上 下
332 / 528
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約

39.届いたプレゼント

しおりを挟む
 ユリアーナ殿下のお誕生日のお茶会から帰ってわたくしのお誕生日までにディッペル家のお屋敷に届けられたものがあった。
 わたくしのコスチュームジュエリーのセットとまーちゃんのコスチュームジュエリーのブレスレットだ。
 わたくしに届いたのはクリアカラーに近いような透明度の高い薄水色のネックレスとイヤリングとブレスレットのセットだった。まーちゃんには薄緑と薄紫の藤の花を思わせるブレスレットが届いていた。
 サイズ調整ができるのでまーちゃんが少し大きくなっても使えそうだ。

 まーちゃんにはオリヴァー殿から、わたくしにはエクムント様からコスチュームジュエリーが届いた。
 わたくしにはお誕生日のプレゼントで、まーちゃんにはユリアーナ殿下のお誕生日で約束したものなのだろうが、一緒に届いたのは同じ工房から送られてきたからだろう。
 その工房にエクムント様とオリヴァー殿が注文したに違いない。

 新しいコスチュームジュエリーを身に着けて鏡の前に立つわたくしと、身に着けたコスチュームジュエリーを見せて回っているまーちゃん。

「エリザベートお姉様、見てください。わたくし、オリヴァー殿からいただきました!」
「よかったですね、まーちゃん」
「クリスタお姉様にも見せて来ないと!」

 ちょこまかとお屋敷の中を歩き回るまーちゃんの嬉しそうな様子にわたくしも笑顔になってしまう。早くに婚約してしまうまーちゃんと、婚約してしまったふーちゃんに、クリスタちゃんに、寂しい思いをしていたのはエクムント様と話したおかげでかなり落ち着いたようだった。

「わたくしのお誕生日には素敵なブレスレットを着けて出席してくださいね」
「はい! エリザベートお姉様!」

 クリスタちゃんの部屋に入っていく背中に声をかけると、手を上げて元気にお返事してくれた。やはりまーちゃんはわたくしにとっては可愛くて堪らない。

 前世の記憶が戻ってクリスタちゃんがわたくしを辺境に追放する運命だと知ったときに、クリスタちゃんとは極力関わらないようにして、平和に暮らしていこうと考えていたが、クリスタちゃんも今ではすっかりわたくしの人生に欠かすことのできない可愛い妹になっている。
 クリスタちゃんを引き取るように両親に言っていなければふーちゃんもまーちゃんも生まれていなかっただろうし、わたくしがエクムント様の婚約者となることもなかったに違いない。
 それを考えると六歳のときのわたくしの行動は正しかったのだと確信できる。
 ノメンゼン家で虐待されていたクリスタちゃんを見てはいられなくて、泣きながら両親に助けを求めた日からわたくしの人生は変わった。わたくしを生むときに死にかけて、もう二度と子どもは生まないと決めていた母の気持ちも変わって、ふーちゃんとまーちゃんも生まれたし、クリスタちゃんは学園で初めて皇太子殿下であるハインリヒ殿下に認識されるのではなくて、幼い頃から関係を気付いて学園に入学するときには婚約していた。

 ふーちゃんが六歳でレーニちゃんと婚約したのも、まーちゃんが五歳でオリヴァー殿と婚約するのも予想外でしかなかったが、ふーちゃんとまーちゃんの幸せのためには必要だったのだと思えるようになった。

 それにしても、何かを忘れている気がする。
 今年に入って何かが起こるような気がしていたのだが、それが何か全く分かっていない。
 今年度に学園で起こったことといえば、ホルツマン家のラルフ殿の件くらいだし、学園はとても平和だった。
 わたくしは何を忘れているのだろう。

 考えていると、クリスタちゃんが部屋から出て来た。まーちゃんも一緒だ。

「まーちゃんのブレスレット、とても可愛いですね。サイズが調整できて、もう少し大きくなっても使えそうですよ」
「まーちゃんに似合っていますよね。本当に可愛らしいこと」

 わたくしの妹たちが可愛い。
 そう考えるとますます何を忘れているのか分からなくなってしまう。

「クリスタちゃん、わたくし、今年度何かがあるような気がしていたのですが、何だったのでしょう?」
「お姉様、心配事ですか?」
「学園で何かが……思い出せないのです」
「何でしょうね。学園はとても平和ですが。ラルフ殿の件があったくらいですよ」
「そうですよね。何か忘れているような気がしたのですが、気のせいですね」

 何を忘れているかは気になるのだが、思い出せないのだから仕方がない。わたくしはクリスタちゃんと微笑み合ってそのことはなかったことにした。

「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、まーちゃん、見てください!」

 クリスタちゃんの部屋からまーちゃんとクリスタちゃんが出て来ると、ふーちゃんが自分の部屋から出て廊下でわたくしとクリスタちゃんとまーちゃんのところに駆けて来た。
 ふーちゃんの手には小さな箱が握られている。

「レーニちゃんが私にくださったのです」
「何ですか、それは?」
「見せてくれますか?」

 興味津々で覗き込むクリスタちゃんとまーちゃんにふーちゃんが箱を開ける。
 中に入っていたのはラペルピンだった。
 底が円錐形の筒状になっていて、中に何か入れられるようだ。

「お手紙には、この中に生花を入れて飾るラペルピンなのだそうです。オリヴァー殿がまーちゃんにコスチュームジュエリーを贈るという話を聞いていて、レーニちゃんも私に贈りたくなったそうなのです」
「ここに生花を入れるだなんて素敵ですね」
「花束のようになるのですね。お兄様、お花を選ばなくては」
「レーニちゃんからプレゼントがもらえてよかったですね」
「はい、私、大事にします」

 箱を胸に抱くようにして喜んでいるふーちゃんだが、ふと真顔になってしまう。

「私はレーニちゃんに何もプレゼントできていない……」
「ふーちゃんはまだ六歳なのだから気にしないでいいと思いますよ」
「気にします、エリザベートお姉様。私、レーニちゃんに何かプレゼントをしたいです」

 レーニちゃんにお返しをしたくてしょんぼりしているふーちゃんに、まーちゃんが小さな手でふーちゃんの手を握る。

「お兄様、お父様とお母様のところに行きましょう」
「まーちゃん!」
「わたくしもオリヴァー殿にお礼をしたいです。わたくしたちでは何もできませんわ。できないことを認めて、お父様とお母様に相談するのも大事です」
「そうだね、まーちゃん。ありがとう」

 ふーちゃんとまーちゃんが手を繋いで両親の元へ行くのをわたくしは微笑ましく見守っていた。クリスタちゃんも同じ気持ちだろう。

 わたくしが自分の部屋に戻ろうとすると、クリスタちゃんがわたくしに声をかけて引き留める。

「お姉様のコスチュームジュエリー、新しいものですね」
「エクムント様がお誕生日のお祝いにプレゼントしてくださいました」

 いつもエクムント様はプレゼントをくださるときには、お誕生日のお茶会で身に着けられるようにお誕生日前にくださるのだ。その心遣いがわたくしには嬉しかった。
 ネックレスとイヤリングとブレスレットに指先を這わせていると、クリスタちゃんがうっとりと目を細める。

「とても美しいですわ。お姉様は日に日に大人になっていかれる。わたくし、置いて行かれたようで少し寂しいです」
「身長はもうクリスタちゃんは変わらないくらいではないですか」
「身長はそうですが、お姉様の美しさは内面から滲み出るようで、わたくしはまだまだ追い付けませんわ」

 「美しい」という言葉にわたくしは少し考え込んでしまった。
 黙り込んだわたくしにクリスタちゃんが首を傾げる。

「どうなさったのですか?」
「わたくし、エクムント様に『可愛い』とたくさん言われるのです」
「それは、エクムント様はよくありませんわ。もうお姉様は立派なレディなのに」

 そうなのだ。
 わたくしもこのお誕生日で十五歳になる。
 社交界に既にデビューしているが、本来ならばこのお誕生日で社交界にデビューできる年齢になるはずだった。
 社交界デビューが早まったのは、クリスタちゃんが皇太子殿下であるハインリヒ殿下の婚約者となって、王族の式典に出なくてはいけなくなったからで、クリスタちゃんが社交界デビューするとなれば、姉であるわたくしが一緒に社交界デビューしないわけにはいかなかったのだ。

 エクムント様が恋に落ちてくれるような自分になりたいのだが、エクムント様の妹枠を抜けることができない。
 わたくしは苦悩していた。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...