274 / 528
九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
34.エクムント様にハンカチを渡す
しおりを挟む
エクムント様が二十五歳になる。
わたくしの父は学園を卒業して、一年後、母が学園を卒業してから結婚をして、公爵位を譲られたので、十九歳からディッペル公爵になっていることになる。
その翌年にわたくしが生まれていて、わたくしが十三歳なので、父は三十三歳、母は三十二歳だ。
これで立派な中堅クラスの公爵なのだから、エクムント様の二十五歳という年齢がこの世界においてはどれだけ大人なのかを感じさせる。
この年で結婚していないなんて貴族としては少数派なのだが、エクムント様にはわたくしと婚約しているという理由があった。十一歳年下のわたくしと婚約しているから、エクムント様は未だ独身を貫かれているのだ。
婚約は結婚の約束で、前世では何の拘束もなかった覚えがあるが、今世の貴族同士の婚約となるとものすごい拘束力がある。特にこの国唯一の公爵家であるディッペル家と、公爵家に並ぶとも劣らない辺境伯家との婚約となると、国の一大事業であるから、破棄することなど絶対にあり得ないのだ。
わたくしは学園を卒業して十八歳になれば辺境伯領に嫁いでいく。これは決定事項である。
同じく、クリスタちゃんは学園を卒業して十八歳になれば王家に嫁いでいく。
わたくしは中央と辺境域を繋ぐ存在となり、クリスタちゃんは王家で王太子妃となるのだ。
ディッペル家から辺境伯家に嫁ぐ娘と、王家に嫁ぐ娘が出ることは、ディッペル家がこの国唯一の公爵家であるから当然ともいえるし、ディッペル家と王家との繋がりが深いことを示している。
王家との繋がりが深いからこそカサンドラ様はまだ八歳だったわたくしに頼んでまでエクムント様と婚約をさせたのだ。
夏休みの終わり、エクムント様のお誕生日で辺境伯領に行けば、わたくしもクリスタちゃんもふーちゃんもまーちゃんも両親も歓迎された。
エクムント様のお誕生日には去年からハインリヒ殿下とノルベルト殿下も参加されている。
ハインリヒ殿下とノルベルト殿下も王都から到着して、食堂で揃って昼食を食べた。
「辺境伯領から日帰りはつらいと父上に言ったら、泊ってきていいと言われました」
「母上も、辺境伯と交流を持つことはよいことだと仰っていました」
ノルベルト殿下もハインリヒ殿下も辺境伯領に一泊して帰るようだ。
「ノルベルト殿下もハインリヒ殿下も社交界デビューは終えているので、明日の昼食会からご一緒できますね」
エクムント様の言葉にわたくしとクリスタちゃんはそうだったと顔を見合わせた。
ノルベルト殿下とハインリヒ殿下は幼い頃から王家の式典で昼食会から晩餐会まで参加しているのだ。これは実質社交界にデビューしているも同然だった。
「ノルベルトでんか、ノエルでんかはこられないのですか?」
「ノエル殿下はこの時期はご兄弟のお誕生日があるので隣国に帰られているのです」
「わたし、ノエルでんかにおあいしたかったです。ノエルでんかのよむしは、すてきなのです」
「フランツ殿もノエル殿下の詩のよさが分かりますか。さすがですね」
ふーちゃんはノエル殿下が来られないことにがっかりしていたが、目を輝かせているノルベルト殿下に身を乗り出して言う。
「ノエルでんかのしは、すばらしいです。わたしは、いつもかんどうしてしまいます」
手を組んで祈るような形にしているふーちゃんに、まーちゃんが首を傾げている。
「わたくし、ちいさいからなのかしら。ノエルでんかのしがよくわかりません。げいじゅつがむずかしいのでしょうか」
「マリア嬢は小さいですからね。フランツ殿のように三歳から詩を読むような天才は滅多にいないのですよ」
「わたくし、よんさいなのですが……」
「劣等感を覚えることはないと思います。詩のよさが分かる日が来ます」
ノルベルト殿下は力説しているが、わたくしはまーちゃんにはそのままでいてほしいと願っていた。まーちゃんまで妙な詩を読み始めたら、わたくしはディッペル家で居場所がなくなってしまう。
「わたくしも芸術がよく分かりません。マリアはわたくしに似たのかもしれません」
「エリザベートおねえさまも!? それなら、わたくしはあんしんしました」
お互いに一人ではないことを確かめ合って、わたくしとまーちゃんは安心していた。
エクムント様のお誕生日の前日から辺境伯領に入っていたが、わたくしは先にエクムント様にプレゼントを渡しておくことにした。
お誕生日の席ではパーティーバッグにハンカチの入った箱が入らないのだ。
「エクムント様、レーニ嬢のお誕生日会でハンカチをお借りしました。あのときにわたくしの刺繍をしたハンカチを使っていてくださってとても嬉しかったのです。あのハンカチも古くなってきたと思います。新しいハンカチに刺繡をしました」
箱を手渡すとエクムント様が箱を開けて白いハンカチに施された刺繍を一つ一つ指先で確かめる。
「ダリアに、四葉のクローバーに、ブルーサルビアに、これはアラマンダですか?」
「辺境伯家の庭にアラマンダが咲いているのを見てとても美しかったので、刺繍してみました」
「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
その言葉がお世辞ではなくて、本当であることをわたくしは確信していた。エクムント様はレーニちゃんのお誕生日のお茶会で、わたくしがミルクポッドを落として牛乳を被ってしまったときに、ハンカチを貸してくださった。そのハンカチはわたくしが刺繍したものだったのだ。
ハンカチは使われていたので若干色が変わって来ていたが、それでもエクムント様はそれを大事にしていてくださった。それが嬉しくてわたくしはもう一度エクムント様にハンカチを刺繍しようと思ったのだ。
「わたくしは幸せ者です」
「エリザベート嬢?」
「今度の刺繍は前よりも上手にできていると思います。糸の処理も上手になったので、長く使えると思います」
「出かけるときに使わせていただきますよ。エリザベート嬢のお誕生日にも持って行きましょう」
「わたくしのお誕生日……そうでした、もうすぐですね」
わたくしのお誕生日とエクムント様のお誕生日はかなり近い。
両親が同じ冬生まれでお誕生日を一緒に祝っているのだが、エクムント様と結婚した暁にはわたくしもそのようにしたいと思い始めていた。
「わたくしの両親のように、エクムント様と結婚したら、わたくしとエクムント様のお誕生日は一緒に祝いませんか?」
かなり気が早いお願いになってしまったが、わたくしが言えば、エクムント様が目を丸くしている。
「私のお誕生日はどうでもいいのですが、エリザベート嬢のお誕生日を別に祝わなくていいのですか?」
「一緒に祝うのが理想なのです。わたくしの両親もそうやって祝っていますから」
「ディッペル公爵夫妻は仲がいいですからね」
「わたくしも両親のような仲のいい夫婦になりたいのです」
未来の話をするとまだまだ遠いと感じてしまうが、それでもわたくしはエクムント様にわたくしの希望を聞いて欲しかった。
「エリザベート嬢がそう願うのならば、そうしましょう。まだ五年も先の話ですが」
「わたくし、気が早かったですわ」
「エリザベート嬢が十八歳になるというのは、今はまだ想像もできませんね」
十三歳のわたくしは背も伸びていて母と変わらなくなってきているのだが、それでも十八歳というのは想像もできない年齢のようだ。
後五年。五年でエクムント様の心を掴むことができるのだろうか。
せめて妹は卒業したいと願うわたくしだった。
「エリザベート嬢、部屋までお送りします」
手を取られてわたくしはエクムント様と一緒に歩いていく。
その後ろを、物陰からわたくしとエクムント様のやり取りを一部始終見ていたクリスタちゃんが密やかについて来ているのに、わたくしは気付いていた。
わたくしの父は学園を卒業して、一年後、母が学園を卒業してから結婚をして、公爵位を譲られたので、十九歳からディッペル公爵になっていることになる。
その翌年にわたくしが生まれていて、わたくしが十三歳なので、父は三十三歳、母は三十二歳だ。
これで立派な中堅クラスの公爵なのだから、エクムント様の二十五歳という年齢がこの世界においてはどれだけ大人なのかを感じさせる。
この年で結婚していないなんて貴族としては少数派なのだが、エクムント様にはわたくしと婚約しているという理由があった。十一歳年下のわたくしと婚約しているから、エクムント様は未だ独身を貫かれているのだ。
婚約は結婚の約束で、前世では何の拘束もなかった覚えがあるが、今世の貴族同士の婚約となるとものすごい拘束力がある。特にこの国唯一の公爵家であるディッペル家と、公爵家に並ぶとも劣らない辺境伯家との婚約となると、国の一大事業であるから、破棄することなど絶対にあり得ないのだ。
わたくしは学園を卒業して十八歳になれば辺境伯領に嫁いでいく。これは決定事項である。
同じく、クリスタちゃんは学園を卒業して十八歳になれば王家に嫁いでいく。
わたくしは中央と辺境域を繋ぐ存在となり、クリスタちゃんは王家で王太子妃となるのだ。
ディッペル家から辺境伯家に嫁ぐ娘と、王家に嫁ぐ娘が出ることは、ディッペル家がこの国唯一の公爵家であるから当然ともいえるし、ディッペル家と王家との繋がりが深いことを示している。
王家との繋がりが深いからこそカサンドラ様はまだ八歳だったわたくしに頼んでまでエクムント様と婚約をさせたのだ。
夏休みの終わり、エクムント様のお誕生日で辺境伯領に行けば、わたくしもクリスタちゃんもふーちゃんもまーちゃんも両親も歓迎された。
エクムント様のお誕生日には去年からハインリヒ殿下とノルベルト殿下も参加されている。
ハインリヒ殿下とノルベルト殿下も王都から到着して、食堂で揃って昼食を食べた。
「辺境伯領から日帰りはつらいと父上に言ったら、泊ってきていいと言われました」
「母上も、辺境伯と交流を持つことはよいことだと仰っていました」
ノルベルト殿下もハインリヒ殿下も辺境伯領に一泊して帰るようだ。
「ノルベルト殿下もハインリヒ殿下も社交界デビューは終えているので、明日の昼食会からご一緒できますね」
エクムント様の言葉にわたくしとクリスタちゃんはそうだったと顔を見合わせた。
ノルベルト殿下とハインリヒ殿下は幼い頃から王家の式典で昼食会から晩餐会まで参加しているのだ。これは実質社交界にデビューしているも同然だった。
「ノルベルトでんか、ノエルでんかはこられないのですか?」
「ノエル殿下はこの時期はご兄弟のお誕生日があるので隣国に帰られているのです」
「わたし、ノエルでんかにおあいしたかったです。ノエルでんかのよむしは、すてきなのです」
「フランツ殿もノエル殿下の詩のよさが分かりますか。さすがですね」
ふーちゃんはノエル殿下が来られないことにがっかりしていたが、目を輝かせているノルベルト殿下に身を乗り出して言う。
「ノエルでんかのしは、すばらしいです。わたしは、いつもかんどうしてしまいます」
手を組んで祈るような形にしているふーちゃんに、まーちゃんが首を傾げている。
「わたくし、ちいさいからなのかしら。ノエルでんかのしがよくわかりません。げいじゅつがむずかしいのでしょうか」
「マリア嬢は小さいですからね。フランツ殿のように三歳から詩を読むような天才は滅多にいないのですよ」
「わたくし、よんさいなのですが……」
「劣等感を覚えることはないと思います。詩のよさが分かる日が来ます」
ノルベルト殿下は力説しているが、わたくしはまーちゃんにはそのままでいてほしいと願っていた。まーちゃんまで妙な詩を読み始めたら、わたくしはディッペル家で居場所がなくなってしまう。
「わたくしも芸術がよく分かりません。マリアはわたくしに似たのかもしれません」
「エリザベートおねえさまも!? それなら、わたくしはあんしんしました」
お互いに一人ではないことを確かめ合って、わたくしとまーちゃんは安心していた。
エクムント様のお誕生日の前日から辺境伯領に入っていたが、わたくしは先にエクムント様にプレゼントを渡しておくことにした。
お誕生日の席ではパーティーバッグにハンカチの入った箱が入らないのだ。
「エクムント様、レーニ嬢のお誕生日会でハンカチをお借りしました。あのときにわたくしの刺繍をしたハンカチを使っていてくださってとても嬉しかったのです。あのハンカチも古くなってきたと思います。新しいハンカチに刺繡をしました」
箱を手渡すとエクムント様が箱を開けて白いハンカチに施された刺繍を一つ一つ指先で確かめる。
「ダリアに、四葉のクローバーに、ブルーサルビアに、これはアラマンダですか?」
「辺境伯家の庭にアラマンダが咲いているのを見てとても美しかったので、刺繍してみました」
「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
その言葉がお世辞ではなくて、本当であることをわたくしは確信していた。エクムント様はレーニちゃんのお誕生日のお茶会で、わたくしがミルクポッドを落として牛乳を被ってしまったときに、ハンカチを貸してくださった。そのハンカチはわたくしが刺繍したものだったのだ。
ハンカチは使われていたので若干色が変わって来ていたが、それでもエクムント様はそれを大事にしていてくださった。それが嬉しくてわたくしはもう一度エクムント様にハンカチを刺繍しようと思ったのだ。
「わたくしは幸せ者です」
「エリザベート嬢?」
「今度の刺繍は前よりも上手にできていると思います。糸の処理も上手になったので、長く使えると思います」
「出かけるときに使わせていただきますよ。エリザベート嬢のお誕生日にも持って行きましょう」
「わたくしのお誕生日……そうでした、もうすぐですね」
わたくしのお誕生日とエクムント様のお誕生日はかなり近い。
両親が同じ冬生まれでお誕生日を一緒に祝っているのだが、エクムント様と結婚した暁にはわたくしもそのようにしたいと思い始めていた。
「わたくしの両親のように、エクムント様と結婚したら、わたくしとエクムント様のお誕生日は一緒に祝いませんか?」
かなり気が早いお願いになってしまったが、わたくしが言えば、エクムント様が目を丸くしている。
「私のお誕生日はどうでもいいのですが、エリザベート嬢のお誕生日を別に祝わなくていいのですか?」
「一緒に祝うのが理想なのです。わたくしの両親もそうやって祝っていますから」
「ディッペル公爵夫妻は仲がいいですからね」
「わたくしも両親のような仲のいい夫婦になりたいのです」
未来の話をするとまだまだ遠いと感じてしまうが、それでもわたくしはエクムント様にわたくしの希望を聞いて欲しかった。
「エリザベート嬢がそう願うのならば、そうしましょう。まだ五年も先の話ですが」
「わたくし、気が早かったですわ」
「エリザベート嬢が十八歳になるというのは、今はまだ想像もできませんね」
十三歳のわたくしは背も伸びていて母と変わらなくなってきているのだが、それでも十八歳というのは想像もできない年齢のようだ。
後五年。五年でエクムント様の心を掴むことができるのだろうか。
せめて妹は卒業したいと願うわたくしだった。
「エリザベート嬢、部屋までお送りします」
手を取られてわたくしはエクムント様と一緒に歩いていく。
その後ろを、物陰からわたくしとエクムント様のやり取りを一部始終見ていたクリスタちゃんが密やかについて来ているのに、わたくしは気付いていた。
34
お気に入りに追加
1,689
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる