運命の恋 ~抱いて欲しいと言えなくて~

秋月真鳥

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偽りの運命 ~運命だと一目で分かった~

運命だと一目で分かった 2

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 こんなに穏やかで心安らぐ世界があるなんて、知らなかった。ラクランは理人に惜しみない愛情と共に、それを与えてくれた。
 食の細い理人が、保育園の食事を警戒して食べられなければ、ラクランがお弁当を作ってくれる。まだラクランも13歳なので、人参が硬かったり、ブロッコリーが茹で過ぎてふにゃふにゃだったりしたが、理人にとっては何よりも嬉しいご馳走で、全て残さずに食べた。お陰で理人は少しずつだが、成長不良から抜け出していった。
 眠っているラクランに、そっと近付いて初めて口付けをしたときには、大人にならなくてはいけないと言われてしまったが、叩かれたり、理人の存在を拒まれたりはしない。
 初めてケーキを食べたラクランの誕生日に、理人は庭で拾って大事にしていた青みがかった卵型の石をプレゼントした。ただの拾った石だったのに、ラクランはとても喜んでくれて、それに台座を付けてネックレスにして首からかけてくれる。

 どうすれば理人が喜ぶのか、ラクランは全て知り尽くしているかのようだった。

 同級生にラクランが絡まれたときには、助けようとして蹴られて、両親に暴力を振るわれたときのことが過ったが、それよりも大好きなラクランの尻を無遠慮に触られた怒りの方が優る。理人のことは大事に守ってくれるのに、ラクランは自分のことは無頓着な一面があった。
 守らなければいけないと頑張っても、理人は小さくて、同級生にラクランが無理矢理キスをされたときにも、間に合わなくて、ぶつけた頭の痛みよりも自分の不甲斐なさに涙が出た。
 虫垂炎でラクランが一晩家を空けた日に、理人は寂しさと自分の情けなさに泣いた。
 ヘイミッシュもスコットもラクランも、まさか4歳の理人が自分が情けなくて一晩中眠れずに泣いていたなどとは思わなかっただろう。薬でラクランの虫垂炎が落ち着いたと聞いて、お見舞いと退院の手続きをしに行ったら、寝てない理人はふらふらと引き寄せられるようにラクランの脇に入り込んで眠ってしまった。
 その夜にラクランは、理人を『光』だと言ってくれた。ラクランを照らして守る光。
 幼くて、自分の弱さに悔しさしかない理人は、それで救われた気がした。
 どんなときでも、理人の嬉しい言葉をくれるラクラン。
 ラクランのためならば、どんなことも怖くない。

 理人はラクランのために、医者になること、強くなることを決めた。

 両親のヘイミッシュやスコットに言えないことも、ラクランは理人に話してくれる。誰よりもラクランの近くにいるようで、理人はそのことは嬉しくてたまらなかった。
 変態教師に胸を触られた場面を写真に撮って、証拠としてヘイミッシュとスコットに渡す計画を立てたときも、ラクランは危険だと言ったが、理人を頼ってくれた。
 大事にしてくれている理人がプレゼントした石のネックレスを馬鹿にした挙句に、ラクランに触った教師は、ヘイミッシュとスコットの手によって、警察に逮捕された。他の生徒にも手を出していたと余罪も大量に出てきたらしい。
 繊細なラクランは自分が目をつけられていたことにショックを受けていた。
 もっと大きくなれば、ラクランを守ることができるのに。
 幼いながらに理人は気付いていた。体が大きいから性的対象にされるはずがないとラクランは思い込んでいるが、その無防備さにつけ込んでくる輩がいるのだ。それは決してラクランのせいではないが、自分が対象と思っていないだけに、ショックを受ける。優しいラクランは、自分で思っているよりもずっと繊細なのだ。
 18歳でラクランが大学に行くために家を出ると聞いたときには寂しさだけでなく、心配で泣いてしまったが、実際に家を出る前にはラクランは正直に理人を「運命のひと」だと思っていないと告げてくれた。
 誰よりも理人のことを可愛がってくれて、愛してくれて、頼ってくれる。自分のことには鈍いラクランは、運命に気付いていないだけなのだと理人には分かる。
 だって、愛していなければ、こんなにもお互いに心を開いて接することなどできない。
 ラクランが運命に気付く日まで。
 8歳の理人には時間だけはたっぷりとあった。
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