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抱いて欲しいと言えなくて 〜こい〜

いとしいとしといふこころ 5

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 長身で鍛え上げたむっちりとした筋肉に覆われた見事な体躯で、長めの前髪と横の刈り上げも雄々しいスコット・ハワード。軍隊ばりの実習でもへこたれない精神力とスタミナ、忍耐力と腕力。成績優秀で家柄も良く、美しいヘイミッシュと結婚している。
 そんなスコットを襲えるものはいないと、油断していたのだ。
 大学の同級生たちが結婚のお祝いに開いてくれた飲み会に、ヘイミッシュは学会があるので遅れてくると言ってなかなか姿を現さなかった。その分、スコットが次々と酒を注がれて、飲み干す羽目になった。
 アルコールは弱い方ではないが、まだ慣れていないので大量に飲むと頭がふわふわする。しかし、意識が途切れるほど飲んだつもりはなかった。
 何か酒に混ぜられていたのだと気付いたのは、後のこと。
 ベッドの上で、スコットは両手両脚を拘束されていた。
 計画的だったのだろう、以前にスコットを誘おうとした同級生が、運んでくれた礼だと数人の男たちに金を払って、部屋から追い出すのが、霞む意識の中でぼんやりと見えていた。
 ひたりと触れたスコットよりかなり小さな手が、冷たくて、妙に体が火照っていることに気付く。服は脱がされて、下着一枚でスコットはベッドの上に縛り付けられていた。

「僕に優しくするから、惚れられちゃうんだよ?」

 うっとりと彼がスコットの胸を撫でる。その手の感触は気持ち悪いのに、なぜか腰に熱が集まってきた。

「薬を飲んで、準備したんだ。君の種が欲しい」

 身体をずらした彼が、下着越しにスコットの中心を口に咥える。濡れた感触に吐き気すら覚えるのに、下半身が体と一致していない。下着をずらされれば、勃ち上がったそれがぶるりと姿を表した。

「やっぱり、おっきい……すごいな、これ、入るかな?」

 恍惚としてそこに頬擦りする彼の名前も、スコットは思い出せない。

「そんなこと、いけない……」
「いけなくないよ。こんなに感じてくれてるのに」
「ちがう……これは、ちがう……」

 こんなに簡単なことだったなら、ヘイミッシュとの間でも薬を使えば良かった。頭を過ぎった後悔に、油断しきったスコットの中心を舐め上げて、彼は育て上げていく。逞しく屹立するそこに、舌舐めずりしながら、くぱりと開く白い双丘に、スコットは目眩がした。
 誰か違う相手と無理矢理に身体を繋げるのならば、ヘイミッシュとどうしてできなかったのか。後悔に溢れる涙と、口から出るのはヘイミッシュの名前だけ。

「彼にもたっぷり注いでるんでしょ? 少しくらい、僕にも分けてよ」

 後孔にスコットの切っ先を宛てがった彼が腰を落として全部飲み込もうとするのを、スコットは争う術がなかった。

「いやだ……ヘイミッシュ……たすけて……」
「あなたには、一滴だって分けてあげないわよ!」

 バンッとよく磨かれた上質な革靴でドアを蹴り破り、ヘイミッシュが長い足でスコットの上に跨ってその中心を飲み込もうとしている同級生の彼を蹴り落とす。素早く駆け寄ったヘイミッシュは、スコットの両手と両脚を拘束しているベルトを外してくれた。抱き締められて、脱いだジャケットをかけてもらって、スコットはヘイミッシュの胸に顔を埋めて泣いてしまう。

「ごめん……僕は……」
「怖かったでしょう。嫌なことをさせられて。すぐに助けに来られなくてごめんなさい」
「薬を使えば、良かったのに……僕は君を……」
「スコット? まだ薬とアルコールでどうかしてるの?」

 ぺしぺしと優しく頬を叩かれて、スコットは緑の瞳でヘイミッシュを見上げる。整った顔立ちのヘイミッシュは、いつもの通り美しくていい香りがした。

「あなたが嫌なことはしなくていいのよ。私たち、お互いにこんなに愛し合ってるんですもの……そりゃ、ちょっとは、私だって男だから、我慢ができなくなりそうなときもあるけど、性行為だけが結婚じゃないし、愛でもない。だから、良いのよ」

 いつだってヘイミッシュは潔くて優しくて、スコットを否定しない。真っ直ぐな愛情をスコットに捧げてくれる。

「嘘を、吐いてたんだ……」

 愛しく優しいひとにいつまでも嘘は吐いていられない。真実を告げようとしても、目の奥が熱く痛んで、涙が止まらず、唇が戦慄いて声にならない。

「家に帰りましょう。私たちの家に。話はそれからでいいわ」

 下着を身に付けて、バスローブとヘイミッシュのジャケットでどうにか肌を隠したスコットを、ヘイミッシュは車で家に連れ帰ってくれた。

「嫌かもしれないけど、アルコールと薬が残っていたら困るから」

 バスルームに直行したスコットをヘイミッシュが追いかけてきて、シャワーで身体を流してくれる。バスタブに溜めたお湯に浸かって、髪も洗ってもらって、スコットは安堵のため息を漏らした。
 好意のない同級生に肌を弄られるのは嫌悪感しかなかったが、ヘイミッシュに触れられるのは心地よく、危険など少しも感じなかった。髪を流して、ヘイミッシュがスコットの額にキスをする。

「無事で良かった……あなたがお祝いの席から消えたって聞いたときには、心臓が止まるかと思ったわ」
「ごめん……」
「あなたが謝ることなんて何もないのよ。あなたは被害者なの。本当に無事で良かった、私の大事なスコット」

 愛していると囁かれて、ずくんと胎が疼く。

「もう、嘘は吐けないよ……僕は、君に抱かれたい」

 身の程知らずな恋をした。
 こんな自分でごめんと謝ったスコットの目から溢れた雫が、バスタブの湯に波紋を作った。
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