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九章 クリスタちゃんの婚約と学園入学
7.ふーちゃんとまーちゃんの涙
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ノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の式典があるので学園は休みになった。
式典に招待されない貴族の生徒たちは里帰りをするようだ。
「エリザベート様、クリスタ様、こんにちは。
「これはミリヤム嬢ではないですか。どうなさいましたか?」
「わたくし、寮で苛められなくなりました」
里帰りをする前に荷物を纏めたミリヤム嬢がわたくしとクリスタちゃんを訪ねて来た。 嬉しさで言わずにはいられなかったのだろう。ミリヤム嬢の頬が薔薇色に染まっている。わたくしとクリスタちゃんも王宮の客間に移るために荷物を用意して寮を出たところで声をかけられた。
ミリヤム嬢はわたくしたちが出て来るまで寮の前で待っていたのだ。
「ミリヤム嬢も一目置かれる存在になったのですね」
「エリザベート様に教えていただいているおかげで勉強も追い付いて来ましたし、ノエル殿下のお茶会に参加させていただいているので、礼儀作法も練習させていただいて上達してきたと思います」
「自信を持つのはいいことです。ミリヤム嬢はお顔が明るくなりましたわ。笑顔が一番ですわ」
わたくしが言えばミリヤム嬢も凛と顔を上げて自分の近況を話し、それにクリスタちゃんがにっこりする。この笑顔は守りたい。クリスタちゃんと微笑み合っているミリヤム嬢の笑顔は大事にしたいと思っていた。
「ローゼン寮の上級生には指導が必要ですよね。ミリヤム嬢に失礼なことを言っていたのも、ローゼン寮の同級生が主だった気がします。その方たちにも指導が必要ですね」
「お姉様ったら、怖いお顔」
「わたくし、怖い顔をしていますか?」
「そんなお姉様も素敵で大好きです」
腕を取られてぎゅっとしがみ付かれてわたくしはバランスを崩しそうになる。落としそうになったトランクをミリヤム嬢が支えてくれた。
「わたくしが礼儀作法も勉強もできていなかったのは本当のことです。その件に関しては、何を言われても仕方がないと思っています」
「いいえ、あの方々はわたくしを褒めるためにミリヤム嬢を貶めたのです。それは絶対に許せません。もしわたくしがそれで喜ぶような性格の悪い人物だったとしても、それだったら、その矛先が誰に向いてもおかしくないと理解していたのでしょうか」
わたくしの言葉にクリスタちゃんは喜んでいるようだが、ミリヤム嬢は復讐にはあまり乗り気ではないようだ。だからといって許せる話ではない。
これまで一年以上ミリヤム嬢を苛めておきながら、ミリヤム嬢がノエル殿下のお茶会に招かれたとたんに手の平を返しているのだ。それが許せるはずがない。
苛めていた事実をなかったことにしてこれからミリヤム嬢に擦り寄って来ようものならば、厳しく指導しておかなければいけない。
これが、体育館裏に呼び出すということなのだろうか。
前世の記憶が頭を過ったが、何となく合っているような気がして、わたくしはミリヤム嬢を苛めていた輩を、式典が終わったらどうにかして呼び出すことを考えていた。
「ミリヤム嬢、故郷に帰るのですか?」
「はい。わたくしは式典には招待されておりません。わたくしは休みの間に故郷に帰って、両親にエリザベート様に助けられたこと、ノエル殿下のお茶会に招かれたこと、ノエル殿下やエリザベート様やクリスタ様と親しくさせていただいていることなどを話して来ようと思います」
「ご両親も安心なさるでしょう」
「これまで両親を心配させまいと、学園の話はほとんどしてこなかったのです。こんなに嬉しい報告ができるのはエリザベート様のおかげです。ありがとうございます」
「どういたしまして。道中お気を付けて」
「ミリヤム嬢、お休みを楽しんでください」
わたくしとクリスタちゃんでミリヤム嬢を見送ると、ミリヤム嬢は手を振ってローゼン寮の方に戻って行った。ローゼン寮に馬車を待たせてあるのだろう。
わたくしとクリスタちゃんは護衛と共にディッペル家の馬車に乗って王宮に入った。
王宮に入ると客間に案内される。
客間のドアを開けると、ものすごい勢いでふーちゃんとまーちゃんが飛び付いてきた。
「おねえさま! おあいしたかった! おねえさま!」
「おねえたま! わたくち、いっぱいたがちたの! おねえたまがいてくれるわー!」
わたくしがふーちゃんを抱き留めて、クリスタちゃんがまーちゃんを抱き留めると、そのままよじ登って来ようとする。トランクは護衛が持っていてくれたのでよかったが、そうでなければふーちゃんとまーちゃんを抱き留めることができなかった。
「エリザベート、クリスタ、学園生活はどうですか?」
「新しい友達もできました。ミリヤム・アレンス子爵令嬢です」
「ミリヤム嬢はノエル殿下のお茶会にも招かれているのです。ローゼン寮ですが、ノエル殿下がお招きしたので、ペオーニエ寮のお茶会に参加できています」
クリスタちゃんの話で思い出したが、ミリヤム嬢はどこのお茶会にも招かれていなかったのだ。お茶の時間には一人で食堂で過ごしていたというのだから気の毒なことだった。
お茶会までが学園の授業の一部で、お茶会で社交界の会話を練習するのだが、それが一年間なかったというのは本当に酷いとしか言いようがない。学園の先生方も注意すべきところだったが、そこまで目が行ってなかったのだろう。
「色んな身分の貴族と交流を持つことも学園に入学した意義ではあるからね。エリザベートは辺境域に行ったら、その地域の貴族を治める立場にならないといけない。クリスタは皇太子殿下の元に嫁いだら、全ての貴族を治める立場にならなければならない」
「わたくし、ミリヤム嬢と友達になれてよかったと思っています」
「ミリヤム嬢はノエル殿下のお気に入りで、ノエル殿下は将来ミリヤム嬢を侍女として迎え入れるかもしれないのです」
「それはとても大事な友達だね。ノエル殿下の侍女となる方なら、クリスタは特に親睦を深めておいた方がいい」
父もそう言ってくれているし、わたくしもクリスタちゃんもミリヤム嬢とは交流していくつもりだった。
それにしても、話をしている間、わたくしの腕によじ登ったふーちゃんが降りてくれない。クリスタちゃんは腕にまーちゃんを抱えている。
「フランツ、そろそろわたくしは腕が疲れて来たのですが」
「エリザベートおねえさま、おててをはなしたら、いなくなっちゃうでしょう?」
「いなくなりませんよ。ノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の式典がありますからね」
ふーちゃんに言い聞かせてもふーちゃんは聞く耳を持たない。このままでは育ってきたふーちゃんを支えきれなくなりそうなのでわたくしはソファに座ってふーちゃんをお膝の上に抱っこした。
「マリア、そろそろ降りませんか?」
「やー! くーおねえたまといっちょがいーの!」
「マリアも四歳になるのでしたね。字は読めるようになりましたか?」
「はい! むずかちくないじなら、よめます」
「それでは、マリアに絵本を読んでもらおうかしら」
「くーおねえたま、わたくち、よんであげる! みてて!」
すんなりとクリスタちゃんの抱っこから降りたまーちゃんが絵本を持って戻ってくる。絵本を広げて、まーちゃんは大きな声を出して読み始めた。
「むかちむかち、あるところに、シンデレラとよばれるおんなのこがいまちた」
「それはわたくしが小さい頃に大好きだった絵本ですわ。お姉様に何度も読んでもらいました」
「くーおねえたまも、このえほんがすき? わたくちもだいすち!」
「続きを読んでください」
まーちゃんが読んでいるとふーちゃんも気になるようだ。そっと膝から降ろすと絵本を持っているまーちゃんの方に歩いていく。
まーちゃんが絵本を読み終わると、ふーちゃんが列車の絵本を持ってきた。
「エリザベートおねえさま、わたしがよんであげる。きいていて」
「はい。読んでください」
少し前までは、ふーちゃんとまーちゃんのために何度も何度も繰り返し同じ絵本を読んでいたのだが、今はふーちゃんに絵本を読んでもらえている。ふーちゃんも字の勉強をしているのか、すらすらと読むことができる。
「フランツ、とても上手ですわ」
「エリザベートおねえさま、ありがとう」
「フランツ、わたくしとクリスタは学園で勉強をしていたのです。フランツとマリアには毎日会いたいと思っていました」
「そうだったの? わたしとマリアは、エリザベートおねえさまとクリスタおねえさまをたくさんさがしたんだよ? おへやにも、サンルームにも、おにわにもいなかった」
「学園にいましたからね」
「わたしとマリアだけではとてもさみしいの。がくえんからいつかえってくるの?」
「夏休みになったら帰りますよ」
「なつやすみまであといくつ?」
「それは……すぐには言えません」
夏休みまで後何日かなんてすぐに答えられるものではない。ふーちゃんの問いかけに答えに詰まってしまうと、ふーちゃんがくしゃりと泣き顔になる。
「おねえさまたちといっしょがいいよー!」
「わたくちも、おねえたまといっちょがいいのー!」
泣き出してしまったふーちゃんとまーちゃんに、わたくしもクリスタちゃんも言えることがなかった。
「エリザベートもクリスタも、立派な大人になるために学園で勉強しているのです。フランツとマリアは応援してあげてください」
「おねえさまたちとはなれるのはいやなの!」
「おねえたま、いっちょにいてー!」
「二人とも、泣き虫になってしまったね。泣いていてはもったいないよ。エリザベートとクリスタは学園に行かなければいけないのは絶対なのだから、一緒にいられる間はフランツとマリアの笑顔を見せて上げないと」
「だって……ふぇ」
「びぇ」
涙を拭っているふーちゃんとまーちゃんが愛おしくてならない。
わたくしはふーちゃんを抱き締め、クリスタちゃんがまーちゃんを抱き締めた。
「学園に行かないことはできませんが、一緒にいる間は楽しく過ごしましょう」
「大好きですよ、フランツ、マリア」
「わたしも、おねえさまたちがだいすき!」
「わたくちも!」
しっかりと抱き付いてくるふーちゃんとまーちゃんが可愛くて、わたくしは夏休みが待ち遠しくなる思いだった。
式典に招待されない貴族の生徒たちは里帰りをするようだ。
「エリザベート様、クリスタ様、こんにちは。
「これはミリヤム嬢ではないですか。どうなさいましたか?」
「わたくし、寮で苛められなくなりました」
里帰りをする前に荷物を纏めたミリヤム嬢がわたくしとクリスタちゃんを訪ねて来た。 嬉しさで言わずにはいられなかったのだろう。ミリヤム嬢の頬が薔薇色に染まっている。わたくしとクリスタちゃんも王宮の客間に移るために荷物を用意して寮を出たところで声をかけられた。
ミリヤム嬢はわたくしたちが出て来るまで寮の前で待っていたのだ。
「ミリヤム嬢も一目置かれる存在になったのですね」
「エリザベート様に教えていただいているおかげで勉強も追い付いて来ましたし、ノエル殿下のお茶会に参加させていただいているので、礼儀作法も練習させていただいて上達してきたと思います」
「自信を持つのはいいことです。ミリヤム嬢はお顔が明るくなりましたわ。笑顔が一番ですわ」
わたくしが言えばミリヤム嬢も凛と顔を上げて自分の近況を話し、それにクリスタちゃんがにっこりする。この笑顔は守りたい。クリスタちゃんと微笑み合っているミリヤム嬢の笑顔は大事にしたいと思っていた。
「ローゼン寮の上級生には指導が必要ですよね。ミリヤム嬢に失礼なことを言っていたのも、ローゼン寮の同級生が主だった気がします。その方たちにも指導が必要ですね」
「お姉様ったら、怖いお顔」
「わたくし、怖い顔をしていますか?」
「そんなお姉様も素敵で大好きです」
腕を取られてぎゅっとしがみ付かれてわたくしはバランスを崩しそうになる。落としそうになったトランクをミリヤム嬢が支えてくれた。
「わたくしが礼儀作法も勉強もできていなかったのは本当のことです。その件に関しては、何を言われても仕方がないと思っています」
「いいえ、あの方々はわたくしを褒めるためにミリヤム嬢を貶めたのです。それは絶対に許せません。もしわたくしがそれで喜ぶような性格の悪い人物だったとしても、それだったら、その矛先が誰に向いてもおかしくないと理解していたのでしょうか」
わたくしの言葉にクリスタちゃんは喜んでいるようだが、ミリヤム嬢は復讐にはあまり乗り気ではないようだ。だからといって許せる話ではない。
これまで一年以上ミリヤム嬢を苛めておきながら、ミリヤム嬢がノエル殿下のお茶会に招かれたとたんに手の平を返しているのだ。それが許せるはずがない。
苛めていた事実をなかったことにしてこれからミリヤム嬢に擦り寄って来ようものならば、厳しく指導しておかなければいけない。
これが、体育館裏に呼び出すということなのだろうか。
前世の記憶が頭を過ったが、何となく合っているような気がして、わたくしはミリヤム嬢を苛めていた輩を、式典が終わったらどうにかして呼び出すことを考えていた。
「ミリヤム嬢、故郷に帰るのですか?」
「はい。わたくしは式典には招待されておりません。わたくしは休みの間に故郷に帰って、両親にエリザベート様に助けられたこと、ノエル殿下のお茶会に招かれたこと、ノエル殿下やエリザベート様やクリスタ様と親しくさせていただいていることなどを話して来ようと思います」
「ご両親も安心なさるでしょう」
「これまで両親を心配させまいと、学園の話はほとんどしてこなかったのです。こんなに嬉しい報告ができるのはエリザベート様のおかげです。ありがとうございます」
「どういたしまして。道中お気を付けて」
「ミリヤム嬢、お休みを楽しんでください」
わたくしとクリスタちゃんでミリヤム嬢を見送ると、ミリヤム嬢は手を振ってローゼン寮の方に戻って行った。ローゼン寮に馬車を待たせてあるのだろう。
わたくしとクリスタちゃんは護衛と共にディッペル家の馬車に乗って王宮に入った。
王宮に入ると客間に案内される。
客間のドアを開けると、ものすごい勢いでふーちゃんとまーちゃんが飛び付いてきた。
「おねえさま! おあいしたかった! おねえさま!」
「おねえたま! わたくち、いっぱいたがちたの! おねえたまがいてくれるわー!」
わたくしがふーちゃんを抱き留めて、クリスタちゃんがまーちゃんを抱き留めると、そのままよじ登って来ようとする。トランクは護衛が持っていてくれたのでよかったが、そうでなければふーちゃんとまーちゃんを抱き留めることができなかった。
「エリザベート、クリスタ、学園生活はどうですか?」
「新しい友達もできました。ミリヤム・アレンス子爵令嬢です」
「ミリヤム嬢はノエル殿下のお茶会にも招かれているのです。ローゼン寮ですが、ノエル殿下がお招きしたので、ペオーニエ寮のお茶会に参加できています」
クリスタちゃんの話で思い出したが、ミリヤム嬢はどこのお茶会にも招かれていなかったのだ。お茶の時間には一人で食堂で過ごしていたというのだから気の毒なことだった。
お茶会までが学園の授業の一部で、お茶会で社交界の会話を練習するのだが、それが一年間なかったというのは本当に酷いとしか言いようがない。学園の先生方も注意すべきところだったが、そこまで目が行ってなかったのだろう。
「色んな身分の貴族と交流を持つことも学園に入学した意義ではあるからね。エリザベートは辺境域に行ったら、その地域の貴族を治める立場にならないといけない。クリスタは皇太子殿下の元に嫁いだら、全ての貴族を治める立場にならなければならない」
「わたくし、ミリヤム嬢と友達になれてよかったと思っています」
「ミリヤム嬢はノエル殿下のお気に入りで、ノエル殿下は将来ミリヤム嬢を侍女として迎え入れるかもしれないのです」
「それはとても大事な友達だね。ノエル殿下の侍女となる方なら、クリスタは特に親睦を深めておいた方がいい」
父もそう言ってくれているし、わたくしもクリスタちゃんもミリヤム嬢とは交流していくつもりだった。
それにしても、話をしている間、わたくしの腕によじ登ったふーちゃんが降りてくれない。クリスタちゃんは腕にまーちゃんを抱えている。
「フランツ、そろそろわたくしは腕が疲れて来たのですが」
「エリザベートおねえさま、おててをはなしたら、いなくなっちゃうでしょう?」
「いなくなりませんよ。ノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の式典がありますからね」
ふーちゃんに言い聞かせてもふーちゃんは聞く耳を持たない。このままでは育ってきたふーちゃんを支えきれなくなりそうなのでわたくしはソファに座ってふーちゃんをお膝の上に抱っこした。
「マリア、そろそろ降りませんか?」
「やー! くーおねえたまといっちょがいーの!」
「マリアも四歳になるのでしたね。字は読めるようになりましたか?」
「はい! むずかちくないじなら、よめます」
「それでは、マリアに絵本を読んでもらおうかしら」
「くーおねえたま、わたくち、よんであげる! みてて!」
すんなりとクリスタちゃんの抱っこから降りたまーちゃんが絵本を持って戻ってくる。絵本を広げて、まーちゃんは大きな声を出して読み始めた。
「むかちむかち、あるところに、シンデレラとよばれるおんなのこがいまちた」
「それはわたくしが小さい頃に大好きだった絵本ですわ。お姉様に何度も読んでもらいました」
「くーおねえたまも、このえほんがすき? わたくちもだいすち!」
「続きを読んでください」
まーちゃんが読んでいるとふーちゃんも気になるようだ。そっと膝から降ろすと絵本を持っているまーちゃんの方に歩いていく。
まーちゃんが絵本を読み終わると、ふーちゃんが列車の絵本を持ってきた。
「エリザベートおねえさま、わたしがよんであげる。きいていて」
「はい。読んでください」
少し前までは、ふーちゃんとまーちゃんのために何度も何度も繰り返し同じ絵本を読んでいたのだが、今はふーちゃんに絵本を読んでもらえている。ふーちゃんも字の勉強をしているのか、すらすらと読むことができる。
「フランツ、とても上手ですわ」
「エリザベートおねえさま、ありがとう」
「フランツ、わたくしとクリスタは学園で勉強をしていたのです。フランツとマリアには毎日会いたいと思っていました」
「そうだったの? わたしとマリアは、エリザベートおねえさまとクリスタおねえさまをたくさんさがしたんだよ? おへやにも、サンルームにも、おにわにもいなかった」
「学園にいましたからね」
「わたしとマリアだけではとてもさみしいの。がくえんからいつかえってくるの?」
「夏休みになったら帰りますよ」
「なつやすみまであといくつ?」
「それは……すぐには言えません」
夏休みまで後何日かなんてすぐに答えられるものではない。ふーちゃんの問いかけに答えに詰まってしまうと、ふーちゃんがくしゃりと泣き顔になる。
「おねえさまたちといっしょがいいよー!」
「わたくちも、おねえたまといっちょがいいのー!」
泣き出してしまったふーちゃんとまーちゃんに、わたくしもクリスタちゃんも言えることがなかった。
「エリザベートもクリスタも、立派な大人になるために学園で勉強しているのです。フランツとマリアは応援してあげてください」
「おねえさまたちとはなれるのはいやなの!」
「おねえたま、いっちょにいてー!」
「二人とも、泣き虫になってしまったね。泣いていてはもったいないよ。エリザベートとクリスタは学園に行かなければいけないのは絶対なのだから、一緒にいられる間はフランツとマリアの笑顔を見せて上げないと」
「だって……ふぇ」
「びぇ」
涙を拭っているふーちゃんとまーちゃんが愛おしくてならない。
わたくしはふーちゃんを抱き締め、クリスタちゃんがまーちゃんを抱き締めた。
「学園に行かないことはできませんが、一緒にいる間は楽しく過ごしましょう」
「大好きですよ、フランツ、マリア」
「わたしも、おねえさまたちがだいすき!」
「わたくちも!」
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