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九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
40.優勝はペオーニエ寮
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運動会は快晴の元行われた。
運動会といっても前世の記憶にあるようなものではない。
一応寮ごとに競うのだが、勝ち負けによって成績が左右するわけでもないし、一日かけてやるような大きな行事でもなく、それぞれの競技を行って、午前中だけで終わってしまうようなものだった。
それでも、負けるよりも勝ちたいのが人間の心理というものだ。
最初に行われたリレーではハインリヒ殿下がアンカーになっていた。ハインリヒ殿下にバトンが渡されるまでにリーリエ寮とローゼン寮と半周ほど差が付いていたが、それを巻き返してハインリヒ殿下が走る。
ものすごい勢いで走ってくるハインリヒ殿下にリーリエ寮とローゼン寮の生徒は気圧されているように見える。
最終的にハインリヒ殿下は二位で一位のリーリエ寮の生徒と僅差でゴールした。
「もう少し頑張れば勝てていたかもしれないのに」
「あの差からよく追い付かれましたよ。素晴らしかったです」
「クリスタ嬢に情けないところを見せてしまいました」
一位になれなかったのが悔しかったのか、ハインリヒ殿下は肩を落としていた。
大縄跳びは去年は知り合いが参加していなかったので注目していなかったが、今回はクリスタちゃんとレーニちゃんが参加しているので応援に行く。
校庭に持って来られた大縄に、それぞれ十五人ずつが並んで、回し手二人と息を合わせて飛ぶ。
二回失敗して、三回の大縄跳びの中で一番長く飛べた回数を競うようだ。
最初は息が合わなくてローゼン寮もリーリエ寮も苦戦しているのが分かる。ペオーニエ寮は大きな声を出して気持ちを合わせていた。
「せーの! 一、二、三、四……」
ローゼン寮、リーリエ寮、ペオーニエ寮の声が響いている。
最終的にローゼン寮が八回、リーリエ寮が十二回、ペオーニエ寮が十一回で、ローゼン寮が一位になった。
「なかなか難しかったです。でも、楽しかったですわ」
「惜しかったですね」
「あと一回飛べれば、リーリエ寮と並んでいました」
クリスタちゃんもレーニちゃんもそれほど悔しがってもおらず、にこにことして帰って来た。クリスタちゃんにわたくしもハインリヒ殿下もノルベルト殿下もノエル殿下も、惜しみない拍手を送った。
走り幅跳びも、去年は注目していなかった競技の一つである。
ミリヤムちゃんが参加するということで、わたくしとクリスタちゃんとノエル殿下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下はローゼン寮の応援に行く。ミリヤムちゃんを苛めていた同級生たちはわたくしたちを見るとそそくさと逃げて行って、応援するローゼン寮の生徒はほとんどいなくなった。
「ミリヤム嬢、頑張ってくださいね!」
「応援しています!」
ノエル殿下とクリスタちゃんの声を聞いて、ミリヤムちゃんは片手を上げてそれに応じながら、スタート位置まで行く。
長い黒髪を邪魔にならないように結い上げたミリヤムちゃんが、勢いよく走って砂場に飛び込む。
踏切場所から着地点までの距離が測られる。
ミリヤムちゃんは女子の中ではそこそこの距離を飛んだようで、三位に入っていた。
「ミリヤム嬢、お疲れさまでした」
「あまり距離は伸びませんでしたけど……」
「三位は立派な成績ですわ」
ノエル殿下に認められてミリヤムちゃんも嬉しそうにしている。
去年はミリヤムちゃんは完全に孤立無援で、こういう喜びも味わえなかったのだと思うと、警戒していなくて、もっと早く話しかけておけばよかったとわたくしは後悔する。
ミリヤムちゃんは原作の『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』でわたくしと敵対していたのだが、クリスタちゃんと仲良くなれる時点で、クリスタちゃん側の人間で、わたくしがクリスタちゃんを妹にできたようにミリヤムちゃんの未来も変えられることができるかもしれないと早く気づけばよかった。
続いては体育館でダンスの番になる。
ノエル殿下とノルベルト殿下はダンス用のドレスとタキシードに着替えて、体育館で準備をしていた。
音楽が流れるとノエル殿下とノルベルト殿下が踊り出す。他の生徒たちの中にあっても、ノエル殿下とノルベルト殿下の所作は完璧で、ダンスも華やかでこれは間違いなく一位に決まっていると思っていたら、案の定審査の結果は一位だった。
「ノエル殿下、ノルベルト殿下、素晴らしかったです」
「二人の息がぴったりで、こんな素晴らしいペアはないですわ」
ミリヤムちゃんとわたくしで感想を言えば、ノエル殿下とノルベルト殿下は誇らし気に微笑んでいた。
場所を馬術場に移して、わたくしの乗馬の競技が始まる。
乗馬服とヘルメットをしっかりと身に纏い、普段から体育の乗馬のときに乗せてもらっている慣れた馬に乗って、わたくしは競技に参加する。
障害物を超えながら、ゴールするタイムを競う競技で、軽やかに馬は障害物を飛び越えていく。
ゴールした後でタイムを聞いてみれば、今年はわたくしが一位だった。
去年は悔しい思いをしたので一位になれた本当によかったと思う。
馬から降りてヘルメットを外していると、クリスタちゃんが駆け寄ってくる。
「お姉様、一位おめでとうございます」
「今年は一位になれてホッとしています」
「お姉様なら一位になれると思っていました」
尊敬のまなざしで見られて、わたくしは何となく照れてしまう。
乗馬はエクムント様に小さい頃に付きっきりで教えてもらった大事な競技だ。エクムント様が乗馬がとても上手なので、わたくしも憧れて乗馬の競技を選んだようなものだ。
「エリザベート様、ペオーニエ寮が優勝するのではないでしょうか?」
これまでの結果を見ていると、そんな気がする。
レーニちゃんの言葉に頷くと、ノエル殿下とノルベルト殿下が顔を見合わせる。
「わたくしたちが頑張ったのですから、優勝してもらわなくては困りますね」
「勉強だけではないことを見せつけてやらないと」
ペオーニエ寮は高位の貴族が多いので成績は優秀だったが、去年の運動会ではリーリエ寮に負けてしまった。
今年こそはと思っている生徒は多いだろう。
結果発表のときが来ると、わたくしたちは校庭に並んで耳を澄ませていた。
「優勝、ペオーニエ寮!」
宣言されると、ペオーニエ寮の生徒を中心に歓声が上がる。
二位がリーリエ寮で、ローゼン寮は今年も最下位だった。
最下位でもミリヤムちゃんが頑張ったことはわたくしたちはしっかりと知っている。
秋の日の運動会が終わりを告げる。
着替えて、わたくしたちは食堂にお昼を食べに行った。
「ローゼン寮はまた最下位でしたわ」
「それでもミリヤム嬢はよく頑張りましたよ」
「ローゼン寮の生徒はやる気がなかったようですし」
ローゼン寮の生徒の中には、リーリエ寮やペオーニエ寮にどうせ勝てないのだからと全力を出していない者も多くいた気配がする。
リーリエ寮の生徒はかなり本気を出していて、ペオーニエ寮に何種目か勝っているのだが、ローゼン寮はどの種目もあまり成果が出せていない気がしていた。
ペオーニエ寮のノエル殿下が招いているので、ミリヤムちゃんもペオーニエ寮のテーブルで昼食を食べることができている。昼食は簡単なものだったが、ノエル殿下やハインリヒ殿下やノルベルト殿下も食べるので、きっちりと管理はしてあった。
「今日はお茶の時間は王宮で過ごします」
「ユリアーナと一緒にお茶をしますよ」
「ユリアーナは最近ますます可愛くなっているのですよ」
ノエル殿下とノルベルト殿下とハインリヒ殿下は昼食の後は王宮へ帰るようだった。
「レーニ嬢、ミリヤム嬢、クリスタ、今日は食堂でお茶をご一緒しませんか?」
「よろしいのですか、エリザベート様?」
「お招きいただきありがとうございます」
「お姉様が主催なんて、格好いいですわ」
ノエル殿下がいないとなると、ディッペル家の娘であるわたくしがお茶会の主催となるのが当然とわたくしは思っていた。
食堂でのお茶会だが、レーニちゃんとミリヤムちゃんとクリスタちゃんがいれば楽しいだろう。
昼食が終わって、わたくしたちは一度寮の部屋に戻って、また食堂で待ち合わせをした。
運動会といっても前世の記憶にあるようなものではない。
一応寮ごとに競うのだが、勝ち負けによって成績が左右するわけでもないし、一日かけてやるような大きな行事でもなく、それぞれの競技を行って、午前中だけで終わってしまうようなものだった。
それでも、負けるよりも勝ちたいのが人間の心理というものだ。
最初に行われたリレーではハインリヒ殿下がアンカーになっていた。ハインリヒ殿下にバトンが渡されるまでにリーリエ寮とローゼン寮と半周ほど差が付いていたが、それを巻き返してハインリヒ殿下が走る。
ものすごい勢いで走ってくるハインリヒ殿下にリーリエ寮とローゼン寮の生徒は気圧されているように見える。
最終的にハインリヒ殿下は二位で一位のリーリエ寮の生徒と僅差でゴールした。
「もう少し頑張れば勝てていたかもしれないのに」
「あの差からよく追い付かれましたよ。素晴らしかったです」
「クリスタ嬢に情けないところを見せてしまいました」
一位になれなかったのが悔しかったのか、ハインリヒ殿下は肩を落としていた。
大縄跳びは去年は知り合いが参加していなかったので注目していなかったが、今回はクリスタちゃんとレーニちゃんが参加しているので応援に行く。
校庭に持って来られた大縄に、それぞれ十五人ずつが並んで、回し手二人と息を合わせて飛ぶ。
二回失敗して、三回の大縄跳びの中で一番長く飛べた回数を競うようだ。
最初は息が合わなくてローゼン寮もリーリエ寮も苦戦しているのが分かる。ペオーニエ寮は大きな声を出して気持ちを合わせていた。
「せーの! 一、二、三、四……」
ローゼン寮、リーリエ寮、ペオーニエ寮の声が響いている。
最終的にローゼン寮が八回、リーリエ寮が十二回、ペオーニエ寮が十一回で、ローゼン寮が一位になった。
「なかなか難しかったです。でも、楽しかったですわ」
「惜しかったですね」
「あと一回飛べれば、リーリエ寮と並んでいました」
クリスタちゃんもレーニちゃんもそれほど悔しがってもおらず、にこにことして帰って来た。クリスタちゃんにわたくしもハインリヒ殿下もノルベルト殿下もノエル殿下も、惜しみない拍手を送った。
走り幅跳びも、去年は注目していなかった競技の一つである。
ミリヤムちゃんが参加するということで、わたくしとクリスタちゃんとノエル殿下とハインリヒ殿下とノルベルト殿下はローゼン寮の応援に行く。ミリヤムちゃんを苛めていた同級生たちはわたくしたちを見るとそそくさと逃げて行って、応援するローゼン寮の生徒はほとんどいなくなった。
「ミリヤム嬢、頑張ってくださいね!」
「応援しています!」
ノエル殿下とクリスタちゃんの声を聞いて、ミリヤムちゃんは片手を上げてそれに応じながら、スタート位置まで行く。
長い黒髪を邪魔にならないように結い上げたミリヤムちゃんが、勢いよく走って砂場に飛び込む。
踏切場所から着地点までの距離が測られる。
ミリヤムちゃんは女子の中ではそこそこの距離を飛んだようで、三位に入っていた。
「ミリヤム嬢、お疲れさまでした」
「あまり距離は伸びませんでしたけど……」
「三位は立派な成績ですわ」
ノエル殿下に認められてミリヤムちゃんも嬉しそうにしている。
去年はミリヤムちゃんは完全に孤立無援で、こういう喜びも味わえなかったのだと思うと、警戒していなくて、もっと早く話しかけておけばよかったとわたくしは後悔する。
ミリヤムちゃんは原作の『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』でわたくしと敵対していたのだが、クリスタちゃんと仲良くなれる時点で、クリスタちゃん側の人間で、わたくしがクリスタちゃんを妹にできたようにミリヤムちゃんの未来も変えられることができるかもしれないと早く気づけばよかった。
続いては体育館でダンスの番になる。
ノエル殿下とノルベルト殿下はダンス用のドレスとタキシードに着替えて、体育館で準備をしていた。
音楽が流れるとノエル殿下とノルベルト殿下が踊り出す。他の生徒たちの中にあっても、ノエル殿下とノルベルト殿下の所作は完璧で、ダンスも華やかでこれは間違いなく一位に決まっていると思っていたら、案の定審査の結果は一位だった。
「ノエル殿下、ノルベルト殿下、素晴らしかったです」
「二人の息がぴったりで、こんな素晴らしいペアはないですわ」
ミリヤムちゃんとわたくしで感想を言えば、ノエル殿下とノルベルト殿下は誇らし気に微笑んでいた。
場所を馬術場に移して、わたくしの乗馬の競技が始まる。
乗馬服とヘルメットをしっかりと身に纏い、普段から体育の乗馬のときに乗せてもらっている慣れた馬に乗って、わたくしは競技に参加する。
障害物を超えながら、ゴールするタイムを競う競技で、軽やかに馬は障害物を飛び越えていく。
ゴールした後でタイムを聞いてみれば、今年はわたくしが一位だった。
去年は悔しい思いをしたので一位になれた本当によかったと思う。
馬から降りてヘルメットを外していると、クリスタちゃんが駆け寄ってくる。
「お姉様、一位おめでとうございます」
「今年は一位になれてホッとしています」
「お姉様なら一位になれると思っていました」
尊敬のまなざしで見られて、わたくしは何となく照れてしまう。
乗馬はエクムント様に小さい頃に付きっきりで教えてもらった大事な競技だ。エクムント様が乗馬がとても上手なので、わたくしも憧れて乗馬の競技を選んだようなものだ。
「エリザベート様、ペオーニエ寮が優勝するのではないでしょうか?」
これまでの結果を見ていると、そんな気がする。
レーニちゃんの言葉に頷くと、ノエル殿下とノルベルト殿下が顔を見合わせる。
「わたくしたちが頑張ったのですから、優勝してもらわなくては困りますね」
「勉強だけではないことを見せつけてやらないと」
ペオーニエ寮は高位の貴族が多いので成績は優秀だったが、去年の運動会ではリーリエ寮に負けてしまった。
今年こそはと思っている生徒は多いだろう。
結果発表のときが来ると、わたくしたちは校庭に並んで耳を澄ませていた。
「優勝、ペオーニエ寮!」
宣言されると、ペオーニエ寮の生徒を中心に歓声が上がる。
二位がリーリエ寮で、ローゼン寮は今年も最下位だった。
最下位でもミリヤムちゃんが頑張ったことはわたくしたちはしっかりと知っている。
秋の日の運動会が終わりを告げる。
着替えて、わたくしたちは食堂にお昼を食べに行った。
「ローゼン寮はまた最下位でしたわ」
「それでもミリヤム嬢はよく頑張りましたよ」
「ローゼン寮の生徒はやる気がなかったようですし」
ローゼン寮の生徒の中には、リーリエ寮やペオーニエ寮にどうせ勝てないのだからと全力を出していない者も多くいた気配がする。
リーリエ寮の生徒はかなり本気を出していて、ペオーニエ寮に何種目か勝っているのだが、ローゼン寮はどの種目もあまり成果が出せていない気がしていた。
ペオーニエ寮のノエル殿下が招いているので、ミリヤムちゃんもペオーニエ寮のテーブルで昼食を食べることができている。昼食は簡単なものだったが、ノエル殿下やハインリヒ殿下やノルベルト殿下も食べるので、きっちりと管理はしてあった。
「今日はお茶の時間は王宮で過ごします」
「ユリアーナと一緒にお茶をしますよ」
「ユリアーナは最近ますます可愛くなっているのですよ」
ノエル殿下とノルベルト殿下とハインリヒ殿下は昼食の後は王宮へ帰るようだった。
「レーニ嬢、ミリヤム嬢、クリスタ、今日は食堂でお茶をご一緒しませんか?」
「よろしいのですか、エリザベート様?」
「お招きいただきありがとうございます」
「お姉様が主催なんて、格好いいですわ」
ノエル殿下がいないとなると、ディッペル家の娘であるわたくしがお茶会の主催となるのが当然とわたくしは思っていた。
食堂でのお茶会だが、レーニちゃんとミリヤムちゃんとクリスタちゃんがいれば楽しいだろう。
昼食が終わって、わたくしたちは一度寮の部屋に戻って、また食堂で待ち合わせをした。
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