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十三章 わたくしの結婚
36.気付いてしまったこと
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昼食の前にはリリエンタール家の馬車とシュタール家の馬車が着いていた。
玄関まで迎えに行くフランツとマリアは喜びでぴょんぴょんと体が跳ねている。
「レーニ嬢、いらっしゃいませ!」
「フランツ殿、今日はよろしくお願いします」
「フランツ殿、私もいます」
「私もいますよ」
「すみません、レーニ嬢に会えて嬉しくて。デニス殿、ゲオルグ殿、リリエンタール公爵夫妻いらっしゃいませ」
まっすぐにレーニ嬢のところに駆けて行ったフランツはデニス殿とゲオルグ殿に言われて、慌てて挨拶をし直している。
「オリヴァー殿、ナターリエ嬢、シュタール侯爵、いらっしゃいませ」
「マリア様、ご挨拶をありがとうございます」
「マリア様、外はすっかりと雪景色ですね。王宮では雪合戦はしますか?」
「わたくしはしたいと思っております。兄も同じ意見だと思います」
「楽しみです」
辺境伯領では雪が降らないので雪合戦はできないナターリエ嬢は、国王陛下の生誕の式典のときの朝の散歩を楽しみにしているようだった。
「マリア様とディッペル公爵夫妻にはお伝えしておかなければいけないと思っていました」
シュタール侯爵がマリアと両親の前に出る。
「オリヴァーが学園を卒業した後、私はオリヴァーの補佐に回って、オリヴァーにシュタール侯爵を譲ろうと思っています」
「ナターリエ嬢もまだ幼いのに」
「妻を失ってから私の人生は一気につらく悲しいものとなりました。オリヴァーの補佐としてナターリエの成長は見守りますが、シュタール侯爵は譲って、少し静かに暮らしたい気持ちが出てきたのです」
確かシュタール侯爵はナターリエ嬢が生まれたときに奥方を亡くしているはずだ。オリヴァー殿が成人して学園を卒業するまではシュタール侯爵を続けて来られたが、オリヴァー殿に譲るときが来ているのかもしれない。
「私も学園を卒業して、テレーゼが学園を卒業してキルヒマン侯爵家に養子に行ってディッペル公爵家に嫁いできてくれた後、すぐに公爵位を譲られました。オリヴァー殿は若くて大変なこともあるかもしれませんが、いつでも相談に乗りますからね」
「ディッペル公爵、ありがとうございます」
父も若くして公爵位を譲られたので、十八歳で侯爵位を譲られるオリヴァー殿に共感できるところがあったようだ。手を差し伸べる父にオリヴァー殿が深く頭を下げている。
昼食はディッペル家の一家と、エクムント様と、リリエンタール家の一家と、シュタール家の一家で食堂で取った。昼食会や晩餐会はディッペル家では開くことはないが、開こうと思えば開けるだけの食堂の広さはあるので、全員が座っても食堂は広々としていた。
昼食を食べ終わるとそれぞれにお茶会の準備をする。
わたくしもドレスに着替えて、レーニ嬢はわたくしの部屋でお化粧を直していた。
「デニスもゲオルグも、本当は朝から行きたかったと言っていたのですよ」
「雪合戦ができる季節ですからね」
「国王陛下の生誕の式典のときには雪合戦を楽しみにしています」
デニス殿もゲオルグ殿も雪合戦をしたがっているようだ。やはり子どもは冬の雪の中でも元気に遊ぶものなのだろう。
お茶会が始まると、わたくしたちは大広間に移動した。冬用のドレスを着ているが、お洒落とは寒さや暑さとの戦いなのかもしれない。冬用であってもドレスは寒かった。
お客様たちにご挨拶をして、両親は国王陛下と王妃殿下とお茶をする様子で軽食やケーキの乗せられたテーブルに歩いて行く。
わたくしは寒かったので熱い紅茶を飲みたかった。
給仕に紅茶を頼むと、エクムント様も紅茶を頼んでいる。
牛乳を入れてふうふうと吹き冷ましながら飲むと体が温まる。
「ユストゥス、テレーゼ夫人、本当におめでとう。二人がいつまでも健康で仲睦まじくあることを願っているよ」
「ありがとうございます、国王陛下」
「大変光栄です」
「陛下はディッペル公爵のことを親友だと思っていらっしゃいますからね」
「ユストゥスは学生時代からの親友だ。ずっと私を支えて行ってほしい」
「もちろんです、国王陛下」
両親と国王陛下と王妃殿下が話しているのが聞こえる。
本当に国王陛下と王妃殿下と両親は仲がいいのだと実感する。
いつか、国王陛下がハインリヒ殿下に王位を譲るときには、王妃殿下となったクリスタとわたくし、それにエクムント様はこんな風に仲良くするのだろうか。
オリヴァー殿もレーニ嬢も同じような位置にいる気がする。
ハインリヒ殿下の学友と言えば同じ年のオリヴァー殿が浮かぶ。詩の授業ではオリヴァー殿にわたくしもとてもお世話になっていた。
クリスタは同じ年のレーニ嬢が親友と言えるだろう。
わたくしはクリスタの姉で辺境伯夫人となるのだ。
「エクムント様、わたくし、最近将来のことをよく考えます」
「結婚が近いからでしょうか? マリッジブルーになっていたりしませんか?」
「そんなことはありません。結婚は毎日待ち遠しく思っています」
「私は正直憂鬱な面もありますね。王都での儀礼的な結婚式と、辺境伯領でのお披露目的な結婚式と、二回もあるのはエリザベート嬢を疲れさせそうな気がします」
「わたくしも体力を付けますわ。大変だとは思いますが」
言われてみれば結婚生活は楽しみだし、結婚式も喜ばしいものではあるが、儀式としてはとても疲れるものに違いはない。エクムント様がわたくしの心配をしてくださるが、わたくしは大丈夫だといおうとしてわたくしは気付いてしまった。
初夜。
結婚式には初夜があるのだ。
エクムント様とわたくしが結ばれる瞬間。
そのときに疲れ切っていて、眠ってしまったり、エクムント様に応えられなかったりしたら、やはりよくないだろう。
初夜で何をするのか、貴族の淑女ははっきりと教えられない。
学園で性教育というものはほとんどないし、男性に任せておけばいいというのがこの国の考えのようだ。
初夜で何が起きるのかわたくしは前世の記憶があるからなんとなく分かってはいるが、前世でもそういう経験があったかといえば、ない。
初めて経験することだから、わたくしは考えただけで顔が熱くなってくる気がした。
「エリザベート嬢、どうしましたか?」
「い、いえ、なんでもないのです」
初夜があることに今まで気付かずにのほほんと結婚式だけを楽しみにしていただなんて言えるわけがない。
わたくしが誤魔化すと、エクムント様は小さく息を吐く。
「エリザベート嬢が心配なことがあるなら、なんでも私に話してください。私たちは夫婦になるのですからね」
手を取って真剣に言ってくださるが、わたくしが考えていることを口に出せるわけがない。
初夜だけではなくて、結婚すれば夫婦の営みがあるわけで、わたくしはエクムント様に抱かれるのだ。
そのことに文句があるわけではないが、不安が全くないといえばそれは嘘になる。
わたくしはエクムント様に愛されても平気なのか、経験がないだけに全く予測がつかない。
エクムント様にも相談できないことができてしまった。
せめて学園で性教育がきちんとなされていれば、こんな不安はなかったのだろうか。
女性は男性に任せるものだなんて、習っていても何も教えていないのと同じだ。
学園のみならず、女性の性教育の必要性をわたくしは今更ながらに感じていた。
「えく、むんと、さま」
「はい、何でしょう?」
「わたくし、いい妻になれるように頑張ります」
「そんなに気合を入れなくても、エリザベート嬢はそのままでいいのですよ?」
エクムント様ならば初夜もスマートにリードしてくれそうな気がするが、それでいいのかという気持ちがないわけではない。
誰に相談できるでもないことを胸に抱えて、わたくしはエクムント様に妙な態度を取ってしまっている気がしていた。
玄関まで迎えに行くフランツとマリアは喜びでぴょんぴょんと体が跳ねている。
「レーニ嬢、いらっしゃいませ!」
「フランツ殿、今日はよろしくお願いします」
「フランツ殿、私もいます」
「私もいますよ」
「すみません、レーニ嬢に会えて嬉しくて。デニス殿、ゲオルグ殿、リリエンタール公爵夫妻いらっしゃいませ」
まっすぐにレーニ嬢のところに駆けて行ったフランツはデニス殿とゲオルグ殿に言われて、慌てて挨拶をし直している。
「オリヴァー殿、ナターリエ嬢、シュタール侯爵、いらっしゃいませ」
「マリア様、ご挨拶をありがとうございます」
「マリア様、外はすっかりと雪景色ですね。王宮では雪合戦はしますか?」
「わたくしはしたいと思っております。兄も同じ意見だと思います」
「楽しみです」
辺境伯領では雪が降らないので雪合戦はできないナターリエ嬢は、国王陛下の生誕の式典のときの朝の散歩を楽しみにしているようだった。
「マリア様とディッペル公爵夫妻にはお伝えしておかなければいけないと思っていました」
シュタール侯爵がマリアと両親の前に出る。
「オリヴァーが学園を卒業した後、私はオリヴァーの補佐に回って、オリヴァーにシュタール侯爵を譲ろうと思っています」
「ナターリエ嬢もまだ幼いのに」
「妻を失ってから私の人生は一気につらく悲しいものとなりました。オリヴァーの補佐としてナターリエの成長は見守りますが、シュタール侯爵は譲って、少し静かに暮らしたい気持ちが出てきたのです」
確かシュタール侯爵はナターリエ嬢が生まれたときに奥方を亡くしているはずだ。オリヴァー殿が成人して学園を卒業するまではシュタール侯爵を続けて来られたが、オリヴァー殿に譲るときが来ているのかもしれない。
「私も学園を卒業して、テレーゼが学園を卒業してキルヒマン侯爵家に養子に行ってディッペル公爵家に嫁いできてくれた後、すぐに公爵位を譲られました。オリヴァー殿は若くて大変なこともあるかもしれませんが、いつでも相談に乗りますからね」
「ディッペル公爵、ありがとうございます」
父も若くして公爵位を譲られたので、十八歳で侯爵位を譲られるオリヴァー殿に共感できるところがあったようだ。手を差し伸べる父にオリヴァー殿が深く頭を下げている。
昼食はディッペル家の一家と、エクムント様と、リリエンタール家の一家と、シュタール家の一家で食堂で取った。昼食会や晩餐会はディッペル家では開くことはないが、開こうと思えば開けるだけの食堂の広さはあるので、全員が座っても食堂は広々としていた。
昼食を食べ終わるとそれぞれにお茶会の準備をする。
わたくしもドレスに着替えて、レーニ嬢はわたくしの部屋でお化粧を直していた。
「デニスもゲオルグも、本当は朝から行きたかったと言っていたのですよ」
「雪合戦ができる季節ですからね」
「国王陛下の生誕の式典のときには雪合戦を楽しみにしています」
デニス殿もゲオルグ殿も雪合戦をしたがっているようだ。やはり子どもは冬の雪の中でも元気に遊ぶものなのだろう。
お茶会が始まると、わたくしたちは大広間に移動した。冬用のドレスを着ているが、お洒落とは寒さや暑さとの戦いなのかもしれない。冬用であってもドレスは寒かった。
お客様たちにご挨拶をして、両親は国王陛下と王妃殿下とお茶をする様子で軽食やケーキの乗せられたテーブルに歩いて行く。
わたくしは寒かったので熱い紅茶を飲みたかった。
給仕に紅茶を頼むと、エクムント様も紅茶を頼んでいる。
牛乳を入れてふうふうと吹き冷ましながら飲むと体が温まる。
「ユストゥス、テレーゼ夫人、本当におめでとう。二人がいつまでも健康で仲睦まじくあることを願っているよ」
「ありがとうございます、国王陛下」
「大変光栄です」
「陛下はディッペル公爵のことを親友だと思っていらっしゃいますからね」
「ユストゥスは学生時代からの親友だ。ずっと私を支えて行ってほしい」
「もちろんです、国王陛下」
両親と国王陛下と王妃殿下が話しているのが聞こえる。
本当に国王陛下と王妃殿下と両親は仲がいいのだと実感する。
いつか、国王陛下がハインリヒ殿下に王位を譲るときには、王妃殿下となったクリスタとわたくし、それにエクムント様はこんな風に仲良くするのだろうか。
オリヴァー殿もレーニ嬢も同じような位置にいる気がする。
ハインリヒ殿下の学友と言えば同じ年のオリヴァー殿が浮かぶ。詩の授業ではオリヴァー殿にわたくしもとてもお世話になっていた。
クリスタは同じ年のレーニ嬢が親友と言えるだろう。
わたくしはクリスタの姉で辺境伯夫人となるのだ。
「エクムント様、わたくし、最近将来のことをよく考えます」
「結婚が近いからでしょうか? マリッジブルーになっていたりしませんか?」
「そんなことはありません。結婚は毎日待ち遠しく思っています」
「私は正直憂鬱な面もありますね。王都での儀礼的な結婚式と、辺境伯領でのお披露目的な結婚式と、二回もあるのはエリザベート嬢を疲れさせそうな気がします」
「わたくしも体力を付けますわ。大変だとは思いますが」
言われてみれば結婚生活は楽しみだし、結婚式も喜ばしいものではあるが、儀式としてはとても疲れるものに違いはない。エクムント様がわたくしの心配をしてくださるが、わたくしは大丈夫だといおうとしてわたくしは気付いてしまった。
初夜。
結婚式には初夜があるのだ。
エクムント様とわたくしが結ばれる瞬間。
そのときに疲れ切っていて、眠ってしまったり、エクムント様に応えられなかったりしたら、やはりよくないだろう。
初夜で何をするのか、貴族の淑女ははっきりと教えられない。
学園で性教育というものはほとんどないし、男性に任せておけばいいというのがこの国の考えのようだ。
初夜で何が起きるのかわたくしは前世の記憶があるからなんとなく分かってはいるが、前世でもそういう経験があったかといえば、ない。
初めて経験することだから、わたくしは考えただけで顔が熱くなってくる気がした。
「エリザベート嬢、どうしましたか?」
「い、いえ、なんでもないのです」
初夜があることに今まで気付かずにのほほんと結婚式だけを楽しみにしていただなんて言えるわけがない。
わたくしが誤魔化すと、エクムント様は小さく息を吐く。
「エリザベート嬢が心配なことがあるなら、なんでも私に話してください。私たちは夫婦になるのですからね」
手を取って真剣に言ってくださるが、わたくしが考えていることを口に出せるわけがない。
初夜だけではなくて、結婚すれば夫婦の営みがあるわけで、わたくしはエクムント様に抱かれるのだ。
そのことに文句があるわけではないが、不安が全くないといえばそれは嘘になる。
わたくしはエクムント様に愛されても平気なのか、経験がないだけに全く予測がつかない。
エクムント様にも相談できないことができてしまった。
せめて学園で性教育がきちんとなされていれば、こんな不安はなかったのだろうか。
女性は男性に任せるものだなんて、習っていても何も教えていないのと同じだ。
学園のみならず、女性の性教育の必要性をわたくしは今更ながらに感じていた。
「えく、むんと、さま」
「はい、何でしょう?」
「わたくし、いい妻になれるように頑張ります」
「そんなに気合を入れなくても、エリザベート嬢はそのままでいいのですよ?」
エクムント様ならば初夜もスマートにリードしてくれそうな気がするが、それでいいのかという気持ちがないわけではない。
誰に相談できるでもないことを胸に抱えて、わたくしはエクムント様に妙な態度を取ってしまっている気がしていた。
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