の門下生よりも強いというのだから、アルファは侮れない。

「操ちゃんは、俺と玲さんに赤ちゃんができたら、どうする?」
「男の子が良いです! オメガで松利さんに似てたら、結婚します!」
「わお、生まれる前から婚約者ができちゃった」

 元気よく答えてくれる操に、松利の気持ちも明るくなる。
 次の発情期までまだ時間はあるが、できれば赤ん坊が欲しいという気持ちは、日に日に強くなっていくばかりだった。
 操が道場に行ってしまってから、大きな荷物が届いて、それが注文していたキングサイズのベッドだと分かって、松利はサインをして受け取った。部屋まで運ぼうという業者に、子猫がいるし、その程度ならば分解されているので運べると断った。
 急に押しかけて来た状態だったので、体格のいい松利は玲と寝るにはベッドが小さすぎて、客間に布団を敷いて二人で眠っていた。成熟した大人なので、一緒に寝ていると色っぽいこともしたくはなるのだが、操の部屋が近いのと、子猫たちが容赦なく乱入してくるので、ここ一か月はお預け状態だった。
 二人の寝室になる部屋に分解されたベッドを運び込んで、組み立てていると、初めての夜を思い出して胸が高鳴る。発情期でなければ、男性のオメガの松利は妊娠することはないし、後ろが濡れることもないのだが、番になった玲は発情期以外でも松利のフェロモンを感じ取れるらしく、男性器に相当するものが生えるし、二人は抱き合うことができる。
 結婚する番の二人が、愛し合って悪いわけがなかった。
 寝室の入口には、しっかりと子猫たちが入ってこられないように柵がつけてある。
 組み立て上がったキングサイズのベッドは、松利と玲が充分に寝られる広さがある。
 一か月ぶりの甘い夜の予感に、晩ご飯の準備をする間も、松利は落ち着かなかった。
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