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運命を決めるのは自分
恋人は王子様 2
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丸い円らな真っ黒なお目目、少し癖のある黒髪、白い肌はつるつるのすべすべ。オムツのお尻はぷっくりとして、すぐに着替えられるようにかぼちゃパンツ(見せパン)に包まれている。長めのセーラー襟のシャツはワンピースにも見える。
貴族の集まりでひっそりと値段を付けて競売にかけられていたときに、菫色のドレスを着せられていたことから分かるように、海直はどちらかといえば女の子のような可愛らしさがあった。発育不良で痩せているのもそれを助長している。
「くえあ、くえあー!」
呼ぶ声は甘く高い。それをクラレンスは可愛いと言って慈しんでくれるが、みんながみんな、そうではない。海直としても、大好きなクラレンス以外からどう思われていても構わないのだが、面と向かって馬鹿にされると、幼さもあって涙が出てきそうになる。
「お前をクラレンスは『婚約者で運命』とか言ってるけど、あいつ、父親のことで傷付いて、後継を育てて結婚しないつもりなのかな」
同じダンス教師についているヴァンニは、事あるごとにクラレンスにちょっかいをかけていた。それで、クラレンスが「私の運命はあの子だ」と宣言して、稽古場をざわつかせたのは今日の午前中のこと。それから、クラレンスの今回の公演のパートナーの女性ダンサーや共演者、そして、遂にヴァンニまでが海直を観察に来たのだ。
その時クラレンスはダンスの稽古の最中で、海直を視界の端に入れていたが、踊りの途中で抜けられずにいた。
「みぃ、くえあとけこん、すゆ!」
「女は年下で若い方が良いって言うけど、こんなちびっ子に勃たないだろ。もしかして、クラレンスは幼女趣味(ロリィタ)なのか?」
癖のある黒髪をツンツンと引っ張られて、海直はヴァンニが言っていることはよく分からないが、クラレンスを侮辱している嫌な響きは感じ取っていた。
「くえあ、すち! あっち、いってぇ!」
「その子、男の子よ?」
通りかかった共演者が言うのを聞いて、ヴァンニがげらげらと笑い出す。
「嘘だろ、こんなチビ助、ちんちん付いてんのかよ」
「ちんちん、ありゅ!」
馬鹿にされたことははっきりと分かっていた。どうすればヴァンニに言い返せるか分からず、海直は思い切ってかぼちゃパンツとオムツをすとんと足元まで落としていた。ワンピースのようなセーラー襟のシャツを捲り上げると、まだ未成熟な男性の象徴が姿を現わす。
「ちっさっ! それでクラレンスを満足させられるわけないだろ」
「私の海直の大事な場所を晒させるようなことをして、ただで済むと思ってか、この慮外者!」
ダンスを終えたクラレンスが汗も拭かずに物凄い勢いで駆けてきて、軽々と自分よりも20センチ近く長身のヴァンニを担いで投げ飛ばした。下半身を露出させたまま、ぷるぷると震えて泣き出しそうになっている海直のオムツとかぼちゃパンツを上げて、身なりを整えてくれる。
「すぐに助けに行けなくてすまない、海直」
「くえあ、みぃ、ちんちん、ありゅ……みぃ、ちんちん、ありゅもん!」
「そうだね、海直は立派な可愛い男の子だよ」
クラレンスを満足させられない。それがどういう意味か海直には詳しくは分からなかったが、すごく悔しい気がして、涙が止まらなかった。濡れた頬を指先で拭って、クラレンスが頬にキスをしてくれる。
「みぃ、おおちくなりたい……くえあと、けこんちたい」
ずびずびと洟を啜る海直の頬に、額に、瞼に、クラレンスがキスの雨を降らせる。
「そうだね。結婚しようね。海直が16歳になったらすぐにでも。絶対に私は海直を離したりしないよ」
海直は私が選んだ運命なのだから。
クラレンスの言葉に、海直は少しも疑問は抱いていなかった。初めて出会ったあの日に、クラレンスに救われていなければ、海直は今頃、どうなっていたか分からない。どろどろの味もしないようなものを食べさせられて、稀少な目だけを大事にされて、泣けば意識が朦朧とするような薬を打たれて眠らせられて、ひととしての暖かみも知らぬままに育ってきた。それが、今はクラレンスの手によって、愛情たっぷりに育てられている。
この奇跡のような出会いが運命なのだと言われれば、海直はそうだと諸手を挙げて受け入れるしかない。
「とーさまのこと、にーさまはゆるさないのよ」
「とーたま?」
「アンとにーさまのちちおやで、アンとにーさまをすてたおとこよ」
運命を見つけてしまって、駆け落ちして行った父親を、クラレンスは憎んでいる。
「くえあ、うんめい、ちあい?」
「いいえ、にーさまは、ミチカがすきよ。アンにもヤキモチやくくらい、ほんきでね」
だからにーさまとずっといっしょにいてね。
アンジェラの言葉がなくとも、海直はクラレンスと離れることなど考えられなかった。一番信頼しているのはクラレンスだが、その妹のアンジェラも海直にとっては大事な姉のようなもので、相談相手でもある。
「みぃ、ちんちん、ありゅ。くえあ、ちんちん、ありゅ。けこん、できゆ?」
「おとこどーしでけっこんしたいってことね。だいじょうぶよ、どっちかが、こどもをうむのをえらばないといけないことがおおいけど」
望まなければどちらも選ばないこともあるし、稀なケースだが交代で産むこともある。女の子だからか、一歳年上のアンジェラは賢くて、海直の安心する答えをくれた。
「けこん、できゆ」
「そうよ、できるわ」
応援してくれるこの姉のような存在が、海直にとっては誰よりも有り難く得難いものだった。
二人が小さな体を並べてソファに座って話しているのを、クラレンスが和みながら聞いているなど、海直は全く気付いていなかった。夜にお風呂に入って、海直はじっとクラレンスの股間を凝視してしまう。立派な男の子だとクラレンスは言ってくれたが、海直の男性の象徴は未成熟な体に合わせて、相応の大きさしかなかった。
「みぃ、ちんちん、ちっしゃい?」
これではヴァンニの言う「クラレンスを満足させられない」状態になって、クラレンスに嫌われるのではないかと、その使い方も知らないのに胸が痛くて涙が溢れる海直を、クラレンスはしなやかな筋肉に覆われた太ももの上に抱き上げてくれる。
「そのうちに大きくなるよ、海直の体も、そこも」
「くえあ、みぃ、ちやいにならない?」
「海直のことを愛しているよ」
内緒だよと色っぽく微笑んで、クラレンスが海直の小さな手を、割れた腹筋の上に置く。お湯の中で下腹を撫でていたら、耳にかぷりと噛み付かれて、耳元で囁かれた。
「16歳になったら、海直ので、ここをいっぱいに満たして」
その具体的な方法が分かるわけもない。ただ、クラレンスの猛烈な色気に当てられて、海直は仰け反って湯船に沈みそうになってしまった。慌てて抱き上げたクラレンスが、ざばりと海直を助け出す。
「みぃ、おっちくなる!」
その日から、海直は大きくなるべく、苦手な固形物も一生懸命噛んで、食べるようになった。もぐもぐと噛んでいてもなかなか飲み込めずに、最初の方は涙目になって、頬を栗鼠のように膨らませて苦しんでいたが、食事は毎日するものなので、そのうちに慣れてくる。
「奥歯が生えてきたね。これでもっと食べやすくなるはずだよ」
寝る前に歯磨きをしてくれるクラレンスが、海直の口の中を覗き込んで言う。全体的な体の成長は遅いが、海直は確かに育っていた。
投げられたのが相当堪えたのか、反省を知らないヴァンニもしばらくは海直やクラレンスに近付くことはなかった。その間に、ヴァンニが「2歳の男の子を言葉で操って性器を露出させるようなことをした」と噂になっているのを、クラレンスが冷徹な笑みで聞いていたとか。
クラレンスの家に引き取られて三ヶ月経った冬の日、海直は3歳になる。
貴族の集まりでひっそりと値段を付けて競売にかけられていたときに、菫色のドレスを着せられていたことから分かるように、海直はどちらかといえば女の子のような可愛らしさがあった。発育不良で痩せているのもそれを助長している。
「くえあ、くえあー!」
呼ぶ声は甘く高い。それをクラレンスは可愛いと言って慈しんでくれるが、みんながみんな、そうではない。海直としても、大好きなクラレンス以外からどう思われていても構わないのだが、面と向かって馬鹿にされると、幼さもあって涙が出てきそうになる。
「お前をクラレンスは『婚約者で運命』とか言ってるけど、あいつ、父親のことで傷付いて、後継を育てて結婚しないつもりなのかな」
同じダンス教師についているヴァンニは、事あるごとにクラレンスにちょっかいをかけていた。それで、クラレンスが「私の運命はあの子だ」と宣言して、稽古場をざわつかせたのは今日の午前中のこと。それから、クラレンスの今回の公演のパートナーの女性ダンサーや共演者、そして、遂にヴァンニまでが海直を観察に来たのだ。
その時クラレンスはダンスの稽古の最中で、海直を視界の端に入れていたが、踊りの途中で抜けられずにいた。
「みぃ、くえあとけこん、すゆ!」
「女は年下で若い方が良いって言うけど、こんなちびっ子に勃たないだろ。もしかして、クラレンスは幼女趣味(ロリィタ)なのか?」
癖のある黒髪をツンツンと引っ張られて、海直はヴァンニが言っていることはよく分からないが、クラレンスを侮辱している嫌な響きは感じ取っていた。
「くえあ、すち! あっち、いってぇ!」
「その子、男の子よ?」
通りかかった共演者が言うのを聞いて、ヴァンニがげらげらと笑い出す。
「嘘だろ、こんなチビ助、ちんちん付いてんのかよ」
「ちんちん、ありゅ!」
馬鹿にされたことははっきりと分かっていた。どうすればヴァンニに言い返せるか分からず、海直は思い切ってかぼちゃパンツとオムツをすとんと足元まで落としていた。ワンピースのようなセーラー襟のシャツを捲り上げると、まだ未成熟な男性の象徴が姿を現わす。
「ちっさっ! それでクラレンスを満足させられるわけないだろ」
「私の海直の大事な場所を晒させるようなことをして、ただで済むと思ってか、この慮外者!」
ダンスを終えたクラレンスが汗も拭かずに物凄い勢いで駆けてきて、軽々と自分よりも20センチ近く長身のヴァンニを担いで投げ飛ばした。下半身を露出させたまま、ぷるぷると震えて泣き出しそうになっている海直のオムツとかぼちゃパンツを上げて、身なりを整えてくれる。
「すぐに助けに行けなくてすまない、海直」
「くえあ、みぃ、ちんちん、ありゅ……みぃ、ちんちん、ありゅもん!」
「そうだね、海直は立派な可愛い男の子だよ」
クラレンスを満足させられない。それがどういう意味か海直には詳しくは分からなかったが、すごく悔しい気がして、涙が止まらなかった。濡れた頬を指先で拭って、クラレンスが頬にキスをしてくれる。
「みぃ、おおちくなりたい……くえあと、けこんちたい」
ずびずびと洟を啜る海直の頬に、額に、瞼に、クラレンスがキスの雨を降らせる。
「そうだね。結婚しようね。海直が16歳になったらすぐにでも。絶対に私は海直を離したりしないよ」
海直は私が選んだ運命なのだから。
クラレンスの言葉に、海直は少しも疑問は抱いていなかった。初めて出会ったあの日に、クラレンスに救われていなければ、海直は今頃、どうなっていたか分からない。どろどろの味もしないようなものを食べさせられて、稀少な目だけを大事にされて、泣けば意識が朦朧とするような薬を打たれて眠らせられて、ひととしての暖かみも知らぬままに育ってきた。それが、今はクラレンスの手によって、愛情たっぷりに育てられている。
この奇跡のような出会いが運命なのだと言われれば、海直はそうだと諸手を挙げて受け入れるしかない。
「とーさまのこと、にーさまはゆるさないのよ」
「とーたま?」
「アンとにーさまのちちおやで、アンとにーさまをすてたおとこよ」
運命を見つけてしまって、駆け落ちして行った父親を、クラレンスは憎んでいる。
「くえあ、うんめい、ちあい?」
「いいえ、にーさまは、ミチカがすきよ。アンにもヤキモチやくくらい、ほんきでね」
だからにーさまとずっといっしょにいてね。
アンジェラの言葉がなくとも、海直はクラレンスと離れることなど考えられなかった。一番信頼しているのはクラレンスだが、その妹のアンジェラも海直にとっては大事な姉のようなもので、相談相手でもある。
「みぃ、ちんちん、ありゅ。くえあ、ちんちん、ありゅ。けこん、できゆ?」
「おとこどーしでけっこんしたいってことね。だいじょうぶよ、どっちかが、こどもをうむのをえらばないといけないことがおおいけど」
望まなければどちらも選ばないこともあるし、稀なケースだが交代で産むこともある。女の子だからか、一歳年上のアンジェラは賢くて、海直の安心する答えをくれた。
「けこん、できゆ」
「そうよ、できるわ」
応援してくれるこの姉のような存在が、海直にとっては誰よりも有り難く得難いものだった。
二人が小さな体を並べてソファに座って話しているのを、クラレンスが和みながら聞いているなど、海直は全く気付いていなかった。夜にお風呂に入って、海直はじっとクラレンスの股間を凝視してしまう。立派な男の子だとクラレンスは言ってくれたが、海直の男性の象徴は未成熟な体に合わせて、相応の大きさしかなかった。
「みぃ、ちんちん、ちっしゃい?」
これではヴァンニの言う「クラレンスを満足させられない」状態になって、クラレンスに嫌われるのではないかと、その使い方も知らないのに胸が痛くて涙が溢れる海直を、クラレンスはしなやかな筋肉に覆われた太ももの上に抱き上げてくれる。
「そのうちに大きくなるよ、海直の体も、そこも」
「くえあ、みぃ、ちやいにならない?」
「海直のことを愛しているよ」
内緒だよと色っぽく微笑んで、クラレンスが海直の小さな手を、割れた腹筋の上に置く。お湯の中で下腹を撫でていたら、耳にかぷりと噛み付かれて、耳元で囁かれた。
「16歳になったら、海直ので、ここをいっぱいに満たして」
その具体的な方法が分かるわけもない。ただ、クラレンスの猛烈な色気に当てられて、海直は仰け反って湯船に沈みそうになってしまった。慌てて抱き上げたクラレンスが、ざばりと海直を助け出す。
「みぃ、おっちくなる!」
その日から、海直は大きくなるべく、苦手な固形物も一生懸命噛んで、食べるようになった。もぐもぐと噛んでいてもなかなか飲み込めずに、最初の方は涙目になって、頬を栗鼠のように膨らませて苦しんでいたが、食事は毎日するものなので、そのうちに慣れてくる。
「奥歯が生えてきたね。これでもっと食べやすくなるはずだよ」
寝る前に歯磨きをしてくれるクラレンスが、海直の口の中を覗き込んで言う。全体的な体の成長は遅いが、海直は確かに育っていた。
投げられたのが相当堪えたのか、反省を知らないヴァンニもしばらくは海直やクラレンスに近付くことはなかった。その間に、ヴァンニが「2歳の男の子を言葉で操って性器を露出させるようなことをした」と噂になっているのを、クラレンスが冷徹な笑みで聞いていたとか。
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