エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

文字の大きさ
上 下
341 / 528
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約

48.ふーちゃんとまーちゃんとデニスくんとゲオルグくんの雪合戦

しおりを挟む
 冬には両親のお誕生日がある。
 両親のお誕生日にはふーちゃんもまーちゃんもお茶会に出慣れていた。元々赤ん坊のころから父はふーちゃんとまーちゃんを見てもらうために自分たちのお誕生日に出席させていた。
 ふーちゃんとまーちゃんが小さくてもお茶会に出られるようになったのは、両親のお茶会での経験があったからだろう。
 レーニちゃんのお誕生日のお茶会でまーちゃんはユリアーナ殿下に誘われたが、絶対に立って飲食はしなかった。自分ができることとできないことを弁えているのだ。

 両親のお誕生日のお茶会には国王陛下と王妃殿下も毎年やってくる。
 挨拶をして国王陛下と王妃殿下を迎えた両親の話題はまーちゃんのことに移っていた。

「国王陛下、王妃殿下、マリアの婚約式、どうぞよろしくお願いします」
「ディッペル公爵夫妻はお子様が次々と婚約されておめでたいことですね」
「マリアの晴れ舞台だ。任せておいてくれ」

 国王陛下の言葉に両親は安堵していたようだった。

 両親のお誕生日のお茶会が終わると、国王陛下の生誕の式典の時期になる。
 毎日のようにわたくしとクリスタちゃんにドレスを見せに来ていたまーちゃんが、遂に本当に婚約をするのだ。
 五歳で婚約というのはとても早いのだが、公爵家の娘としてはあり得ない話ではないのかもしれない。
 両親もわたくしも、早すぎる婚約に賛成というわけではなかったが、まーちゃん自身が望んでいて、辺境伯領を支えるシュタール家のためならば仕方がないと両親も思っていることだろう。

 毎日のようにドレスを着てわたくしとクリスタちゃんに見せに来るし、婚約式ごっこをするし、まーちゃんが幼いなりにこの婚約をとても楽しみにしていることはわたくしにもクリスタちゃんにも両親にも伝わって来ていた。

 五歳でまーちゃんはオリヴァー殿に夢中になってしまったが、わたくしはもっと小さい頃からエクムント様が好きで、物心ついたときには恋をしていたので、血は争えないというやつである。
 まーちゃんが婚約してしまうのは寂しいが、それがまーちゃんの願いならば祝福するしかない。

 国王陛下の生誕の式典ではわたくしたちディッペル家の一同は王都に行って王宮の客間に泊まる。わたくしとクリスタちゃんは別部屋なのだが、そこに嬉しい来訪者が現れた。

「両親とデニスとゲオルグと同じ部屋ではない方がいいと言われたのですが、新しく部屋を準備するには一人で寂しいので、エリザベート嬢とクリスタ嬢とご一緒できませんか?」

 レーニちゃんも学園に入学した頃から両親と弟たちと別部屋になっていたようだが、一人の部屋は寂しいので今年はわたくしとクリスタちゃんと一緒の部屋にして欲しいと申し出たようだ。
 それはわたくしにとっても嬉しい話だった。

「レーニ嬢なら喜んで。いいですわよね、クリスタ?」
「はい、レーニ嬢と同じ部屋は嬉しいです」

 リリエンタール公爵も一緒にディッペル家の部屋に来ていて、両親にも了承を取っているが、わたくしとクリスタちゃんはレーニちゃんが同じ部屋になるのは大歓迎だった。

 同じ部屋になって荷物を片付けていると、部屋のドアが叩かれる。ふーちゃんとまーちゃんだと思ったので、わたくしは声をかけて待ってもらうことにした。

「今荷物を片付けています。少し待ってください」
「レーニちゃんにご挨拶させてください、お姉様たち」
「お兄様もお姉様たちもレーニ嬢をレーニちゃんと呼んでいますね。わたくしも何か特別な呼び方が欲しいです」

 廊下で待つふーちゃんとまーちゃんが話している。
 先に荷物を片付け終わったレーニちゃんがふーちゃんとまーちゃんを部屋に招き入れていた。

「まーちゃん、婚約式が行われますね。おめでとうございます」
「ありがとうございます、レーニ嬢。……うーん、やっぱり、わたくしも特別な呼び方が欲しいです」
「まーちゃんにとっては、わたくしは兄の婚約者。お姉様と呼ぶのはどうですか?」
「レーニお姉様! それは素敵です! わたくし、レーニ嬢をレーニお姉様と呼びます」

 レーニちゃんの提案にまーちゃんは目を輝かせていた。

「レーニちゃんは食事はリリエンタール公爵のお部屋でとるのですか?」
「はい。そのつもりです」
「エリザベートお姉様とクリスタお姉様と部屋は同じだけれど、食事は別々なのですね」
「デニスやゲオルグが寂しがりますからね。デニスがお茶会に出られる年齢になったので、お屋敷でお留守番させるわけにはいかないのですよ」
「デニスくんもお茶会に出席するのですか。それは楽しみです」
「先輩として仲良くしてあげてください、ふーちゃん」

 頼りにされてふーちゃんは嬉しそうな顔をしている。

 その日はわたくしとクリスタちゃんは両親とふーちゃんとまーちゃんの部屋で、レーニちゃんはリリエンタール家の部屋で夕食を食べて休んだ。

 翌日は国王陛下の生誕の式典の日だったが、わたくしもクリスタちゃんもレーニちゃんも早朝に起こされた。
 ふーちゃんとまーちゃんだけかと思っていたら、デニスくんとゲオルグくんもドアの前にいてわたくしたちを待っていた。

「お散歩にいきましょう!」
「わたくし、コートとマフラーと手袋を持ってきました」
「おねえさま、エリザベートじょう、クリスタじょう、いっしょにおさんぽにいきましょう」
「わたし、ゆきであそびたい」

 防寒具も完璧なふーちゃんとまーちゃんとデニスくんとゲオルグくんに、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんは準備をして一緒に庭に出た。
 雪の積もった庭は寒かったが、デニスくんとゲオルグくんは元気いっぱい雪の中を走っている。

「マリアじょう、フランツどの、ゆきがっせんをしましょう!」
「わたし、ゆきをまるめるの、じょうず!」
「レーニちゃん、応援していてください」
「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、レーニお姉様、何回雪玉に当たったか数えていてください。一番当たらなかったひとがいるチームを優勝にしましょう!」

 ルールをまーちゃんが決めて、デニスくんとゲオルグくんとふーちゃんとまーちゃんで雪合戦が始まる。
 デニスくんとゲオルグくんのチームはゲオルグくんが丸めた雪玉をデニスくんが投げて、連携している。ふーちゃんとまーちゃんは別々に雪玉を丸めているので、効率が悪い。
 結果として、デニスくんがふーちゃんとまーちゃんにたくさん雪玉を当てて、デニスくんとゲオルグくんのチームが勝った。

「おにいさま、やりました!」
「ゲオルグがゆきだまをまるめてくれたおかげだよ」
「わたし、ちいさいけどかてた!」

 飛び跳ねて喜んでいるデニスくんとゲオルグくんに、ふーちゃんとまーちゃんは負けを認めて拍手を送っていた。

 楽しい雪合戦が終わると、雪を払ってわたくしたちは部屋に戻った。
 レーニちゃんはデニスくんとゲオルグくんとリリエンタール公爵の部屋に朝食を食べに行って、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんは両親のいる部屋に朝食を食べに行った。
 雪合戦で頬っぺたを真っ赤にしているふーちゃんとまーちゃんの頬を、両親は優しく手で包み込んで温めていた。

「寒かったのではないですか?」
「風邪は引いていないね?」
「私、デニス殿とゲオルグ殿と雪合戦をしました」
「ゲオルグ殿が雪玉を丸めて、デニス殿が投げて、とても連携がすごかったので、わたくしたち負けてしまいました」
「負けたけれど、とても楽しかったです」
「それはよかった」
「温かい紅茶を飲んで体を温めるといいですわ」

 朝食の前に温かいミルクティーを飲んでふーちゃんとまーちゃんは体を温めていた。わたくしとクリスタちゃんも寒かったので温かいミルクティーを飲んだ。

 朝食が終わると、ドレスに着替えて昼食会に参加する準備をする。
 まーちゃんの婚約式はお茶会のときに行われる。ふーちゃんとまーちゃんはまだ昼食会に出られる年齢ではないからだ。

 昼食会の前に国王陛下と王妃殿下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下が王宮のバルコニーに出て国民に手を振る。
 国民からは歓声が上がっている。
 この国では国王陛下が愛されているのだとよく分かる。

 昼食会はクリスタちゃんはハインリヒ殿下と王家のテーブルに着いて、わたくしは両親の正面の席で、隣りにはエクムント様がいるという配置になる。
 エクムント様はわたくしに話しかけてくださる。

「朝に庭でディッペル家の御令嬢と御子息、リリエンタール家の御令嬢と御子息で散歩されていたようですね」
「見ておられたのですか?」
「楽しそうな子どもの声が聞こえたので、テラスに出てみたら、お姿が見えました」
「フランツとマリアとデニス殿とゲオルグ殿が雪合戦をしていたのです。とても楽しそうでした」
「見ていましたが、とても盛り上がっていましたね」

 エクムント様は庭の見える部屋に泊まっているようだった。
 結婚前の女性が男性の部屋を訪ねるなんてことははしたないのでするつもりはないが、エクムント様はわたくしの部屋の前の廊下によく迎えに来てくださるが、わたくしの方はエクムント様の部屋を知らないことに気付く。

「エクムント様はどの部屋に泊まっているのですか?」
「庭側の一番端の部屋です。一人で泊まるには広いのですが、辺境伯という地位のある以上は仕方がないですね」

 家族用の広い部屋にエクムント様は一人で泊まっているようだ。
 エクムント様が結婚すれば、わたくしも同じ部屋に泊まるようになるのかもしれない。
 その日が待ち遠しいような、夢想するだけで少し恥ずかしいような気がしてくる。
 はしたないことはしたくないが、わたくしはエクムント様の部屋が少し気になっていた。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...