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愛してるは言えない台詞 〜みち〜
届かぬ月 9
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冷静になりたかった。
集中したい仕事があるからと、路彦は連月と暫く距離を置くことにした。
幼い頃に出会ったことを覚えている。
子どもができても構わない。
俺のもの。
路彦からプレゼントが欲しい。
まるで路彦のことを付き合っているように勘違いさせる連月の言葉の意味が分からず、路彦は狼狽していた。優しく抱いてくれる連月だが、路彦は乱れて連月を好きと白状して泣いてしまうのに、連月の口から「好き」の言葉も「愛してる」の言葉も出たことはない。
「愛してる」はいつか出会う大事な相手のために取ってあるのだろう。
それなのに、家に入れたのは路彦が初めてで、冴と会わせたのも路彦が初めてというのだから、ますます混乱してしまう。愛されていないのに、まるで愛しているような素振りをする連月。それが遊び相手に対するマナーなのならば、路彦にはつらいだけだ。
小さい頃から気になっていた相手に抱かれて、甘やかされて、ずぶずぶに溺れている自覚はある。これ以上一緒にいたら、戻れなくなる。
異国の両親は結婚を急かしたりするタイプではないが、路彦の子どもが産まれれば喜ぶだろう。連月との間の子どもならばきっと可愛いし、別れた後もその子を通して繋がりが持てる。
浅ましいことを考えていると、振り切って、路彦は都子に電話をかけた。
「暫く仕事に集中したいから、誰の連絡も受けない」
『みっちゃん、作りたいものがあるの?』
「立田さんが専属モデルになったから、そのイメージのアクセサリーがあっても良いよね?」
『すごくいいと思うけど、みっちゃん、それって個人的に……?』
「姉さんも、スキャンダル誌が好きなの?」
笑って誤魔化すと、都子は真剣な声になる。
『みっちゃん、今まで誰かに興味持ったの見たことないから、おねーちゃんは、立田さん、いいと思うよ?』
「そんなんじゃないよ」
聡い都子に悟られないうちに通話を切った。
デザインしたのは、花弁の先が紅色で根元が白い蓮華の花と淡い色の月のネックレス。蓮華の花と月のトップは、別々にすることもできる。あの白い色っぽい首に似合うように、細い銀色のチェーンに小さなビジューを散りばめて作る。
出来上がった試作品は、都子に非常に好評だった。
「いつになく気合が入ってるわね、みっちゃん」
「これ、発表より先に立田さんに渡してもいい?」
「……いいけど、おねーちゃんは、何があってもみっちゃんの味方よ?」
都子にとっては父が、路彦の母。複雑な異母姉弟だが、都子は小さな頃から日本で暮らす目立つ弟を守ってくれていた。
「ありがとう。これから、迷惑かけるかもしれないけど」
「迷惑くらい、どんと来いだわ」
背中を押されて、路彦はその日、連月に連絡をした。集中して仕事をするからと二週間近く連絡していなくて、急に送ったメールに、即座に電話がかかってきたのに驚く。
「立田さん?」
『お仕事、お疲れ様。うまくいかはったんかな? あ、会いたいって、そういうこと、やろ?』
「えぇ、今夜、訪ねてもいいですか?」
『もちろん、ええよ!』
電話口で連月が嬉しそうな声に聞こえるのは、何か良いことでもあったのだろうか。そういえば、そろそろ例の映画も撮り終わる頃だった。高校生から演じるということで、制服をこの年で着るのが恥ずかしいとか言っていたが、無事に終わったのだろうか。
夕食どきに合わせて、路彦は連月の家を訪ねていた。連月の手作りの夕食をいただいて、食後にネックレスを取り出す。
「これ、新作なんですけど、発表前に立田さんに。姉の許可も取ってます」
「おつきさまとおはなです! きれいなのです」
「路彦さんが俺にくれるんや、さぁちゃんにはやらへんで」
「ししょー、こころがせまいのです」
前に冴に上げた時と同じ台詞を口にする連月に、冴がやれやれと肩を竦める。その様子が可愛くて、路彦は微笑ましくなってしまう。
「冴ちゃんと立田さん、親子みたいですね」
「やめてください、しょうらいをひかんします」
「悲観とか……冴ちゃん、難しい言葉知ってるね」
和んでいると、もじもじと連月がネックレスを手渡してきた。
「路彦さんが、着けて?」
長めの髪を上げて項を見せる連月に、路彦がネックレスを箱から出して、首にかける。後ろで金具を留めると、連月が鏡でそれを見つめて、ほぅっと色っぽいため息をついた。
「めっちゃ綺麗や……路彦さんが俺にくれはったネックレス」
「立田さんのお名前から『月』と、平仮名にしたら『れんげ』が入っているので、蓮華の花をイメージしました」
「俺のイメージ?」
専属のモデルなのだから、そのイメージの作品を作っても構わない。それに予想外に連月は驚いていた。
「俺の名前は親が勝手に付けたもんやし、『月』なんて満ち欠けするもん、あてにならへんと嫌いで、路彦さんにも『連』て読んで欲しいて言うてたけど、路彦さんの手ぇにかかると、こんな綺麗なもんになるんやなぁ」
ほろりと花の綻ぶように頬を染めて連月が笑う。その表情に、路彦は心から満たされて微笑んだ。
冴を寝かせて、ベッドに行った後でも、連月はネックレスを外すのを躊躇う。
「繊細な作りやし、千切れてしもたら泣くに泣かれんけど、路彦さんがくれたんを外してしまうんはもったいない」
「もう連月さんのものですから、好きなときに着けられますよ」
「れ、連月さんて言うてくれた!?」
ネックレスの留め具を外して、ベッドサイドのテーブルに置いた路彦に、連月が飛び付く。ベッドに押し倒されて、路彦は両腕で顔を隠すようにして、小さな声で告げた。
「今日は……着けないで……」
「ええの?」
「……はい」
白い手が路彦のパジャマを脱がせて、胸を撫でる。胸の尖りを摘まれて、路彦は腰に熱が集まってくるのを感じる。体は完全に連月を覚えて、陥落し切っていた。
「路彦さん、今日はいつもよりエロいわ。かわええ」
可愛いと言っても、連月は路彦に「好き」も「愛してる」も言わない。路彦は「好き」は言ってしまうが、「愛してる」は言ったことがない。
ローションの滑りで後孔を探られると、内壁がうねって、連月の指を奥へ奥へと招く。指だけの刺激では足りずに、眦から涙を零す路彦に口付け、胸の尖りを甘く食んで、連月が宥めながら丁寧に身体を拓いていく。
「もう……だめぇっ! 連月が、れんげつがっ、ほしいぃっ!」
「たっぷり注いだる。孕むまで」
「あぁぁっ!? れんっ、ひぁっ、すきっ、すきぃ……!」
切っ先を宛てがわれて、一気に貫かれても、もう連月の形をすっかりと覚えた体は快感しか生み出さない。気持ち良さに意識が飛びそうになっても、強く腰を打ち付けられて、引き戻される。
後ろから貫かれる形になって、胸に回した手で尖りを引っ張られて、路彦は仰け反った。どくどくと中心からは白濁が飛び散る。
「ここに、俺のものの証、付けたいわぁ」
体勢を変えられて、かぷりと胸に噛み付かれて、路彦はじんと走る痛みに悲鳴を上げた。胸の尖りの周りに、赤く連月の噛み跡が付いている。
「あっ、あぁっ、らめぇ、そんなぁっ!」
「路彦さんも、付けて?」
「れんっ、あぁっ、んっ」
膝の上に抱き上げられるようにして、深くなった結合に連月の中心にゴリゴリと最奥を擦られて、路彦はその肩口に顔を埋めて啜り泣く。突き上げられて、連月の白い肩に噛み跡を付けたのは、無意識だった。
夜明け前に、冴と連月が眼を覚ます前に、路彦は置いてあるものを全部回収して、リビングのテーブルにハートのキーホルダーの付いた合鍵を置いて、連月の家を出た。まだ外は薄暗く、白い月が空に薄くかかっていた。
集中したい仕事があるからと、路彦は連月と暫く距離を置くことにした。
幼い頃に出会ったことを覚えている。
子どもができても構わない。
俺のもの。
路彦からプレゼントが欲しい。
まるで路彦のことを付き合っているように勘違いさせる連月の言葉の意味が分からず、路彦は狼狽していた。優しく抱いてくれる連月だが、路彦は乱れて連月を好きと白状して泣いてしまうのに、連月の口から「好き」の言葉も「愛してる」の言葉も出たことはない。
「愛してる」はいつか出会う大事な相手のために取ってあるのだろう。
それなのに、家に入れたのは路彦が初めてで、冴と会わせたのも路彦が初めてというのだから、ますます混乱してしまう。愛されていないのに、まるで愛しているような素振りをする連月。それが遊び相手に対するマナーなのならば、路彦にはつらいだけだ。
小さい頃から気になっていた相手に抱かれて、甘やかされて、ずぶずぶに溺れている自覚はある。これ以上一緒にいたら、戻れなくなる。
異国の両親は結婚を急かしたりするタイプではないが、路彦の子どもが産まれれば喜ぶだろう。連月との間の子どもならばきっと可愛いし、別れた後もその子を通して繋がりが持てる。
浅ましいことを考えていると、振り切って、路彦は都子に電話をかけた。
「暫く仕事に集中したいから、誰の連絡も受けない」
『みっちゃん、作りたいものがあるの?』
「立田さんが専属モデルになったから、そのイメージのアクセサリーがあっても良いよね?」
『すごくいいと思うけど、みっちゃん、それって個人的に……?』
「姉さんも、スキャンダル誌が好きなの?」
笑って誤魔化すと、都子は真剣な声になる。
『みっちゃん、今まで誰かに興味持ったの見たことないから、おねーちゃんは、立田さん、いいと思うよ?』
「そんなんじゃないよ」
聡い都子に悟られないうちに通話を切った。
デザインしたのは、花弁の先が紅色で根元が白い蓮華の花と淡い色の月のネックレス。蓮華の花と月のトップは、別々にすることもできる。あの白い色っぽい首に似合うように、細い銀色のチェーンに小さなビジューを散りばめて作る。
出来上がった試作品は、都子に非常に好評だった。
「いつになく気合が入ってるわね、みっちゃん」
「これ、発表より先に立田さんに渡してもいい?」
「……いいけど、おねーちゃんは、何があってもみっちゃんの味方よ?」
都子にとっては父が、路彦の母。複雑な異母姉弟だが、都子は小さな頃から日本で暮らす目立つ弟を守ってくれていた。
「ありがとう。これから、迷惑かけるかもしれないけど」
「迷惑くらい、どんと来いだわ」
背中を押されて、路彦はその日、連月に連絡をした。集中して仕事をするからと二週間近く連絡していなくて、急に送ったメールに、即座に電話がかかってきたのに驚く。
「立田さん?」
『お仕事、お疲れ様。うまくいかはったんかな? あ、会いたいって、そういうこと、やろ?』
「えぇ、今夜、訪ねてもいいですか?」
『もちろん、ええよ!』
電話口で連月が嬉しそうな声に聞こえるのは、何か良いことでもあったのだろうか。そういえば、そろそろ例の映画も撮り終わる頃だった。高校生から演じるということで、制服をこの年で着るのが恥ずかしいとか言っていたが、無事に終わったのだろうか。
夕食どきに合わせて、路彦は連月の家を訪ねていた。連月の手作りの夕食をいただいて、食後にネックレスを取り出す。
「これ、新作なんですけど、発表前に立田さんに。姉の許可も取ってます」
「おつきさまとおはなです! きれいなのです」
「路彦さんが俺にくれるんや、さぁちゃんにはやらへんで」
「ししょー、こころがせまいのです」
前に冴に上げた時と同じ台詞を口にする連月に、冴がやれやれと肩を竦める。その様子が可愛くて、路彦は微笑ましくなってしまう。
「冴ちゃんと立田さん、親子みたいですね」
「やめてください、しょうらいをひかんします」
「悲観とか……冴ちゃん、難しい言葉知ってるね」
和んでいると、もじもじと連月がネックレスを手渡してきた。
「路彦さんが、着けて?」
長めの髪を上げて項を見せる連月に、路彦がネックレスを箱から出して、首にかける。後ろで金具を留めると、連月が鏡でそれを見つめて、ほぅっと色っぽいため息をついた。
「めっちゃ綺麗や……路彦さんが俺にくれはったネックレス」
「立田さんのお名前から『月』と、平仮名にしたら『れんげ』が入っているので、蓮華の花をイメージしました」
「俺のイメージ?」
専属のモデルなのだから、そのイメージの作品を作っても構わない。それに予想外に連月は驚いていた。
「俺の名前は親が勝手に付けたもんやし、『月』なんて満ち欠けするもん、あてにならへんと嫌いで、路彦さんにも『連』て読んで欲しいて言うてたけど、路彦さんの手ぇにかかると、こんな綺麗なもんになるんやなぁ」
ほろりと花の綻ぶように頬を染めて連月が笑う。その表情に、路彦は心から満たされて微笑んだ。
冴を寝かせて、ベッドに行った後でも、連月はネックレスを外すのを躊躇う。
「繊細な作りやし、千切れてしもたら泣くに泣かれんけど、路彦さんがくれたんを外してしまうんはもったいない」
「もう連月さんのものですから、好きなときに着けられますよ」
「れ、連月さんて言うてくれた!?」
ネックレスの留め具を外して、ベッドサイドのテーブルに置いた路彦に、連月が飛び付く。ベッドに押し倒されて、路彦は両腕で顔を隠すようにして、小さな声で告げた。
「今日は……着けないで……」
「ええの?」
「……はい」
白い手が路彦のパジャマを脱がせて、胸を撫でる。胸の尖りを摘まれて、路彦は腰に熱が集まってくるのを感じる。体は完全に連月を覚えて、陥落し切っていた。
「路彦さん、今日はいつもよりエロいわ。かわええ」
可愛いと言っても、連月は路彦に「好き」も「愛してる」も言わない。路彦は「好き」は言ってしまうが、「愛してる」は言ったことがない。
ローションの滑りで後孔を探られると、内壁がうねって、連月の指を奥へ奥へと招く。指だけの刺激では足りずに、眦から涙を零す路彦に口付け、胸の尖りを甘く食んで、連月が宥めながら丁寧に身体を拓いていく。
「もう……だめぇっ! 連月が、れんげつがっ、ほしいぃっ!」
「たっぷり注いだる。孕むまで」
「あぁぁっ!? れんっ、ひぁっ、すきっ、すきぃ……!」
切っ先を宛てがわれて、一気に貫かれても、もう連月の形をすっかりと覚えた体は快感しか生み出さない。気持ち良さに意識が飛びそうになっても、強く腰を打ち付けられて、引き戻される。
後ろから貫かれる形になって、胸に回した手で尖りを引っ張られて、路彦は仰け反った。どくどくと中心からは白濁が飛び散る。
「ここに、俺のものの証、付けたいわぁ」
体勢を変えられて、かぷりと胸に噛み付かれて、路彦はじんと走る痛みに悲鳴を上げた。胸の尖りの周りに、赤く連月の噛み跡が付いている。
「あっ、あぁっ、らめぇ、そんなぁっ!」
「路彦さんも、付けて?」
「れんっ、あぁっ、んっ」
膝の上に抱き上げられるようにして、深くなった結合に連月の中心にゴリゴリと最奥を擦られて、路彦はその肩口に顔を埋めて啜り泣く。突き上げられて、連月の白い肩に噛み跡を付けたのは、無意識だった。
夜明け前に、冴と連月が眼を覚ます前に、路彦は置いてあるものを全部回収して、リビングのテーブルにハートのキーホルダーの付いた合鍵を置いて、連月の家を出た。まだ外は薄暗く、白い月が空に薄くかかっていた。
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