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八章 エリザベートの学園入学
7.王都ではレーニちゃんも一緒に
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初夏になってノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の式典が開かれることになった。
わたくしは王都の学園の寮から王宮の客間に移る。学園は休みになって、心置きなく式典に参加できるようになっていた。
客間で待っていると、お昼過ぎにクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親が王宮の客間にやってきた。ふーちゃんとまーちゃんはわたくしを見付けて飛び付いて来てくれる。
「エリザベートおねえさまー!」
「えーおねえたま、わたくち、あいたかった!」
「わたしもあいたかったのー!」
抱き付いてくるふーちゃんとまーちゃんを順番に抱き締めてわたくしも微笑む。
「わたくしもフランツとマリアに会いたかったですよ」
「だいすきー! エリザベートおねえさまー!」
「わたくちも、だいすちー!」
弟妹に愛されている幸せを噛み締めていると、クリスタちゃんがおずおずとやってくる。両腕を広げると、クリスタちゃんもわたくしの腕の中に飛び込んで来た。
年は一年半違うのだがクリスタちゃんも大きくなっていてわたくしでは受け止めきれないほど勢いがあるのだが、よろけながらわたくしはなんとかクリスタちゃんを抱き締めた。
「お姉様、お会いしたかったです。わたくし、ずっと寂しかったのです」
「わたくしも寂しかったですわ」
「お姉様のお手紙を読んで、お姉様にお手紙を書いて、必死に我慢していました」
年長者だからとクリスタちゃんにふーちゃんとまーちゃんのことを頼んでいたが、クリスタちゃんにも無理をさせてしまっていたようだ。お互いに抱き締め合っていると、ふーちゃんとまーちゃんは脚にしがみ付いてくる。
団子のようになってしまっているわたくしたちに両親が声をかける。
「再会の喜びはそのくらいにしておいて、話をしてもいいかな?」
「クリスタとフランツとマリアにはお話ししたのですが、エリザベートには話していませんでしたね」
両親に向き合って、団子から解けてわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんは別々に立つ。
「何のお話ですか?」
今年のハインリヒ殿下のお誕生日の式典ではクリスタちゃんが来年正式にハインリヒ殿下と婚約をすることが発表される。一年近く前の発表は、王家と公爵家の間の婚約なので、婚約式までの間の準備期間をたっぷりと設けておこうということなのだろう。
その話かと思ったが、両親の話はわたくしの予想とは少し違っていた。
「リリエンタール侯爵が出産をされました。出産のすぐ後なのでリリエンタール侯爵は式典に出られませんが、令嬢のレーニ嬢をわたくしたちディッペル家に預けて、式典に出られるようにして欲しいとお願いをされました」
「レーニ嬢とクリスタはとても仲がいいだろう? クリスタとハインリヒ殿下の婚約の話もそろそろ発表されるのではないかと噂になっている。レーニ嬢はそこに立ち会いたいようなのだ」
「レーニ嬢がこの部屋に泊まっても構いませんね?」
リリエンタール領からはレーニちゃんだけノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の式典に参加する。そのためにディッペル家の部屋にレーニちゃんが泊まるというのだ。
レーニちゃんならばわたくしは大歓迎だった。
「レーニ嬢ならば喜んでお迎えしますわ」
「エリザベートならそう言ってくれると思っていたよ」
「リリエンタール侯爵から頼まれたのですし、フランツもクリスタも楽しみにしているので、お受けしたのですよ」
「ありがとうございます、お父様、お母様。レーニ嬢と楽しく過ごせそうです」
リリエンタール侯爵が出産なさったことも知らなかったし、レーニちゃんからはその辺の話も聞きたいと思っている。
わたくしはレーニちゃんの到着を楽しみにしていた。
遅い昼食を部屋で食べていると、レーニちゃんが護衛と共に部屋にやって来た。護衛にトランクを運んでもらって、レーニちゃんが部屋に入ってくる。
「エリザベート様、クリスタ様、フランツ様、マリア様、しばらくお世話になります。ディッペル公爵、公爵夫人、よろしくおねがいします」
「レーニ嬢をみんなで待っていたのですよ」
「生まれた赤ん坊のことを聞かせてください」
ソファにレーニちゃんを座らせてお茶を出して話を聞く。
「生まれたのは男の子でした。ゲオルグという名前になりました。わたくしとデニスは赤毛ですが、ゲオルグは父に似て灰色の髪の男の子です」
これでレーニちゃんは二人の男の子の姉になったということだ。妹でなかったのは残念かもしれないが、リリエンタール侯爵とゲオルグくんが母子共に健康ならばそれが一番だ。
「三人目で母も高齢出産になっていたので心配しましたが、母もゲオルグも元気です」
高齢出産と言っているが、『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』は十九世紀をモデルにして書かれている。高齢出産と言っても三十歳を超えたくらいでしかないことはわたくしにも容易に想像がついた。
わたくしの母も三十一歳で、父は三十二歳なのだ。まだまだ若いと思えるのだが、この時代で考えるとそこそこの年長者なのかもしれない。
医学が進んできているとはいえ、乳幼児死亡率が低くないので平均寿命は長くない。わたくしは『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』でいつの間にかわたくしが公爵という記述になっていたことに関して、まだ引っかかりを覚えていた。
わたくしはもう公爵を継ぐことはないが、両親に何かあればふーちゃんが公爵を継ぐことになるだろう。ふーちゃんが幼すぎるとなれば、誰か後見人が立つことになる。
そんな怖い未来が訪れないことをわたくしは祈っていた。
「デニスはゲオルグが生まれて、自分の地位を脅かされると思ったのか、母のお膝に乗りたがったり、抱っこを強請ったりしていますわ」
「デニス殿はデニス殿で、ゲオルグ殿はゲオルグ殿で、別々に可愛いものなのに」
ふーちゃんとまーちゃんが全く別の可愛さを持っていることを考えてしまうわたくしに、レーニちゃんがため息をつく。
「デニスはすっかり甘えっ子になってしまいましたのよ。わたくしもどれだけデニスを抱っこして、絵本を読み聞かせたか分かりません」
「下の子が生まれると上の子はそうなるものですよ」
「フランツもマリアにお乳を飲ませていると、抱っこを強請って来たり、お膝に乗りたがったりしたものです」
「わたし、そんなことをしたの!?」
「小さかったから仕方がないのですよ。フランツは悪くありません」
「おにいたま、わたくちがきやいらったの?」
「わたし、まーたんだいすきよ?」
「おにいたま、わたくちもおにいたまだいすち!」
ふーちゃんとまーちゃんの間でも若干雲行きが怪しくなっていたが、お互いに抱き合って大好きと言い合っているのにわたくしは安心した。なんてわたくしの弟妹は可愛いのだろう。
「フランツ、まーちゃんではなくて、マリアと言いましょうね」
「はい。わたし、マリア、だいすきです」
「わたくちもおにいたま、だいすちでつ」
言い直しているふーちゃんとまーちゃんに母も頷いていた。
「クリスタ様の晴れ舞台をわたくしも見たくて、どうしても王都に来たかったのです。この度はわたくしを受け入れてくださってありがとうございます」
「レーニ嬢はクリスタのことを知っているのですか?」
「あ! 内緒だったのでした!」
「話してください」
「ディッペル家に泊まったときに、クリスタ様から絶対内緒だと言われて教えられました。国王陛下はハインリヒ殿下が学園に入学されたので、そろそろ婚約者を決めるのではないかと噂になっているので、つい、口から出てしまいました」
「他の方には言っていませんよね?」
「もちろんです」
ハインリヒ殿下の婚約者となる相手としては、家柄的にも、ハインリヒ殿下のお気持ち的にも、クリスタちゃん以上に相応しい人物はいないとわたくしは思っている。
それが周囲から見ても明らかなのだろう。
クリスタちゃんがハインリヒ殿下の婚約者として発表されることを周囲は勘付いているに違いない。
クリスタちゃんのトランクには白を基調としたドレスが入っている。
それは今回のハインリヒ殿下の婚約者として発表されるときに着るためのものだった。
わたくしは王都の学園の寮から王宮の客間に移る。学園は休みになって、心置きなく式典に参加できるようになっていた。
客間で待っていると、お昼過ぎにクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親が王宮の客間にやってきた。ふーちゃんとまーちゃんはわたくしを見付けて飛び付いて来てくれる。
「エリザベートおねえさまー!」
「えーおねえたま、わたくち、あいたかった!」
「わたしもあいたかったのー!」
抱き付いてくるふーちゃんとまーちゃんを順番に抱き締めてわたくしも微笑む。
「わたくしもフランツとマリアに会いたかったですよ」
「だいすきー! エリザベートおねえさまー!」
「わたくちも、だいすちー!」
弟妹に愛されている幸せを噛み締めていると、クリスタちゃんがおずおずとやってくる。両腕を広げると、クリスタちゃんもわたくしの腕の中に飛び込んで来た。
年は一年半違うのだがクリスタちゃんも大きくなっていてわたくしでは受け止めきれないほど勢いがあるのだが、よろけながらわたくしはなんとかクリスタちゃんを抱き締めた。
「お姉様、お会いしたかったです。わたくし、ずっと寂しかったのです」
「わたくしも寂しかったですわ」
「お姉様のお手紙を読んで、お姉様にお手紙を書いて、必死に我慢していました」
年長者だからとクリスタちゃんにふーちゃんとまーちゃんのことを頼んでいたが、クリスタちゃんにも無理をさせてしまっていたようだ。お互いに抱き締め合っていると、ふーちゃんとまーちゃんは脚にしがみ付いてくる。
団子のようになってしまっているわたくしたちに両親が声をかける。
「再会の喜びはそのくらいにしておいて、話をしてもいいかな?」
「クリスタとフランツとマリアにはお話ししたのですが、エリザベートには話していませんでしたね」
両親に向き合って、団子から解けてわたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんは別々に立つ。
「何のお話ですか?」
今年のハインリヒ殿下のお誕生日の式典ではクリスタちゃんが来年正式にハインリヒ殿下と婚約をすることが発表される。一年近く前の発表は、王家と公爵家の間の婚約なので、婚約式までの間の準備期間をたっぷりと設けておこうということなのだろう。
その話かと思ったが、両親の話はわたくしの予想とは少し違っていた。
「リリエンタール侯爵が出産をされました。出産のすぐ後なのでリリエンタール侯爵は式典に出られませんが、令嬢のレーニ嬢をわたくしたちディッペル家に預けて、式典に出られるようにして欲しいとお願いをされました」
「レーニ嬢とクリスタはとても仲がいいだろう? クリスタとハインリヒ殿下の婚約の話もそろそろ発表されるのではないかと噂になっている。レーニ嬢はそこに立ち会いたいようなのだ」
「レーニ嬢がこの部屋に泊まっても構いませんね?」
リリエンタール領からはレーニちゃんだけノルベルト殿下とハインリヒ殿下のお誕生日の式典に参加する。そのためにディッペル家の部屋にレーニちゃんが泊まるというのだ。
レーニちゃんならばわたくしは大歓迎だった。
「レーニ嬢ならば喜んでお迎えしますわ」
「エリザベートならそう言ってくれると思っていたよ」
「リリエンタール侯爵から頼まれたのですし、フランツもクリスタも楽しみにしているので、お受けしたのですよ」
「ありがとうございます、お父様、お母様。レーニ嬢と楽しく過ごせそうです」
リリエンタール侯爵が出産なさったことも知らなかったし、レーニちゃんからはその辺の話も聞きたいと思っている。
わたくしはレーニちゃんの到着を楽しみにしていた。
遅い昼食を部屋で食べていると、レーニちゃんが護衛と共に部屋にやって来た。護衛にトランクを運んでもらって、レーニちゃんが部屋に入ってくる。
「エリザベート様、クリスタ様、フランツ様、マリア様、しばらくお世話になります。ディッペル公爵、公爵夫人、よろしくおねがいします」
「レーニ嬢をみんなで待っていたのですよ」
「生まれた赤ん坊のことを聞かせてください」
ソファにレーニちゃんを座らせてお茶を出して話を聞く。
「生まれたのは男の子でした。ゲオルグという名前になりました。わたくしとデニスは赤毛ですが、ゲオルグは父に似て灰色の髪の男の子です」
これでレーニちゃんは二人の男の子の姉になったということだ。妹でなかったのは残念かもしれないが、リリエンタール侯爵とゲオルグくんが母子共に健康ならばそれが一番だ。
「三人目で母も高齢出産になっていたので心配しましたが、母もゲオルグも元気です」
高齢出産と言っているが、『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』は十九世紀をモデルにして書かれている。高齢出産と言っても三十歳を超えたくらいでしかないことはわたくしにも容易に想像がついた。
わたくしの母も三十一歳で、父は三十二歳なのだ。まだまだ若いと思えるのだが、この時代で考えるとそこそこの年長者なのかもしれない。
医学が進んできているとはいえ、乳幼児死亡率が低くないので平均寿命は長くない。わたくしは『クリスタ・ノメンゼンの真実の愛』でいつの間にかわたくしが公爵という記述になっていたことに関して、まだ引っかかりを覚えていた。
わたくしはもう公爵を継ぐことはないが、両親に何かあればふーちゃんが公爵を継ぐことになるだろう。ふーちゃんが幼すぎるとなれば、誰か後見人が立つことになる。
そんな怖い未来が訪れないことをわたくしは祈っていた。
「デニスはゲオルグが生まれて、自分の地位を脅かされると思ったのか、母のお膝に乗りたがったり、抱っこを強請ったりしていますわ」
「デニス殿はデニス殿で、ゲオルグ殿はゲオルグ殿で、別々に可愛いものなのに」
ふーちゃんとまーちゃんが全く別の可愛さを持っていることを考えてしまうわたくしに、レーニちゃんがため息をつく。
「デニスはすっかり甘えっ子になってしまいましたのよ。わたくしもどれだけデニスを抱っこして、絵本を読み聞かせたか分かりません」
「下の子が生まれると上の子はそうなるものですよ」
「フランツもマリアにお乳を飲ませていると、抱っこを強請って来たり、お膝に乗りたがったりしたものです」
「わたし、そんなことをしたの!?」
「小さかったから仕方がないのですよ。フランツは悪くありません」
「おにいたま、わたくちがきやいらったの?」
「わたし、まーたんだいすきよ?」
「おにいたま、わたくちもおにいたまだいすち!」
ふーちゃんとまーちゃんの間でも若干雲行きが怪しくなっていたが、お互いに抱き合って大好きと言い合っているのにわたくしは安心した。なんてわたくしの弟妹は可愛いのだろう。
「フランツ、まーちゃんではなくて、マリアと言いましょうね」
「はい。わたし、マリア、だいすきです」
「わたくちもおにいたま、だいすちでつ」
言い直しているふーちゃんとまーちゃんに母も頷いていた。
「クリスタ様の晴れ舞台をわたくしも見たくて、どうしても王都に来たかったのです。この度はわたくしを受け入れてくださってありがとうございます」
「レーニ嬢はクリスタのことを知っているのですか?」
「あ! 内緒だったのでした!」
「話してください」
「ディッペル家に泊まったときに、クリスタ様から絶対内緒だと言われて教えられました。国王陛下はハインリヒ殿下が学園に入学されたので、そろそろ婚約者を決めるのではないかと噂になっているので、つい、口から出てしまいました」
「他の方には言っていませんよね?」
「もちろんです」
ハインリヒ殿下の婚約者となる相手としては、家柄的にも、ハインリヒ殿下のお気持ち的にも、クリスタちゃん以上に相応しい人物はいないとわたくしは思っている。
それが周囲から見ても明らかなのだろう。
クリスタちゃんがハインリヒ殿下の婚約者として発表されることを周囲は勘付いているに違いない。
クリスタちゃんのトランクには白を基調としたドレスが入っている。
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