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十章 ふーちゃんとまーちゃんの婚約
21.初めての蜂蜜レモン水
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昼食を挟んで、お茶会までの時間にふーちゃんとクリスタちゃんは詩を一生懸命書いていた。
客間で寛いでいる間にまーちゃんがオリヴァー殿の隣りに座ってもじもじと絵本を差し出す。
「よんでくれますか?」
「私でよければ読みましょう」
年の離れた妹さんがいると言っていたが、オリヴァー殿は上手に絵本を読んでいる。まーちゃんも黒い目を煌めかせてオリヴァー殿の絵本を聞いていた。
絵本を読み終わるとオリヴァー殿がまーちゃんに絵本を手渡す。
「ありがとうございました」
お礼を言って受け取るまーちゃんの目をオリヴァー殿は覗き込んでいた。
「マリア様の目は銀色の光沢がありませんか?」
「え? わたくし、くろいおめめだとばかりおもっていました」
「エリザベート様ほどはっきりはしていませんが、銀色の光沢があるように見えます」
言われてみてわたくしと両親がじっくりとまーちゃんの目を覗き込めば、銀色の光沢がある。生まれたときから見ているのに真っ黒ではなかったのだとわたくしは驚いてしまった。
「マリアに銀色の光沢があるだなんて知りませんでした」
「子どもは成長の過程で目や髪の色が変わることがあるのですよ。私の妹も黒い目でしたが、成長して来たら濃い緑になりました」
オリヴァー殿に説明されて、まーちゃんは成長の過程で目の色が変わったのだと理解する。このままだと髪の色もわたくしと同じになるかもしれない。
「初代国王陛下と同じ高貴な色です」
「わたくしのおめめ、エリザベートおねえさまとおなじなのですね。わたくし、おにいさまはクリスタおねえさまににているのに、わたくしはエリザベートおねえさまにあまりにていないことをきにしていたのです。エリザベートおねえさまとおなじいろでうれしいです」
観察眼がなかったのか、それともずっと黒だと思い込んでいたからか、まーちゃんの目の色の変化に気付いていなかったわたくしと両親、そして、まーちゃん自身が何度も確認してその色を確かめていた。まーちゃんも鏡を見せてもらって確認している。
「オリヴァーどのは、そうめいで、わたくしのおめめのこともきづいて、よくみていらっしゃって……すてきです」
まーちゃんの視線が熱っぽくオリヴァー殿に注がれている気がする。オリヴァー殿は黒髪に黒い目だがどこかエクムント様の若い頃と似ている気がしていた。
エクムント様に物心ついたときには夢中になっていたわたくしだから分かる。まーちゃんはオリヴァー殿に恋をしている。
もう一冊絵本を持ってきたまーちゃんに、オリヴァー殿は優しく読んであげていた。
絵本といえばわたくしに読んで欲しがっていたまーちゃんがすっかりオリヴァー殿の虜になっている。わたくしは姉として少し寂しかった。
お茶会の時間になると部屋で詩作にふけっていたクリスタちゃんとふーちゃんも降りて来て客間で合流した。
客間にはお茶の準備がされる。
サンドイッチやキッシュなどの軽食と、様々な種類のケーキがテーブルに置かれて、フルーツティーとミントティーと蜂蜜レモン水の入ったガラスのピッチャーも持って来られた。
ピッチャーの中に薄切りのレモンの浮かんだ蜂蜜レモン水を見て、ふーちゃんとまーちゃんが目を丸くしている。
「これは何ですか?」
「蜂蜜レモン水といいます。蜂蜜に漬けたレモンに冷たい水を注いで溶かしたものです」
「わたくし、これははじめてです」
「とても美味しいですよ。飲んでみてください」
不思議そうに聞くふーちゃんとまーちゃんにエクムント様が答えてくださっている。
ふーちゃんとまーちゃんは蜂蜜レモン水をグラスに注いでもらって、サンドイッチと一緒にいただいていた。
「とっても美味しいです」
「はちみつレモンすいのあまずっぱさが、サンドイッチにとてもよくあいます」
もりもりとサンドイッチを食べているふーちゃんとまーちゃんに、オリヴァー殿もサンドイッチやキッシュやスコーンを取り分けている。
「わたくしのおうちでも、はちみつレモンすいをのみたいです」
「私も飲みたいです」
「蜂蜜は小さな子どもには危険だと言われていたから出したことがなかったね。もうフランツも六歳、マリアも五歳なのだから、蜂蜜レモン水を屋敷でも出していい頃かもしれない」
「蜂蜜を食べた子どもが病気にかかって死んでしまう事案が幾つもあったので、警戒していたのです」
子どもを大切にする両親だからこそ、ふーちゃんとまーちゃんは蜂蜜に触れずにこの年まで大きくなったのかもしれない。
確か蜂蜜にはボツリヌス菌という菌がいて、生後一年以上経たないとその菌を体内で排除することができないのではなかっただろうか。
ふーちゃんとまーちゃんがこの年まで蜂蜜に触れて来なかったのは、この世界のこの時代では正確に何歳まで蜂蜜を食べてはいけないかが分かっていなかったせいかもしれない。ボツリヌス菌は焼いても数千度まで生きているから、お菓子に使うのも危険だったはずだ。
「わたくし、もうだいじょうぶですか?」
「マリアは五歳だから大丈夫だと思いますよ」
「こんなおいしいものをのめなかったなんて。ごさいになってよかったです」
美味しそうに蜂蜜レモン水を飲むまーちゃんはとても嬉しそうだった。
レーニちゃんもふーちゃんとまーちゃんを笑顔で見守っていた。
お茶会の中では、詩の発表会も行われることになっていた。
クリスタちゃんもふーちゃんもいつ詩を書いた紙を取り出そうかそわそわしているのが分かる。
「オリヴァー殿はノエル殿下の詩を解釈していると聞いている。クリスタ嬢とフランツ殿の詩もその場で解釈してもらえるのかな?」
カサンドラ様の問いかけに、オリヴァー殿が姿勢を正す。
「私独自の解釈になりますが、できる限りのことはしてみせます」
「心強いことだ。実は私も中央で噂になっているので詩集を取り寄せたのだが、全く意味が分からなかった。エリザベート嬢やハインリヒ殿下のハイクはなんとか意味が分かる気がしたのだが、ノエル殿下の詩も、クリスタ嬢の詩も、フランツ殿の詩も、難しすぎる」
「難しく考えることはないのです。詩はもっと明るく軽く解釈していいのです」
「そうは言われても、私は辺境伯領の士官学校しか出ていないし、学問はあまり得意ではなくてな」
カサンドラ様も辺境伯領の士官学校を卒業していらっしゃった。エクムント様が王都の士官学校を卒業していらっしゃるので、辺境伯領の士官学校よりは勉強に力を入れていたであろうことは予測できる。
学園で勉強するのとは全く違う士官学校という場所が、わたくしにはあまり想像ができないのだけれど。
カサンドラ様はオリヴァー殿の解釈に期待されているようだ。
オリヴァー殿も表情を引き締めて詩の解釈に臨もうとしている。
「そろそろ、クリスタ嬢とフランツ殿に詩を読んでもらいましょうか」
エクムント様に言われて、クリスタちゃんとふーちゃんが同時に立ち上がった。
「あ、ごめんなさい。クリスタお姉様、お先にどうぞ」
「いえいえ、フランツ、あなたがお先にどうぞ」
「クリスタお姉様、遠慮なさらずに」
「フランツ、年上は年下に譲るものですわ」
仲がいいのでなかなか順番が決まらないが、それもみんな穏やかに見守っている。
「それでは、私から読ませていただきます。クリスタお姉様お先に失礼します」
「いいのですよ、フランツ」
話し合いの結果、ふーちゃんから詩を読むことになったようだ。
ふーちゃんは折り畳んだ紙を広げて大きく息を吸い込んだ。
客間で寛いでいる間にまーちゃんがオリヴァー殿の隣りに座ってもじもじと絵本を差し出す。
「よんでくれますか?」
「私でよければ読みましょう」
年の離れた妹さんがいると言っていたが、オリヴァー殿は上手に絵本を読んでいる。まーちゃんも黒い目を煌めかせてオリヴァー殿の絵本を聞いていた。
絵本を読み終わるとオリヴァー殿がまーちゃんに絵本を手渡す。
「ありがとうございました」
お礼を言って受け取るまーちゃんの目をオリヴァー殿は覗き込んでいた。
「マリア様の目は銀色の光沢がありませんか?」
「え? わたくし、くろいおめめだとばかりおもっていました」
「エリザベート様ほどはっきりはしていませんが、銀色の光沢があるように見えます」
言われてみてわたくしと両親がじっくりとまーちゃんの目を覗き込めば、銀色の光沢がある。生まれたときから見ているのに真っ黒ではなかったのだとわたくしは驚いてしまった。
「マリアに銀色の光沢があるだなんて知りませんでした」
「子どもは成長の過程で目や髪の色が変わることがあるのですよ。私の妹も黒い目でしたが、成長して来たら濃い緑になりました」
オリヴァー殿に説明されて、まーちゃんは成長の過程で目の色が変わったのだと理解する。このままだと髪の色もわたくしと同じになるかもしれない。
「初代国王陛下と同じ高貴な色です」
「わたくしのおめめ、エリザベートおねえさまとおなじなのですね。わたくし、おにいさまはクリスタおねえさまににているのに、わたくしはエリザベートおねえさまにあまりにていないことをきにしていたのです。エリザベートおねえさまとおなじいろでうれしいです」
観察眼がなかったのか、それともずっと黒だと思い込んでいたからか、まーちゃんの目の色の変化に気付いていなかったわたくしと両親、そして、まーちゃん自身が何度も確認してその色を確かめていた。まーちゃんも鏡を見せてもらって確認している。
「オリヴァーどのは、そうめいで、わたくしのおめめのこともきづいて、よくみていらっしゃって……すてきです」
まーちゃんの視線が熱っぽくオリヴァー殿に注がれている気がする。オリヴァー殿は黒髪に黒い目だがどこかエクムント様の若い頃と似ている気がしていた。
エクムント様に物心ついたときには夢中になっていたわたくしだから分かる。まーちゃんはオリヴァー殿に恋をしている。
もう一冊絵本を持ってきたまーちゃんに、オリヴァー殿は優しく読んであげていた。
絵本といえばわたくしに読んで欲しがっていたまーちゃんがすっかりオリヴァー殿の虜になっている。わたくしは姉として少し寂しかった。
お茶会の時間になると部屋で詩作にふけっていたクリスタちゃんとふーちゃんも降りて来て客間で合流した。
客間にはお茶の準備がされる。
サンドイッチやキッシュなどの軽食と、様々な種類のケーキがテーブルに置かれて、フルーツティーとミントティーと蜂蜜レモン水の入ったガラスのピッチャーも持って来られた。
ピッチャーの中に薄切りのレモンの浮かんだ蜂蜜レモン水を見て、ふーちゃんとまーちゃんが目を丸くしている。
「これは何ですか?」
「蜂蜜レモン水といいます。蜂蜜に漬けたレモンに冷たい水を注いで溶かしたものです」
「わたくし、これははじめてです」
「とても美味しいですよ。飲んでみてください」
不思議そうに聞くふーちゃんとまーちゃんにエクムント様が答えてくださっている。
ふーちゃんとまーちゃんは蜂蜜レモン水をグラスに注いでもらって、サンドイッチと一緒にいただいていた。
「とっても美味しいです」
「はちみつレモンすいのあまずっぱさが、サンドイッチにとてもよくあいます」
もりもりとサンドイッチを食べているふーちゃんとまーちゃんに、オリヴァー殿もサンドイッチやキッシュやスコーンを取り分けている。
「わたくしのおうちでも、はちみつレモンすいをのみたいです」
「私も飲みたいです」
「蜂蜜は小さな子どもには危険だと言われていたから出したことがなかったね。もうフランツも六歳、マリアも五歳なのだから、蜂蜜レモン水を屋敷でも出していい頃かもしれない」
「蜂蜜を食べた子どもが病気にかかって死んでしまう事案が幾つもあったので、警戒していたのです」
子どもを大切にする両親だからこそ、ふーちゃんとまーちゃんは蜂蜜に触れずにこの年まで大きくなったのかもしれない。
確か蜂蜜にはボツリヌス菌という菌がいて、生後一年以上経たないとその菌を体内で排除することができないのではなかっただろうか。
ふーちゃんとまーちゃんがこの年まで蜂蜜に触れて来なかったのは、この世界のこの時代では正確に何歳まで蜂蜜を食べてはいけないかが分かっていなかったせいかもしれない。ボツリヌス菌は焼いても数千度まで生きているから、お菓子に使うのも危険だったはずだ。
「わたくし、もうだいじょうぶですか?」
「マリアは五歳だから大丈夫だと思いますよ」
「こんなおいしいものをのめなかったなんて。ごさいになってよかったです」
美味しそうに蜂蜜レモン水を飲むまーちゃんはとても嬉しそうだった。
レーニちゃんもふーちゃんとまーちゃんを笑顔で見守っていた。
お茶会の中では、詩の発表会も行われることになっていた。
クリスタちゃんもふーちゃんもいつ詩を書いた紙を取り出そうかそわそわしているのが分かる。
「オリヴァー殿はノエル殿下の詩を解釈していると聞いている。クリスタ嬢とフランツ殿の詩もその場で解釈してもらえるのかな?」
カサンドラ様の問いかけに、オリヴァー殿が姿勢を正す。
「私独自の解釈になりますが、できる限りのことはしてみせます」
「心強いことだ。実は私も中央で噂になっているので詩集を取り寄せたのだが、全く意味が分からなかった。エリザベート嬢やハインリヒ殿下のハイクはなんとか意味が分かる気がしたのだが、ノエル殿下の詩も、クリスタ嬢の詩も、フランツ殿の詩も、難しすぎる」
「難しく考えることはないのです。詩はもっと明るく軽く解釈していいのです」
「そうは言われても、私は辺境伯領の士官学校しか出ていないし、学問はあまり得意ではなくてな」
カサンドラ様も辺境伯領の士官学校を卒業していらっしゃった。エクムント様が王都の士官学校を卒業していらっしゃるので、辺境伯領の士官学校よりは勉強に力を入れていたであろうことは予測できる。
学園で勉強するのとは全く違う士官学校という場所が、わたくしにはあまり想像ができないのだけれど。
カサンドラ様はオリヴァー殿の解釈に期待されているようだ。
オリヴァー殿も表情を引き締めて詩の解釈に臨もうとしている。
「そろそろ、クリスタ嬢とフランツ殿に詩を読んでもらいましょうか」
エクムント様に言われて、クリスタちゃんとふーちゃんが同時に立ち上がった。
「あ、ごめんなさい。クリスタお姉様、お先にどうぞ」
「いえいえ、フランツ、あなたがお先にどうぞ」
「クリスタお姉様、遠慮なさらずに」
「フランツ、年上は年下に譲るものですわ」
仲がいいのでなかなか順番が決まらないが、それもみんな穏やかに見守っている。
「それでは、私から読ませていただきます。クリスタお姉様お先に失礼します」
「いいのですよ、フランツ」
話し合いの結果、ふーちゃんから詩を読むことになったようだ。
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