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九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学

38.コスチュームジュエリーを着けてお誕生日を

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 クリアな水色のコスチュームジュエリーを身に着けてわたくしはドレスを纏ってお誕生日のお茶会に出た。
 お茶会にはハインリヒ殿下もノルベルト殿下もレーニちゃんもガブリエラちゃんも来ている。
 当然エクムント様もいて、エクムント様に手を引かれてわたくしは会場に入る。

「わたくしのお誕生日に来てくださって誠にありがとうございます。十四歳の誕生日を迎えられて大変嬉しく思っております」

 わたくしが挨拶をすると、会場から拍手が上がる。
 わたくしの元にいち早く挨拶に来たのは、辺境伯領から招待していたラウラ嬢だった。ラウラ嬢はわたくしの首を飾る豪華なネックレスと、耳を飾るイヤリング、手首に巻いたブレスレットに釘付けである。

「エリザベート様、そのネックレスとイヤリングとブレスレットはどうなさったのですか!? あ、いけませんわ、わたくしったら、ご挨拶もせずに。この度はお誕生日おめでとうございます。ご招待いただきありがとうございます」
「ラウラ嬢、このネックレスとイヤリングとブレスレットの素晴らしさに気付いてくださったのですね。これはエクムント様がお誕生日のお祝いにくださったのです」
「さすがはエクムント様ですね。趣味がいいですわ。とてもお似合いです」

 もうラウラ嬢はこのネックレスとイヤリングとブレスレットの虜になってしまった様子である。そこにクリスタちゃんが言葉を挟む。

「そのジュエリーは、宝石や貴金属を使ったジュエリーが『ファインジュエリー』というのに対して、『コスチュームジュエリー』という素晴らしい名前をお姉様が考えたのです」
「コスチュームジュエリー。新しい響きですね。新鮮でいい名前だと思います」
「エクムント様もそう思われるでしょう? お姉様の名付けたコスチュームジュエリーを辺境伯領から広げていきましょう」

 あぁ、わたくしが名付けたことになってしまった。
 この世界の原作となっている物語は十九世紀がモデルになっていて、まだコスチュームジュエリーという言葉ができていない時期だったのだ。それでわたくしが前世の記憶を元にコスチュームジュエリーという名称を思い出してしまったがために、わたくしが思い付いたように誤解されてしまっている。

「エリザベート様は商才もおありのようですね。素晴らしい商品があっても名称が貧弱だったら流行りませんものね。コスチュームジュエリー、いい名称です」

 ラウラ嬢まですっかりとわたくしが思い付いたというのを信じてわたくしに尊敬のまなざしを向けている。
 前世のことなど言い出せるわけがないのだが、複雑な心境のわたくしだった。

「エリザベート嬢のネックレスやイヤリングやブレスレットには特別な名前が付いているのですか?」
「そうです。宝石や貴金属を使うジュエリーを『ファインジュエリー』といいますが、それに対して、宝石や貴金属を使わないジュエリーをお姉様が『コスチュームジュエリー』と名付けたのです」
「いい名称ですね。流行りそうです。クリスタ嬢にも辺境伯領のガラスでコスチュームジュエリーをプレゼントしたいです」
「宝石や貴金属を使わないということは、ガラスのネックレスやイヤリングやブレスレットはコスチュームジュエリーにあたりますよね。ノエル殿下にお送りしたのもコスチュームジュエリーになりますね」

 ハインリヒ殿下とノルベルト殿下にもクリスタちゃんが大喜びで伝えてしまったので、あっという間にコスチュームジュエリーの名称が広がってしまう。

「ガラスで作った模造パールのコスチュームジュエリーをノエル殿下に贈るのはどうでしょう?」
「ガラスの模造パールならば手入れが大変ではないので、普段使いできますね」
「コスチュームジュエリーは使い勝手がよさそうですね」

 ノルベルト殿下とエクムント様の会話も弾んでいる。
 わたくしはもうコスチュームジュエリーがわたくしの思い付いたものではないと言える範囲を超えていることに気付いていた。
 こうなってしまったからには仕方がない。
 辺境伯領発のコスチュームジュエリーを流行らせるに限る。

「レーニ嬢も辺境伯領のコスチュームジュエリーに興味はありませんか?」
「わたくしは贈ってくださる殿方もおりませんし……」

 興味はありそうなのだが俯いてしまうレーニちゃんに、リリエンタール侯爵が話を聞いてレーニちゃんの肩を叩く。

「レーニ、辺境伯にお話を伺って来なさい。欲しいのでしたら、わたくしがレーニのために注文して差し上げます」
「いいのですか、お母様?」
「リリエンタール家は立派な侯爵家です。その娘のあなたが、遠慮などすることはないのですよ。己を飾ることもまた、貴族の嗜みです」

 リリエンタール侯爵に背中を押されて、レーニちゃんはエクムント様の前に立った。

「わたくし、オレンジ色やレモンイエローなど、元気の出るような明るい色が好きなのです。そのような色に合う色のガラスでコスチュームジュエリーを作ることができますか?」
「辺境伯領のガラスは様々な色が用意できます。黄みがかったピンクや、オレンジがかった赤なども作れますよ」
「その色で、辺境伯領にコスチュームジュエリーの注文をしてもいいですか?」
「喜んで承ります」

 商談が一つ成立した。
 これはエクムント様にとってもとても利益になることだ。
 わたくしがエクムント様にいただいたネックレスとイヤリングとブレスレットを着けていたから、この商談は成立したのだと思うと誇らしくなってくる。

「私もコスチュームジュエリーを注文したいです」
「僕もお願いします。僕は模造パールのコスチュームジュエリーです」
「私はクリスタ嬢に似合うピンクや赤系のガラスを使ったものがいいです」

 ハインリヒ殿下もノルベルト殿下もエクムント様の元に押しかけて、エクムント様は注文を取っている。

「わたくしも、コスチュームジュエリーを注文したく思っております。辺境伯領に戻ってから、詳細を伺ってもいいでしょうか?」
「いつでもどうぞ、ラウラ嬢」

 ラウラ嬢はその場では決められないのか、辺境伯領に戻ってから注文するとのことだった。

「あの……エリザベート様、この度はお招きいただきありがとうございます」

 ミリヤムちゃんに声をかけられてわたくしはミリヤムちゃんにまで気を配ることができていなかったことに気付いた。

「来てくださってありがとうございます、ミリヤム嬢」
「レーニ嬢のお誕生日にも来られていましたよね」
「はい、ミリヤム・アレンスです。エクムント様、その……コスチュームジュエリー、わたくしも興味があるのですが」
「お話を伺いましょう」

 ミリヤムちゃんもコスチュームジュエリーに興味津々の様子だった。

 辺境伯家が窓口になって辺境伯領のガラスで作られたコスチュームジュエリーを売り出す。これは大きな商戦である。
 辺境伯領のコスチュームジュエリーが有名になれば、他の場所でもコスチュームジュエリーが作られるようになるだろう。それより先に顧客を開拓しておけるのが一番にコスチュームジュエリーを開発した辺境伯領の強みである。

 コスチュームジュエリーはこれからの辺境伯領を大きく変えるくらいの流行になりそうな兆しを見せていた。

 注文を取り終わるとエクムント様はスマートにわたくしの隣りに戻って来てくださって、紅茶を給仕に頼んで、軽食やケーキを取り分ける。
 昔のようにわたくしはクリスタちゃんとべったりではなくなっていたので、エクムント様と二人きりでお茶をすることができた。
 挨拶に来ている貴族たちも、エクムント様とわたくしがお茶をしていると遠慮して声をかけないでくれる。

「エクムント様が作らせたネックレスとブレスレットとイヤリングが素晴らしかったから、こんなにも有名になってしまいましたよ」
「それは、私の功績ではないかもしれません」
「え?」
「どれだけ素晴らしい商品があっても、名称が貧弱では売れるものも売れません。エリザベート嬢が『コスチュームジュエリー』という素晴らしい名称を付けてくださったから、広まったのです」
「そ、それは……」
「エリザベート嬢の発想は本当にすごい。感心しますね」

 褒められてしまってわたくしはそうではないのだと胸の中で弁解していた。コスチュームジュエリーというのは前世では既に存在した名称であるし、わたくしが考えたわけではない。
 センスのある方が考えた名称なのだろうから、耳触りがよくて、広まりやすいキャッチャーな名称であって当然なのだ。
 その栄誉をわたくしが横取りしてしまったようで何となく申し訳ない。

 けれど、この世界にまだコスチュームジュエリーという名称がなかったのだから仕方がないだろう。

「わたくしがお役に立てたのなら幸いですわ」
「エリザベート嬢は常に辺境伯領のことを考えてくださる。最高の婚約者ですよ」

 そう言われて嫌な気分はしなかった。
 エクムント様に気に入られる存在でありたいというのは、わたくしの常日頃からの願いである。
 それが叶えられるのならば、コスチュームジュエリーの名称を考えた方には申し訳ないが、わたくしが考えたことにさせていただこうと思っていた。
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