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九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
43.両親のお誕生日のふーちゃんの詩
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両親のお誕生日には毎年国王陛下も来られる。今年も王妃殿下がご一緒だろう。
国王陛下と王妃殿下はノルベルト殿下のことがあって別居をされていたが、和解してユリアーナ殿下が生まれてからは仲睦まじい夫婦になっている。
両親のお誕生日にはふーちゃんとまーちゃんも参加していた。それは父の切なる願いで、可愛い息子のふーちゃんと娘のまーちゃんをみんなに見て欲しいという理由からだった。
ふーちゃんもまーちゃんももうオモチャのある場所がなくてもお茶会の席で過ごせるようになっていた。来年からは二人揃ってお茶会に参加するようになるのだ。両親のお誕生日のお茶会はその練習にもなっていた。
お茶会のためにドレスに着替えて準備をしていると、まーちゃんがわたくしの部屋のドアの前でもじもじしている気配がする。ドアを開けてあげるとまーちゃんはわたくしの前に走り出た。
「エリザベートおねえさま、みて!」
「そのドレスは、懐かしいですね。クリスタちゃんが小さな頃に着ていたものではないですか」
「これは、エリザベートおねえさまがきて、クリスタおねえさまもきていたものだっておしえてもらったの。どうしてもわたくしもきたくて、おかあさまにおねがいしたの」
クリスタちゃんは四歳の頃にディッペル家に来た頃には自分のドレスを持っていなかった。とりあえずということで、わたくしが小さい頃に着ていたドレスを貸してあげたのだった。
その頃にはわたくしも小さかったので、クリスタちゃんが着ていたドレスの記憶はなかった。
オールドローズのドレスは確かにクリスタちゃんの着ていたものだ。それにわたくしが着けていた空色の薔薇の髪飾りを合わせていて、まーちゃんはとても可愛い。
「お姉様、まーちゃんの声が聞こえましたが、どうしました?」
「クリスタちゃん、まーちゃんを見てあげてください」
「クリスタおねえさま、みてください!」
両手を広げて自己主張をするまーちゃんに、廊下に出て来たクリスタちゃんもまーちゃんのドレスを見る。
「まーちゃん、とてもよく似合っていますね」
「そのドレス、クリスタちゃんがディッペル家に来た頃にわたくしが着ていたものを貸したものですよ」
「え!? わたくし、すっかり忘れていました」
あの頃はクリスタちゃんも小さかったので忘れていてもおかしくはない。驚いているクリスタちゃんの前でまーちゃんは胸を張っている。
「このドレスがどうしてもきたくて、おかあさまにおねがいしたのです」
「デザインが古いものだとは思ったのですが、まーちゃんがとても可愛いので気にならなかったですわ」
「エリザベートおねえさまと、クリスタおねえさまのおゆずりなのです。わたくし、これからずっとエリザベートおねえさまとクリスタおねえさまのおゆずりをきたいのです」
新しいドレスではなくて、わたくしとクリスタちゃんのお譲りを着たいと言っているまーちゃんは、わたくしとクリスタちゃんに憧れがあるのだろう。両親が思い出にと取っていたであろうドレスは綺麗に保存されていて、シミもくすみもなかったし、まーちゃんには十分着られるように思う。
そもそもドレスというものはお茶会にでも出ないと着ないわけで、そんな機会は年に数回しかなく、ドレスが綺麗なまま残っているのも不思議はなかった。
「わたくしとクリスタちゃんが着たドレスをまーちゃんが着てくれるだなんて、嬉しいですね」
「まーちゃんったら、とても可愛いですわ」
「かみかざりもみてください」
「髪飾りもわたくしのお譲りの空色の造花の薔薇ですね」
「とても素敵ですよ」
褒められてまーちゃんは誇らし気に自分の部屋まで歩いて行った。
まーちゃんがあまりに可愛くてわたくしもクリスタちゃんもお茶会に遅れそうになるところだった。
お茶会の会場に行くと、エクムント様がすぐにわたくしに気付いて歩み寄って来てくださる。手を取られてエスコートされると、周囲から視線を集めているようで心地よい。
「エリザベート様の着けているネックレスとイヤリングとブレスレットの豪華なこと」
「あれは辺境伯領のガラスでできていて、コスチュームジュエリーというらしいわ」
「コスチュームジュエリーの名前も、エリザベート様が考えたのだとか」
コスチュームジュエリーが有名になるのはいいのだが、わたくしが名付けたことになっているのは少し居心地が悪い気分になる。本当はそうではないのに、わたくしはそのことを言い出せないのだ。
「エクムント、エリザベート、久しぶりだな」
「国王陛下、王妃殿下、こちらからご挨拶に伺うところでした」
「本日は両親のお誕生日においでくださってありがとうございます」
「実はわたくし、コスチュームジュエリーに興味がありますの。国王陛下にそのお話をしていたところでしたのよ。ファインジュエリーは質はよいのですが、どうしても重苦しくて。もっと気軽に着けられるものを探していました」
「我が妻にコスチュームジュエリーを贈りたいと思っているのだ。エクムント、注文を受けてくれるか?」
「喜んでお受けいたします。詳細は辺境伯家に手紙で届けてください」
「よかった。これで安心だ」
「嬉しいですわ。国王陛下がわたくしにプレゼントしてくださるなんて。国王陛下の生誕の式典までには出来上がるでしょうか?」
「間に合わせましょう」
国王陛下からの注文にわたくしは胸がドキドキしてしまう。王妃殿下が国王陛下の生誕の式典でコスチュームジュエリーを身に着けて参加するとなると、他の貴族たちにコスチュームジュエリーが一気に広まる未来が見えている気がする。
エクムント様の表情を見ていると、コスチュームジュエリーの注文が入って嬉しそうにしているのが分かった。
「エリザベート嬢、エクムント殿、今年はノエル殿下も来てくださいましたよ」
「ディッペル家に伺うのを楽しみにしてきました。エリザベート嬢のネックレスとイヤリングとブレスレットも素敵ですね。わたくしはガラスの模造パールのネックレスとイヤリングとブレスレットをノルベルト殿下からいただいて、とても気に入って使っております」
「コスチュームジュエリーという名称も華やかで素晴らしいですよね」
「さすがエリザベート嬢です」
ノルベルト殿下とノエル殿下にまで褒められてしまって、わたくしは笑ってごまかすしかない。
会場ではふーちゃんがレーニちゃんに声をかけているのが見えた。
「レーニじょう、おちゃをごいっしょしませんか?」
「フランツ様、嬉しいですわ。座れる場所に行きましょう」
「わたしは、レーニじょうにしをかいてきました」
「いつもありがとうございます。わたくしが芸術を解する心がないせいで意味はよく分からないのですが、わたくしの髪や目の色を褒めてくださる詩が多くて、嬉しく思っています」
レーニちゃんとふーちゃんも仲良さげにしている。
クリスタちゃんはハインリヒ殿下とお茶をしているようだ。
取り残されたまーちゃんが寂しがっていないか見ていると、まーちゃんは両親と一緒に国王陛下と王妃殿下とお茶をしている。
「わたくしのドレス、エリザベートおねえさまとクリスタおねえさまがきていたものなのです。かみかざりは、エリザベートおねえさまからおゆずりしてもらいました」
「お姉様たちからのお譲りのドレスと髪飾りなのですね」
「わたくし、おねえさまがだいすきなのです。おねえさまのようになりたいのです」
「ユリアーナは兄しかいないからお譲りはできないが、女の子が多いとこのようなこともできるんだな」
「マリアはエリザベートとクリスタが大好きなので」
「この前も一緒に外で縄跳びをしていたのですよ」
まーちゃんと王妃殿下と国王陛下と両親の席では話が盛り上がっている。
「きいてください。わたしのし」
「こんなところでいいのですか?」
「レーニじょうにきいてほしいのです」
ふーちゃんはふーちゃんで詩を読もうとしている。
「レーニじょうのこころにさくこいのはなを、つむきょかをわたしにください。いまはまだつぼみでも、レーニじょうのこころにわたしにたいするこいのはながさくのを、わたしはまっています。いまはまだ、めぶいたばかりでも、はをしげらせて、いつかたいりんのはながさくことをねがっています。そのときにはこいのようせいさんが、はなにかれないまほうをかけてくれるでしょう」
分からない。
語彙も五歳児にしてはありすぎるくらいだと感心してしまうが、詩の意味がどうしても分からない。
困惑しているわたくしに、エクムント様も気付いたようだ。
「フランツ殿は詩の才能があるようですが、私は詩を解さない不器用な軍人なのであまり意味が分からないですね」
「わたくしもなのです」
ため息をついていると、両親がふーちゃんの方を見ていた。
「フランツ……詩の才能があったのか」
「詩の才能……その詩は、どういう意味なのでしょう?」
「レーニ嬢への好意は伝わってくるが……よく意味が分からない」
困惑している両親に、わたくしはそっと視線を逸らすのだった。
国王陛下と王妃殿下はノルベルト殿下のことがあって別居をされていたが、和解してユリアーナ殿下が生まれてからは仲睦まじい夫婦になっている。
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ふーちゃんもまーちゃんももうオモチャのある場所がなくてもお茶会の席で過ごせるようになっていた。来年からは二人揃ってお茶会に参加するようになるのだ。両親のお誕生日のお茶会はその練習にもなっていた。
お茶会のためにドレスに着替えて準備をしていると、まーちゃんがわたくしの部屋のドアの前でもじもじしている気配がする。ドアを開けてあげるとまーちゃんはわたくしの前に走り出た。
「エリザベートおねえさま、みて!」
「そのドレスは、懐かしいですね。クリスタちゃんが小さな頃に着ていたものではないですか」
「これは、エリザベートおねえさまがきて、クリスタおねえさまもきていたものだっておしえてもらったの。どうしてもわたくしもきたくて、おかあさまにおねがいしたの」
クリスタちゃんは四歳の頃にディッペル家に来た頃には自分のドレスを持っていなかった。とりあえずということで、わたくしが小さい頃に着ていたドレスを貸してあげたのだった。
その頃にはわたくしも小さかったので、クリスタちゃんが着ていたドレスの記憶はなかった。
オールドローズのドレスは確かにクリスタちゃんの着ていたものだ。それにわたくしが着けていた空色の薔薇の髪飾りを合わせていて、まーちゃんはとても可愛い。
「お姉様、まーちゃんの声が聞こえましたが、どうしました?」
「クリスタちゃん、まーちゃんを見てあげてください」
「クリスタおねえさま、みてください!」
両手を広げて自己主張をするまーちゃんに、廊下に出て来たクリスタちゃんもまーちゃんのドレスを見る。
「まーちゃん、とてもよく似合っていますね」
「そのドレス、クリスタちゃんがディッペル家に来た頃にわたくしが着ていたものを貸したものですよ」
「え!? わたくし、すっかり忘れていました」
あの頃はクリスタちゃんも小さかったので忘れていてもおかしくはない。驚いているクリスタちゃんの前でまーちゃんは胸を張っている。
「このドレスがどうしてもきたくて、おかあさまにおねがいしたのです」
「デザインが古いものだとは思ったのですが、まーちゃんがとても可愛いので気にならなかったですわ」
「エリザベートおねえさまと、クリスタおねえさまのおゆずりなのです。わたくし、これからずっとエリザベートおねえさまとクリスタおねえさまのおゆずりをきたいのです」
新しいドレスではなくて、わたくしとクリスタちゃんのお譲りを着たいと言っているまーちゃんは、わたくしとクリスタちゃんに憧れがあるのだろう。両親が思い出にと取っていたであろうドレスは綺麗に保存されていて、シミもくすみもなかったし、まーちゃんには十分着られるように思う。
そもそもドレスというものはお茶会にでも出ないと着ないわけで、そんな機会は年に数回しかなく、ドレスが綺麗なまま残っているのも不思議はなかった。
「わたくしとクリスタちゃんが着たドレスをまーちゃんが着てくれるだなんて、嬉しいですね」
「まーちゃんったら、とても可愛いですわ」
「かみかざりもみてください」
「髪飾りもわたくしのお譲りの空色の造花の薔薇ですね」
「とても素敵ですよ」
褒められてまーちゃんは誇らし気に自分の部屋まで歩いて行った。
まーちゃんがあまりに可愛くてわたくしもクリスタちゃんもお茶会に遅れそうになるところだった。
お茶会の会場に行くと、エクムント様がすぐにわたくしに気付いて歩み寄って来てくださる。手を取られてエスコートされると、周囲から視線を集めているようで心地よい。
「エリザベート様の着けているネックレスとイヤリングとブレスレットの豪華なこと」
「あれは辺境伯領のガラスでできていて、コスチュームジュエリーというらしいわ」
「コスチュームジュエリーの名前も、エリザベート様が考えたのだとか」
コスチュームジュエリーが有名になるのはいいのだが、わたくしが名付けたことになっているのは少し居心地が悪い気分になる。本当はそうではないのに、わたくしはそのことを言い出せないのだ。
「エクムント、エリザベート、久しぶりだな」
「国王陛下、王妃殿下、こちらからご挨拶に伺うところでした」
「本日は両親のお誕生日においでくださってありがとうございます」
「実はわたくし、コスチュームジュエリーに興味がありますの。国王陛下にそのお話をしていたところでしたのよ。ファインジュエリーは質はよいのですが、どうしても重苦しくて。もっと気軽に着けられるものを探していました」
「我が妻にコスチュームジュエリーを贈りたいと思っているのだ。エクムント、注文を受けてくれるか?」
「喜んでお受けいたします。詳細は辺境伯家に手紙で届けてください」
「よかった。これで安心だ」
「嬉しいですわ。国王陛下がわたくしにプレゼントしてくださるなんて。国王陛下の生誕の式典までには出来上がるでしょうか?」
「間に合わせましょう」
国王陛下からの注文にわたくしは胸がドキドキしてしまう。王妃殿下が国王陛下の生誕の式典でコスチュームジュエリーを身に着けて参加するとなると、他の貴族たちにコスチュームジュエリーが一気に広まる未来が見えている気がする。
エクムント様の表情を見ていると、コスチュームジュエリーの注文が入って嬉しそうにしているのが分かった。
「エリザベート嬢、エクムント殿、今年はノエル殿下も来てくださいましたよ」
「ディッペル家に伺うのを楽しみにしてきました。エリザベート嬢のネックレスとイヤリングとブレスレットも素敵ですね。わたくしはガラスの模造パールのネックレスとイヤリングとブレスレットをノルベルト殿下からいただいて、とても気に入って使っております」
「コスチュームジュエリーという名称も華やかで素晴らしいですよね」
「さすがエリザベート嬢です」
ノルベルト殿下とノエル殿下にまで褒められてしまって、わたくしは笑ってごまかすしかない。
会場ではふーちゃんがレーニちゃんに声をかけているのが見えた。
「レーニじょう、おちゃをごいっしょしませんか?」
「フランツ様、嬉しいですわ。座れる場所に行きましょう」
「わたしは、レーニじょうにしをかいてきました」
「いつもありがとうございます。わたくしが芸術を解する心がないせいで意味はよく分からないのですが、わたくしの髪や目の色を褒めてくださる詩が多くて、嬉しく思っています」
レーニちゃんとふーちゃんも仲良さげにしている。
クリスタちゃんはハインリヒ殿下とお茶をしているようだ。
取り残されたまーちゃんが寂しがっていないか見ていると、まーちゃんは両親と一緒に国王陛下と王妃殿下とお茶をしている。
「わたくしのドレス、エリザベートおねえさまとクリスタおねえさまがきていたものなのです。かみかざりは、エリザベートおねえさまからおゆずりしてもらいました」
「お姉様たちからのお譲りのドレスと髪飾りなのですね」
「わたくし、おねえさまがだいすきなのです。おねえさまのようになりたいのです」
「ユリアーナは兄しかいないからお譲りはできないが、女の子が多いとこのようなこともできるんだな」
「マリアはエリザベートとクリスタが大好きなので」
「この前も一緒に外で縄跳びをしていたのですよ」
まーちゃんと王妃殿下と国王陛下と両親の席では話が盛り上がっている。
「きいてください。わたしのし」
「こんなところでいいのですか?」
「レーニじょうにきいてほしいのです」
ふーちゃんはふーちゃんで詩を読もうとしている。
「レーニじょうのこころにさくこいのはなを、つむきょかをわたしにください。いまはまだつぼみでも、レーニじょうのこころにわたしにたいするこいのはながさくのを、わたしはまっています。いまはまだ、めぶいたばかりでも、はをしげらせて、いつかたいりんのはながさくことをねがっています。そのときにはこいのようせいさんが、はなにかれないまほうをかけてくれるでしょう」
分からない。
語彙も五歳児にしてはありすぎるくらいだと感心してしまうが、詩の意味がどうしても分からない。
困惑しているわたくしに、エクムント様も気付いたようだ。
「フランツ殿は詩の才能があるようですが、私は詩を解さない不器用な軍人なのであまり意味が分からないですね」
「わたくしもなのです」
ため息をついていると、両親がふーちゃんの方を見ていた。
「フランツ……詩の才能があったのか」
「詩の才能……その詩は、どういう意味なのでしょう?」
「レーニ嬢への好意は伝わってくるが……よく意味が分からない」
困惑している両親に、わたくしはそっと視線を逸らすのだった。
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