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十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
46.不敬罪に疑問を投じる
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全てを治めて学園に戻ると、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんはノエル殿下に報告に行かなければいけなかった。ノエル殿下のお茶会ではローザ嬢の話が持ち上がっている。
「ホルツマン家の養子がクリスタ嬢に話しかけてきたと聞いています。自分は元ノメンゼン子爵の認められた子どもではないのに、クリスタ嬢のことを『お姉様』と呼び、クリスタ嬢をこき下ろすようなことを言ってきたのだと」
「その件に関しては解決しましたわ、ハインリヒ殿下」
「クリスタ嬢を侮辱することは、クリスタ嬢を皇太子である私の婚約者とした王家を侮辱することに値します」
そうなのだ。
それで既にローザ嬢には不敬罪が適用されていたかもしれない。不敬罪の重みを考えるとわたくしも軽々しくローザ嬢との会話をハインリヒ殿下に伝えられなかった。
クリスタちゃんもそうなのか、ハインリヒ殿下に事件は解決したのだと伝えている。
「この国は王制ですが、憲法があります。不敬罪は王族の考え次第で刑罰の重さが変わるというのは、憲法のある国家としてどうかと思うのです。そのせいで先んじて不敬罪を犯したものを病死として始末しようとする動きもありますし」
「エリザベート嬢?」
「ローザ嬢は不敬罪には当たらないとわたくしは判断いたしましたが、ローザ嬢のことがあって不敬罪について考えてみたのです。不敬罪には確たる量刑を決めるか、侮辱罪や名誉毀損に統一するかのどちらかにした方がいいのではないでしょうか?」
隣国で革命が起きたときに、憲法が作られた。革命で王族は処刑されたりするような血生臭いことはなかったのだが、平民だけでなく貴族や僧侶からも税金を徴収するという法が可決されたのだ。
王族はそれに賛成して平民の意見を取り入れたがために、革命で死者は出ずに、今は隣国は王制と議会制が両立している状態だ。
それは歴史の授業で習ったので知っている。
オルヒデー帝国がドイツをモデルにしているのならば、隣国はフランス辺りをモデルにしているのではないだろうか。フランス革命で国王一家が処刑されなかった世界を想像しているのかもしれない。
ノエル殿下は法治国家のお生まれ、お育ちだが、不敬罪についてははっきりと口にしていた。隣国にも不敬罪がまだ残っているのだろう。
「隣国ではどうなのですか? 不敬罪をなくそうという働きはないのですか?」
「実はあるのです。不敬罪を法治国家にそぐわない刑罰だという動きはあります」
「ノエル殿下はどうお思いですか?」
「元々あったものなので、深く考えたことがありませんでした。よく考えれば不敬罪とは、関係者の考え次第で刑罰の重さが変わる理不尽なものかもしれません」
ノエル殿下も聞いてみればわたくしと同じ意見を持っているようだった。
ノルベルト殿下が侮辱されたかもしれないということで先日は頭に血が上ったのかもしれないが、理性的に考えるとノエル殿下も不敬罪は理不尽だという結論に至ったようだ。
「私もそんなに不敬罪のことを考えたことはありませんでした」
「エリザベート嬢とノエル殿下が言うように、不敬罪とは理不尽なものなのかもしれないね」
「そうかもしれません」
ハインリヒ殿下もノルベルト殿下も不敬罪の存在に疑問を持ち始めていた。これはすぐには無理だが、ハインリヒ殿下が国王陛下になられる頃には法律が変わるのではないだろうか。
わたくしはハインリヒ殿下に希望を見出していた。
運動会ではわたくしが乗馬、ハインリヒ殿下がリレー、ノルベルト殿下とノエル殿下がダンス、クリスタちゃんとレーニちゃんとミリヤムちゃんは寮は違うが大縄跳びで参加することになっていた。
「オリヴァー殿は何で参加するのですか?」
今年から親しくなって、まーちゃんの婚約者にもなるオリヴァー殿に聞いてみると、答えが返ってくる。
「私は運動が得意な方ではないので、大縄跳びに参加します。回し手として選ばれました」
これでペオーニエ寮にクリスタちゃんとレーニちゃん、リーリエ寮にオリヴァー殿、ローゼン寮にミリヤムちゃんが大縄跳びで参加することになった。
「大縄跳びはどのチームを応援するか迷いますね」
「申し訳ないですが、わたくしは妹のクリスタがいるので、ペオーニエ寮を応援いたします。ペオーニエ寮には弟の婚約者のレーニ嬢もいます」
「エリザベート嬢はクリスタ嬢とレーニ嬢と仲がいいですね」
どの寮を応援するのか迷うノエル殿下に、わたくしの心は決まっていた。わたくしにとってはクリスタちゃんという可愛い妹と、可愛い弟の婚約者であるレーニちゃんがいるペオーニエ寮を応援する以外にない。
「わたくしは全ての寮が力を出し尽くすように応援しましょう」
「僕もそうしましょう」
「私はクリスタ嬢がいるのでペオーニエ寮を応援しますよ」
ノエル殿下とノルベルト殿下は全ての寮を応援することに、ハインリヒ殿下はクリスタちゃんのいるペオーニエ寮を応援することに決めたようだった。
今年の大縄跳びはものすごく接戦だった。
三回までは引っかかっても飛べるのだが、ローゼン寮は一回目から順調に回数を伸ばし、リーリエ寮は最初は引っかかってしまったが二回目には回数が伸びて、ペオーニエ寮は一回目から奮闘している。三回跳んだうちで一番多く飛べた回数を競うことになる。
「クリスター! レーニ嬢、頑張ってください!」
「お姉様ー! 頑張りますわー!」
「エリザベート嬢、応援ありがとうございます」
手に汗を握ってわたくしも応援する。
「クリスタ嬢、頑張ってください!」
ハインリヒ殿下もクリスタちゃんを応援していた。
ノエル殿下とノルベルト殿下は静かに結果を見守っている。
「ローゼン寮、十七回。リーリエ寮、十八回。ペオーニエ寮、十八回。リーリエ寮とペオーニエ寮はもう一度勝者を決めるために跳んでください」
審判から指示があって、リーリエ寮のチームとペオーニエ寮のチームはもう一度跳ぶ。
ローゼン寮も一回しか差がないので、ほとんど実力は変わらなかったようだ。
「心を一つにしましょう」
「全員で掛け声をかけて!」
クリスタちゃんとレーニちゃんの発言に、ペオーニエ寮のチームは心を一つにして頑張っていた。
「リーリエ寮、十一回。ペオーニエ寮、十五回。勝者、ペオーニエ寮」
最後に一回飛んだ回数はペオーニエ寮が勝っていた。
勝利が告げられるとペオーニエ寮のチームは手を取り合って喜んでいた。
リレーではハインリヒ殿下は他の生徒が遅かったこともあり、アンカーだったがリーリエ寮に負けてしまった。
ダンスでは当然、ノエル殿下とノルベルト殿下のペアが一位だった。
乗馬の番になってわたくしは乗馬服に着替えて馬に乗る。
今年の馬もわたくしと相性がよくて、障害物も軽々と超えてくれてわたくしは一位になった。
結果としてペオーニエ寮が総合の一位で、リーリエ寮が二位、ローゼン寮が三位だった。
ペオーニエ寮の誇りが守られたようで嬉しかったし、応援したクリスタちゃんとレーニちゃんも大縄跳びで一位になれてわたくしは大満足だった。
運動会は昼食前には終わって、着替えて手を洗って昼食を食堂で取る。
ノエル殿下もハインリヒ殿下もノルベルト殿下もご一緒で、クリスタちゃんもレーニちゃんも一緒で、ミリヤムちゃんとオリヴァー殿はペオーニエ寮のテーブルに招かれていた。
運動をしたのでお腹が空いていてわたくしは昼食を無言で食べていた。
クリスタちゃんとレーニちゃんとミリヤムちゃんとオリヴァー殿は健闘を讃え合っている。
「ローゼン寮も最初で負けてしまいましたが、ペオーニエ寮とリーリエ寮と一回しか差がなくて、見事でしたね」
「ペオーニエ寮とリーリエ寮は同じ回数で、最終決戦まで至って、とても興奮しました」
「いい試合でしたね」
「素晴らしい試合でした」
誰もが満足して運動会を終えられる気がして、わたくしも話を聞きながら笑顔になっていた。
「ホルツマン家の養子がクリスタ嬢に話しかけてきたと聞いています。自分は元ノメンゼン子爵の認められた子どもではないのに、クリスタ嬢のことを『お姉様』と呼び、クリスタ嬢をこき下ろすようなことを言ってきたのだと」
「その件に関しては解決しましたわ、ハインリヒ殿下」
「クリスタ嬢を侮辱することは、クリスタ嬢を皇太子である私の婚約者とした王家を侮辱することに値します」
そうなのだ。
それで既にローザ嬢には不敬罪が適用されていたかもしれない。不敬罪の重みを考えるとわたくしも軽々しくローザ嬢との会話をハインリヒ殿下に伝えられなかった。
クリスタちゃんもそうなのか、ハインリヒ殿下に事件は解決したのだと伝えている。
「この国は王制ですが、憲法があります。不敬罪は王族の考え次第で刑罰の重さが変わるというのは、憲法のある国家としてどうかと思うのです。そのせいで先んじて不敬罪を犯したものを病死として始末しようとする動きもありますし」
「エリザベート嬢?」
「ローザ嬢は不敬罪には当たらないとわたくしは判断いたしましたが、ローザ嬢のことがあって不敬罪について考えてみたのです。不敬罪には確たる量刑を決めるか、侮辱罪や名誉毀損に統一するかのどちらかにした方がいいのではないでしょうか?」
隣国で革命が起きたときに、憲法が作られた。革命で王族は処刑されたりするような血生臭いことはなかったのだが、平民だけでなく貴族や僧侶からも税金を徴収するという法が可決されたのだ。
王族はそれに賛成して平民の意見を取り入れたがために、革命で死者は出ずに、今は隣国は王制と議会制が両立している状態だ。
それは歴史の授業で習ったので知っている。
オルヒデー帝国がドイツをモデルにしているのならば、隣国はフランス辺りをモデルにしているのではないだろうか。フランス革命で国王一家が処刑されなかった世界を想像しているのかもしれない。
ノエル殿下は法治国家のお生まれ、お育ちだが、不敬罪についてははっきりと口にしていた。隣国にも不敬罪がまだ残っているのだろう。
「隣国ではどうなのですか? 不敬罪をなくそうという働きはないのですか?」
「実はあるのです。不敬罪を法治国家にそぐわない刑罰だという動きはあります」
「ノエル殿下はどうお思いですか?」
「元々あったものなので、深く考えたことがありませんでした。よく考えれば不敬罪とは、関係者の考え次第で刑罰の重さが変わる理不尽なものかもしれません」
ノエル殿下も聞いてみればわたくしと同じ意見を持っているようだった。
ノルベルト殿下が侮辱されたかもしれないということで先日は頭に血が上ったのかもしれないが、理性的に考えるとノエル殿下も不敬罪は理不尽だという結論に至ったようだ。
「私もそんなに不敬罪のことを考えたことはありませんでした」
「エリザベート嬢とノエル殿下が言うように、不敬罪とは理不尽なものなのかもしれないね」
「そうかもしれません」
ハインリヒ殿下もノルベルト殿下も不敬罪の存在に疑問を持ち始めていた。これはすぐには無理だが、ハインリヒ殿下が国王陛下になられる頃には法律が変わるのではないだろうか。
わたくしはハインリヒ殿下に希望を見出していた。
運動会ではわたくしが乗馬、ハインリヒ殿下がリレー、ノルベルト殿下とノエル殿下がダンス、クリスタちゃんとレーニちゃんとミリヤムちゃんは寮は違うが大縄跳びで参加することになっていた。
「オリヴァー殿は何で参加するのですか?」
今年から親しくなって、まーちゃんの婚約者にもなるオリヴァー殿に聞いてみると、答えが返ってくる。
「私は運動が得意な方ではないので、大縄跳びに参加します。回し手として選ばれました」
これでペオーニエ寮にクリスタちゃんとレーニちゃん、リーリエ寮にオリヴァー殿、ローゼン寮にミリヤムちゃんが大縄跳びで参加することになった。
「大縄跳びはどのチームを応援するか迷いますね」
「申し訳ないですが、わたくしは妹のクリスタがいるので、ペオーニエ寮を応援いたします。ペオーニエ寮には弟の婚約者のレーニ嬢もいます」
「エリザベート嬢はクリスタ嬢とレーニ嬢と仲がいいですね」
どの寮を応援するのか迷うノエル殿下に、わたくしの心は決まっていた。わたくしにとってはクリスタちゃんという可愛い妹と、可愛い弟の婚約者であるレーニちゃんがいるペオーニエ寮を応援する以外にない。
「わたくしは全ての寮が力を出し尽くすように応援しましょう」
「僕もそうしましょう」
「私はクリスタ嬢がいるのでペオーニエ寮を応援しますよ」
ノエル殿下とノルベルト殿下は全ての寮を応援することに、ハインリヒ殿下はクリスタちゃんのいるペオーニエ寮を応援することに決めたようだった。
今年の大縄跳びはものすごく接戦だった。
三回までは引っかかっても飛べるのだが、ローゼン寮は一回目から順調に回数を伸ばし、リーリエ寮は最初は引っかかってしまったが二回目には回数が伸びて、ペオーニエ寮は一回目から奮闘している。三回跳んだうちで一番多く飛べた回数を競うことになる。
「クリスター! レーニ嬢、頑張ってください!」
「お姉様ー! 頑張りますわー!」
「エリザベート嬢、応援ありがとうございます」
手に汗を握ってわたくしも応援する。
「クリスタ嬢、頑張ってください!」
ハインリヒ殿下もクリスタちゃんを応援していた。
ノエル殿下とノルベルト殿下は静かに結果を見守っている。
「ローゼン寮、十七回。リーリエ寮、十八回。ペオーニエ寮、十八回。リーリエ寮とペオーニエ寮はもう一度勝者を決めるために跳んでください」
審判から指示があって、リーリエ寮のチームとペオーニエ寮のチームはもう一度跳ぶ。
ローゼン寮も一回しか差がないので、ほとんど実力は変わらなかったようだ。
「心を一つにしましょう」
「全員で掛け声をかけて!」
クリスタちゃんとレーニちゃんの発言に、ペオーニエ寮のチームは心を一つにして頑張っていた。
「リーリエ寮、十一回。ペオーニエ寮、十五回。勝者、ペオーニエ寮」
最後に一回飛んだ回数はペオーニエ寮が勝っていた。
勝利が告げられるとペオーニエ寮のチームは手を取り合って喜んでいた。
リレーではハインリヒ殿下は他の生徒が遅かったこともあり、アンカーだったがリーリエ寮に負けてしまった。
ダンスでは当然、ノエル殿下とノルベルト殿下のペアが一位だった。
乗馬の番になってわたくしは乗馬服に着替えて馬に乗る。
今年の馬もわたくしと相性がよくて、障害物も軽々と超えてくれてわたくしは一位になった。
結果としてペオーニエ寮が総合の一位で、リーリエ寮が二位、ローゼン寮が三位だった。
ペオーニエ寮の誇りが守られたようで嬉しかったし、応援したクリスタちゃんとレーニちゃんも大縄跳びで一位になれてわたくしは大満足だった。
運動会は昼食前には終わって、着替えて手を洗って昼食を食堂で取る。
ノエル殿下もハインリヒ殿下もノルベルト殿下もご一緒で、クリスタちゃんもレーニちゃんも一緒で、ミリヤムちゃんとオリヴァー殿はペオーニエ寮のテーブルに招かれていた。
運動をしたのでお腹が空いていてわたくしは昼食を無言で食べていた。
クリスタちゃんとレーニちゃんとミリヤムちゃんとオリヴァー殿は健闘を讃え合っている。
「ローゼン寮も最初で負けてしまいましたが、ペオーニエ寮とリーリエ寮と一回しか差がなくて、見事でしたね」
「ペオーニエ寮とリーリエ寮は同じ回数で、最終決戦まで至って、とても興奮しました」
「いい試合でしたね」
「素晴らしい試合でした」
誰もが満足して運動会を終えられる気がして、わたくしも話を聞きながら笑顔になっていた。
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