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最終章 わたくしの結婚一年目とクリスタの結婚
25.雪のディッペル公爵領
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冬の始めにあるノエル殿下のお誕生日は今年はお茶会を開かないようだった。出産に耐えたノエル殿下をお茶会の席に連れ出すのは酷だろうとノルベルト殿下も判断されたのだろう。
わたくしとエクムント様は辺境伯領で冬の始まりを迎えた。
冬になっても日差しが少し和らいで、風が涼しくなるくらいで、辺境伯領には雪は降らないし、凍える寒さは来ない。
ディッペル公爵領の冬とは全く違うのだと実感していたが、服や寝具は辺境伯領の冬物に変わった。それもディッペル公爵領では秋物に相当するくらいの暖かさである。過ごしやすくていいのだが、ディッペル公爵領に行くとなるとそれ相応の準備をしていかなければいけない。
わたくしとエクムント様は、両親のお誕生日のお茶会でディッペル公爵領に行くことになっていた。列車の中で着られるようにコートもマフラーも手袋も用意しておく。
「ディッペル公爵領は雪でしょうね」
「毎年冬にディッペル公爵領や王都に行くと温度差に驚いてしまいます」
そういうエクムント様もキルヒマン家の出身で、辺境伯領の出身ではないので雪の冷たさや冬の寒さはしっかりと経験していらっしゃる。
馬車に乗って列車に乗り換えて、列車の中でコートやマフラーや手袋を出していつでも身に着けられるように準備をして、ディッペル公爵領に降り立つ。
ディッペル公爵領は雪が積もっていて、粉雪がちらついていた。
馬車に乗るときにはコートとマフラーと手袋を身に着けていたが、それでも底冷えのするような寒さが襲ってくる。わたくしもすっかりと辺境伯領の温度に慣れていたので、寒さが身に染みた。
エクムント様とわたくしはディッペル公爵家に両親のお誕生日の前日から泊ることにしていた。辺境伯領の執務は忙しくないわけではないのだが、移動に時間がかかるし、こういうときくらいはゆっくりとディッペル公爵家で過ごしたい。ディッペル公爵家はわたくしの実家で、エクムント様も五年間護衛の騎士として過ごした懐かしい場所なのだ。
ディッペル公爵家に着くとフランツとマリアが駆け寄ってきた。
馬車の着く音でわたくしたちの来訪に気付いたのだろう。
コートも着ないで外にかけ出るフランツとマリアをヘルマンさんとレギーナがコートを持って追いかけている。
「フランツ様、コートをお召しになってください」
「マリア様、コートを!」
「ありがとう、ヘルマンさん。ヘルマンさんもレギーナもコートを着ていないじゃないですか」
「それどころではありませんでした」
「寒いから、早くお屋敷に戻ってください」
フランツとマリアに言われてヘルマンさんとレギーナはお屋敷に戻っていた。
フランツとマリアがわたくしとエクムント様の周りをぐるぐると回る。
「エリザベートお姉様、エクムント義兄上、ようこそいらっしゃいました」
「エリザベートお姉様とエクムントお義兄様が来るのを待っていたのです」
「待っていてくれたのですか」
「待たせてしまいましたね」
「シュタール家のオリヴァー殿とナターリエ嬢も泊まると言っているのです」
嬉しそうなマリアの報告に、それが言いたかったのかとわたくしは納得する。オリヴァー殿はシュタール侯爵になっていたが、マリアの婚約者として早く招かれたのだろう。
ディッペル家で過ごす時間が長いことをマリアは純粋に喜んでいる。シュタール家としてもディッペル公爵家との繋がりが深いところをアピールしたいのだろう。ディッペル公爵家から辺境伯家に嫁いできたわたくしがエクムント様と共同統治者になり、軍の副司令官にもなった。
わたくしの存在感が増すにつれて、マリアがシュタール家に嫁いでいくということに重要な意味が生まれてくる。
辺境伯家とシュタール家の繋がりが一層深くなるのだ。
「楽しみですね、マリア」
「はい、エリザベートお姉様」
他の家の貴族には「エリザベート夫人」と呼ばれるようになったので、フランツとマリアが以前通り「エリザベートお姉様」と呼んでくれるのに安心する。ディッペル公爵領と辺境伯領で離れてしまってもわたくしとフランツとマリアは確かに兄弟だった。
「マリア、フランツ、お姉様とエクムント様が凍えてしまいます。お屋敷にお招きしてください」
「はい、クリスタお姉様」
「わたくし急いでエリザベートお姉様に伝えたくて、つい。ごめんなさい」
玄関から呼ぶクリスタに、フランツとマリアはわたくしたちの先に立って歩き出した。
ディッペル公爵家では両親とクリスタとフランツとマリアと一緒にお茶をして、夕食も一緒に食べた。
夕食のときにはオリヴァー殿とナターリエ嬢も到着していた。
「明日の朝のお散歩はご一緒できますか、オリヴァー殿、ナターリエ嬢?」
「エリザベートお姉様とエクムント義兄上はどうでしょう?」
マリアとフランツに聞かれて、オリヴァー殿とナターリエ嬢とわたくしとエクムント様で返事をする。
「明日のお散歩はご一緒できますよ」
「お兄様と一緒に参加させていただきます」
「わたくしも一緒に行けると思いますわ」
「ご一緒しましょう」
わたくしたちの返事にフランツとマリアは目を輝かせていた。
辺境伯家ではわたくしは女主人としての仕事があったので一緒にお散歩できなかったが、明日は間違いなく一緒にお散歩できる。それを確かめると、フランツとマリアが声を揃えて言った。
「雪合戦の特訓をしてほしいのです」
「ナターリエ嬢も一緒に特訓をしましょう!」
フランツもマリアも雪合戦に夢中のようだ。
今年はユリアーナ殿下がくじ引きでチームを決めると言っていたが、ケヴィン殿とフリーダ嬢も参加することになればどうなるのだろう。
「フランツ殿とマリア嬢はボール投げをしたことがありますか?」
「いいえ、ほとんどありません」
「小さいころに少しだけです」
「雪のない時期はボール投げで練習をしておくといいですよ。体を鍛えておくといいですからね」
エクムント様の言葉をフランツもマリアもナターリエ嬢も真剣に聞いている。
「お兄様はボール投げは得意ですか?」
「少しはしたことがありますが、それほどでも」
「わたくし、お兄様よりも得意になってしまうかもしれません」
「それは兄として、負けてはいられませんね。ナターリエ、一緒に練習しますか?」
「一緒に練習してくださいますか? 嬉しいです、お兄様!」
オリヴァー殿とナターリエ嬢は二人で練習することを約束していた。雪の降らない辺境伯領に住んでいるナターリエ嬢は雪合戦では不利になることも多いだろう。ボール投げなら辺境伯領でも練習ができる。
「庭に的を作ってそこに当てられるようにしましょう」
「ありがとうございます、お兄様」
仲良く話しているオリヴァー殿とナターリエ嬢の様子を見てわたくしは微笑ましくなる。
「お父様、お母様、私たちも庭に的が欲しいです」
「作ってください」
「ボール投げの練習も悪くないかもしれない」
「的を作らせましょうね」
フランツとマリアのお願いに両親も頷いている。
ボール投げで鍛えた雪合戦はまた激しい戦いになりそうだった。
翌朝お散歩でフランツとマリアとナターリエ嬢はエクムント様に雪合戦のコツを習っていた。
「雪は固めに握ってください。指でしっかりと確保できるだけの大きさにして。投げるときには一歩踏み出しつつ、肘の角度を意識するのです。どの角度が一番遠くまで正確に投げられるか、何度も練習して体に覚えさせてください」
「はい、エクムント師匠!」
「エクムント司令官!」
「師匠や司令官になってしまいました」
真面目に返事をするフランツとマリアに、エクムント様は朗らかに笑っていた。
わたくしも聞きながら一緒に笑っていた。
わたくしとエクムント様は辺境伯領で冬の始まりを迎えた。
冬になっても日差しが少し和らいで、風が涼しくなるくらいで、辺境伯領には雪は降らないし、凍える寒さは来ない。
ディッペル公爵領の冬とは全く違うのだと実感していたが、服や寝具は辺境伯領の冬物に変わった。それもディッペル公爵領では秋物に相当するくらいの暖かさである。過ごしやすくていいのだが、ディッペル公爵領に行くとなるとそれ相応の準備をしていかなければいけない。
わたくしとエクムント様は、両親のお誕生日のお茶会でディッペル公爵領に行くことになっていた。列車の中で着られるようにコートもマフラーも手袋も用意しておく。
「ディッペル公爵領は雪でしょうね」
「毎年冬にディッペル公爵領や王都に行くと温度差に驚いてしまいます」
そういうエクムント様もキルヒマン家の出身で、辺境伯領の出身ではないので雪の冷たさや冬の寒さはしっかりと経験していらっしゃる。
馬車に乗って列車に乗り換えて、列車の中でコートやマフラーや手袋を出していつでも身に着けられるように準備をして、ディッペル公爵領に降り立つ。
ディッペル公爵領は雪が積もっていて、粉雪がちらついていた。
馬車に乗るときにはコートとマフラーと手袋を身に着けていたが、それでも底冷えのするような寒さが襲ってくる。わたくしもすっかりと辺境伯領の温度に慣れていたので、寒さが身に染みた。
エクムント様とわたくしはディッペル公爵家に両親のお誕生日の前日から泊ることにしていた。辺境伯領の執務は忙しくないわけではないのだが、移動に時間がかかるし、こういうときくらいはゆっくりとディッペル公爵家で過ごしたい。ディッペル公爵家はわたくしの実家で、エクムント様も五年間護衛の騎士として過ごした懐かしい場所なのだ。
ディッペル公爵家に着くとフランツとマリアが駆け寄ってきた。
馬車の着く音でわたくしたちの来訪に気付いたのだろう。
コートも着ないで外にかけ出るフランツとマリアをヘルマンさんとレギーナがコートを持って追いかけている。
「フランツ様、コートをお召しになってください」
「マリア様、コートを!」
「ありがとう、ヘルマンさん。ヘルマンさんもレギーナもコートを着ていないじゃないですか」
「それどころではありませんでした」
「寒いから、早くお屋敷に戻ってください」
フランツとマリアに言われてヘルマンさんとレギーナはお屋敷に戻っていた。
フランツとマリアがわたくしとエクムント様の周りをぐるぐると回る。
「エリザベートお姉様、エクムント義兄上、ようこそいらっしゃいました」
「エリザベートお姉様とエクムントお義兄様が来るのを待っていたのです」
「待っていてくれたのですか」
「待たせてしまいましたね」
「シュタール家のオリヴァー殿とナターリエ嬢も泊まると言っているのです」
嬉しそうなマリアの報告に、それが言いたかったのかとわたくしは納得する。オリヴァー殿はシュタール侯爵になっていたが、マリアの婚約者として早く招かれたのだろう。
ディッペル家で過ごす時間が長いことをマリアは純粋に喜んでいる。シュタール家としてもディッペル公爵家との繋がりが深いところをアピールしたいのだろう。ディッペル公爵家から辺境伯家に嫁いできたわたくしがエクムント様と共同統治者になり、軍の副司令官にもなった。
わたくしの存在感が増すにつれて、マリアがシュタール家に嫁いでいくということに重要な意味が生まれてくる。
辺境伯家とシュタール家の繋がりが一層深くなるのだ。
「楽しみですね、マリア」
「はい、エリザベートお姉様」
他の家の貴族には「エリザベート夫人」と呼ばれるようになったので、フランツとマリアが以前通り「エリザベートお姉様」と呼んでくれるのに安心する。ディッペル公爵領と辺境伯領で離れてしまってもわたくしとフランツとマリアは確かに兄弟だった。
「マリア、フランツ、お姉様とエクムント様が凍えてしまいます。お屋敷にお招きしてください」
「はい、クリスタお姉様」
「わたくし急いでエリザベートお姉様に伝えたくて、つい。ごめんなさい」
玄関から呼ぶクリスタに、フランツとマリアはわたくしたちの先に立って歩き出した。
ディッペル公爵家では両親とクリスタとフランツとマリアと一緒にお茶をして、夕食も一緒に食べた。
夕食のときにはオリヴァー殿とナターリエ嬢も到着していた。
「明日の朝のお散歩はご一緒できますか、オリヴァー殿、ナターリエ嬢?」
「エリザベートお姉様とエクムント義兄上はどうでしょう?」
マリアとフランツに聞かれて、オリヴァー殿とナターリエ嬢とわたくしとエクムント様で返事をする。
「明日のお散歩はご一緒できますよ」
「お兄様と一緒に参加させていただきます」
「わたくしも一緒に行けると思いますわ」
「ご一緒しましょう」
わたくしたちの返事にフランツとマリアは目を輝かせていた。
辺境伯家ではわたくしは女主人としての仕事があったので一緒にお散歩できなかったが、明日は間違いなく一緒にお散歩できる。それを確かめると、フランツとマリアが声を揃えて言った。
「雪合戦の特訓をしてほしいのです」
「ナターリエ嬢も一緒に特訓をしましょう!」
フランツもマリアも雪合戦に夢中のようだ。
今年はユリアーナ殿下がくじ引きでチームを決めると言っていたが、ケヴィン殿とフリーダ嬢も参加することになればどうなるのだろう。
「フランツ殿とマリア嬢はボール投げをしたことがありますか?」
「いいえ、ほとんどありません」
「小さいころに少しだけです」
「雪のない時期はボール投げで練習をしておくといいですよ。体を鍛えておくといいですからね」
エクムント様の言葉をフランツもマリアもナターリエ嬢も真剣に聞いている。
「お兄様はボール投げは得意ですか?」
「少しはしたことがありますが、それほどでも」
「わたくし、お兄様よりも得意になってしまうかもしれません」
「それは兄として、負けてはいられませんね。ナターリエ、一緒に練習しますか?」
「一緒に練習してくださいますか? 嬉しいです、お兄様!」
オリヴァー殿とナターリエ嬢は二人で練習することを約束していた。雪の降らない辺境伯領に住んでいるナターリエ嬢は雪合戦では不利になることも多いだろう。ボール投げなら辺境伯領でも練習ができる。
「庭に的を作ってそこに当てられるようにしましょう」
「ありがとうございます、お兄様」
仲良く話しているオリヴァー殿とナターリエ嬢の様子を見てわたくしは微笑ましくなる。
「お父様、お母様、私たちも庭に的が欲しいです」
「作ってください」
「ボール投げの練習も悪くないかもしれない」
「的を作らせましょうね」
フランツとマリアのお願いに両親も頷いている。
ボール投げで鍛えた雪合戦はまた激しい戦いになりそうだった。
翌朝お散歩でフランツとマリアとナターリエ嬢はエクムント様に雪合戦のコツを習っていた。
「雪は固めに握ってください。指でしっかりと確保できるだけの大きさにして。投げるときには一歩踏み出しつつ、肘の角度を意識するのです。どの角度が一番遠くまで正確に投げられるか、何度も練習して体に覚えさせてください」
「はい、エクムント師匠!」
「エクムント司令官!」
「師匠や司令官になってしまいました」
真面目に返事をするフランツとマリアに、エクムント様は朗らかに笑っていた。
わたくしも聞きながら一緒に笑っていた。
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