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十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット
36.ベーデカー侯爵夫人の色仕掛け
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エクムント様の到着が遅い。
昼食までには着くと聞いていたのに、エクムント様は昼食の時間になってもディッペル家に着いていなかった。
どこかで事故でも起きたのだろうか。
列車で事故が起きたという話はディッペル家に届いてきていない。そうなると馬車で何か起きたのかもしれない。
いてもたってもいられなくて、わたくしはコートとマフラーと手袋を身に着けて庭に出た。遠くからでもエクムント様の馬車が見えないかと思ったのだ。外に出ていこうとするわたくしに気付いて、クリスタちゃんが護衛と共についてきてくれる。
エクムント様の馬車が見えないかと庭を取り巻く柵まで行ったところで、わたくしは男女の言い争う声を聞いた。
「エクムント様、どうかわたくしのお屋敷にいらしてください」
「ベーデカー侯爵夫人、私は婚約者の屋敷に向かうところなのです。邪魔をしないでください」
「その前にわたくしのお屋敷に来て、少しだけお話をしてもよろしいでしょう?」
夢で見たのとそっくりの黒髪に褐色肌の美女がエクムント様に迫っている。夢と違うのは、エクムント様が心底迷惑そうにしていることだ。
「ディッペル家で昼食の約束をしているのです。フランツ殿とマリア嬢はまだ小さい。昼食が遅れるのは本意ではありません」
「それでしたら、昼食が終わったらわたくしのお屋敷に来てくださると約束してください。約束してくださるまで、この道は通せません」
よく見れば、その女性、ベーデカー侯爵夫人の馬車が道を塞ぐようにしてエクムント様の馬車を通れないようにしているのだ。これではエクムント様も馬車から降りてベーデカー侯爵夫人を注意する他なかっただろう。
「ベーデカー侯爵夫人は辺境伯領に夫がいるではないですか。私がそんな女性を訪ねるということがどういう意味か分かっているのですか?」
「分かっておりますわ。夫は知っておりますの。辺境伯をわたくしの心づくしのおもてなしで迎えるように言われています」
大きな胸を強調するようにコートの前を開けて見せるベーデカー侯爵夫人の様子にわたくしが怒りを感じていると、クリスタちゃんが前に出た。
「エクムント様、お姉様が心配してお迎えに参りましたわ。さぁ、一緒にディッペル家に参りましょう」
「クリスタ嬢、エリザベート嬢」
「ベーデカー侯爵夫人、婚約者のいるエクムント様に既婚者の身で何をなさろうとしていたのですか?」
「わ、わたくしは、商談をしようとしていただけです。夫にやましいことは何もありません。夫もわたくしの商談に賛成してくれています」
「商談?」
訝し気なクリスタちゃんにベーデカー侯爵夫人はエクムント様の腕を取ろうとして、避けられて空振りをする。
「フィンガーブレスレットとネイルアートの事業をシュタール家がどちらも行うのは荷が重すぎるのではないかと夫も気の毒に思っております。シュタール侯爵は奥方様を亡くしたばかりではありませんか。二つも事業を取りまとめるのは無理なのではないでしょうか?」
これでベーデカー侯爵夫人の思惑が分かった。
ベーデカー侯爵は辺境伯領の侯爵家だ。シュタール家が重用されているので、嫉妬したのと、自分も事業を持ちたい気持ちで、辺境伯領から出てきたエクムント様をディッペル領地内にある別荘に招いて、色仕掛けで事業のどちらかを任せるという約束を取り付けようとしたのだろう。
夫も了解しているといっていたが、事業のために妻を色仕掛けに使う夫なんて碌なものではない。
呆れていると、エクムント様はベーデカー侯爵夫人を無視してわたくしの方に歩いてきた。
「馬車は御者に任せます。エリザベート嬢、クリスタ嬢、ディッペル家まで歩きましょう」
ディッペル家の直前だったし、歩くのは少しだけだったのでわたくしとクリスタちゃんはエクムント様と護衛と一緒にディッペル家まで歩いて行って庭の柵を潜った。
「ベーデカー家は最近、辺境伯家に近付こうと必死なのです。お見苦しいところをお見せしました」
「エクムント様が無事でよかったです」
「馬車をぶつけんばかりに接近してきて、無理やり馬車を止められたのです。ベーデカー家に対しては辺境伯家から厳重に注意をしておきます。お待たせをして、心配をおかけしてすみません」
「エクムント様のせいではありませんわ。エクムント様は誠実に対応していました」
エクムント様は絶対に色仕掛けに乗らなかったし、腕を取られそうになっても素早く避けていた。夢に見たように美女に迫られてもエクムント様は決して揺らぐことはなかった。
「シュタール家に事業を任せているのは、それだけシュタール家が辺境伯家にとって重要な家であるし、信頼がおけるというのもあります。ベーデカー家では売り上げをきちんと管理しているか、目を光らせておかなければならない。そうなると辺境伯家の手間も多くなります」
「シュタール侯爵もオリヴァー殿も事業をしっかりと取りまとめている様子です。シュタール侯爵が奥様を亡くされたので、事業が重荷になっているなんてことはないと思います。オリヴァー殿も手伝っているようですし」
「私もそう思っています。シュタール侯爵はオリヴァー殿とナターリエ嬢のために前を向いて未来を見ることができるようになっていると思います」
シュタール侯爵は奥方の死から立ち直っている。エクムント様はそれを感じ取っているようだった。
ディッペル家に着くとふーちゃんとまーちゃんがわたくしたちに向かって駆けて来た。
「エクムント様はご無事でしたか?」
「怪我をされていませんか?」
「怪我はしていません。無事です。お待たせしたようで申し訳ない」
「いいえ、大丈夫です」
「エクムント様が無事でよかったです」
無邪気に喜ぶふーちゃんとまーちゃんのお腹が鳴る。七歳と六歳のふーちゃんとまーちゃんは胃袋が小さいので、一度に多くものが食べられなくてすぐにお腹が空いてしまうのだ。それを我慢して待っていてくれたこと、わたくしはふーちゃんとまーちゃんが誇らしかった。
エクムント様が部屋でコートを脱いでマフラーを取って、手袋も外して、食堂に降りてくると、両親もエクムント様を笑顔で迎えた。
「遅れたので心配しました。何かあったのですか?」
「足止めをされました。馬車を動けないようにされて」
「誰がそんなことを!?」
「ベーデカー侯爵夫人がネイルアートやフィンガーブレスレットの事業の利権欲しさに私をディッペル領にある別荘に招こうとしたのです」
「ベーデカー侯爵夫人が……。馬車はぶつけられたりしていませんか?」
「馬車は無事でしたが、足止めをされているので御者に任せて置いてきました」
「それでは歩いてきたのですか? 寒かったでしょう」
「少しの距離だったので平気です」
両親と話すエクムント様は落ち着いている。
わたくしもエクムント様が美女と話していても全く動揺していないことに気付いていた。
例えどんな美女がエクムント様の前に現れても、エクムント様は絶対に浮気はしない。
それはわたくしがエクムント様のことを小さいころから知っているので、確信のように感じていることだった。
自分の好きになる相手は、自分では決められない。カサンドラ様が決めた婚約者を好きになってその方と結婚するのだと言っていたエクムント様を思い出す。
どれだけ誠実な方なのだろうとあのときも思っていたが、今もさらに強く思っている。
夢で見たときも一瞬でこれが夢だと分かるくらい、エクムント様のことは信頼していたが、今回のことでその信頼がますます強くなった気がした。
「エクムント様、馬車が着きました。荷物を部屋に運んでおきます」
「よろしく」
使用人から声をかけられてエクムント様は片手をあげて答える。
食卓に着いたわたくしたちの前には、美味しい昼食が運ばれてきていた。
少し遅い昼食をわたくしたちは味わったのだった。
昼食までには着くと聞いていたのに、エクムント様は昼食の時間になってもディッペル家に着いていなかった。
どこかで事故でも起きたのだろうか。
列車で事故が起きたという話はディッペル家に届いてきていない。そうなると馬車で何か起きたのかもしれない。
いてもたってもいられなくて、わたくしはコートとマフラーと手袋を身に着けて庭に出た。遠くからでもエクムント様の馬車が見えないかと思ったのだ。外に出ていこうとするわたくしに気付いて、クリスタちゃんが護衛と共についてきてくれる。
エクムント様の馬車が見えないかと庭を取り巻く柵まで行ったところで、わたくしは男女の言い争う声を聞いた。
「エクムント様、どうかわたくしのお屋敷にいらしてください」
「ベーデカー侯爵夫人、私は婚約者の屋敷に向かうところなのです。邪魔をしないでください」
「その前にわたくしのお屋敷に来て、少しだけお話をしてもよろしいでしょう?」
夢で見たのとそっくりの黒髪に褐色肌の美女がエクムント様に迫っている。夢と違うのは、エクムント様が心底迷惑そうにしていることだ。
「ディッペル家で昼食の約束をしているのです。フランツ殿とマリア嬢はまだ小さい。昼食が遅れるのは本意ではありません」
「それでしたら、昼食が終わったらわたくしのお屋敷に来てくださると約束してください。約束してくださるまで、この道は通せません」
よく見れば、その女性、ベーデカー侯爵夫人の馬車が道を塞ぐようにしてエクムント様の馬車を通れないようにしているのだ。これではエクムント様も馬車から降りてベーデカー侯爵夫人を注意する他なかっただろう。
「ベーデカー侯爵夫人は辺境伯領に夫がいるではないですか。私がそんな女性を訪ねるということがどういう意味か分かっているのですか?」
「分かっておりますわ。夫は知っておりますの。辺境伯をわたくしの心づくしのおもてなしで迎えるように言われています」
大きな胸を強調するようにコートの前を開けて見せるベーデカー侯爵夫人の様子にわたくしが怒りを感じていると、クリスタちゃんが前に出た。
「エクムント様、お姉様が心配してお迎えに参りましたわ。さぁ、一緒にディッペル家に参りましょう」
「クリスタ嬢、エリザベート嬢」
「ベーデカー侯爵夫人、婚約者のいるエクムント様に既婚者の身で何をなさろうとしていたのですか?」
「わ、わたくしは、商談をしようとしていただけです。夫にやましいことは何もありません。夫もわたくしの商談に賛成してくれています」
「商談?」
訝し気なクリスタちゃんにベーデカー侯爵夫人はエクムント様の腕を取ろうとして、避けられて空振りをする。
「フィンガーブレスレットとネイルアートの事業をシュタール家がどちらも行うのは荷が重すぎるのではないかと夫も気の毒に思っております。シュタール侯爵は奥方様を亡くしたばかりではありませんか。二つも事業を取りまとめるのは無理なのではないでしょうか?」
これでベーデカー侯爵夫人の思惑が分かった。
ベーデカー侯爵は辺境伯領の侯爵家だ。シュタール家が重用されているので、嫉妬したのと、自分も事業を持ちたい気持ちで、辺境伯領から出てきたエクムント様をディッペル領地内にある別荘に招いて、色仕掛けで事業のどちらかを任せるという約束を取り付けようとしたのだろう。
夫も了解しているといっていたが、事業のために妻を色仕掛けに使う夫なんて碌なものではない。
呆れていると、エクムント様はベーデカー侯爵夫人を無視してわたくしの方に歩いてきた。
「馬車は御者に任せます。エリザベート嬢、クリスタ嬢、ディッペル家まで歩きましょう」
ディッペル家の直前だったし、歩くのは少しだけだったのでわたくしとクリスタちゃんはエクムント様と護衛と一緒にディッペル家まで歩いて行って庭の柵を潜った。
「ベーデカー家は最近、辺境伯家に近付こうと必死なのです。お見苦しいところをお見せしました」
「エクムント様が無事でよかったです」
「馬車をぶつけんばかりに接近してきて、無理やり馬車を止められたのです。ベーデカー家に対しては辺境伯家から厳重に注意をしておきます。お待たせをして、心配をおかけしてすみません」
「エクムント様のせいではありませんわ。エクムント様は誠実に対応していました」
エクムント様は絶対に色仕掛けに乗らなかったし、腕を取られそうになっても素早く避けていた。夢に見たように美女に迫られてもエクムント様は決して揺らぐことはなかった。
「シュタール家に事業を任せているのは、それだけシュタール家が辺境伯家にとって重要な家であるし、信頼がおけるというのもあります。ベーデカー家では売り上げをきちんと管理しているか、目を光らせておかなければならない。そうなると辺境伯家の手間も多くなります」
「シュタール侯爵もオリヴァー殿も事業をしっかりと取りまとめている様子です。シュタール侯爵が奥様を亡くされたので、事業が重荷になっているなんてことはないと思います。オリヴァー殿も手伝っているようですし」
「私もそう思っています。シュタール侯爵はオリヴァー殿とナターリエ嬢のために前を向いて未来を見ることができるようになっていると思います」
シュタール侯爵は奥方の死から立ち直っている。エクムント様はそれを感じ取っているようだった。
ディッペル家に着くとふーちゃんとまーちゃんがわたくしたちに向かって駆けて来た。
「エクムント様はご無事でしたか?」
「怪我をされていませんか?」
「怪我はしていません。無事です。お待たせしたようで申し訳ない」
「いいえ、大丈夫です」
「エクムント様が無事でよかったです」
無邪気に喜ぶふーちゃんとまーちゃんのお腹が鳴る。七歳と六歳のふーちゃんとまーちゃんは胃袋が小さいので、一度に多くものが食べられなくてすぐにお腹が空いてしまうのだ。それを我慢して待っていてくれたこと、わたくしはふーちゃんとまーちゃんが誇らしかった。
エクムント様が部屋でコートを脱いでマフラーを取って、手袋も外して、食堂に降りてくると、両親もエクムント様を笑顔で迎えた。
「遅れたので心配しました。何かあったのですか?」
「足止めをされました。馬車を動けないようにされて」
「誰がそんなことを!?」
「ベーデカー侯爵夫人がネイルアートやフィンガーブレスレットの事業の利権欲しさに私をディッペル領にある別荘に招こうとしたのです」
「ベーデカー侯爵夫人が……。馬車はぶつけられたりしていませんか?」
「馬車は無事でしたが、足止めをされているので御者に任せて置いてきました」
「それでは歩いてきたのですか? 寒かったでしょう」
「少しの距離だったので平気です」
両親と話すエクムント様は落ち着いている。
わたくしもエクムント様が美女と話していても全く動揺していないことに気付いていた。
例えどんな美女がエクムント様の前に現れても、エクムント様は絶対に浮気はしない。
それはわたくしがエクムント様のことを小さいころから知っているので、確信のように感じていることだった。
自分の好きになる相手は、自分では決められない。カサンドラ様が決めた婚約者を好きになってその方と結婚するのだと言っていたエクムント様を思い出す。
どれだけ誠実な方なのだろうとあのときも思っていたが、今もさらに強く思っている。
夢で見たときも一瞬でこれが夢だと分かるくらい、エクムント様のことは信頼していたが、今回のことでその信頼がますます強くなった気がした。
「エクムント様、馬車が着きました。荷物を部屋に運んでおきます」
「よろしく」
使用人から声をかけられてエクムント様は片手をあげて答える。
食卓に着いたわたくしたちの前には、美味しい昼食が運ばれてきていた。
少し遅い昼食をわたくしたちは味わったのだった。
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