エリザベート・ディッペルは悪役令嬢になれない

秋月真鳥

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八章 エリザベートの学園入学

12.クリスタちゃんの晴れ舞台

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 ケーキを食べて紅茶を飲んで、楽しくお茶会を終えると、両親とクリスタちゃんとレーニちゃんとふーちゃんとまーちゃんと部屋に戻った。部屋まではエクムント様が送って下さった。

「辺境伯ともお茶ができてよかった」
「国王陛下と王妃殿下とディッペル公爵夫妻と話ができて光栄でした」
「辺境伯領にはまだまだ独立派が隠れているようだが、辺境伯ははっきりとオルヒデー帝国側につくと表明してくれている。おかげで安心できているよ」
「辺境伯とエリザベート嬢は城下町の散策に行かれたそうではないですか。ハインリヒから聞きましたよ」
「エリザベート嬢と王立図書館と王立植物園を見て来ました」
「仲睦まじいようで何よりだ」

 わたくしとエクムント様の仲は国の根幹に関わる。王家に近いこの国唯一の公爵家であるディッペル家と、辺境の辺境伯家の繋がりが強ければ強いほど、この国は強固な一つの国として繋がり合える。
 逆にわたくしとエクムント様が不仲であったりすると、オルヒデー帝国が揺らぎかねないので、国王陛下も王妃殿下もわたくしとエクムント様の仲には関心を持っていらっしゃるのだ。

「王立図書館でエクムント様はわたくしの髪と目が目立ってしまったのをさり気なく守ってくださいました。エクムント様の優しさにわたくしはとても幸せな気持ちになりました」

 素直な感想を口にすると、エクムント様も微笑んでくれているし、国王陛下も王妃殿下も頷きながら聞いてくださった。

 部屋に戻ったら疲れたのかふーちゃんがベッドに倒れていた。お昼寝をしたまーちゃんは元気いっぱいでふーちゃんのシャツを引っ張って遊びに誘っているが、ふーちゃんは起き上がらない。
 レーニちゃんがベッドの端に腰かけてふーちゃんに声をかけている。

「フランツ様どうされたのですか?」
「わたし、レーニじょうとおちゃをしたかったの」
「それで拗ねていらっしゃったのですか!?」
「だって、テーブルがべつべつだったんだもの。レーニじょうはおねえさまたちとたのしそうにはなしていて、わたし、なかまはずれにされたきぶんだった」

 悲しそうに言うふーちゃんにレーニちゃんがふーちゃんの手を取る。

「わたくしと一緒に絵本を読みませんか?」
「レーニじょう、えほんをよんでくれるのですか?」
「フランツ様も字が読めるようになっているのでしょう? わたくしに読んでくださいませんか?」
「わたし、じょうずによめませんよ?」
「構いません。フランツ様が読んでくださるのをわたくし、静かに聞いていますわ。分からないところがあれば、教えます」

 拗ねてベッドに突っ伏していたふーちゃんが体を起こす。お気に入りの列車の絵本を持って来て、レーニちゃんとソファに座って読み出した。まーちゃんも隣りのソファに座って絵本を覗き込んでいる。レーニちゃんのおかげでふーちゃんのご機嫌も治ってわたくしはホッとしていた。
 ふーちゃんも年上のわたくしたちのグループに混ざりたかったようだが、両親と一緒のテーブルに振り分けられてしまって、寂しい思いをしたようだ。ふーちゃんがレーニちゃんにたどたどしく絵本を読んで聞かせているのを、まーちゃんも目をくりくりさせて聞いていて、部屋の中は和やかな空気が流れていた。

 翌日には遂にクリスタちゃんとハインリヒ殿下の婚約が来春に成立することを宣言する昼食会が開かれた。昼食会に参加するクリスタちゃんの髪をレーニちゃんが丁寧に結っていく。
 前髪は編み込みにして、後ろは纏めてアップにしているクリスタちゃんはいつもよりも大人びて見えた。

 昼食会にはわたくしもレーニちゃんも招待されていないので、クリスタちゃんだけが参加することになる。

「お姉様、緊張します。誰かが『異議あり』と言って来たらどうしましょう?」
「そのときには国王陛下とハインリヒ殿下もいます。お父様とお母様もいてくださいます」
「クリスタ様ならきっと認められます。クリスタ様、とてもお綺麗ですよ」
「お姉様、レーニ嬢、応援していてくださいね」

 国王陛下が宣言した時点でハインリヒ殿下とクリスタちゃんの婚約は決まったこととなるのだが、それでもわたくしもレーニちゃんもいない場所に一人で行くクリスタちゃんはとても緊張しているようだ。クリスタちゃんの手を握ってわたくしはクリスタちゃんに囁く。

「きっと大丈夫です。クリスタはわたくしの自慢の妹ですからね」
「元子爵家の娘のくせにと言われたらどうしましょう」
「そんなことを言う輩は無視して構いません。クリスタが今ディッペル家の娘であることが大事なのです」
「でも……」
「お母様もシュレーゼマン子爵家の娘でした。それがキルヒマン侯爵家の養子になって、ディッペル家に嫁いでいます。クリスタが元ノメンゼン子爵家の娘だというのならば、お母様のことをそのひとたちはどう言うのでしょう。クリスタはお母様を卑しい出だと思っていますか?」
「いいえ、そんなことは全く思いません」
「それならば大丈夫です。クリスタはディッペル家から王家に嫁ぐのですからね」

 クリスタちゃんの不安を払拭するようにわたくしが言えば、クリスタちゃんは勇気を得て頷き、顔を上げて両親と共に昼食会が開かれる会場に向かって行った。

 昼食会が終わるまでわたくしとレーニちゃんとふーちゃんとまーちゃんで待っていたが、部屋で昼食を食べてお茶会に参加する準備をしているとふーちゃんとまーちゃんが足元に縋り付いてくる。

「エリザベートおねえさま、レーニじょう、いかないで」
「わたくち、たみちい」
「ふーちゃん、まーちゃん、わたくしとレーニ嬢はお茶会が終わったら帰ってきます」
「クリスタおねえさまは?」
「クリスタちゃんは晩餐会まで参加しなければいけないでしょうね」

 お茶会と晩餐会の間には休憩が挟まって少しの間は部屋に戻れるかもしれないが、クリスタちゃんは慌ただしく晩餐会に向かうのだろう。それから夜までの時間をドレス姿で過ごさなければいけないと思うと、クリスタちゃんが疲れるだろうと気の毒になってくる。

 部屋を出るとふーちゃんとまーちゃんの泣き声が聞こえてくる。ヘルマンさんもレギーナもいるのだが、後ろ髪引かれつつ、わたくしとレーニちゃんはお茶会の会場に行った。
 お茶会ではクリスタちゃんはタキシードを着たハインリヒ殿下の腕に手を添えていた。和やかな様子で二人はお茶会に来たお客様たちに挨拶をしている。

「お姉様、わたくし、来春にハインリヒ殿下の婚約者となることが決まりました」
「クリスタ嬢と来春、婚約します。エリザベート嬢、今後ともよろしくお願いします」
「おめでとうございます。クリスタのこと、よろしくお願いします」

 まだ一年近く準備期間があるが、国王陛下の名において宣言されたのならばそれが覆されることはない。クリスタちゃんがハインリヒ殿下の婚約者となることは確定したも同然なのだ。

「エリザベート嬢、今日はお迎えに行けずにすみませんでした」
「謝らないでくださいませ。いつもわたくしのことを気にかけてくださっていて、感謝しています」
「夏休みに辺境伯領に来たときには、ピクニックに行きましょう。涼しくて美しい湖畔があるのですよ」
「ピクニック! それはフランツもマリアも喜ぶでしょう」

 エクムント様との話も弾んでわたくしは心がうきうきとして来る。
 クリスタちゃんの件もこれで一安心だ。

「エクムント殿とお茶をして感じました。王家はもっと辺境伯領のことを知らなければいけない。父上に話をして、私とノルベルト兄上がエクムント殿の誕生日にお茶会に行けるように相談してみます」
「それは光栄です。辺境伯領でハインリヒ殿下とノルベルト殿下に見て頂きたいものがたくさんあります」
「僕も弟の意見に賛成です。父上に話をしてみます」

 今年のエクムント様のお誕生日はハインリヒ殿下とノルベルト殿下も参加して、豪華になりそうな気配がしていた。

「お姉様、レーニ嬢、昼食会のことを聞いて欲しいのです。お茶を致しましょう?」

 クリスタちゃんに誘われて、わたくしもレーニちゃんも快く頷いていた。
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