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十三章 わたくしの結婚
16.クラフトコーラは魅惑の味
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翌日は朝から雨だった。
お散歩にも行けず、フランツとマリアがつまらなそうにしているのに、エクムント様が辺境伯家の書庫を案内してくれた。
書庫には天井まで作り付けの本棚がそびえ立ち、スライド式のはしごを使って上の本は取るようになっていた。
「辺境伯領の植物図鑑はディッペル家のものと違うでしょうか?」
「植物図鑑はその棚にあるので自分の目で見られてください、フランツ殿」
「わたくし、辺境伯領の物語が読みたいです」
「物語の本はそちらの棚です」
教えられてフランツとマリアが本棚に向かって植物図鑑と物語の本を探している。
「南国の花がたくさん載っています!」
「海神の伝説の本があります」
それぞれに植物図鑑と物語の本を見つけて中を見ているフランツとマリアは楽しそうだった。
「部屋に持って行って読んでも構いませんよ」
「エクムント様、お借りします」
「エクムント様、ありがとうございます」
胸に植物図鑑を抱いてフランツが、物語の本を抱いてマリアが部屋に戻って行くのをわたくしはエクムント様と一緒に見送った。
エクムント様はわたくしには異国の本を勧めてくれた。
「エリザベート嬢が調べていたようなスパイスや料理のことが書かれている本がいくつか辺境伯家にもありました。私は書庫の本を全部把握していなかったので気付いていませんでしたが、エリザベート嬢の好きそうな料理もありますよ」
「本を見せていただいていいですか?」
「どうぞどうぞ」
本棚を示されてわたくしは幾つか本を取り出す。
その中にクラフトコーラの作り方が載っているものがあってわたくしは前世で飲んだコーラの味を思い出していた。
ポテトチップスとコーラ。それは至福の味わいだった気がする。
「このクラフトコーラというものをエクムント様は飲んだことがありますか?」
「いえ、見るのも初めてですね」
「カレーライスに使ったスパイスがあれば作れそうな気がします。挑戦してみていいですか?」
「エリザベート嬢が飲んでみたいのだったら、厨房に言って作らせましょう」
どのようなものになるかは分からないが、わたくしはコーラが飲めるのではないかと楽しみにしていた。
お茶の時間になると、エクムント様が三種類の紅茶をポットから自分で入れられるようにして、飲み比べができるようになっていた。
最初に桃の香りのフレーバーティーを飲むと、口の中に瑞々しい桃の匂いが広がってとても美味しい。ミルクにもよく合った。
「フレーバーティーとてもいい香りですね」
「エリザベート嬢がお土産に持ってきてくださったのです。この香りは私は好きですね。王都から仕入れてもいいかもしれません」
エクムント様は三種類のフレーバーティーを少しずつ飲んで比べている。
「カシスは茶葉が大きめで薄く出るようですね。苺は茶葉が細かくて濃く出てミルクティーに合いそうです。桃も香りがよくてミルクティーによく合いそうですね」
「どれも本当に美味しいですね。エリザベートはエクムント殿によい土産を差し上げられたようで」
「はい。私はフレーバーティーがすっかり気に入ってしまいました。王都から取り寄せようと思います」
ミントティーをお好きだと仰っていたエクムント様は、フレーバーティーも気に入られたようだ。
苺のフレーバーティーに牛乳を入れてミルクティーにしているエクムント様に、わたくしも真似をしてミルクティーにして飲んでみる。苺ミルクを飲んでいるようでとても美味しい。
紅茶の飲み比べをしていると、厨房から冷やされたピッチャーが運ばれてきた。
「エリザベート嬢が飲みたがっていたクラフトコーラです」
「もうできたのですか?」
「炭酸水が手に入ったので、できあがったようです」
クラフトコーラをグラスに注ぐと、しゅわしゅわと炭酸の泡が立つ。クリスタもフランツもマリアも興味津々でクラフトコーラをグラスに注いでいた。
飲んでみると前世で味わったようなコーラとは全く違う。
スパイスとレモンの香りの強い全く違う飲み物のようだった。
「エリザベート嬢、いかがですか?」
「クラフトコーラがこのような味だなんて知りませんでした」
「私も初めて飲みますが、これはこれで悪くありませんね。砂糖の量を考えなければ」
「え?」
そこでわたくしは改めてクラフトコーラのレシピを見直したのだった。
クラフトコーラのシロップを作るときに入れる水と同じ量だけ砂糖が入っている。
「こんなにお砂糖が入っているのですか……」
「私もレシピを見て驚きました」
「これは気軽には飲めないですね」
前世の記憶にあるコーラが飲めるかと思っていたが全く違うものだったし、これはこれで美味しいのだがお砂糖の量を見るととても飲もうと思えない代物だった。
「わたくしは、この一杯だけで十分です」
「わたくしも」
「虫歯が怖いから、お茶会の後は歯磨きをします」
「わたくしも歯磨きをします」
クラフトコーラを飲むのを諦めるわたくしにクリスタも続き、お砂糖の量を見たフランツが怯えて歯磨きをしようと心に決め、マリアも同じようにしている。
クラフトコーラはコーラとは別物ではあったが、これはこれで美味しかった。ただ、お砂糖の量が恐ろしくてわたくしもクリスタもフランツもマリアも気軽に飲めない代物となってしまった。
飲み物を紅茶に戻すと、クラフトコーラで甘くなっていた口がさっぱりとする。
わたくしは三種類の紅茶を飲み比べて、どれも美味しかったが、苺が一番ミルクティーに合うようで、苺が一番気に入ったのだった。
お茶会が終わると、エクムント様が食堂のソファでわたくしと座って話をしてくださる。
カサンドラ様も両親も、クリスタもフランツもマリアも気を利かせて部屋に戻っていてくれた。
二人きりの食堂のソファでフレーバーティーの残りを飲みながらエクムント様がわたくしの手を取る。
手の平の上に乗せられたのは、指輪だった。
小さいものと二回りほど大きいものと二つある。
「少し早いですが結婚指輪が出来上がってきたので確認していただこうと思いまして」
「綺麗なプラチナ……裏側にはどちらもサファイアがはめ込まれていますね」
一つだけねじりが入ったデザインのプラチナのシンプルな指輪の裏側には、小さな小さなサファイアが埋め込まれている。わたくしとエクムント様の誕生石だ。
「サイズを確かめるためにエリザベート嬢の左手の薬指につけさせていただいてもいいですか?」
「はい、お願いします」
丁寧に手を取られて左手の薬指に指輪がはめられる。指輪のサイズはぴったりだった。
エクムント様も指輪を左手の薬指にはめて、サイズを確かめている。
お互いの手にお揃いの結婚指輪がはまっているのを見ると、本当に結婚式が近付いてきているのだと実感がわいてくる。
「エクムント様、お慕いしております」
「私もエリザベート嬢のことを愛しています」
指を絡めるように手を繋いでわたくしとエクムント様は見つめ合う。
このまま口付けでもできたらいいのだが、エクムント様は結婚前のわたくしに手を出すような方ではない。エクムント様は紳士なのだ。
指輪を外して箱の中に戻してエクムント様がわたくしの手を大きな手で包み込んだ。
「夏休みが終われば、エリザベート嬢は十八歳になる。成人の年です。エリザベート嬢が学園を卒業すれば、すぐにでも私と結婚ができます」
「エクムント様、結婚式の日取りはどうなるのでしょう? フランツとクリスタのお誕生日は避けたいのですが」
春にはフランツとクリスタの誕生日があるが、それぞれの誕生日はちゃんと祝われてほしいと思っている。特にクリスタの誕生日は再来年にはクリスタの結婚式の日になるかもしれないので、その日が結婚式の日になるのは避けたかった。
「私が待ちきれないので、学園を卒業したらすぐに結婚式を挙げたいと思っています。その話は、国王陛下の別荘で国王陛下にもご相談しようと思っていました」
学園を卒業したらすぐに結婚式となると、フランツのお誕生日よりも早い時期になるだろう。
エクムント様もわたくしとの結婚を待ちきれない気持ちでいてくださる。
そのことが嬉しく、わたくしは幸せの中にいた。
お散歩にも行けず、フランツとマリアがつまらなそうにしているのに、エクムント様が辺境伯家の書庫を案内してくれた。
書庫には天井まで作り付けの本棚がそびえ立ち、スライド式のはしごを使って上の本は取るようになっていた。
「辺境伯領の植物図鑑はディッペル家のものと違うでしょうか?」
「植物図鑑はその棚にあるので自分の目で見られてください、フランツ殿」
「わたくし、辺境伯領の物語が読みたいです」
「物語の本はそちらの棚です」
教えられてフランツとマリアが本棚に向かって植物図鑑と物語の本を探している。
「南国の花がたくさん載っています!」
「海神の伝説の本があります」
それぞれに植物図鑑と物語の本を見つけて中を見ているフランツとマリアは楽しそうだった。
「部屋に持って行って読んでも構いませんよ」
「エクムント様、お借りします」
「エクムント様、ありがとうございます」
胸に植物図鑑を抱いてフランツが、物語の本を抱いてマリアが部屋に戻って行くのをわたくしはエクムント様と一緒に見送った。
エクムント様はわたくしには異国の本を勧めてくれた。
「エリザベート嬢が調べていたようなスパイスや料理のことが書かれている本がいくつか辺境伯家にもありました。私は書庫の本を全部把握していなかったので気付いていませんでしたが、エリザベート嬢の好きそうな料理もありますよ」
「本を見せていただいていいですか?」
「どうぞどうぞ」
本棚を示されてわたくしは幾つか本を取り出す。
その中にクラフトコーラの作り方が載っているものがあってわたくしは前世で飲んだコーラの味を思い出していた。
ポテトチップスとコーラ。それは至福の味わいだった気がする。
「このクラフトコーラというものをエクムント様は飲んだことがありますか?」
「いえ、見るのも初めてですね」
「カレーライスに使ったスパイスがあれば作れそうな気がします。挑戦してみていいですか?」
「エリザベート嬢が飲んでみたいのだったら、厨房に言って作らせましょう」
どのようなものになるかは分からないが、わたくしはコーラが飲めるのではないかと楽しみにしていた。
お茶の時間になると、エクムント様が三種類の紅茶をポットから自分で入れられるようにして、飲み比べができるようになっていた。
最初に桃の香りのフレーバーティーを飲むと、口の中に瑞々しい桃の匂いが広がってとても美味しい。ミルクにもよく合った。
「フレーバーティーとてもいい香りですね」
「エリザベート嬢がお土産に持ってきてくださったのです。この香りは私は好きですね。王都から仕入れてもいいかもしれません」
エクムント様は三種類のフレーバーティーを少しずつ飲んで比べている。
「カシスは茶葉が大きめで薄く出るようですね。苺は茶葉が細かくて濃く出てミルクティーに合いそうです。桃も香りがよくてミルクティーによく合いそうですね」
「どれも本当に美味しいですね。エリザベートはエクムント殿によい土産を差し上げられたようで」
「はい。私はフレーバーティーがすっかり気に入ってしまいました。王都から取り寄せようと思います」
ミントティーをお好きだと仰っていたエクムント様は、フレーバーティーも気に入られたようだ。
苺のフレーバーティーに牛乳を入れてミルクティーにしているエクムント様に、わたくしも真似をしてミルクティーにして飲んでみる。苺ミルクを飲んでいるようでとても美味しい。
紅茶の飲み比べをしていると、厨房から冷やされたピッチャーが運ばれてきた。
「エリザベート嬢が飲みたがっていたクラフトコーラです」
「もうできたのですか?」
「炭酸水が手に入ったので、できあがったようです」
クラフトコーラをグラスに注ぐと、しゅわしゅわと炭酸の泡が立つ。クリスタもフランツもマリアも興味津々でクラフトコーラをグラスに注いでいた。
飲んでみると前世で味わったようなコーラとは全く違う。
スパイスとレモンの香りの強い全く違う飲み物のようだった。
「エリザベート嬢、いかがですか?」
「クラフトコーラがこのような味だなんて知りませんでした」
「私も初めて飲みますが、これはこれで悪くありませんね。砂糖の量を考えなければ」
「え?」
そこでわたくしは改めてクラフトコーラのレシピを見直したのだった。
クラフトコーラのシロップを作るときに入れる水と同じ量だけ砂糖が入っている。
「こんなにお砂糖が入っているのですか……」
「私もレシピを見て驚きました」
「これは気軽には飲めないですね」
前世の記憶にあるコーラが飲めるかと思っていたが全く違うものだったし、これはこれで美味しいのだがお砂糖の量を見るととても飲もうと思えない代物だった。
「わたくしは、この一杯だけで十分です」
「わたくしも」
「虫歯が怖いから、お茶会の後は歯磨きをします」
「わたくしも歯磨きをします」
クラフトコーラを飲むのを諦めるわたくしにクリスタも続き、お砂糖の量を見たフランツが怯えて歯磨きをしようと心に決め、マリアも同じようにしている。
クラフトコーラはコーラとは別物ではあったが、これはこれで美味しかった。ただ、お砂糖の量が恐ろしくてわたくしもクリスタもフランツもマリアも気軽に飲めない代物となってしまった。
飲み物を紅茶に戻すと、クラフトコーラで甘くなっていた口がさっぱりとする。
わたくしは三種類の紅茶を飲み比べて、どれも美味しかったが、苺が一番ミルクティーに合うようで、苺が一番気に入ったのだった。
お茶会が終わると、エクムント様が食堂のソファでわたくしと座って話をしてくださる。
カサンドラ様も両親も、クリスタもフランツもマリアも気を利かせて部屋に戻っていてくれた。
二人きりの食堂のソファでフレーバーティーの残りを飲みながらエクムント様がわたくしの手を取る。
手の平の上に乗せられたのは、指輪だった。
小さいものと二回りほど大きいものと二つある。
「少し早いですが結婚指輪が出来上がってきたので確認していただこうと思いまして」
「綺麗なプラチナ……裏側にはどちらもサファイアがはめ込まれていますね」
一つだけねじりが入ったデザインのプラチナのシンプルな指輪の裏側には、小さな小さなサファイアが埋め込まれている。わたくしとエクムント様の誕生石だ。
「サイズを確かめるためにエリザベート嬢の左手の薬指につけさせていただいてもいいですか?」
「はい、お願いします」
丁寧に手を取られて左手の薬指に指輪がはめられる。指輪のサイズはぴったりだった。
エクムント様も指輪を左手の薬指にはめて、サイズを確かめている。
お互いの手にお揃いの結婚指輪がはまっているのを見ると、本当に結婚式が近付いてきているのだと実感がわいてくる。
「エクムント様、お慕いしております」
「私もエリザベート嬢のことを愛しています」
指を絡めるように手を繋いでわたくしとエクムント様は見つめ合う。
このまま口付けでもできたらいいのだが、エクムント様は結婚前のわたくしに手を出すような方ではない。エクムント様は紳士なのだ。
指輪を外して箱の中に戻してエクムント様がわたくしの手を大きな手で包み込んだ。
「夏休みが終われば、エリザベート嬢は十八歳になる。成人の年です。エリザベート嬢が学園を卒業すれば、すぐにでも私と結婚ができます」
「エクムント様、結婚式の日取りはどうなるのでしょう? フランツとクリスタのお誕生日は避けたいのですが」
春にはフランツとクリスタの誕生日があるが、それぞれの誕生日はちゃんと祝われてほしいと思っている。特にクリスタの誕生日は再来年にはクリスタの結婚式の日になるかもしれないので、その日が結婚式の日になるのは避けたかった。
「私が待ちきれないので、学園を卒業したらすぐに結婚式を挙げたいと思っています。その話は、国王陛下の別荘で国王陛下にもご相談しようと思っていました」
学園を卒業したらすぐに結婚式となると、フランツのお誕生日よりも早い時期になるだろう。
エクムント様もわたくしとの結婚を待ちきれない気持ちでいてくださる。
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