エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

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十三章 わたくしの結婚

28.クリスタとハインリヒ殿下の運動会はダンスで参加

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 長い夏休みが終わって、学園に戻ると学園は運動会の雰囲気に染まっていた。その中でわたくしは卒業論文も仕上げなければいけない。
 ノルベルト殿下はどのような卒業論文を書いていたのか。ノエル殿下はどのような卒業論文を書いていたのか。わたくしとは分野が違うだろうから参考にはならないかもしれないが、わたくしは気にしていた。
 ハインリヒ殿下もオリヴァー殿もミリヤム嬢もそれぞれのテーマで卒業論文の準備をしている様子だった。
 その合間に運動会の練習もする。

 運動会は今年はハインリヒ殿下とクリスタは出る競技を変えるようだった。

「ノエル殿下とノルベルト殿下がダンスで毎年圧倒的な一位を取っていたのを尊敬していたのです」
「私とクリスタ嬢は一緒に運動会に出られるのが今年で最後になるので、ダンスで出ようかと思っています」

 ノエル殿下とノルベルト殿下のダンスは本当に素晴らしかった。
 お二人のダンスを尊敬してクリスタとハインリヒ殿下がダンスの競技に出るというのはいいことなのではないだろうか。
 レーニ嬢とミリヤム嬢は例年通りに大縄跳び、オリヴァー殿はリレー、わたくしは乗馬、リーゼロッテ嬢は走り幅跳びで参加することになった。
 ずっとクリスタと一緒だったのに、今年はペオーニエ寮でクリスタと別々になってしまったレーニ嬢は、寂しさなど全く見せずに元気に練習に向かっていた。ミリヤム嬢もローゼン寮の同級生と一緒に練習に励んでいる。
 リーゼロッテ嬢とオリヴァー殿は自主練習に励んでいるようだ。

 クリスタとハインリヒ殿下はダンスの音楽を口ずさみながら時間があれば体育館を借りて練習していた。他のペアも体育館で練習している。

 わたくしは乗馬の練習もしつつ、卒業論文の資料集めもしていた。
 卒業論文を書くために一度、辺境伯家の書庫に資料を借りに行かせてもらった方がいいのかもしれない。
 冬休みには資料を辺境伯家に借りに行っていいか、まず両親に手紙を書いて、了承してもらってから、辺境伯家のエクムント様宛てに手紙を書いて、わたくしは約束を取り付けていた。

 運動会の結果は、練習した甲斐があって、ハインリヒ殿下とクリスタがダンスで一位を取り、大縄跳びではレーニ嬢率いるペオーニエ寮が一位を取り、リレーではオリヴァー殿の活躍があってリーリエ寮が一位を取って、走り幅跳びはリーゼロッテ嬢の努力が報われてリーリエ寮が一位だった。残念ながらミリヤム嬢のローゼン寮は負けてしまったけれど、ペオーニエ寮との差は二回だけだったので、二位にはなれた。
 それでも、結果としてペオーニエ寮が優勝、リーリエ寮が二位、ローゼン寮が三位だった。

 学力ではペオーニエ寮が圧倒的なのだが、運動会でもこんなにも差が出るとは思っていなかった。
 それも地道な努力の結果であることはわたくしも知っていた。

 学年末の試験では、わたくしとハインリヒ殿下が六年生の首席、オリヴァー殿とミリヤム嬢は五位以内だった。クリスタは五年生の首席でレーニ嬢が二位、リーゼロッテ嬢は堂々の四年生の首席だった。

「来年度にはガブリエラ嬢が学園に入学します。ノエル殿下は六年生までお茶会の主催を務めました。お姉様は五年生で譲られたけれど、わたくしは六年生までお茶会の主催を務めて、リーゼロッテ嬢に譲って卒業しようと思います」
「そのときにはご指導ください、クリスタ様」
「リーゼロッテ嬢はガブリエラ嬢に教えてあげてくださいね。ガブリエラ嬢の後はフランツが入学してきて、マリアにユリアーナ殿下にデニス殿にナターリエ嬢に、学園もこのお茶会も賑やかになります」

 フランツも来年の春には十歳になる。学園に入学するまで残り二年になるのだ。マリアとユリアーナ殿下とデニス殿とナターリエ嬢はフランツの二学年下だから、そのまた二年後に入学してくる。
 フランツの話になるとレーニ嬢が嬉しそうな顔をしているのが分かった。

「フランツ殿が入学してくるときには、わたくしは卒業しているのが残念ですわ」
「フランツもレーニ嬢と一緒に学園で勉強したかったでしょうね」
「年齢差があるのは最初から分かって婚約したのですもの。仕方がないとは理解しています」

 物わかりのいいレーニ嬢にわたくしはフランツの婚約者がレーニ嬢でよかったと心から思ってしまう。レーニ嬢はクリスタがわたくしとエクムント様が羨ましくて暴走しかけていたときにも、フランツとのエピソードを語って、エクムント様はエクムント様の、ハインリヒ殿下はハインリヒ殿下の、フランツにはフランツの愛し方があるのだとクリスタを諭した。
 あのときのレーニ嬢の姿は忘れられない。
 あれ以降クリスタも暴走しなくなったし、今は皇太子妃になるに向けて立派な淑女であろうと努力している。その姿を見てわたくしもますます努力しなければいけないと思わされた。

 年下だがレーニ嬢もクリスタも本当にわたくしが見違えるほどに成長したものだと感心してしまう。

「ガブリエラ嬢には弟と妹がいましたね。ケヴィン殿とフリーダ嬢でしたでしょうか」
「ケヴィン殿がフランツの一つ上で、フリーダ嬢が同じ年だったと思います」
「キルヒマン家の方々がいるので、フランツ殿も安心ですね」

 ディッペル家とキルヒマン家は昔から仲が良かった。
 シュレーゼマン子爵家の娘だった母は、ディッペル公爵家とつり合いが取れないので、キルヒマン家に一度養子に行ってからディッペル公爵家に嫁いできたのだ。
 わたくしもクリスタも小さいころには前のキルヒマン侯爵夫妻にとても可愛がっていただいた。
 今のキルヒマン侯爵はエクムント様のお兄様だし、わたくしとガブリエラ嬢は義理の叔母と姪になるのだから繋がりは深い。
 わたくしとエクムント様の結婚式にガブリエラ嬢をお招きするという約束をわたくしはしていたのを思い出す。

 エクムント様にとってもガブリエラ嬢とケヴィン殿とフリーダ嬢は可愛い姪と甥のようなので、辺境伯領にも招かれることだろう。
 学園に入学するようになったら、ガブリエラ嬢とケヴィン殿とフリーダ嬢もわたくしたちディッペル家の家族のように毎年辺境伯家に来るかもしれない。そうなったらわたくしは迎える方として辺境伯家でガブリエラ嬢とケヴィン殿とフリーダ嬢を歓迎しなければいけない。

「前のキルヒマン侯爵夫妻はわたくしとエクムント様の結婚式に来てくださるでしょうか」

 ぽつりと呟くとクリスタの耳にはそれが聞こえていたようだ。

「前のキルヒマン侯爵夫妻は、エクムント様の実のご両親ではないですか。来てくださると思いますよ」
「そうですよね。わたくし、前のキルヒマン侯爵夫妻のお茶会に招かれて、ピアノを弾いたのを覚えています」

 あのとき、前のキルヒマン侯爵夫妻はわたくしとクリスタをとても上手だと褒めてくださった。あの日褒められたことがわたくしの自信に繋がっている。今でもわたくしは音楽の中ではピアノが一番得意だった。

「わたくし、お茶会で歌を披露しました。わたくしがなかなか歌いだせなくても、お姉様は何度も前奏を弾いて、わたくしが歌いだせるように待ってくださいました」
「そんなこともありましたね」
「懐かしい思い出です。お姉様のピアノでまた歌いたいですわ」
「クリスタのお誕生日に歌いますか?」
「お姉様がピアノを弾いてくださったら喜んで歌いますわ」

 前のキルヒマン侯爵夫妻のお茶会で歌ったことが自信になっているのか、クリスタは音楽では声楽が一番得意だった。クリスタの歌声は澄んで高く、よく響く。美しい歌声を持つクリスタがその特技を今後活かせるのかどうかは分からないが、皇太子妃として歌声を披露する場面があったらいいのにとわたくしは思わずにいられない。

 わたくしとクリスタは約束をして、冬休み前の最後のお茶会を終えた。
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