528 / 528
番外編
マリアと薔薇の花
しおりを挟む
わたくし、マリア・ディッペルがシュタール家に嫁いだのは春でした。
嫁いですぐの朝、わたくしはオリヴァー様に庭に散歩に誘われました。辺境伯領は春でも日差しが強いのでオリヴァー様はわたくしのために美しいレースの日傘を用意してくださいました。レースの日傘をさして庭に出ると、オリヴァー様が日傘を持っていない方の手を引いてエスコートしてくださいます。オリヴァー様に導かれて行ったのは、薔薇の花が咲いている一角でした。
そこにはピンクと白のグラデーションの薔薇の花が大量に咲き誇っています。薔薇の花の香りもして華やかなその場所の前にはベンチが置かれていました。
わたくしはオリヴァー様と一緒にベンチに座ります。日傘を畳もうとするとオリヴァー様が「そのままで」と仰いました。
「この薔薇を覚えていますか?」
「もちろんです。わたくしのために植えてくださった薔薇でしょう?」
「そうです。あれから十年以上経ちました。薔薇の花もよく育ち、こんなに広がったのです」
薔薇の花を見ながらわたくしはオリヴァー様の隣りに座って幸福な気分になっていました。
オリヴァー様とナターリエ嬢がわたくしのために植えてくださった薔薇が育って、株も増えて、これだけ広大な薔薇園になっている。
「本当はピンクの薔薇と白の薔薇を植えたかったのですが、それではひねりがないとナターリエの言われてしまったのです」
「それで、ピンクと白の混ざった薔薇を植えたのですね」
「ピンクの薔薇は『上品』『感謝』『淑やか』などの花言葉があると言われています。白薔薇は……『深い尊敬』『無邪気』『相思相愛』、それに、少し恥ずかしいのですが、『私はあなたに相応しい』とか『あなたの色に染まる』とかいう意味があるそうです」
「私はあなたに相応しい」「あなたの色に染まる」
それはわたくしが望んでいたことのような気がして、わたくしは自分の頬を押さえました。
「オリヴァー様はわたくしの気持ちが分かっていたのですか?」
「え? これは私の気持ちのつもりでした」
「えぇ!?」
わたくしはずっと年の差があって幼くて、早くオリヴァー様に相応しくなりたいとばかり思っていました。オリヴァー様に相応しくなってオリヴァー様の色に染まりたい。上品で淑やかなレディになりたい。相思相愛になりたい。オリヴァー様に深い尊敬の念を抱いている。
そればかり考えていたのに、オリヴァー様はそれが自分の気持ちだと言ってくださいます。
「マリアはシュタール家が陥れられようとしたときに、五歳でありながらシュタール家を救ってくれた尊い方でした。私はマリアに『感謝』の気持ちを常に持っていましたし、五歳であの決断ができたマリアに『深い尊敬』の念を抱いていました。いつか『相思相愛』になって『あなたに相応しい』と言われるような人物になりたいと思っていたのですよ」
「そんな!? わたくしはずっと幼くて、オリヴァー様に相応しくないと思っていました」
「そんなことはありません。私はずっとマリアのことをディッペル家の小さなお姫様のように思っていたのです。小さなお姫様が私を助けてくれたと」
結婚するまでこんな話はしなかったし、オリヴァー様がそんな風にわたくしのことを思ってくださっているだなんてわたくしは全く知らなかったのです。感激のあまり涙ぐんでしまうわたくしをオリヴァー様は肩を抱いて優しく囁いてくださいます。
「私と結婚してくださってありがとうございます。マリアが私の元に来てくださる日を心待ちにしていました」
「嬉しいです、オリヴァー様。わたくし、本当に幸せです」
オリヴァー様の腕に抱き締められて、わたくしは滲む涙を拭いたのでした。
ナターリエ嬢はゲオルク殿と婚約しています。
ゲオルク殿はまだ学園に通っていて成人していないので、ゲオルク殿が成人するまでは結婚できなくて、シュタール家でオリヴァー様の補佐を務めることになっていました。
わたくしもシュタール家の女主人としてしっかりと務めなければいけません。
結婚式の日の宿泊に関しては、エリザベートお姉様が辺境伯家で受け入れてくれて、わたくしはほとんど何もしなくてよかったのです。エリザベートお姉様は新婚の夫婦は結婚式で疲れているだろうし、初夜などもあるからとディッペル家の両親の宿泊も、フランツお兄様夫婦の宿泊も、皇太子殿下夫婦の宿泊も引き受けてくださいました。僅かに残った宿泊客たちはナターリエ嬢が引き受けてくださったので、わたくしは結婚式の疲れを癒すこともできて、初夜も滞りなく済ませることができました。
初夜は痛かったり、怖かったりする場合があるけれども、夫となる方にお任せしなさいと学園で女子生徒は習っていたので、少し怖い気持ちはあったのですが、オリヴァー様はとても優しくて少しも痛いことも怖いこともありませんでした。
これは子どもを授かるための大事な行為なので、拒んではいけませんとも学園で習っていたのですが、恥ずかしさはありましたがわたくしは拒むほど嫌なことではないと学びました。
結婚式の翌日にわたくしとオリヴァー様を訪ねてきてくださったフランツお兄様とレーニお義姉様は嬉しい報告を持ってきてくださいました。
「マリア夫人、わたくし、お腹に赤ちゃんがいると言われました」
「本当ですか、レーニお義姉様?」
「本当です。軽い悪阻があるのですが、吐くほどではないし、食事も取れています」
「それならば安心です」
「マリアが結婚しておめでたいときに、レーニも妊娠というおめでたいことになって、とても嬉しく思っています」
「フランツお兄様、レーニお義姉様、おめでとうございます」
フランツお兄様とレーニお義姉様は結婚して二年になるはずです。レーニお義姉様の方が七歳年上なので、周囲は早く子どもを望まれていましたが、フランツお兄様は子どもができなかったら養子をもらえばいいとそれを退けていらっしゃいました。レーニお義姉様を守っていらっしゃったのです。
それがレーニお義姉様が妊娠なさったとなると、ディッペル家もフランツお兄様の後の後継者もできるということで安泰ではありませんか。
本当におめでたい報告にわたくしは胸がいっぱいになっていました。
フランツお兄様とレーニお義姉様が帰ってから、わたくしはオリヴァー様に小さく聞いてみました。
「オリヴァー様は子どもは何人くらい欲しいですか?」
エリザベートお姉様とわたくしはよく似ています。配偶者が十歳年上ということと、十一歳年上ということも似ています。エリザベートお姉様が三人子どもを授かっているので、わたくしも何人か子どもが産めるのではないかと思っているのです。ウエディングドレスのお直しがほとんど必要なかったように、色彩だけでなくわたくしとエリザベートお姉様は体型もよく似ていますし。
「子どもは授かれば一人でも嬉しいです。授からなければ、養子をもらうだけなので、マリアは気にしないでいいのですよ」
「わたくし、できればオリヴァー様の子どもを何人も産みたいです」
「子どもは神様が授けてくださるものです。私やマリアには決められないことです。決められないことを私がマリアに望むのはおかしいでしょう?」
「オリヴァー様」
オリヴァー様はこんなところもとても優しいのです。わたくしはオリヴァー様の優しさに胸がいっぱいになりますが、それでも子どもが欲しい気持ちは変わりません。
「わたくし、エリザベートお姉様と似ているので、三人は産めるかもしれません」
「マリア、そういうことは急いで考えなくていいのですよ。子どもは授かるときに授かるものです。それに、私とマリアはこの先ずっと一緒なのですからね」
結婚したのだからオリヴァー様とわたくしはずっと一緒。
そう言われると嬉しくて子どものように飛び跳ねたくなります。淑女なのでそのようなことは致しませんが。
「お兄様、マリア様、よろしいですか?」
「どうしました、ナターリエ?」
「ナターリエ嬢、なんでしょう?」
二人で寛いでいた部屋にナターリエ嬢が訪ねて来ました。ナターリエ嬢は真剣な顔でオリヴァー様に相談していました。
「ゲオルグ様がわたくしがリリエンタール家に嫁ぐか、ゲオルグ様がシュタール家に婿入りするかを迷っていらっしゃるのです。わたくしは結婚してもお兄様の補佐としてシュタール家に残りたく思っているのですが」
「ゲオルグ様もリリエンタール家の補佐としてリリエンタール家に残りたいと思っているのですか」
「そうかもしれません。とりあえずは、相談したいと手紙がきました」
「ナターリエがシュタール家にいてくれれば私は安心ですが、ゲオルグ様もデニス様と一緒にいたい気持ちは分かります」
「お兄様、わたくしはどうすればいいのでしょう」
真剣に悩んでいるナターリエ嬢に、オリヴァー様は優しく語り掛けました。
「それは二人で話し合うしかないと思いますよ。夏休みにゲオルク殿をシュタール家にお招きするのはどうですか?」
「そうですね。二人でよく話し合ってみます」
ナターリエ嬢がシュタール家の補佐としてシュタール家に残るのか、ゲオルク様がリリエンタール家の補佐としてリリエンタール家に残るのか、答えはまだ出そうにありませんでした。
昼食をオリヴァー様とナターリエ嬢とお義父様と食べて、わたくしはナターリエ嬢からシュタール家の女主人としての仕事を習うことにしました。ナターリエ嬢は幼いころにお母様を亡くされて、それ以降シュタール家でしっかりとお義父様とオリヴァー様を支えて来られました。
その技術をわたくしは学びたかったのです。
「メイド長と執事に紹介しましょう。マリア様、こちらです」
「わたくしのことは『お義姉様』と呼んでいただけますか?」
「よろしいのですか? それでは、マリアお義姉様と呼ばせていただきますね」
メイド長と執事に紹介されて、それから厨房にも連れて行ってもらいました。
厨房の調理長にも挨拶をして、これからお茶会や晩餐会や昼食会のときのメニューもわたくしが取り仕切るようになるのだとナターリエ嬢に教えてもらいます。
「わたくし、オリヴァー様に相応しくなるように頑張りますわ。白薔薇の花言葉のように」
気合を入れていると、ナターリエ嬢がわたくしを不思議そうに見てきました。
「どうして白薔薇の花言葉なのですか?」
「オリヴァー様は白薔薇とピンクの薔薇を植えたかったと教えてくださいました」
「それでは、あのピンクと白の薔薇の花言葉はご存じないのですね?」
「はい、聞いておりません」
素直に答えると、ナターリエ嬢がため息をつきました。
「あの薔薇の花言葉は『美しい少女』です。お兄様がマリアお義姉様をずっと美しいと思ってきた証なのですよ」
恥ずかしくてきっと言えなかったのでしょうね。
ナターリエ嬢に言われて、わたくしは頬が熱くなって、そこをそっと押さえたのでした。
あんな昔からオリヴァー様はわたくしを「美しい少女」と思ってくださっていたのです。
そのことが嬉しくて、このことはずっと胸に仕舞っておこうと心に決めました。
嫁いですぐの朝、わたくしはオリヴァー様に庭に散歩に誘われました。辺境伯領は春でも日差しが強いのでオリヴァー様はわたくしのために美しいレースの日傘を用意してくださいました。レースの日傘をさして庭に出ると、オリヴァー様が日傘を持っていない方の手を引いてエスコートしてくださいます。オリヴァー様に導かれて行ったのは、薔薇の花が咲いている一角でした。
そこにはピンクと白のグラデーションの薔薇の花が大量に咲き誇っています。薔薇の花の香りもして華やかなその場所の前にはベンチが置かれていました。
わたくしはオリヴァー様と一緒にベンチに座ります。日傘を畳もうとするとオリヴァー様が「そのままで」と仰いました。
「この薔薇を覚えていますか?」
「もちろんです。わたくしのために植えてくださった薔薇でしょう?」
「そうです。あれから十年以上経ちました。薔薇の花もよく育ち、こんなに広がったのです」
薔薇の花を見ながらわたくしはオリヴァー様の隣りに座って幸福な気分になっていました。
オリヴァー様とナターリエ嬢がわたくしのために植えてくださった薔薇が育って、株も増えて、これだけ広大な薔薇園になっている。
「本当はピンクの薔薇と白の薔薇を植えたかったのですが、それではひねりがないとナターリエの言われてしまったのです」
「それで、ピンクと白の混ざった薔薇を植えたのですね」
「ピンクの薔薇は『上品』『感謝』『淑やか』などの花言葉があると言われています。白薔薇は……『深い尊敬』『無邪気』『相思相愛』、それに、少し恥ずかしいのですが、『私はあなたに相応しい』とか『あなたの色に染まる』とかいう意味があるそうです」
「私はあなたに相応しい」「あなたの色に染まる」
それはわたくしが望んでいたことのような気がして、わたくしは自分の頬を押さえました。
「オリヴァー様はわたくしの気持ちが分かっていたのですか?」
「え? これは私の気持ちのつもりでした」
「えぇ!?」
わたくしはずっと年の差があって幼くて、早くオリヴァー様に相応しくなりたいとばかり思っていました。オリヴァー様に相応しくなってオリヴァー様の色に染まりたい。上品で淑やかなレディになりたい。相思相愛になりたい。オリヴァー様に深い尊敬の念を抱いている。
そればかり考えていたのに、オリヴァー様はそれが自分の気持ちだと言ってくださいます。
「マリアはシュタール家が陥れられようとしたときに、五歳でありながらシュタール家を救ってくれた尊い方でした。私はマリアに『感謝』の気持ちを常に持っていましたし、五歳であの決断ができたマリアに『深い尊敬』の念を抱いていました。いつか『相思相愛』になって『あなたに相応しい』と言われるような人物になりたいと思っていたのですよ」
「そんな!? わたくしはずっと幼くて、オリヴァー様に相応しくないと思っていました」
「そんなことはありません。私はずっとマリアのことをディッペル家の小さなお姫様のように思っていたのです。小さなお姫様が私を助けてくれたと」
結婚するまでこんな話はしなかったし、オリヴァー様がそんな風にわたくしのことを思ってくださっているだなんてわたくしは全く知らなかったのです。感激のあまり涙ぐんでしまうわたくしをオリヴァー様は肩を抱いて優しく囁いてくださいます。
「私と結婚してくださってありがとうございます。マリアが私の元に来てくださる日を心待ちにしていました」
「嬉しいです、オリヴァー様。わたくし、本当に幸せです」
オリヴァー様の腕に抱き締められて、わたくしは滲む涙を拭いたのでした。
ナターリエ嬢はゲオルク殿と婚約しています。
ゲオルク殿はまだ学園に通っていて成人していないので、ゲオルク殿が成人するまでは結婚できなくて、シュタール家でオリヴァー様の補佐を務めることになっていました。
わたくしもシュタール家の女主人としてしっかりと務めなければいけません。
結婚式の日の宿泊に関しては、エリザベートお姉様が辺境伯家で受け入れてくれて、わたくしはほとんど何もしなくてよかったのです。エリザベートお姉様は新婚の夫婦は結婚式で疲れているだろうし、初夜などもあるからとディッペル家の両親の宿泊も、フランツお兄様夫婦の宿泊も、皇太子殿下夫婦の宿泊も引き受けてくださいました。僅かに残った宿泊客たちはナターリエ嬢が引き受けてくださったので、わたくしは結婚式の疲れを癒すこともできて、初夜も滞りなく済ませることができました。
初夜は痛かったり、怖かったりする場合があるけれども、夫となる方にお任せしなさいと学園で女子生徒は習っていたので、少し怖い気持ちはあったのですが、オリヴァー様はとても優しくて少しも痛いことも怖いこともありませんでした。
これは子どもを授かるための大事な行為なので、拒んではいけませんとも学園で習っていたのですが、恥ずかしさはありましたがわたくしは拒むほど嫌なことではないと学びました。
結婚式の翌日にわたくしとオリヴァー様を訪ねてきてくださったフランツお兄様とレーニお義姉様は嬉しい報告を持ってきてくださいました。
「マリア夫人、わたくし、お腹に赤ちゃんがいると言われました」
「本当ですか、レーニお義姉様?」
「本当です。軽い悪阻があるのですが、吐くほどではないし、食事も取れています」
「それならば安心です」
「マリアが結婚しておめでたいときに、レーニも妊娠というおめでたいことになって、とても嬉しく思っています」
「フランツお兄様、レーニお義姉様、おめでとうございます」
フランツお兄様とレーニお義姉様は結婚して二年になるはずです。レーニお義姉様の方が七歳年上なので、周囲は早く子どもを望まれていましたが、フランツお兄様は子どもができなかったら養子をもらえばいいとそれを退けていらっしゃいました。レーニお義姉様を守っていらっしゃったのです。
それがレーニお義姉様が妊娠なさったとなると、ディッペル家もフランツお兄様の後の後継者もできるということで安泰ではありませんか。
本当におめでたい報告にわたくしは胸がいっぱいになっていました。
フランツお兄様とレーニお義姉様が帰ってから、わたくしはオリヴァー様に小さく聞いてみました。
「オリヴァー様は子どもは何人くらい欲しいですか?」
エリザベートお姉様とわたくしはよく似ています。配偶者が十歳年上ということと、十一歳年上ということも似ています。エリザベートお姉様が三人子どもを授かっているので、わたくしも何人か子どもが産めるのではないかと思っているのです。ウエディングドレスのお直しがほとんど必要なかったように、色彩だけでなくわたくしとエリザベートお姉様は体型もよく似ていますし。
「子どもは授かれば一人でも嬉しいです。授からなければ、養子をもらうだけなので、マリアは気にしないでいいのですよ」
「わたくし、できればオリヴァー様の子どもを何人も産みたいです」
「子どもは神様が授けてくださるものです。私やマリアには決められないことです。決められないことを私がマリアに望むのはおかしいでしょう?」
「オリヴァー様」
オリヴァー様はこんなところもとても優しいのです。わたくしはオリヴァー様の優しさに胸がいっぱいになりますが、それでも子どもが欲しい気持ちは変わりません。
「わたくし、エリザベートお姉様と似ているので、三人は産めるかもしれません」
「マリア、そういうことは急いで考えなくていいのですよ。子どもは授かるときに授かるものです。それに、私とマリアはこの先ずっと一緒なのですからね」
結婚したのだからオリヴァー様とわたくしはずっと一緒。
そう言われると嬉しくて子どものように飛び跳ねたくなります。淑女なのでそのようなことは致しませんが。
「お兄様、マリア様、よろしいですか?」
「どうしました、ナターリエ?」
「ナターリエ嬢、なんでしょう?」
二人で寛いでいた部屋にナターリエ嬢が訪ねて来ました。ナターリエ嬢は真剣な顔でオリヴァー様に相談していました。
「ゲオルグ様がわたくしがリリエンタール家に嫁ぐか、ゲオルグ様がシュタール家に婿入りするかを迷っていらっしゃるのです。わたくしは結婚してもお兄様の補佐としてシュタール家に残りたく思っているのですが」
「ゲオルグ様もリリエンタール家の補佐としてリリエンタール家に残りたいと思っているのですか」
「そうかもしれません。とりあえずは、相談したいと手紙がきました」
「ナターリエがシュタール家にいてくれれば私は安心ですが、ゲオルグ様もデニス様と一緒にいたい気持ちは分かります」
「お兄様、わたくしはどうすればいいのでしょう」
真剣に悩んでいるナターリエ嬢に、オリヴァー様は優しく語り掛けました。
「それは二人で話し合うしかないと思いますよ。夏休みにゲオルク殿をシュタール家にお招きするのはどうですか?」
「そうですね。二人でよく話し合ってみます」
ナターリエ嬢がシュタール家の補佐としてシュタール家に残るのか、ゲオルク様がリリエンタール家の補佐としてリリエンタール家に残るのか、答えはまだ出そうにありませんでした。
昼食をオリヴァー様とナターリエ嬢とお義父様と食べて、わたくしはナターリエ嬢からシュタール家の女主人としての仕事を習うことにしました。ナターリエ嬢は幼いころにお母様を亡くされて、それ以降シュタール家でしっかりとお義父様とオリヴァー様を支えて来られました。
その技術をわたくしは学びたかったのです。
「メイド長と執事に紹介しましょう。マリア様、こちらです」
「わたくしのことは『お義姉様』と呼んでいただけますか?」
「よろしいのですか? それでは、マリアお義姉様と呼ばせていただきますね」
メイド長と執事に紹介されて、それから厨房にも連れて行ってもらいました。
厨房の調理長にも挨拶をして、これからお茶会や晩餐会や昼食会のときのメニューもわたくしが取り仕切るようになるのだとナターリエ嬢に教えてもらいます。
「わたくし、オリヴァー様に相応しくなるように頑張りますわ。白薔薇の花言葉のように」
気合を入れていると、ナターリエ嬢がわたくしを不思議そうに見てきました。
「どうして白薔薇の花言葉なのですか?」
「オリヴァー様は白薔薇とピンクの薔薇を植えたかったと教えてくださいました」
「それでは、あのピンクと白の薔薇の花言葉はご存じないのですね?」
「はい、聞いておりません」
素直に答えると、ナターリエ嬢がため息をつきました。
「あの薔薇の花言葉は『美しい少女』です。お兄様がマリアお義姉様をずっと美しいと思ってきた証なのですよ」
恥ずかしくてきっと言えなかったのでしょうね。
ナターリエ嬢に言われて、わたくしは頬が熱くなって、そこをそっと押さえたのでした。
あんな昔からオリヴァー様はわたくしを「美しい少女」と思ってくださっていたのです。
そのことが嬉しくて、このことはずっと胸に仕舞っておこうと心に決めました。
205
お気に入りに追加
1,689
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(150件)
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
フランツ君がパパ!!!
感慨深いものがあります!☺️
フランツがパパになりました。
わたしも親戚のおばちゃんのような気分で書いていました!
完結おめでとうございます。
番外編三話目のタイトル、身に覚えのある単語に思わず笑ってしまいました。
カサンドラ様にからかわれなくて良かったですね。
クリスタ視点からの本編振り返りも、フランツの想いが実を結んだ結婚式も楽しく拝読しました。
マリアの結婚式も書かれたと聞いて、さっそく楽しみにしています。
エリザベート達との出会いをありがとうございました。
新作はすぐ読むか、溜めてまとめ読みか迷っているところです。
完結お祝いありがとうございます!
エクムント視点のタイトル、使わせていただきました。遅れてきた初恋ってフレーズがあまりにもしっくりときすぎていたのです。ちょうどあの頃にラストを書いていたので、頂戴いたしました。その節はありがとうございます。
クリスタ視点も、フランツ視点も楽しんでいただけたようで何よりです。
マリアの番外編も投稿したらよろしくお願いします。
エリザベートと出会ってくださってこちらこそ本当にありがとうございました。
新作は十万字程度で終わる短いもので、完結まで書いて予約投稿しているので安心して読んでくだされば幸いです。
完結!おめでとうございます!
500話を超す長編!毎日、楽しく読ませていただきました!
またの作品を楽しみにしています!
お祝いありがとうございます。
初めて500話を超す長編を書きました。大変でしたが楽しかったです。
今日から新作を投稿しております。そちらはエリザベートとはかなりテイストの違う作品になりますがよろしければ読んでみてくださいませ。
最後まで読んでくださってありがとうございました!