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抱いて欲しいと言えなくて 〜こい〜

いとしいとしといふこころ 2

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 寄宿学校を出てから、ヘイミッシュは大学で犯罪心理学を学び始めた。スコットの方は奔放なヘイミッシュのお目付役として、同じ大学で国際警察の勉強と訓練をしていた。貴族社会に浸って過ごすよりも、ヘイミッシュは犯罪者の取り締まりに興味があるようだ。それでいて、ヘイミッシュを追い掛けてこの大学に来たスコットのことを、ヘイミッシュは気にかけてくれる。

「スコット、危ないことをしないでね?」
「僕に敵う相手なんていないよ」

 婚約しているのだし、二人の仲は非常に良かったから両親からは同棲を勧められていたが、スコットは学業が疎かになるという理由をつけて、それを断り続けていた。ランチタイムに大学でお弁当を一緒に食べることがあっても、スコットはヘイミッシュの部屋には入らない。
 貴族社会は簡単に捨ててしまえるような奔放なところがあっても、ヘイミッシュは性的には非常に身持ちが硬く、「スコットに全て捧げるつもりでいるから」と異性の誘いも、同性の誘いも断っていた。身長ほぼ2メートルのスコットと、190センチ近くまで伸びたヘイミッシュ。体つきもほっそりしているが、以前より男らしくなったヘイミッシュのそばにいると、スコットは落ち着かない気分になった。

「それだけ魅力的な婚約者がいるのに、手も出さないなんて、あなたの婚約者は不能なの?」

 二人でいるときにわざと聞こえるように言われた言葉に、とっさに反応できないでいるスコットの腕にヘイミッシュが腕を絡める。

「私のスコットは優しいのよ。結婚するまでは純潔を守る、紳士なの」

 まだお互いに18歳で、自分たちの稼ぎもないから結婚はできないとスコットが言い張っているのも、ヘイミッシュは好意的に捉えてくれて、二人のことをちゃんとしたいから今はまだ何もしないのだと理解してくれている。

「ごめん、ヘイミッシュ……」
「気にすることないわ。私とあなたはこんなに愛し合ってるんですもの、結婚まで私待てるわよ」

 女の子が欲しかった母親のために、幼い頃は少女のような格好をしていたヘイミッシュ。喋り方もその名残で甘く響く女性のようだったが、声は低い男性のもので、そのギャップにも、スコットはゾクゾクしてしまう。
 愛しているのに間違いはないのだが、きっと、ヘイミッシュは可憐なお嫁さんになる日を夢見ていて、目の前のスコットが抱いて欲しいと欲望を募らせていることなど、知りはしない。ヘイミッシュの種で孕みたいなど、この厳ついスコットがどうして言えるだろう。
 そもそも、ヘイミッシュが本家で格上、確実に血を残すために孕む権利は彼にあった。

「それだけ、私のことを大事にしてくれる王子様と結婚できるなんて、私は幸せ者だわ」
「ヘイミッシュ、愛してるよ」

 抱き締めて交わす口付けが、深くなったことはない。そうなることをヘイミッシュが期待しているし、スコットもそうしたいのだが、舌を絡めてしまえば、抱かれたい気持ちが止まらなくなるかもしれない。
 別れる選択肢はなかった。
 どうにかして、この性の不一致を正すべく、スコットなりに努力もした。
 初めはその年代の男子らしく、ネットで動画を見たり、男性同士が絡み合う写真や漫画なども見たりした。大抵がヘイミッシュのような綺麗で可愛い華奢な男性が、がっしりとして包容力のある男性に抱かれていて、その様子に興奮することもなく、却って意気消沈してしまった。ムキムキの男性同士が野太い喘ぎ声をあげて睦み合っている動画も、どうにも反応しない。
 携帯電話の写真を探して、ヘイミッシュの笑顔を見付けると、どくんと心臓が跳ねた。ヘイミッシュのさらさらの黒髪、涼やかな澄んだ青い目、甘い顔立ち、体が接触すると微かに鼻孔を擽る爽やかな香り。
 思い出すと喉の渇きを覚えて、スコットは唾を飲み込む。男性同士でも受胎できる体なので、反応するのは前だけではなく、後ろもだった。ぬるりとそこが濡れてくる感覚に、スコットは泣きたくなった。
 抱けなければヘイミッシュはスコットとの婚約解消を考えるかもしれない。幼い頃からただ一人愛してきた、運命の相手だと信じているヘイミッシュが他の相手に取られるのは、どうしても我慢ができない。

「ヘイミッシュ……僕は、どうすれば……」

 一人眠れぬ夜を過ごすスコットの胸中をヘイミッシュが知ることはない。
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