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十一章 ネイルアートとフィンガーブレスレット

31.コレットとシリルの寿命

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 わたくしのお誕生日の翌朝、ふーちゃんとまーちゃんに起こされてクリスタちゃんと庭を散歩していると、エクムント様がそこに合流した。昨日のことは忘れていないので、わたくしは微妙に恥ずかしいような照れるような気持だったが、エクムント様は平然としていらした。
 普段通りのエクムント様に、わたくしだけが意識しているようで少し悔しくなる。エクムント様がもっとわたくしを意識してくれたらいいのにと思わずにはいられない。
 噴水ではハシビロコウのコレットが水浴びをして優雅に過ごしている。クロードはコレットに餌をあげているようだった。

「エリザベートお姉様、コレットとシリルがいます」
「うちにはコレットとシリルがいるから、犬は飼えないのだとエリザベートお姉様は言っていましたね」

 そういえばそんなこともあった。
 国王陛下の別荘で犬が警備用に飼われているのを見て、ふーちゃんとまーちゃんがディッペル家でも犬を飼いたいとお願いしてきたのだ。犬を飼うのは無理だったけれど、ふーちゃんとまーちゃんはノエル殿下から犬のぬいぐるみをもらって喜んでいた。

「今も犬を飼いたい気持ちがあるのですか?」
「少しだけ」
「ハシビロコウの寿命はどれくらいなのですか? オウムの寿命も」

 犬を飼うことが気になっているふーちゃんとまーちゃんに、わたくしはすぐには答えられなかった。ハシビロコウの寿命は長いのだろうが、どれくらいかはっきりとわたくしは知らない。オウムも寿命が長いということだけは分かっていた。

「フランツとマリアは隣国の言葉の練習もしているのですよね?」
「はい、クリスタお姉様」
「リップマン先生に教えてもらっています」
「それでは、カミーユとクロードに聞いてみたらどうですか?」

 わたくしたちに聞くというのは考えていたようだが、ふーちゃんとまーちゃんはカミーユとクロードに聞くということが頭になかったようだ。クリスタちゃんに言われて、コレットに餌をあげているクロードのところに駆け寄っている。

『クロード、ハシビロコウの寿命はどれくらいですか?』
『コレットは今何歳くらいですか?』
『ハシビロコウの寿命は三十年から四十年と言われています。コレットは今二十歳くらいですね』

 すぐに教えてくれたクロードに『ありがとうございます』とふーちゃんとまーちゃんは声をそろえてお礼を言って、次はカミーユのところに走っていく。
 カミーユは檻に入れたシリルを日光浴させながら餌を食べさせていた。

『カミーユ、オウムの寿命はどれくらいですか?』
『シリルは今何歳ですか?』
『オウムの中でもシリルの種類のオウムの寿命は四十年から六十年です。シリルは両親が飼っていたので、もうすぐ三十歳くらいになるでしょうか』

 丁寧に答えてくれたカミーユにも声をそろえてお礼を言って、ふーちゃんとまーちゃんは戻ってきた。

「コレットは今二十歳くらいで、ハシビロコウの寿命は三十年から四十年でした」
「シリルはもうすぐ三十歳くらいになって、オウムの寿命は四十年から六十年でした」
「そうなると、コレットとシリルがいる間は犬も猫も飼えませんね」
「えーっと、コレットは今二十歳くらいで寿命が三十年から四十年なら、後十年から二十年は生きるということですね」
「シリルはもうすぐ三十歳くらいで、オウムの寿命が四十年から六十年ということは、十年から三十年生きるということですか?」
「そうですね、フランツ、マリア」

 現実を知るとふーちゃんもまーちゃんもがっかりした顔になってしまう。

「コレットとシリルは可愛いけれど、犬や猫も飼いたいです」
「どうにかならないでしょうか、エリザベートお姉様、クリスタお姉様?」

 お願いしてくるふーちゃんとまーちゃんにわたくしは答える。

「一度動物を飼ったからには、寿命を終えて亡くなるまで責任を持つのが飼い主というものです。犬や猫を飼っても同じです。コレットとシリルに責任を持てないのならば、犬や猫を飼う資格はありません」
「犬も可愛いと思うのです」
「猫も可愛いです」
「可愛いだけでは飼ってはいけないのですよ。その動物が亡くなるまでしっかりとお世話をできるものしか飼ってはいけないのです」

 ハシビロコウのコレットはヒューゲル伯爵家が侯爵家だったころに、飼ってはいけない動物をこっそりと密輸入して飼っていたが、羽を切られているのでもう飛べなくなっていて、野生には返せないという理由でディッペル家が引き取ったものだった。
 シリルはカミーユと一緒に辺境伯領の市で売っていたのを、わたくしがカミーユと共に保護したものだった。

 どちらも理由があって飼っているのだが、その理由はふーちゃんやまーちゃんには関係がない。
 ふーちゃんやまーちゃんは物心ついたら飼われていたコレットとシリルのせいで、自分の飼いたい動物が飼えずにいるのは少し可哀相な気もしてくる。

「フランツやマリアは物心つかない頃に連れてこられたハシビロコウとオウムですからね。コレットとシリルのこと、フランツとマリアはどう思っていますか? 正直に答えていいのですよ」
「コレットとシリルは小さいころからいたので、いないことを考えたことがありません」
「コレットもシリルも家族です」
「そう思っているなら、コレットとシリルが飼われている間は、他の動物を新しく飼うのは無理だと分かりますね?」
「はい、エリザベートお姉様」
「コレットとシリルをもっと可愛がります」
「フランツとマリアが大きくなって、コレットとシリルも寿命を迎えたら、自分たちの好きな動物を飼うといいでしょう」

 わたくしがそう言えば、うるうるとふーちゃんとまーちゃんの目が潤んでくる。
 ふーちゃんの水色の目と、まーちゃんの銀色の光沢のある黒い目にはコレットとシリルが映っていた。

「コレットとシリルがいなくなるなんて、考えたくないです」
「コレットもシリルも大好きです」

 ペットというものはいつか飼い主よりも早く寿命を迎えるのだが、ハシビロコウとオウムは少々寿命が長いようで、飼い主よりも長く生きることもあるのかもしれない。それでも、まだ七歳のふーちゃんと六歳のまーちゃんにしてみれば、自分たちが大きくなるころにはコレットとシリルが寿命を迎えるかもしれないと考えただけで悲しくなってしまったようだった。
 コレットもシリルもわたくしたちにとって大事な家族で、大事なペットなのだと改めて考えさせられた。

 コレットとシリルのところに行って、ふーちゃんとまーちゃんが遊んでいるのを見ていると、エクムント様がわたくしに問いかけた。

「こんなにペットを大事にしているのでしたら、結婚したら辺境伯領で何か飼ったほうがいいですか?」
「わたくし、寿命が長くて、すぐに死んでしまわないペットが欲しいです」
「猫は二十年生きるといいますよ」
「オウムほどではないのでしょう?」
「オウムは子どもたちに引き継がなければいけないほど長生きするかもしれませんね」

 子どもたちとさらりと口にしたが、わたくしはそれを聞き逃さなかった。
 エクムント様はわたくしと自分の間に子どもが生まれることも考えている。辺境伯家に嫁ぐので当然後継者を期待されるのだろうが、エクムント様がわたくしとエクムント様の間に子どもが生まれることを期待していると思うと、心拍数が上がる気がする。
 話題も結婚後の話になっている。

「お姉様は寂しがり屋かもしれませんわ。エクムント様が寂しくないようにしっかりと守ってくださらないと」
「クリスタ!?」
「だって、早く死んでしまうペットは寂しくて飼えないのでしょう?」

 クリスタちゃんがからかうように言うのに、わたくしは頬を押さえる。
 そこが赤くなっているのは隠しようのない事実だった。

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