上 下
439 / 528
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語

47.誕生石と婚約指輪

しおりを挟む
 国王陛下の生誕の式典の晩餐会には、わたくしは思い切って婚約指輪を付けて行った。なくしては嫌なので婚約指輪はもらってから大事に箱に入れて仕舞っていたのだ。
 動くたびにダイヤモンドとサファイアで飾られた婚約指輪が気になってしまう。美しい婚約指輪。これをエクムント様はわたくしにくださった。

 本当に結婚が近付いているのだと実感してしまう。
 春になって学年の六年生になって、もう一度春が来て学園を卒業することになれば、わたくしはエクムント様の元に嫁いでいくのだ。
 左手の薬指で光る婚約指輪にレーニちゃんは気付いたようだが、声を掛けることはなかった。国王陛下の生誕の式典の晩餐会で声を掛ける内容ではないと理解しているのだろう。

 エクムント様もわたくしの左手の薬指の婚約指輪に気付いていた。

「エリザベート嬢、つけてくださっているのですね」
「落とさないか心配ですが、つけてきました」
「とてもよくお似合いです」

 結婚指輪は男女ともにつけるのだが、婚約指輪は女性にだけ贈るものらしい。エクムント様は指輪を付けていないのでそうなのだろう。この世界ではそうなっているようだ。
 婚約指輪は装飾的なものが多く、結婚指輪はいつもつけるのでシンプルなものが多いのがその理由だろう。きらきらと輝く婚約指輪をわたくしはずっと見ていられる自信があった。

「エリザベート嬢、指輪のサイズが心配ですか?」
「サイズはぴったりです」
「それならば落とさないと思いますよ」

 そうなのだ。
 エクムント様に指のサイズを教えたつもりはないのに、エクムント様はわたくしの指にぴったりの指輪を作ってくれた。

「エクムント様はよくわたくしの指のサイズを知っていましたね」
「いつも触れている手です。大きさも覚えます」
「そうなのですか!?」

 わたくしはエクムント様と手を繋いだり、手に手を重ねることが多いが、エクムント様の指輪のサイズは想像が付かない。エクムント様はわたくしの手に触れているだけでわたくしの指のサイズが分かってしまったというのだ。
 そんなの格好良すぎてわたくしはくらくらとする。

「エリザベート嬢の薬指は、私の小指とサイズがほとんど同じなのです」
「そんなこと考えたことがありませんでした」
「小指の第一関節の辺りが、エリザベート嬢の薬指の第二関節の太さですよ」

 手の平を合わせてまじまじとサイズを見ていると、エクムント様が教えてくださる。
 わたくしの薬指がエクムント様の大きな手の小指の第一関節くらいの大きさだったなんて全く知らなかった。

「エリザベート嬢のことなら、かなり知っているのですよ、私は」
「それは存じておりますわ。エクムント様とは小さなころからのお付き合いですから」
「帽子が嫌いで手で取って投げ捨てていたのを思い出します」
「それはわたくしが赤ちゃんのころではないですか。今はそんなことしませんよ」
「そうでしたね」

 くすくすと笑いながら話すエクムント様に頬が熱くなるがわたくしは婚約指輪を付けてきてよかったと思っていた。

 晩餐会の食事の後には大広間に場所を移して舞踏会が行われる。
 わたくしはエクムント様に言っておかなければいけないことがあったのを思い出していた。

「わたくし、学園の五年生でジュニアプロムが年度末にあります。エクムント様、パートナーとして出席していただけますか?」
「お誘いありがとうございます。喜んで行かせていただきます」
「ありがとうございます」

 ジュニアプロムには学外からでもいいのでパートナーが必要だった。五年生はジュニアプロム、六年生はプロムが開かれる。プロムとは踊りやお喋りを楽しむ会なのだが、学園のプロムは社交界に出る前の準備として舞踏会の練習が行われるのだ。
 わたくしはまだ五年生でジュニアプロムにも出席したことはないが、ノルベルト殿下はノエル殿下のジュニアプロムからパートナーとして出席しているだろうし、今年のプロムではノエル殿下をパートナーとして踊るだろう。
 ハインリヒ殿下はジュニアプロムでクリスタちゃんをパートナーとして誘うはずだ。

 ジュニアプロムにエクムント様を誘えて安心していると、エクムント様がわたくしの手を取る。

「踊りますか?」
「はい、エクムント様」

 手を引かれてわたくしは踊りの輪の中に入って行った。

 しばらく踊って疲れると、エクムント様がわたくしを部屋に送り出してくださる。部屋に戻るとクリスタちゃんもレーニちゃんも戻っていた。

「お姉様、その指輪、いついただいたのですか?」

 クリスタちゃんはわたくしが付けている婚約指輪に興味津々だ。

「エクムント様のお誕生日にいただきました。本当ならばわたくしのお誕生日にいただくはずだったのですが、出来上がりが遅くなったそうなのです」
「とても素敵ですね。ダイヤモンドとサファイアが飾られていますわ」
「ダイヤモンドは永遠という意味で、サファイアはわたくしの誕生石なのだそうです」
「素敵! さすがエクムント様ですね」

 身を乗り出しているクリスタちゃんにレーニちゃんがそっと呟く。

「ハインリヒ殿下も結婚が近くなったらくださると思いますから、クリスタちゃんはそんなにじろじろ見てはいけませんよ」
「わたくし、そんなに露骨に見ていましたか?」
「晩餐会でエリザベートお姉様にお声を掛けようとしていたのではないですか?」
「レーニちゃんは鋭すぎますわ! エクムント様といい雰囲気だったので我慢したのですよ」

 クリスタちゃんはハインリヒ殿下がいるのにわたくしに声を掛けようとしていた。それはあまり褒められたことではない。

「クリスタちゃん、ハインリヒ殿下と一緒のときにはハインリヒ殿下に集中してください」
「それは……」
「クリスタちゃんもハインリヒ殿下がクリスタちゃんの方を見ていなかったら、嫌な気分になるでしょう?」
「はい。気を付けます、お姉様」

 クリスタちゃんも自分の振る舞いがよくなかったことに気付いたようだ。俯いて反省している。

 わたくしは婚約指輪を外してビロードの箱の中に丁寧に納めた。
 絶対になくさないようにしなければいけない。

「わたくしの誕生石はなんなのかしら……」

 夢見るように呟くクリスタちゃんにレーニちゃんが答える。

「クリスタちゃんの誕生石はアクアマリンですよ。ふーちゃんの誕生石と同じなので、覚えていました」
「レーニちゃん、詳しいのですね。レーニちゃんの誕生石は何ですか?」
「わたくしは、ムーンストーンや真珠やアレキサンドライトと言われています」
「ムーンストーンと真珠は分かるのですが、アレキサンドライトとはどのような宝石ですか?」

 疑問を投げかけるクリスタちゃんにレーニちゃんが答える。

「『宝石の王様』と呼ばれていて、光によって色を変える宝石です。太陽光の下では青緑、人工の光の下では赤なので、昼のエメラルド、夜のルビーと言われていますわ」
「それはロマンチックな宝石ですね」
「いつかふーちゃんがわたくしの婚約指輪にアレキサンドライトをくれたら嬉しいと思っているのです」
「ふーちゃんはきっとレーニちゃんにアレキサンドライトをプレゼントします。ふーちゃんですから!」

 クリスタちゃんも自信を持って言っているが、わたくしもふーちゃんならば大丈夫だろうと思っていた。

「今日はお風呂の順番はどうしますか?」
「わたくしはドレスの片付けが終わっていないので、クリスタちゃんとレーニちゃんお先にどうぞ」
「わたくし、早くお化粧を落としたいので先でいいですか?」
「それでは、クリスタちゃん、どうぞ」

 お風呂の順番を決めて、わたくしたちは寝る準備を始めた。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...