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愛してるは言えない台詞 〜つき〜
Paper Moon 3
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赤ん坊ができていても、いなくても、路彦と暮らし始めて三週間目の大事な日、連月は保育園に早めに冴を迎えに行って、路彦にお願いして、晩ご飯の買い物に出かけた。大きめのスーパーに行って、食材を買い込む。
赤ん坊ができていたらそのお祝いになるし、出来ていなければ路彦との二回目の行為に及べる日になるかもしれない。ご馳走を作ってムード作りもしっかりとしなければならない。
家に戻ると路彦が冴の髪に、上品なベロアのリボンに結び目がビジューで飾られた髪飾りを着けていた。連月は冴に子ども用に小さなリボンや、プラスチックの飾りのついた髪飾りはたくさん買ってあげているが、そんな美しいものを買ってあげた覚えはない。そのシンプルで上品なデザインは、路彦の手によるものに違いなかった。
「そ、それ、新作やない? 未発表のやつ?」
「個人的に冴ちゃんに作らせてもらったんです」
「個人的に……えー? 俺にはそんなん、ないのに?」
仕事柄贈り物をされることが多いが、連月は基本的にそれを受け取らない方針にしていた。ファンクラブでも、手紙以外受け付けないことになっている。そういう事情を分かっているから、控えめな路彦は連月ではなく冴に贈り物をしたのかもしれないが、羨ましいものは羨ましい。
大人げなく冴を見ていると、路彦の見ていないところで舌を出されてしまう。
「あの、ビジューの数も少なくして小さくしたんですけど、子どもに高価すぎましたか?」
「そうやないけど」
俺が欲しかった、なんて子どもっぽいことも言えずにいると、冴が追い打ちをかけてきた。
「さえがもらったのです、ししょーにはあげません」
「さぁちゃんのを取ったりせぇへんよ」
長い三つ編みを編んでもらった毛先に付いた髪飾りを胸に抱いて守る冴から、連月といえどもそれを取り上げるはずはない。そもそも、それは冴にと作られたものだ。連月が欲しいのは、路彦が連月にと作ってくれた贈り物だった。
夕食後に冴を眠らせて、路彦は妊娠していないことを告げた。
家に戻るなんてさせない。
もっと自分に溺れてもらわなければいけない。
口では拒むようなことを言うのに、逞しい胸を撫でれば甘い吐息を漏らし、唇を重ねれば路彦の琥珀色の瞳は快楽に潤む。
「なぁんも、聞いてへん。目の前にこんなかわええ御人がおって、俺を誘うのに、話なんかしてられへんよ?」
「誘って、なんか……んっ!」
逃がしなどしない。
シャツの上から胸の尖りをいやらしく指で捏ねれば、路彦の唇から嬌声が漏れた。連月が路彦を求めているように、路彦も連月を求めてくれている。寝室に手を引いてエスコートして、シーツの上に押し倒しても、路彦は抵抗しなかった。
「避妊、して、くださいね?」
「俺は出来てもええのに」
初めてのときに、連月も経験不足でローションも避妊具も準備していなくて、そのまま身体を繋げてしまったが、翌日路彦は若干きつそうだった。反省を生かして、今回は期待を込めてローションも避妊具も買ってきていた。
シャツを脱がせて、うっとりと鍛え上げられた腹筋を撫でると、目を伏せた路彦が震えるのが分かる。脚の間に身体をねじ込んで、双丘の狭間にたっぷりとローションを垂らして、後孔を指で探る。ぐちゅぐちゅと塗り込めて行くと、路彦の腰が跳ね、甘い声が上がった。
「そこっ、だめぇっ……あぁぁっ!」
「ここ、路彦さんの悦いトコなんやな?」
指を曲げて一点を突けば、とくりと路彦の中心から白濁が溢れた。本格的には達していないが、軽く達しかけたのだろう。
「もうっ、いれて……たつたさん、おねがっ……そこ、だめぇっ!」
指で翻弄されている路彦が、実際に自分を受け入れたらどうなるだろう。初めてのときは余裕がなくて、連月も快楽を追うことしかできなかったが、二度目は路彦を溺れさせるほどに甘やかしたい。
かりりと胸の尖りに噛み付くと、路彦の喘ぎが大きくなった。
「俺が好きやろ? 連って呼んで?」
「れんっ……すきっ、すきぃ、あぁっ、もう、おねがい……!」
切っ先を奥に宛がうと、吸い付くように連月の中心を飲み込もうとしてくる。なんて可愛い素直な身体。弱味を掠めながら最後まで納めると、柔く暖かく締め付けられて、連月は気持ちよさに持って行かれそうになるのを堪えた。
「れん……すき……あぁっ!?」
「可愛い顔で、俺を煽って、悪い子や」
泣きながら連月を素直に求める路彦が愛しくて、手加減ができそうにない。腰を回して最奥を責め立てると、のけ反るように跳ねる路彦の胸に口付けて、舌を這わせ、豊かな大胸筋を揉みしだく。胸への刺激でびくびくと震えた路彦の中心から、白濁が迸る。
「本当に、エロい身体して」
誰にも譲れない。
腰を掴んで激しく動き始めた連月に、路彦は悲鳴に近い嬌声を上げていた。
事後には蒸しタオルで路彦の身体を拭いて、目も腫れないように温めて、連月はその胸に抱き締められて眠る。心からこんな風に安らかに眠れたのは、祖父母が亡くなってから初めてかもしれなかった。
離れがたかったが朝には冴がお腹を減らして起きて来るので、朝の稽古を終えた後朝ご飯を作っていると、寝室で路彦が起きた気配がした。顔が見たくて駆けて行って覗くと、服を着ているところだった。
色の濃い褐色の肌には昨夜の跡はあまり目立たないが、色気のある顔も、僅かに腫れた目元も、連月だけが知っていればいいことだった。
「無理させてしもうたけど、起きられそう? 朝ごはん、こっちに持ってこよか?」
「シャワー浴びて、行きます」
喘ぎすぎて嗄れて掠れた声もセクシーだが、それを他人に聞かせるのには抵抗がある。蜂蜜で柚子を漬けたものにお湯を注いで、柚子湯を作って持って行くと路彦はお礼を言って飲んでくれた。
シャワーを浴び終えた路彦が髪を拭きながらリビングに出てくると、冴が爆弾発言をする。
「みちひこさんは、ししょーのおよめさんになったのですか?」
「さ、さぁちゃん、そ、そんな、単刀直入に」
いずれはそうなりたいが、まだプロポーズもしていないし、路彦にも心の準備があるだろう。連月は今すぐにでも結婚しても構わないのだが。そんな浮かれたことを考えていると、あっさりと否定される。
「立田さんには、もっと素敵な良いお嫁さんが来るよ」
「ししょーのおよめさんにならないなら、みちひこさんは、さえのおよめさんになってください」
「うーん……それは、無理かな」
「ふられました!」
冴が小さな子どもだとはいえ、連月と路彦の関係を隠すことはなにもないのに、路彦は「もっと素敵な」などと言う。連月にとって路彦以上に「素敵なお嫁さん」はいないことを分かってくれない。
「連さんて呼んでて言うてるのに、いつまで経っても立田さんやし、俺が好きやて可愛かったのに、もう素直やないし」
朝ご飯を食べようと準備して、むくれて連月が言えば、路彦は手を合わせて「いただきます」と言ってから、連月から目を反らした。
「今日からは家に帰りますね。仕事も溜まってるし」
「みちひこさん、かえるのですか? つぎはいつきますか?」
「帰るって……昨日その話は終わったはずやない?」
「聞いてもらえませんでしたので」
抱いていいかと誘えば拒まないのに、同棲は解消してしまう。あんなに好きだと言ってくれるのに、夜が明ければ別人のようにクールでドライになってしまう。
年上の恋人が分からない。
初めての恋に舞い上がっているのは連月だけで、もしかして、路彦にとっては遊びだったのだろうか。
嫌な空気が拭えないままに、路彦は家を出て行ってしまった。
赤ん坊ができていたらそのお祝いになるし、出来ていなければ路彦との二回目の行為に及べる日になるかもしれない。ご馳走を作ってムード作りもしっかりとしなければならない。
家に戻ると路彦が冴の髪に、上品なベロアのリボンに結び目がビジューで飾られた髪飾りを着けていた。連月は冴に子ども用に小さなリボンや、プラスチックの飾りのついた髪飾りはたくさん買ってあげているが、そんな美しいものを買ってあげた覚えはない。そのシンプルで上品なデザインは、路彦の手によるものに違いなかった。
「そ、それ、新作やない? 未発表のやつ?」
「個人的に冴ちゃんに作らせてもらったんです」
「個人的に……えー? 俺にはそんなん、ないのに?」
仕事柄贈り物をされることが多いが、連月は基本的にそれを受け取らない方針にしていた。ファンクラブでも、手紙以外受け付けないことになっている。そういう事情を分かっているから、控えめな路彦は連月ではなく冴に贈り物をしたのかもしれないが、羨ましいものは羨ましい。
大人げなく冴を見ていると、路彦の見ていないところで舌を出されてしまう。
「あの、ビジューの数も少なくして小さくしたんですけど、子どもに高価すぎましたか?」
「そうやないけど」
俺が欲しかった、なんて子どもっぽいことも言えずにいると、冴が追い打ちをかけてきた。
「さえがもらったのです、ししょーにはあげません」
「さぁちゃんのを取ったりせぇへんよ」
長い三つ編みを編んでもらった毛先に付いた髪飾りを胸に抱いて守る冴から、連月といえどもそれを取り上げるはずはない。そもそも、それは冴にと作られたものだ。連月が欲しいのは、路彦が連月にと作ってくれた贈り物だった。
夕食後に冴を眠らせて、路彦は妊娠していないことを告げた。
家に戻るなんてさせない。
もっと自分に溺れてもらわなければいけない。
口では拒むようなことを言うのに、逞しい胸を撫でれば甘い吐息を漏らし、唇を重ねれば路彦の琥珀色の瞳は快楽に潤む。
「なぁんも、聞いてへん。目の前にこんなかわええ御人がおって、俺を誘うのに、話なんかしてられへんよ?」
「誘って、なんか……んっ!」
逃がしなどしない。
シャツの上から胸の尖りをいやらしく指で捏ねれば、路彦の唇から嬌声が漏れた。連月が路彦を求めているように、路彦も連月を求めてくれている。寝室に手を引いてエスコートして、シーツの上に押し倒しても、路彦は抵抗しなかった。
「避妊、して、くださいね?」
「俺は出来てもええのに」
初めてのときに、連月も経験不足でローションも避妊具も準備していなくて、そのまま身体を繋げてしまったが、翌日路彦は若干きつそうだった。反省を生かして、今回は期待を込めてローションも避妊具も買ってきていた。
シャツを脱がせて、うっとりと鍛え上げられた腹筋を撫でると、目を伏せた路彦が震えるのが分かる。脚の間に身体をねじ込んで、双丘の狭間にたっぷりとローションを垂らして、後孔を指で探る。ぐちゅぐちゅと塗り込めて行くと、路彦の腰が跳ね、甘い声が上がった。
「そこっ、だめぇっ……あぁぁっ!」
「ここ、路彦さんの悦いトコなんやな?」
指を曲げて一点を突けば、とくりと路彦の中心から白濁が溢れた。本格的には達していないが、軽く達しかけたのだろう。
「もうっ、いれて……たつたさん、おねがっ……そこ、だめぇっ!」
指で翻弄されている路彦が、実際に自分を受け入れたらどうなるだろう。初めてのときは余裕がなくて、連月も快楽を追うことしかできなかったが、二度目は路彦を溺れさせるほどに甘やかしたい。
かりりと胸の尖りに噛み付くと、路彦の喘ぎが大きくなった。
「俺が好きやろ? 連って呼んで?」
「れんっ……すきっ、すきぃ、あぁっ、もう、おねがい……!」
切っ先を奥に宛がうと、吸い付くように連月の中心を飲み込もうとしてくる。なんて可愛い素直な身体。弱味を掠めながら最後まで納めると、柔く暖かく締め付けられて、連月は気持ちよさに持って行かれそうになるのを堪えた。
「れん……すき……あぁっ!?」
「可愛い顔で、俺を煽って、悪い子や」
泣きながら連月を素直に求める路彦が愛しくて、手加減ができそうにない。腰を回して最奥を責め立てると、のけ反るように跳ねる路彦の胸に口付けて、舌を這わせ、豊かな大胸筋を揉みしだく。胸への刺激でびくびくと震えた路彦の中心から、白濁が迸る。
「本当に、エロい身体して」
誰にも譲れない。
腰を掴んで激しく動き始めた連月に、路彦は悲鳴に近い嬌声を上げていた。
事後には蒸しタオルで路彦の身体を拭いて、目も腫れないように温めて、連月はその胸に抱き締められて眠る。心からこんな風に安らかに眠れたのは、祖父母が亡くなってから初めてかもしれなかった。
離れがたかったが朝には冴がお腹を減らして起きて来るので、朝の稽古を終えた後朝ご飯を作っていると、寝室で路彦が起きた気配がした。顔が見たくて駆けて行って覗くと、服を着ているところだった。
色の濃い褐色の肌には昨夜の跡はあまり目立たないが、色気のある顔も、僅かに腫れた目元も、連月だけが知っていればいいことだった。
「無理させてしもうたけど、起きられそう? 朝ごはん、こっちに持ってこよか?」
「シャワー浴びて、行きます」
喘ぎすぎて嗄れて掠れた声もセクシーだが、それを他人に聞かせるのには抵抗がある。蜂蜜で柚子を漬けたものにお湯を注いで、柚子湯を作って持って行くと路彦はお礼を言って飲んでくれた。
シャワーを浴び終えた路彦が髪を拭きながらリビングに出てくると、冴が爆弾発言をする。
「みちひこさんは、ししょーのおよめさんになったのですか?」
「さ、さぁちゃん、そ、そんな、単刀直入に」
いずれはそうなりたいが、まだプロポーズもしていないし、路彦にも心の準備があるだろう。連月は今すぐにでも結婚しても構わないのだが。そんな浮かれたことを考えていると、あっさりと否定される。
「立田さんには、もっと素敵な良いお嫁さんが来るよ」
「ししょーのおよめさんにならないなら、みちひこさんは、さえのおよめさんになってください」
「うーん……それは、無理かな」
「ふられました!」
冴が小さな子どもだとはいえ、連月と路彦の関係を隠すことはなにもないのに、路彦は「もっと素敵な」などと言う。連月にとって路彦以上に「素敵なお嫁さん」はいないことを分かってくれない。
「連さんて呼んでて言うてるのに、いつまで経っても立田さんやし、俺が好きやて可愛かったのに、もう素直やないし」
朝ご飯を食べようと準備して、むくれて連月が言えば、路彦は手を合わせて「いただきます」と言ってから、連月から目を反らした。
「今日からは家に帰りますね。仕事も溜まってるし」
「みちひこさん、かえるのですか? つぎはいつきますか?」
「帰るって……昨日その話は終わったはずやない?」
「聞いてもらえませんでしたので」
抱いていいかと誘えば拒まないのに、同棲は解消してしまう。あんなに好きだと言ってくれるのに、夜が明ければ別人のようにクールでドライになってしまう。
年上の恋人が分からない。
初めての恋に舞い上がっているのは連月だけで、もしかして、路彦にとっては遊びだったのだろうか。
嫌な空気が拭えないままに、路彦は家を出て行ってしまった。
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