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番外編
エクムント・ヒンケルの遅れてきた初恋
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エリザベートが第一子を産んだとき、私は自分の部屋で控えていた。
女性が出産するときには男性は邪魔にしかならないから、別の部屋で待っているというのがこの国の流儀だ。女性にしか妊娠、出産はできないので、私はエリザベートの苦しみを変わってやることができなかった。
悪阻のときには少しでも食べられるものを準備し、エリザベートの嫌がるようなものは私も食べないようにして気を付けてはいたが、それくらいしか私にはできない。日に日に大きくなるエリザベートのお腹に驚きつつ、腰が痛いと言えば摩り、足がむくんでつらいと言えばお湯を用意してエリザベートに足を付けてもらってマッサージをしていた。
移動にもとても気を遣ったし、エリザベートがどうすれば楽に過ごせるかは懸命に考えたつもりだ。
それでも、出産のときには私は完全な役立たずだった。
エリザベートが第一子を出産して、医者から私が呼ばれたときには、生まれた赤ん坊は産湯をつかわされて、産着を着せられてお包みに包まれていた。
ポヤポヤとした髪は黒く、紫色の光沢がある。肌は褐色で、目は私と同じ金色だった。
「エクムント様、抱っこしてあげてください。あなたの娘です」
疲れ切っている様子なのに涙目になって赤ん坊を差し出すエリザベートに、私も泣きそうになりながら赤ん坊を受け取った。抱っこすると小さくて柔らかくて可愛い。女の子は柔らかくていい匂いがするのだと私は経験上知っていた。
「可愛いですね……。こんなに可愛い娘を頑張って産んでくれて本当にありがとう」
「エクムント様にそっくりではありませんか? この肌、この目」
「髪の色はエリザベートにそっくりです」
「名前を決めてくれましたか?」
赤ん坊の名前については、男女どちらか生まれてくるまで分からないので、エリザベートと一緒にいくつか候補を考えていたが、結局生まれてきた顔を見るまでは決められないという結論になっていた。
嬉し涙で滲む目で娘の顔をしみじみと見つめると、候補に挙がっていた名前の一つが頭に浮かんだ。
「エレオノーラというのはどうでしょう?」
「エレオノーラ。いいですね、美しい名前です。きっとこの子は美しく育つでしょう」
褐色の肌は辺境伯領の証のようなものだが、真っ白な肌のエリザベートから褐色の肌のエレオノーラが生まれてきたことを考えると、この子は間違いなく私の子だという実感がわいて幸せな気持ちになる。
お乳を飲ませるエリザベートに、私は過去のことを思い出していた。
エリザベートと私が初めて出会ったのは、私が十一歳、エリザベートが生後半年くらいのころだった。
私の進路について悩んだ両親が、若きディッペル公爵夫妻に相談したのだ。
私はそのころには将来は辺境伯家に養子に行くことが決まっていたが、養子に行くまでの間仕える家がなかった。
士官学校を卒業して五年間は辺境伯家も私を受け入れるための準備があったし、カサンドラ様だけでは私の教育に当たれないので、騎士としての実績を積んでから辺境伯家に来るように言われていたようなのだ。
キルヒマン家は侯爵家なので、その三男が仕えるような場所は限られている。
もっと身分が上の公爵家か、王家だ。
王家に交渉は難しいと感じていた両親は、ディッペル公爵夫人が結婚するときに一時的にキルヒマン家の養子となったつてを使って、ディッペル公爵夫妻を呼び寄せたのだ。
十一歳の私はその辺の事情は薄らぼんやりとしか分かっていなかった。
話し合いの間、同席させられていたが退屈で、ディッペル公爵夫妻が乳母と共に連れてきていた赤ん坊に視線が向いていた。
紫色の光沢のある黒髪に銀色の光沢のある黒い目の髪の毛もぽやぽやの赤ん坊。
気になっていると、ディッペル公爵夫人が私に視線を向けた。
「抱っこしてみますか?」
「よろしいのですか?」
「わたくしはキルヒマン家に養子に行ってディッペル家に嫁ぎました。エクムント殿はわたくしの弟のようなものです。姪を抱っこしてやってくれませんか」
私がディッペル公爵夫人の弟で、この可愛い赤ん坊が姪。
そう思うと私の心は浮かれてきた。
乳母に習ってそっと抱き上げると、赤ん坊は確認するように私の胸に顔をこすりつけてきた。よだれがシャツについたが、そんなことは全く気にならない。
「エリザベートです。名前を呼んであげてください」
「エリザベート様」
「う……あー!」
名前を呼ぶとエリザベートは大きく口を開けてにぱっと笑った。
その可愛かったこと。
赤ん坊がこんなに柔らかくていい匂いがするだなんて知らなかった。
海老反りになってきゃっきゃと笑うエリザベートを落とさないように気を付けながら、私はキルヒマン家の庭を散歩した。抱っこしている重みが心地よく、乳の匂いがするエリザベートは甘く可愛かった。
それから何度もディッペル公爵夫妻はキルヒマン家にやってきた。そのたびに私はエリザベートを抱っこして庭を散歩した。
士官学校に私が入学してもディッペル公爵の訪問は続いていた。士官学校の休みになるとキルヒマン家に帰って、エリザベートと会って一緒に散歩するのが私の楽しみになっていた。
「やーの!」
「帽子を被らないと、その白い肌が焼けますよ?」
「ないない」
「被ってください」
「いっちょ!」
「私は肌の色が濃いので平気なだけです。帽子を……分かりました、私も被ります」
二歳近くになるとエリザベートは被っていた帽子を投げ捨てるようになった。白い肌が焼けては大変と何度も被せるのだが、手で取って脱いでしまう。抱っこも嫌がることがあり、手を繋いでのお散歩になる日もあった。
エリザベートが帽子を被らないのは、私が褐色の肌で日焼けを気にしないせいかと思って私も帽子を被ってもあまり意味はなく、エリザベートは帽子を脱いでしまった。
「まぁまぁ、いいではありませんか。クレーメンスなど、帽子どころが服まで脱いで庭で全裸になろうとしたことがあるのですよ」
「クレーメンス兄上……」
笑う母に、私は笑い事ではないと思ってしまう。エリザベートがクレーメンス兄上のように激しい性格でなかったことに安堵していた。
エリザベートが六歳になったときに私は士官学校を卒業してディッペル家に仕える騎士になった。辺境伯家に行くまで私を預かってくれるのはディッペル家に決まったのだ。
赤ん坊のころから可愛がっているエリザベートの成長を見守ることができると、ディッペル公爵夫人も弟のように思っていると言ってくださったので、私は叔父のような気持でいた。
それが覆されたのがエリザベートが七歳になって辺境伯領に来て、カサンドラ様と会ってからだった。
エリザベートは辺境伯領の海軍や船乗りたちに蔓延していた壊血病の予防策を考え出したのだ。そのときのエリザベートは七歳だとは思えないくらい聡明だった。
国一番のフェアレディと呼ばれたディッペル公爵夫人の教育を受けていたので、エリザベートは他の子どもよりも大人びているような気はしていたのだが、まさか壊血病の予防策を考え出すとは思わなかった。
エリザベートに弟が生まれた後で、カサンドラ様は私に内密で会って告げた。
「エリザベート嬢をお前の婚約者にするぞ」
「エリザベートお嬢様はディッペル家の後継者ではありませんか」
「後継者となり得る弟が生まれた。そうでなくとも、養子をとってもらってでもエリザベート嬢を辺境伯領と結び付けたいと思っていた」
そのころの辺境伯領は荒れていて、独立派とオルヒデー帝国との融和派が争い合っていた。辺境伯家は王家に忠誠を誓っていたのだが、それを明らかにするために、王家の血を引く初代国王の色彩を持ったエリザベートという象徴が欲しかったのだ。
私は大いに戸惑った。
それまで私はエリザベートのことを姪のようにしか思っていなかった。
赤ん坊のころから可愛がってきた大事な大事なお嬢様だ。それが婚約者となるなんて信じられない。
私はエリザベートを愛することができるのだろうか。
婚約を願う手紙がカサンドラ様からディッペル家に渡ると、エリザベートは生まれてきた弟に後継者を譲る決意をして、私の婚約者となることを決めた。
エリザベートが八歳、私が十九歳のときのことだ。
十九歳で八歳の婚約者ができるだなんて、貴族ならば十分あり得ることなのだが、私はエリザベートを姪のように可愛がっていた分だけショックだった。
カサンドラ様が選んだ相手ならば結婚して愛そうと思っていた。
士官学校で娼館に遊びに行こうと誘われても、私は娼婦から病気をもらうことは許されないし、女性には貞節を求めるのに、男性には経験を求める世間の風潮が嫌で、断り続けていた。
だから、私にとっては結婚する相手が初めて愛する相手で、恋する相手だったのだ。
それがエリザベートで本当に愛せるのだろうか。
私には不安しかなかった。
しかし、エリザベートが成長してくるにつれて、違う考えも浮かんできた。
赤ん坊のころから成長を見守ってきたエリザベートが別の男性の元に嫁ぐとなれば、私はものすごく複雑な気持ちになるだろう。
可愛がってきた姪を取られたような気分になるかもしれない。
それに比べたら、私がエリザベートと結婚してしまう方がマシなのではないだろうか。
貴族同士の政略結婚では、相手に愛人がいたり、妾を持たれたり、愛情が育たないこともよくある。それを考えると、私は間違いなくエリザベートを可愛いと思っているし、姪のように思っているが愛しいとも思っている。
それならば、エリザベートが成長すればいつかは愛を育めるのではないか。
考えていたことは当たった。
エリザベートが成長するにつれて私は夢中になり、エリザベートが大人として花開く日を心待ちにするようになったのだ。
そして今、エリザベートと結婚二年目にして、可愛い娘、エレオノーラに恵まれた。
いつかエレオノーラが結婚するときには複雑な気分になるのだろうが、それとエリザベートに感じていた気持ちとは少し違うような気がする。
エリザベートは私にとって特別なお嬢様で、姪のような存在で、そのうちに恋して愛するようになった存在だ。
私はエリザベートを愛している。
今更ながら、これが私の初恋なのではないかと思って、そんなことは私は恥ずかしくて言えないと心の中にしまっておくのだった。
女性が出産するときには男性は邪魔にしかならないから、別の部屋で待っているというのがこの国の流儀だ。女性にしか妊娠、出産はできないので、私はエリザベートの苦しみを変わってやることができなかった。
悪阻のときには少しでも食べられるものを準備し、エリザベートの嫌がるようなものは私も食べないようにして気を付けてはいたが、それくらいしか私にはできない。日に日に大きくなるエリザベートのお腹に驚きつつ、腰が痛いと言えば摩り、足がむくんでつらいと言えばお湯を用意してエリザベートに足を付けてもらってマッサージをしていた。
移動にもとても気を遣ったし、エリザベートがどうすれば楽に過ごせるかは懸命に考えたつもりだ。
それでも、出産のときには私は完全な役立たずだった。
エリザベートが第一子を出産して、医者から私が呼ばれたときには、生まれた赤ん坊は産湯をつかわされて、産着を着せられてお包みに包まれていた。
ポヤポヤとした髪は黒く、紫色の光沢がある。肌は褐色で、目は私と同じ金色だった。
「エクムント様、抱っこしてあげてください。あなたの娘です」
疲れ切っている様子なのに涙目になって赤ん坊を差し出すエリザベートに、私も泣きそうになりながら赤ん坊を受け取った。抱っこすると小さくて柔らかくて可愛い。女の子は柔らかくていい匂いがするのだと私は経験上知っていた。
「可愛いですね……。こんなに可愛い娘を頑張って産んでくれて本当にありがとう」
「エクムント様にそっくりではありませんか? この肌、この目」
「髪の色はエリザベートにそっくりです」
「名前を決めてくれましたか?」
赤ん坊の名前については、男女どちらか生まれてくるまで分からないので、エリザベートと一緒にいくつか候補を考えていたが、結局生まれてきた顔を見るまでは決められないという結論になっていた。
嬉し涙で滲む目で娘の顔をしみじみと見つめると、候補に挙がっていた名前の一つが頭に浮かんだ。
「エレオノーラというのはどうでしょう?」
「エレオノーラ。いいですね、美しい名前です。きっとこの子は美しく育つでしょう」
褐色の肌は辺境伯領の証のようなものだが、真っ白な肌のエリザベートから褐色の肌のエレオノーラが生まれてきたことを考えると、この子は間違いなく私の子だという実感がわいて幸せな気持ちになる。
お乳を飲ませるエリザベートに、私は過去のことを思い出していた。
エリザベートと私が初めて出会ったのは、私が十一歳、エリザベートが生後半年くらいのころだった。
私の進路について悩んだ両親が、若きディッペル公爵夫妻に相談したのだ。
私はそのころには将来は辺境伯家に養子に行くことが決まっていたが、養子に行くまでの間仕える家がなかった。
士官学校を卒業して五年間は辺境伯家も私を受け入れるための準備があったし、カサンドラ様だけでは私の教育に当たれないので、騎士としての実績を積んでから辺境伯家に来るように言われていたようなのだ。
キルヒマン家は侯爵家なので、その三男が仕えるような場所は限られている。
もっと身分が上の公爵家か、王家だ。
王家に交渉は難しいと感じていた両親は、ディッペル公爵夫人が結婚するときに一時的にキルヒマン家の養子となったつてを使って、ディッペル公爵夫妻を呼び寄せたのだ。
十一歳の私はその辺の事情は薄らぼんやりとしか分かっていなかった。
話し合いの間、同席させられていたが退屈で、ディッペル公爵夫妻が乳母と共に連れてきていた赤ん坊に視線が向いていた。
紫色の光沢のある黒髪に銀色の光沢のある黒い目の髪の毛もぽやぽやの赤ん坊。
気になっていると、ディッペル公爵夫人が私に視線を向けた。
「抱っこしてみますか?」
「よろしいのですか?」
「わたくしはキルヒマン家に養子に行ってディッペル家に嫁ぎました。エクムント殿はわたくしの弟のようなものです。姪を抱っこしてやってくれませんか」
私がディッペル公爵夫人の弟で、この可愛い赤ん坊が姪。
そう思うと私の心は浮かれてきた。
乳母に習ってそっと抱き上げると、赤ん坊は確認するように私の胸に顔をこすりつけてきた。よだれがシャツについたが、そんなことは全く気にならない。
「エリザベートです。名前を呼んであげてください」
「エリザベート様」
「う……あー!」
名前を呼ぶとエリザベートは大きく口を開けてにぱっと笑った。
その可愛かったこと。
赤ん坊がこんなに柔らかくていい匂いがするだなんて知らなかった。
海老反りになってきゃっきゃと笑うエリザベートを落とさないように気を付けながら、私はキルヒマン家の庭を散歩した。抱っこしている重みが心地よく、乳の匂いがするエリザベートは甘く可愛かった。
それから何度もディッペル公爵夫妻はキルヒマン家にやってきた。そのたびに私はエリザベートを抱っこして庭を散歩した。
士官学校に私が入学してもディッペル公爵の訪問は続いていた。士官学校の休みになるとキルヒマン家に帰って、エリザベートと会って一緒に散歩するのが私の楽しみになっていた。
「やーの!」
「帽子を被らないと、その白い肌が焼けますよ?」
「ないない」
「被ってください」
「いっちょ!」
「私は肌の色が濃いので平気なだけです。帽子を……分かりました、私も被ります」
二歳近くになるとエリザベートは被っていた帽子を投げ捨てるようになった。白い肌が焼けては大変と何度も被せるのだが、手で取って脱いでしまう。抱っこも嫌がることがあり、手を繋いでのお散歩になる日もあった。
エリザベートが帽子を被らないのは、私が褐色の肌で日焼けを気にしないせいかと思って私も帽子を被ってもあまり意味はなく、エリザベートは帽子を脱いでしまった。
「まぁまぁ、いいではありませんか。クレーメンスなど、帽子どころが服まで脱いで庭で全裸になろうとしたことがあるのですよ」
「クレーメンス兄上……」
笑う母に、私は笑い事ではないと思ってしまう。エリザベートがクレーメンス兄上のように激しい性格でなかったことに安堵していた。
エリザベートが六歳になったときに私は士官学校を卒業してディッペル家に仕える騎士になった。辺境伯家に行くまで私を預かってくれるのはディッペル家に決まったのだ。
赤ん坊のころから可愛がっているエリザベートの成長を見守ることができると、ディッペル公爵夫人も弟のように思っていると言ってくださったので、私は叔父のような気持でいた。
それが覆されたのがエリザベートが七歳になって辺境伯領に来て、カサンドラ様と会ってからだった。
エリザベートは辺境伯領の海軍や船乗りたちに蔓延していた壊血病の予防策を考え出したのだ。そのときのエリザベートは七歳だとは思えないくらい聡明だった。
国一番のフェアレディと呼ばれたディッペル公爵夫人の教育を受けていたので、エリザベートは他の子どもよりも大人びているような気はしていたのだが、まさか壊血病の予防策を考え出すとは思わなかった。
エリザベートに弟が生まれた後で、カサンドラ様は私に内密で会って告げた。
「エリザベート嬢をお前の婚約者にするぞ」
「エリザベートお嬢様はディッペル家の後継者ではありませんか」
「後継者となり得る弟が生まれた。そうでなくとも、養子をとってもらってでもエリザベート嬢を辺境伯領と結び付けたいと思っていた」
そのころの辺境伯領は荒れていて、独立派とオルヒデー帝国との融和派が争い合っていた。辺境伯家は王家に忠誠を誓っていたのだが、それを明らかにするために、王家の血を引く初代国王の色彩を持ったエリザベートという象徴が欲しかったのだ。
私は大いに戸惑った。
それまで私はエリザベートのことを姪のようにしか思っていなかった。
赤ん坊のころから可愛がってきた大事な大事なお嬢様だ。それが婚約者となるなんて信じられない。
私はエリザベートを愛することができるのだろうか。
婚約を願う手紙がカサンドラ様からディッペル家に渡ると、エリザベートは生まれてきた弟に後継者を譲る決意をして、私の婚約者となることを決めた。
エリザベートが八歳、私が十九歳のときのことだ。
十九歳で八歳の婚約者ができるだなんて、貴族ならば十分あり得ることなのだが、私はエリザベートを姪のように可愛がっていた分だけショックだった。
カサンドラ様が選んだ相手ならば結婚して愛そうと思っていた。
士官学校で娼館に遊びに行こうと誘われても、私は娼婦から病気をもらうことは許されないし、女性には貞節を求めるのに、男性には経験を求める世間の風潮が嫌で、断り続けていた。
だから、私にとっては結婚する相手が初めて愛する相手で、恋する相手だったのだ。
それがエリザベートで本当に愛せるのだろうか。
私には不安しかなかった。
しかし、エリザベートが成長してくるにつれて、違う考えも浮かんできた。
赤ん坊のころから成長を見守ってきたエリザベートが別の男性の元に嫁ぐとなれば、私はものすごく複雑な気持ちになるだろう。
可愛がってきた姪を取られたような気分になるかもしれない。
それに比べたら、私がエリザベートと結婚してしまう方がマシなのではないだろうか。
貴族同士の政略結婚では、相手に愛人がいたり、妾を持たれたり、愛情が育たないこともよくある。それを考えると、私は間違いなくエリザベートを可愛いと思っているし、姪のように思っているが愛しいとも思っている。
それならば、エリザベートが成長すればいつかは愛を育めるのではないか。
考えていたことは当たった。
エリザベートが成長するにつれて私は夢中になり、エリザベートが大人として花開く日を心待ちにするようになったのだ。
そして今、エリザベートと結婚二年目にして、可愛い娘、エレオノーラに恵まれた。
いつかエレオノーラが結婚するときには複雑な気分になるのだろうが、それとエリザベートに感じていた気持ちとは少し違うような気がする。
エリザベートは私にとって特別なお嬢様で、姪のような存在で、そのうちに恋して愛するようになった存在だ。
私はエリザベートを愛している。
今更ながら、これが私の初恋なのではないかと思って、そんなことは私は恥ずかしくて言えないと心の中にしまっておくのだった。
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