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抱いて欲しいと言えなくて 〜こい〜
いとしいとしといふこころ 3
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結婚前に誰かと遊びの関係を持つつもりはなかった。
ヘイミッシュもスコットに操を立ててくれているし、スコットもヘイミッシュ以外に触れたいとは思わない。その決意を崩したのは、アルコールが入っていたのもあったのかもしれない。練習をして自信をつければ、ヘイミッシュを抱くことができるかもしれない。そうすればヘイミッシュとの仲は何の問題もなく進んでいく。
大学の飲み会でふわふわと思考が定まらないままに、スコットは同級生の可愛いタイプの男性に腕を絡ませられて、ホテルまでの道を歩いていた。
「嫉妬深い婚約者のせいで遊べないんでしょ? スコットのすごく逞しそう……僕、試してみたいな」
「僕は、ヘイミッシュが……」
「たまには婚約者以外のことも考えた方が良いよ」
ヘイミッシュが好きだから、彼を好きになることはない。それが分かっていて、彼はスコットと遊ぼうとする。試してみたい気持ちも、自分ができるのだと示したい気持ちもあったけれど、それよりもスコットの頭はヘイミッシュのことが占めていた。
「自分を、大事にしないと、ダメだよ」
強引に迫られても、ヘイミッシュなら紳士的にそう言って断るだろう。
「僕は愛してるひとがいるから、君に何も与えられないもの」
「そんなの構わないよ、一晩だけでも、ね?」
上目遣いで見上げてくる顔は、あどけなさが残っていて可愛らしい。こういう表情をすればヘイミッシュもスコットを抱きたいと思うのだろうかと考えてから、自分の身長と体躯に気付き、それができないと落ち込む。
「君みたいに可愛かったら、もっと良い相手がいるよ」
腕を振り払わなければいけないのに、縋り付いてくる同級生の彼は普段触れ合っているヘイミッシュよりも華奢で、無理に引き剥がせば骨が折れそうな気がする。細身のヘイミッシュよりも小さな彼を、スコットはどう扱えば良いか分からなかった。
ぐいぐいと引っ張る力は強いが、スコットもホテルに入るわけにはいかない。試してみたい、そんな理由で同級生と寝るわけにはいかない。それでもホテル街まで来てしまったのは、スコットの弱さもあるわけで。
「ごめんね……僕は……」
「スコット、飲み会はもう終わったんじゃないの?」
すらりとした細身だが鍛え上げられた身体で、上質なシャツとスラックスに品の良いジャケットを纏って、颯爽と現れたヘイミッシュに、スコットは胸がときめいてどうしようもなかった。同級生の腕を丁寧に外して、ヘイミッシュがスコットに猫のように擦り寄って腕を絡める。
「彼は優しいから、付け込まないでよ、坊や」
「ぼ、坊やって、そっちこそ、セックスもしたことないくせに!」
「だから? 経験があるからなんなの? そんなことを誇るのがガキだって言ってるのよ」
行きましょうと腕を引かれて、スコットは泣きそうな顔で立ち竦む同級生を振り返った。
「ごめんね、気を付けて帰って」
愛しい相手は変えられない。
「惜しいと思ってるの?」
「全然。ヘイミッシュが好きだよ」
好きが溢れてこぼれそうなのに、スコットはヘイミッシュをそのままホテルに誘うこともできない。紳士的にいつもはスコットがヘイミッシュを送っていくのだが、今日はヘイミッシュがスコットを部屋まで送ってくれた。
「同じ店にいた子が、あなたが変なのに連れていかれそうになってたって教えてくれて、信じてたけど、心配だったわ」
「心配をかけてごめん」
「もう、謝らないで。言われるなら、『ありがとう』の方が私、好きよ」
「ありがとう」
微笑んで告げると、背伸びをしたヘイミッシュがスコットの唇を塞いだ。下唇を柔く噛まれて、驚いて開いた口の間に、舌が滑り込む。
ちゅるりと舌を吸われて、アルコールの名残もあって、スコットはじんと頭の芯が痺れるような快感に打ち震えていた。ヘイミッシュの背中に回した手が、尖った肩甲骨を撫でる。
このまま陶酔に身を任せてしまいたい。
ヘイミッシュの手がスコットの腰を撫でて、ぞわりと走る快感に奥が濡れる。
抱かれたい。
美しいヘイミッシュの手によって全てを暴かれたい。
震えながらヘイミッシュの胸を押して、どうにか衝動を堪えたスコットを責めたりせずに、ヘイミッシュはその頬に、目尻に、キスをくれた。
「お休みなさい、愛してるわ、スコット」
「僕も、ヘイミッシュ」
扉が閉まってから、鍵をかけたスコットはずるずると玄関に座り込んだ。まだヘイミッシュとのキスの余韻と彼の香りがスコットの服に残っている。縄張りを主張する猫のように、同級生に見せ付けて頬ずりをした、スコットのセーターの二の腕辺り。脱いで香りを嗅ぐと、キスと腰を撫でられたので疼く後ろが、ますます濡れてくるのが分かった。
冷たいシャワーを浴びて体の火照りを消そうとするが、目を閉じれば美しいヘイミッシュの口付けをする色っぽい顔が浮かんで、あの唇に胸の尖りを甘く噛んで欲しいとか、腰に回された手が下に降りて奥に触れて欲しかったとか、卑猥なことばかりが頭を過る。
芯を持つ中心をしごいても足りずに、スコットは双丘の狭間に手を滑らせた。ぐちりと濡れた感触のするそこは、ヘイミッシュを求めて疼いている。
「欲しい……ヘイミッシュが、欲しい」
どうして彼が本家の美しい雌になるべき人物で、自分が分家の逞しい雄になるべき人物として生まれてしまったのだろう。男同士ならば、どちらでも構わない、そう選択権があれば良いのに。
指で中を弄っても慰めにもならず、スコットはその夜もあまり眠れなかった。
ヘイミッシュもスコットに操を立ててくれているし、スコットもヘイミッシュ以外に触れたいとは思わない。その決意を崩したのは、アルコールが入っていたのもあったのかもしれない。練習をして自信をつければ、ヘイミッシュを抱くことができるかもしれない。そうすればヘイミッシュとの仲は何の問題もなく進んでいく。
大学の飲み会でふわふわと思考が定まらないままに、スコットは同級生の可愛いタイプの男性に腕を絡ませられて、ホテルまでの道を歩いていた。
「嫉妬深い婚約者のせいで遊べないんでしょ? スコットのすごく逞しそう……僕、試してみたいな」
「僕は、ヘイミッシュが……」
「たまには婚約者以外のことも考えた方が良いよ」
ヘイミッシュが好きだから、彼を好きになることはない。それが分かっていて、彼はスコットと遊ぼうとする。試してみたい気持ちも、自分ができるのだと示したい気持ちもあったけれど、それよりもスコットの頭はヘイミッシュのことが占めていた。
「自分を、大事にしないと、ダメだよ」
強引に迫られても、ヘイミッシュなら紳士的にそう言って断るだろう。
「僕は愛してるひとがいるから、君に何も与えられないもの」
「そんなの構わないよ、一晩だけでも、ね?」
上目遣いで見上げてくる顔は、あどけなさが残っていて可愛らしい。こういう表情をすればヘイミッシュもスコットを抱きたいと思うのだろうかと考えてから、自分の身長と体躯に気付き、それができないと落ち込む。
「君みたいに可愛かったら、もっと良い相手がいるよ」
腕を振り払わなければいけないのに、縋り付いてくる同級生の彼は普段触れ合っているヘイミッシュよりも華奢で、無理に引き剥がせば骨が折れそうな気がする。細身のヘイミッシュよりも小さな彼を、スコットはどう扱えば良いか分からなかった。
ぐいぐいと引っ張る力は強いが、スコットもホテルに入るわけにはいかない。試してみたい、そんな理由で同級生と寝るわけにはいかない。それでもホテル街まで来てしまったのは、スコットの弱さもあるわけで。
「ごめんね……僕は……」
「スコット、飲み会はもう終わったんじゃないの?」
すらりとした細身だが鍛え上げられた身体で、上質なシャツとスラックスに品の良いジャケットを纏って、颯爽と現れたヘイミッシュに、スコットは胸がときめいてどうしようもなかった。同級生の腕を丁寧に外して、ヘイミッシュがスコットに猫のように擦り寄って腕を絡める。
「彼は優しいから、付け込まないでよ、坊や」
「ぼ、坊やって、そっちこそ、セックスもしたことないくせに!」
「だから? 経験があるからなんなの? そんなことを誇るのがガキだって言ってるのよ」
行きましょうと腕を引かれて、スコットは泣きそうな顔で立ち竦む同級生を振り返った。
「ごめんね、気を付けて帰って」
愛しい相手は変えられない。
「惜しいと思ってるの?」
「全然。ヘイミッシュが好きだよ」
好きが溢れてこぼれそうなのに、スコットはヘイミッシュをそのままホテルに誘うこともできない。紳士的にいつもはスコットがヘイミッシュを送っていくのだが、今日はヘイミッシュがスコットを部屋まで送ってくれた。
「同じ店にいた子が、あなたが変なのに連れていかれそうになってたって教えてくれて、信じてたけど、心配だったわ」
「心配をかけてごめん」
「もう、謝らないで。言われるなら、『ありがとう』の方が私、好きよ」
「ありがとう」
微笑んで告げると、背伸びをしたヘイミッシュがスコットの唇を塞いだ。下唇を柔く噛まれて、驚いて開いた口の間に、舌が滑り込む。
ちゅるりと舌を吸われて、アルコールの名残もあって、スコットはじんと頭の芯が痺れるような快感に打ち震えていた。ヘイミッシュの背中に回した手が、尖った肩甲骨を撫でる。
このまま陶酔に身を任せてしまいたい。
ヘイミッシュの手がスコットの腰を撫でて、ぞわりと走る快感に奥が濡れる。
抱かれたい。
美しいヘイミッシュの手によって全てを暴かれたい。
震えながらヘイミッシュの胸を押して、どうにか衝動を堪えたスコットを責めたりせずに、ヘイミッシュはその頬に、目尻に、キスをくれた。
「お休みなさい、愛してるわ、スコット」
「僕も、ヘイミッシュ」
扉が閉まってから、鍵をかけたスコットはずるずると玄関に座り込んだ。まだヘイミッシュとのキスの余韻と彼の香りがスコットの服に残っている。縄張りを主張する猫のように、同級生に見せ付けて頬ずりをした、スコットのセーターの二の腕辺り。脱いで香りを嗅ぐと、キスと腰を撫でられたので疼く後ろが、ますます濡れてくるのが分かった。
冷たいシャワーを浴びて体の火照りを消そうとするが、目を閉じれば美しいヘイミッシュの口付けをする色っぽい顔が浮かんで、あの唇に胸の尖りを甘く噛んで欲しいとか、腰に回された手が下に降りて奥に触れて欲しかったとか、卑猥なことばかりが頭を過る。
芯を持つ中心をしごいても足りずに、スコットは双丘の狭間に手を滑らせた。ぐちりと濡れた感触のするそこは、ヘイミッシュを求めて疼いている。
「欲しい……ヘイミッシュが、欲しい」
どうして彼が本家の美しい雌になるべき人物で、自分が分家の逞しい雄になるべき人物として生まれてしまったのだろう。男同士ならば、どちらでも構わない、そう選択権があれば良いのに。
指で中を弄っても慰めにもならず、スコットはその夜もあまり眠れなかった。
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