上 下
319 / 528
十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約

26.まーちゃんとユリアーナ殿下の交流

しおりを挟む
 国王陛下の別荘に行くと、ハインリヒ殿下とノルベルト殿下とノエル殿下が出迎えてくれた。
 ノエル殿下は今年で十八歳になって成人される。プラチナブロンドの髪も結い上げていて大人っぽく、美しい。

「ようこそいらっしゃいました、ディッペル家の方々」
「お待ちしておりました」
「わたくしも先ほど国王陛下の別荘に着いたところです」

 夏休みは隣国に帰国しているノエル殿下も、わたくしたちが国王陛下の別荘に滞在するのに合わせて、オルヒデー帝国に戻って来てくださっていて、先に国王陛下の別荘に来ていらっしゃった。
 玄関を抜けた吹き抜けのロビーで挨拶を交わしていると、リリエンタール家からレーニちゃんと、辺境伯家からエクムント様の到着が告げられる。
 レーニちゃんがロビーに入ってくると、ふーちゃんがすぐに駆け寄っていた。

「レーニ嬢、こんにちは。またお会いできて嬉しいです」
「お別れしてから数日しか経っていないのに、そんな風に言っていただけるなんて嬉しいですわ」

 ふーちゃんが手を差し伸べると、レーニちゃんはその手に手を重ねて歩いてくる。エクムント様は辺境伯領ではずっと軍服だったのだが、今回はスーツを着ていらっしゃった。青みがかったグレイのスーツに黒いシャツ、青いタイがとても格好いい。
 軍服も素敵なのだが、スーツとなるとやはりものすごく格好よくてわたくしは胸の高鳴りを抑えきれなかった。

「この度はお招きいただきありがとうございます」
「ノルベルトにはノエル殿下がいて、ハインリヒにはクリスタがいて、フランツにはレーニがいる。それなのに、エリザベートだけ婚約者がいないのも寂しいだろうと思ったのだ」
「お誘いいただけて光栄です。辺境伯領もオルヒデー帝国にとって重要な領地だということを、今、私は領民に知らしめているところです。国王陛下との交流があれば、それを後押しすることでしょう」
「エクムントの力になれるならばよかった」

 真っすぐに国王陛下のところに行って挨拶をしているエクムント様に見惚れてしまう。
 エクムント様は本当に背が高くて、足が身長の三分の二くらいあるのではないかと思ってしまう。この世界ではメートル法は使わないようなのだが、前世の感覚で言えばエクムント様の身長は二メートルに近いのではないかと感じられた。
 小さい頃はわたくしが小さいからエクムント様が大きく見えるのだと思っていたが、母と同じくらいの身長になったわたくしにとってもエクムント様はとても背が高かった。
 背は高いのだが無駄のない筋肉がついていて、全然厳つくはないので、威圧感はない。
 見上げているわたくしにエクムント様が気付いてにこりと微笑む。

「エリザベート嬢、こちらでも一緒に過ごせて嬉しいです」
「わ、わたくしも、エクムント様と一緒に過ごせて嬉しいです」

 声をかけてくださって嬉しかったのだが、あまりにエクムント様が格好よくて声が裏返ってしまった。恥ずかしさに熱くなる頬を押さえていると、エクムント様がわたくしの手を見ている。

「マニキュアを塗ったのですね。とても綺麗です」
「ありがとうございます」

 そういう細かいところまで気付くなんて、エクムント様、反則です!
 格好いいのに気が利く男性なんて、あまりにも大人すぎてわたくしはドキドキしっぱなしで困ってしまう。

「ノエル殿下の頼みで、エリザベート嬢とクリスタ嬢とレーニ嬢は別荘のノエル殿下のために用意された部屋にベッドを入れて同室にしてあります」
「ノエル殿下、よろしいのですか!?」
「わたくしがエリザベート嬢とクリスタ嬢とレーニ嬢と一緒に過ごしたいのです。たまには身分を忘れて楽しみましょう」

 そんなことを言われているけれども、身分を忘れることなどできない。ノエル殿下は隣国の王女であり、この国の皇子のノルベルト殿下の婚約者なのだ。

「畏れ多いことで御座います」
「ノエル殿下の望みでしたら、同室させていただきます」
「わたくしもよろしくお願いします」

 すっかりと恐縮してしまったわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんにノエル殿下は悪戯っぽく微笑んでいた。ノエル殿下は部屋ではわたくしたちを「ちゃん付け」するのだろう。そのために同室にしたとしか思えない。
 ノエル殿下のために用意された部屋ならば警護も問題ないだろう。

「ノエル殿下がご一緒だったら、お姉様たちのお部屋には行けませんね」
「おにいさま、がまんしましょう」

 ふーちゃんもまーちゃんも部を弁えている発言をしているが、ふーちゃんとまーちゃんに声をかけてきたのはユリアーナ殿下だった。

「わたくし、フランツどのとマリアじょうのおへやにあそびにいってもいいですか?」
「国王陛下と王妃殿下のお許しがあったら、いらっしゃってください」
「わたくしとおにいさまはかんげいいたします」
「わかりました。おとうさま、おかあさま、ディッペルけのおへやにあそびにいってもいいですか?」
「フランツとマリアとは年が近いから仲良く遊べるね?」
「はい、わたくし、フランツどのとマリアじょうとなかよくします」
「ディッペル公爵夫妻、よろしいですか?」
「私たちは構いません」
「どうぞいらっしゃってください」

 ふーちゃんとまーちゃんのところにはユリアーナ殿下が来ることになりそうだった。

「おききしたいのですが、ユリアーナでんかは、しはどうおもわれますか?」
「わたくし、はずかしいことに、しのいみがよくわからないのです」
「ユリアーナでんかもですか!? わたくしもです」
「わたくしがまだよんさいで、ちいさいからだとノルベルトおにいさまはなぐさめてくれるのですが、ハインリヒおにいさまは、じゅうごさいになっても、やはりしのいみがあまりよくわからないとおっしゃっているのです」

 まーちゃんの問いかけにユリアーナ殿下は正直に答えていた。
 ユリアーナ殿下はハインリヒ殿下と同じ感性の持ち主のようだった。

「ユリアーナでんか、いいおしらせがあるのです」
「なんでしょう?」
「へんきょうはくりょうの、オリヴァー・シュタールどのというかたが、しをわたくしにもわかるようにかいせつしてくださったのです」
「マリアじょうにもしがわかったのですか!?」
「はい。わたくし、ちいさなころからおにいさまのしも、クリスタおねえさまのしも、ノエルでんかのしもわからずにくるしんでいました。オリヴァーどのは、そんなわたくしにしのすばらしさをおしえてくれたのです」

 オリヴァー殿の話をしているときのまーちゃんは輝いている。まーちゃんの話を聞いてユリアーナ殿下はオリヴァー殿に興味を持ったようだ。

「おあいできないでしょうか、オリヴァーどの」
「こくおうへいかが、オリヴァーどのをおちゃかいにしょうたいしてくださっているそうなのです」
「ほんとうですか!?」
「ほんとうです。そうですよね、おとうさま、おかあさま?」

 まーちゃんの問いかけに両親が頷く。

「明日のお茶会にオリヴァー殿は来られるそうですよ」
「ユリアーナ殿下にも詩の読み解き方を教えてくれるかもしれません」
「おあいするのがたのしみです。わたくし、じょうりゅうかいきゅうのたしなみとして、しをりかいできないのははずかしいとおもっていたのです。オリヴァーどのにおしえていただきたいです」

 しっかりとオリヴァー殿の名前を売り込んでおくのもまーちゃんは抜け目がない。
 これでオリヴァー殿はユリアーナ殿下からも楽しみにされて、歓迎されるだろう。

 お茶会が詩で埋まるのは少し困るが、中央の貴族や王族と辺境伯領の貴族が交流するのはいいことだと思うので、わたくしはオリヴァー殿のお茶会参加を歓迎していた。

 オリヴァー殿がお茶会に参加するのは明日。
 それまでに、国王陛下にも王妃殿下にも、ユリアーナ殿下からオリヴァー殿の話が伝わるだろう。
 オリヴァー殿に対する期待が高まっていればいいとわたくしは思っていた。
しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

処理中です...