エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

文字の大きさ
上 下
425 / 528
十二章 両親の事故とわたくしが主役の物語

33.エクムント様のお誕生日

しおりを挟む
 エクムント様のお誕生日にはハインリヒ殿下もノルベルト殿下もユリアーナ殿下もノエル殿下もいらっしゃる。
 ユリアーナ殿下はお茶会だけの参加になるが、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下は昼食会にも晩餐会にも出られる。
 わたくしは主催としてエクムント様と共に挨拶をする側に回らなければならなかった。

「本日は私のために辺境伯家までお越しくださってありがとうございます。辺境伯領もオルヒデー帝国の中で大きな存在感を持つようになってきました。今後とも辺境伯領を盛り上げると共に、辺境伯領の海軍の司令官として辺境伯領を守っていきたいと思います」
「エクムント様のためにお祝いに駆け付けてくださってありがとうございます。わたくしも再来年には学園を卒業します。その暁には辺境伯領に嫁いで、エクムント様と共に辺境伯領のために力を尽くしたいと思っております。本日は本当にありがとうございます」

 挨拶をすると乾杯がされて、次々と貴族たちがエクムント様に挨拶にやってくる。

「エクムント殿、お誕生日おめでとうございます」
「エリザベートと並んでいるのが本当によく似合っていて、親としても嬉しい限りです」
「ディッペル公爵夫妻、お祝いをありがとうございます」
「お父様、お母様、ありがとうございます」

 両親が初めに挨拶に来て、続いてクリスタちゃんとハインリヒ殿下がやってくる。

「エクムント様の軍服はやはり格好いいですね。エリザベート嬢ともお似合いです」
「お姉様とエクムント様の姿にため息が出ました」
「ありがとうございます、ハインリヒ殿下、クリスタ嬢」
「嬉しいですわ、ハインリヒ殿下、クリスタ」

 続いてノルベルト殿下とノエル殿下がやってくる。

「お二人のお似合いなこと。僕たちも負けていませんが」
「春には結婚式を致しますので、ぜひ参列してくださいませ」
「喜んで行かせていただきます」
「ノルベルト殿下とノエル殿下もとても素敵ですよ」

 続いてリリエンタール公爵夫妻とレーニちゃんがやってくる。

「おめでとうございます。今日のよき日に乾杯致しましょう」
「エクムント殿を飲ませすぎないようにしてくださいね」
「エクムント様おめでとうございます。エリザベート嬢も立派に挨拶していて素晴らしかったですわ」
「ありがとうございます、リリエンタール公爵」
「わたくしは葡萄ジュースですが乾杯させていただきますわ」

 グラスを持ってきたリリエンタール公爵と乾杯をしてエクムント様を祝う。
 エクムント様は乾杯をしてもグラスの中身を飲み干したりせず、口を付けているだけだった。

 その他にもシュタール侯爵とオリヴァー殿、ヒューゲル伯爵夫妻、貴族たちが次々とやってきて座る間もない。
 わたくしはなんとか葡萄ジュースは飲めていたが、やはり料理は手を付けないままに下げられてしまっていた。
 あぁ、わたくしのスープ、サラダ、お魚、お肉……。
 食べたい気持ちはあるが、エクムント様も我慢されているし、わたくしも挨拶に集中した。

 慌ただしい昼食会が終わると、お茶会までの間に少し時間がある。
 その間にクリスタちゃんがふーちゃんとまーちゃんと呼んできてくれて、レーニちゃんはデニスくんを呼んできていた。オリヴァー殿はナターリエ嬢を呼んできて、ハインリヒ殿下はユリアーナ殿下を呼んできていた。

「控室でわたくし、デニス殿と遊んでいたのです。とても楽しかったです」
「よかったね、ユリアーナ」
「デニス殿はリバーシが強いのですよ。わたくし、負けそうになりました」

 子どもたちの控室ではユリアーナ殿下はデニスくんと遊んでいたようだ。ふーちゃんとまーちゃんは前日から泊っているので、部屋にいた。

「ゲオルグがお茶会に出たいと泣いてしまいました。私は慰めることができませんでした」
「来年からはゲオルグもお茶会に出られますから、それまでの辛抱ですね」

 デニスくんとレーニちゃんはゲオルグくんのことを話している。ゲオルグくんは辺境伯領まで連れて来られているようだが、お茶会には出られなくて泣いてしまったようだ。お茶会に出られなくて泣くようならば、まだまだ紳士として成長していないので、お茶会には参加できないだろう。

「エクムント殿、お誕生日おめでとうございます!」
「エクムント様、おめでとうございます! 何歳になられたのですか?」
「エリザベートお姉様と一緒なのですね、エクムント様」
「エリザベートお姉様、エクムント様とご一緒に挨拶をされたのですか?」
「エクムント様、今日はおめでとうございます」

 ユリアーナ殿下、デニスくん、ふーちゃん、まーちゃん、ナターリエ嬢に囲まれてしまうエクムント様。膝を曲げて挨拶をしている。

「ご挨拶をありがとうございます。本日で二十八歳になりました。エリザベート嬢とずっと一緒でしたよ」

 一人一人に丁寧に挨拶をして、返事をしていくエクムント様に、ユリアーナ殿下もデニスくんもふーちゃんもまーちゃんもナターリエ嬢も嬉しそうにしている。

「エクムント叔父様、おめでとうございます!」
「エクムント叔父様、エリザベート嬢と並ぶととても素敵です!」
「おめでとうございます、エクムント叔父様」

 ガブリエラちゃんも、フリーダちゃんも、ケヴィンくんもやってきている。
 子どもたちに完全に囲まれてしまっても、エクムント様は動じていなかった。

「みんな、ケーキやサンドイッチはどうですか? お茶は行き届いていますか? エリザベート嬢がお好きなのでミルクティーの用意もありますよ」
「ケーキ! 食べたいです!」
「ポテトチップスはありますか?」
「ポテトチップスもありますよ。コロッケも」
「取ってきます、エクムント叔父様!」
「行ってきます!」

 元気に返事をするデニスくんに、ポテトチップスがあるか聞くユリアーナ殿下、急いで取りに行こうとするケヴィンくんに付き添っていくガブリエラちゃん。
 子どもたちは集まるのも早かったが、散り散りになるのも早かった。

「エクムント様は何か食べませんか?」

 わたくしが誘うと、エクムント様はわたくしの手を取って軽食やケーキの置いてあるテーブルまで導く。

「先ほどの昼食会で何も食べられていなかったでしょう。エリザベート嬢も何か食べてください」
「ありがとうございます」

 ここで食べておかないと晩餐会でも同じように何も食べられないのは分かっていたので、わたくしはお皿に山盛りにならない程度に取り分ける。エクムント様はサンドイッチを中心に取り分けていた。

「このベリーのムースとても美味しそう」
「食べてみて気に入ったらもう一度取りに来てもいいでしょう」
「そうですね」

 取り分けたお皿を近くのテーブルに置いて、ミルクティーを給仕から受け取って飲みながらケーキと軽食を食べる。
 エクムント様主催のお茶会ならば、飲み物に何かが混ぜられているなんてことは絶対にありえないので、わたくしは安心してお茶を楽しめた。

 お茶会が終わって晩餐会に出るときには、お茶会のケーキと軽食である程度お腹は満たされていたが、やはり手を付けずに下げられる料理が心残りだった。
 わたくしは結構食いしん坊なのかもしれない。
 はしたないのであまりじろじろとお皿を見ることはできないが、それでも未練がましく下げられるお皿を見てしまう。

 食べたかった料理はいつか形を変えて食べられる日も来るだろう。
 辺境伯の妻になると、主催のパーティーも多くなって、こういう経験も増えるに違いない。
 その日のためにも、わたくしは我慢することを覚えなければいけなかった。

 エクムント様は辺境伯領の海軍の総司令官でもあるので、軍の催しにも出ることがあるだろう。そのときにはわたくしもご一緒しなければいけない。
 わたくしはエクムント様に相応しい女性になりたかった。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

婚約破棄?結構ですわ。でも慰謝料は請求いたします

ゆる
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。 しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが── 「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」 なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。 さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。 「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」 驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。 ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。 「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」 かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。 しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。 暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。 そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。 「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」 婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー! 自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...