エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

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十三章 わたくしの結婚

44.結婚式のお茶会

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 フランツとマリアは結婚式なので特別に席が用意されているが、わたくしとエクムント様が挨拶に行くと椅子が低すぎるのかクッションを重ねていたが、そのクッションがずれて椅子から落ちてしまった。
 床の上に着地したフランツとマリアがわたくしとエクムント様を見上げてくる。

「エリザベートお姉様、とてもお似合いです」
「素敵な花嫁さんです。わたくしもエリザベートお姉様のような素敵な花嫁さんになりたいです」
「ありがとうございます、フランツ。マリアは少し気が早いかもしれませんね」
「エリザベートのことは私がこれから幸せにすると約束します」
「エクムント様よろしくお願いします」
「エリザベートお姉様は大事に飼っていたハシビロコウのコレットとオウムのシリルともお別れしないといけません。辺境伯領でもペットを飼ってあげてください」

 エリザベートお姉様は寂しがり屋さんだから。

 そんなことをマリアに言われてしまった。
 妹にそんなことを言われるのは恥ずかしいと思っていると、エクムント様がわたくしの手を握って宣言する。

「いつもクリスタ嬢がいて、可愛い弟妹がいたディッペル家とは全く違う辺境伯家に来ていただきますが、寂しがらせるようなことは決してしません。私が常に一緒にいます」
「エクムント様……」
「エリザベートお姉様とエクムント様は共同統治をされるんでしたね」
「お仕事のときも領主様として二人一緒でしたね」

 共同統治の意味を覚えたフランツとマリアが言っているのを聞いて、わたくしもそうだったと思う。エクムント様が領地の仕事をしているときにはわたくしも常に一緒にいるのだ。

 ノルベルト殿下の席を訪ねると、ノエル殿下は欠席だった。今が大事なときなので体を休めているのだろう。

「エクムント殿、エリザベート嬢、僕も一年前に結婚しましたが、結婚式の日は最高の気分でしたよ。今、どんな気分ですか?」
「とても幸せです」
「エクムント様の妻になれた喜びで胸がいっぱいです」
「本当におめでとうございます」

 ノルベルト殿下にも祝われてわたくしとエクムント様はお互いに顔を見合わせた後に、深く頭を下げる。

 リリエンタール家のレーニ嬢に挨拶に行くと、デニス殿とゲオルグ殿がフランツとマリアと同じようにクッションで椅子の高さを調整していた。

「エリザベート嬢、エクムント様、こんな素晴らしい日にわたくしが参加させていただけて嬉しく思っております」
「レーニ嬢とは幼いころから仲良くしていて、学園でも長く一緒に過ごしましたね」
「エリザベート嬢が一学年上におられて、わたくしは学園でもとても過ごしやすかったです」
「また辺境伯領にエリザベートを訪ねて来てください」
「はい、喜んでまいりますわ」

 レーニ嬢とは来年以降も辺境伯家に来てもらうように約束をする。

 順番に貴族たちに挨拶をしていって、やっと自分たちの席に戻れるころには、料理は全て下げられていた。
 結婚式なのだから料理は食べている暇がないことは分かっていたが、一目も見ることがなく下げられてしまったのには少し未練が残る。わたくしの結婚式の料理はどのようなものだったのだろうか、知ることもできなかった。

 披露宴の昼食会が終わると、お茶会の席に移動する。
 お茶会の席にはキルヒマン家のガブリエラ嬢とケヴィン殿とフリーダ嬢が参加していた。
 ガブリエラ嬢は来年度から学園に通う年齢になっている。

「エクムント叔父様、エリザベート様、結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます、ガブリエラ嬢」
「お祝いに来てくれてありがとう、ガブリエラ、ケヴィン、フリーダ」
「エクムント叔父様が結婚されるなんてとてもおめでたいです」
「お祝い申し上げます」

 ガブリエラ嬢もケヴィン殿もフリーダ嬢もわたくしたちを祝ってくれる。
 エクムント様とよく似た褐色の肌に辺境伯領の特産品の紫の布のドレスを着ているガブリエラ嬢とフリーダ嬢。ケヴィン殿は同じ布でフロックコート形式のスーツを誂えて着ている。

「エリザベート様が義理の叔母様になるのですね」
「お姉様、こんなにお若いのに『おばさま』というのは失礼じゃないですか?」
「叔父、叔母の叔母ですから、失礼には当たらないと思います、そうですよね、エクムント叔父様?」
「その通りだよ」
「『エリザベート叔母様』と呼んでくださって構いませんわ」

 エクムント様が可愛がっている姪や甥に、「叔母様」と呼ばれるときがやってきたとは。
 それは全然嫌なことではなく、エクムント様が「叔父様」なのだから、わたくしが「叔母様」なのは当然と受け止められた。

「これからよろしくお願いいたします、エリザベート叔母様」
「こんなに若くて美しい叔母様ができるだなんて驚きです」
「エリザベート叔母様、私たちが辺境伯領に行ったときにはよろしくお願いします」

 これからは辺境伯領でもわたくしは受け入れる立場になるのだ。
 義理の姪や甥たちを受け入れる立場として辺境伯家で準備をするのも楽しいかもしれない。

「エクムント、エリザベート嬢を借りてもいいかな?」
「カサンドラ様!?」
「花嫁と一曲踊る許可を」

 エクムント様はわたくしのファーストダンスからラストダンスまで独り占めにすると宣言していたが相手がカサンドラ様ならばどうなのだろう。カサンドラ様はフロックコート形式のスーツを身に着けてわたくしに手を差し伸べている。

「カサンドラ様だけですからね?」
「エクムントはエリザベート嬢を独占したいようだ。嫉妬深い男は嫌われるよ?」
「私が独占欲が強くて、嫉妬深いのは、エリザベート嬢はもう知っていると思います」

 堂々と宣言するエクムント様にわたくしは顔が真っ赤になってしまう。
 エクムント様が独占欲を出したり、わたくしのせいで嫉妬したりするのは、わたくしにとっては嬉しかった。エクムント様はわたくしをそれだけ愛しているのだと分かる。

「一曲だけですよ!」
「エリザベート嬢、お相手を」
「はい、カサンドラ様」

 エクムント様の許可も得たし、カサンドラ様ならば安心なのでわたくしはカサンドラ様の手を取る。カサンドラ様とわたくしは同じくらいの身長になっていた。
 カサンドラ様のリードでわたくしは踊る。エクムント様と踊り慣れているので、カサンドラ様の身長が少し慣れない。エクムント様はわたくしよりも頭一つ近く背が高いのだ。

 踊り終わるとカサンドラ様はわたくしをエクムント様のところに返してくださった。

「エリザベート嬢、辺境伯家へようこそ」
「これからよろしくお願いいたします」

 手を振って人込みに紛れるカサンドラ様に、わたくしも手を振って見送った。
 エクムント様の顔を見てみると、なんとなく眉間に皴が寄っているような気がする。

「カサンドラ様と踊ってはいけませんでしたか?」
「いいえ、私が許可したことですから。それにカサンドラ様なら安心です。ただ、エリザベートが私以外と踊ると少し面白くない気持ちもわいてきて、私は本当に嫉妬深いのだと反省していたところです」
「わたくし、エクムント様以外と踊らなくて構いませんわ」
「カサンドラ様に誘われたときや、ディッペル公爵に誘われたときは、構わず踊ってください」
「よろしいのですか?」
「その代わり、その後で私とも踊ってもらいます」

 踊りましょうと手を差し伸べられて、わたくしはエクムント様の手を取った。

 エクムント様と踊っていると、周囲からため息が聞こえる。

「お二人のお似合いなこと」
「背が高くてスタイルがよくて素敵ですね」
「辺境伯領がこれ以上豊かになるのは羨ましい」
「あのティアラはカサンドラ様からいただいたそうですよ」

 噂話の声を聞きながら、わたくしとエクムント様は踊った。
 踊り終わると大広間の端でソファに座って少し休む。
 結婚式の間も、披露宴の間も、ずっと立ちっぱなしだったのでわたくしは足が痛くなり始めていた。
 まだまだ晩餐会での披露宴もある。
 結婚式はまだ中盤に差し掛かったところだった。
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